電気工事士資格に並んで、消防設備士資格は人気の高い資格です。消防設備はわたしたちが安心して生活するために必要な設備です。したがって、消防設備士の資格者に対する需要が絶えることなく、将来性のある資格と言えます。

そして、電気工事士・消防設備士の資格が活かせる職種はたくさんあります。そのため、資格名だけをキーワードにして求人を探しても、あなたの希望に沿った優れた求人に出会うことは難しいです。

まず、あなたは2つの資格をどのように活用して働きたいのかを整理する必要があります

また、資格を持っているからと言って高年収が約束されるものではありません。特に、「働き方」と「年収」について曖昧に考えていると、転職後の後悔につながります。

ここでは、「電気工事士と消防設備士の資格を活かした働き方の整理」「それぞれの求人例」「年収の考え方」について、詳しく解説します。

もくじ

電気工事士と消防設備士のどちらをメインにするか?

電気工事士資格と消防設備士資格の2つを持って転職活動をするなら、「何の設備にどのように接していきたいのか」を整理することが重要です。電気工事に関する仕事と消防設備に関する仕事を2軸にとって、下図のように分類して考えましょう。

まず、「消防設備を工事したいのか、それとも点検整備したいのか」を考えます。それを踏まえて、「電気工事を主にしたいのか、電気工事をするのは全業務の内少しでよいのか」を整理します

そうすると、以下の4つの職種が選択肢になります。

  1. 電設会社 : 主に電気工事をして、消防設備工事もしたい場合。電気工事士資格と甲種の消防設備士資格が必要。
  2. 消防設備メーカー : 消防設備の工事を主にして、付随する電気工事もする場合。資格要件は電設会社と同じ。
  3. 消防設備点検会社 : 基本的に消防設備点検。電気工事はあまりしたくない場合。電気工事士資格要。乙種の消防設備士資格が必要。
  4. ビルメンテナンス : 電気工事の業務量多く、一部消防設備点検をする場合。資格要件は消防設備点検会社と同じ。

この内、3と4は会社によって業務範囲が大きく変わってきます。上記を基本と考えて、求人の内容を十分に確認して下さい。

まず、このように頭を整理してから求人探しを始めると良いです。ここからは、4つの職種について詳しく説明します。

電設会社で電気工事士をメインに仕事をする

最初に説明するのは、電設会社です。ただし、外線工事を専門に行う会社ではなく、人が居住する建物の電気工事を施工する会社が対象です。消防設備は、人が居住する物件に設置されます。したがって、人が居住しない物件を扱う会社では、消防設備士資格を活かせません。

消防設備の内、自動火災報知設備(自火報)や、下の写真のような非常用発電機は電気工事会社が施工します。

また、下の写真のようなスプリンクラー、非常灯、煙感知装置も電設会社が施工する場合が多いです。

実際の求人例を示すと、下の株式会社高村電設工業の求人が該当します。電気工事士と消防設備士資格が条件になっています。高村電設工業社は、茨城県日立市を中心に電気工事を施工し、消防設備の設置工事も行う会社です。

このような電設工事会社では、あくまで電気工事を主体に行うことになります。消防設備工事は、電気工事という大きな区分の中の一部という扱いです。

「電設工事会社が消防設備工事も施工できる」というのは、会社にとっての強みです。したがって、あなたが消防設備士の資格を持っていて消防設備工事も施工できるということは、会社のセールスポイントに合致します。

そういう意味で、電気工事士と消防設備士の両方の資格保有をアピールしやすいです。会社の規模によっては、消防設備だけの施工部隊を持つこともあります。

電気工事を主体とした働き方をしたい場合は、以上の点に注意して類似した求人を探します。

甲種消防設備士資格があればメーカーで工事ができる

第2の選択肢は、消防設備のメーカーで工事担当として転職するパターンです。この場合、会社が主に行うのが消防設備の設置なので、甲種消防設備士資格を主に活かした働き方になります。

実際の求人例は、下に示すホーチキ株式会社の求人が該当します。ホーチキ社は、消防設備(火災報知器、消火設備など)の大手メーカーです。東京のほか、全国の拠点(名古屋・新潟・名古屋・福岡など)で働く人材を募集しています。

この求人でも、消防設備士・電気工事士資格が歓迎条件に入っていることがわかります。

このホーチキ社の求人は、技術系総合職を採用する求人です。総合職なので様々な職種に就く可能性がありますが、施工管理職やメンテナンス職として働く場合に、消防設備士や電気工事士資格がすぐに役立ちます。

メンテナンスの場合は、直接お客さんと工事契約を結ぶことが多いです。しかし、大規模な新築工事のように様々な職工が入り乱れる場合は、サブコンの下に入って施工することが多いです。

私が担当した工事では、大手サブコンの2次請けとして消防設備の設置工事と調整だけをするために、ホーチキ社が施工したことがあります。

消防設備のような単独の機械の設置工事だと、電設工事会社は専門のメーカーや代理店を呼びます。電設会社の社員だけで消防設備に精通しているわけではないからです。

このようなメーカーの求人では、フィールドエンジニアとして客先に出向いて工事を行います。自社製品の設置・調整が主な施工内容で、消防設備士資格をメインで活かした働き方ができます。

消防設備の点検には乙種消防設備士資格が活かせる

次の選択肢は、消防設備の点検・整備を行う会社です。この場合に必要な資格は、「乙種消防設備士資格」です。

このパターンの働き方は、工事を施工することはありません。消防設備は、消防法令によって定期点検および消防署への報告が義務化されています。この種の会社は、その点検と報告を請け負って行う会社です。

消防点検は、ビル・工場・学校など人が多く集まる設備などが対象です。下の写真のように、自動火災報知器(写真は熱感知器)の点検をしているのを見たことがあると思います。

点検整備の会社は、このような点検を請け負って行う会社です。求人例を下に示します。

この求人は、東武防災株式会社の求人です。東武防災社は東京都足立区にある会社で、主にマンション・学校・公共設備の消防設備点検を行っている会社です。未経験OKとしつつ、消防設備士・電気工事士資格があれば歓迎としています。

実は、消防設備の点検に電気工事士資格は必要ありません。しかし、同じ求人票で電気工事士資格を持っていると即戦力として採用すると記載されています。

これは、消防設備点検で不具合を見つけたときに、修繕を行う必要があるからです。消防設備機器自体の修理・取替のために、電源線から取り外すときには電気工事士資格が必要になる場合があります

電気工事士資格を持っていなければ、消防設備の取り外し・取り付けに別の電気工事士有資格者を当てる必要があります。電気工事士と消防設備士の両方の資格を持っていれば、一人で行うことができます。したがって、電気工事士資格を持っていることが歓迎条件の一つになっているのです。

ただし、このような電気工事がいつもあるわけではありません。日々の業務のほとんどは乙種消防設備士資格が必要な消防設備点検で、多少電気工事があると考えてください。

あなたが乙種消防設備士資格を活かしたいなら、東武防災社に類似の求人を探していくことになります。

ビルメンテナンスで広く浅く取り組む

最後の選択肢は、ビルメンテナンス職です。どちらかというと電気工事の業務量が多く、消防設備の点検が多少あるという職種です。

ビルメンテナンスとは、「施設管理」「設備管理」とも呼ばれる職種です。大きなビルや商業施設で、設備の維持管理を行う仕事です。

下の写真のような防災センターを見たことはないでしょうか?

ビルメンテナンス職は、このような防災センターやバックオフィスに待機して、緊急の設備故障に対応できるよう準備しています。また、設備内を巡回して、未然に大きな故障を防ぐパトロールを行います。

求人例でいうと、下の示す株式会社京王設備サービスがビルメンテナンスの求人を出しています。京王設備サービス社は、京王電鉄グループとして、関東一円のグループ内外の設備管理をしています。

ビルメンテナンスの仕事で、圧倒的に多いのが照明関係の不具合対応です。

私は、東京駅設備のメンテナンスをしていたことがあります。駅ビルはビルメンテナンス会社が管理するものの、鉄道運行に直接関係する駅業務の設備は鉄道会社社員が行います。

しかしながら、行っている仕事の内容はビルメンテナンス会社の仕事内容とほとんど同じです。日々の巡回パトロールと設備故障対応中心に、計画修繕・突発修繕・老取工事の外部業者発注業務を行います。

その経験からすると、駅員から呼ばれる故障の多くは、電灯の不点です。その原因は、大体が球切れで、たまに灯具の不具合です。消防設備の不具合には遭遇したことがありません。

また、そのほかのよくある故障は、スイッチ・コンセントの故障です。

照明の球替えに電気工事士資格は必要ありません。しかし、灯具の交換やスイッチ・コンセントの取替えには電気工事士資格が必要です。

ただし本格的な電気工事になると、外部の電設会社に発注するのが一般的です。ビルメンテナンスで行う電気工事は、簡易修繕や応急対応です。

ビルメンテナンスの仕事にはこのような特徴があるため、主に簡単な電気工事を行い、定例の消防設備の点検を行う働き方になります。

また、ビルメンテナンスが対象にする設備は電気設備だけではありません。給排水設備・空調設備・熱源設備などたくさんの設備を管理します。したがって、電気・消防設備を含めて広く浅く設備に向かい合っていく必要があります

ビルメンテナンスの仕事は、幅広い設備に関わるエンジニアになるには向いている職種です。

求人票からだけでなく業種から年収を考える

ここからは、年収について解説します。冒頭で紹介した高村電設工業社が求人票で提示している年収は、下のように216~350万円です。ただし、長く勤めて職位が上がれば、600万円くらいまで年収が上がることがモデルとして示されています。

同様に、ここで紹介した求人について提示年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 業種
(株)高村電設工業 216~350
(モデル年収350~600)
設備工事
ホーチキ(株) 300〜
(30歳 : 500、35歳 : 600)
情報通信機械器具製造
東武防災(株) 500〜
(資格・経験あり)
その他小売
(株)京王設備サービス 300〜450 その他事業サービス

このように、求人票で提示されている年収はさまざまです。より高い年収を得ようとしたとき、個別の求人で年収を判断するのもよいですが、応募する会社の業種に注目してみてください

実は、平均年収は業種で大きく変わります。上の表で示した4業種について、平均年収をまとめたものが下のグラフです。これは、厚生労働省が調査している賃金構造基本統計調査をグラフ化したものです。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

グラフから、最も平均年収の低い「その他事業サービス業」は、最も平均年収の高い「情報通信機械器具製造業」と比べて約200万円も平均年収が安いということがわかります。

この統計から明らかなように、平均年収の低い業種の求人ばかりを探していては、高い年収を得ることや転職後の年収の伸びを期待することはできません。単純に「資格を持っているから稼げる」というわけではありません。

もちろん電気工事士・消防設備士資格の活かし方によって、応募する会社の業種は限られます。ビルメンテナンス職の働き方をしたいのに、設備工事業の求人を探してもみつけることはできません。

つまり、「働き方」「業種(年収)」の優先順位は、トレードオフの関係になっています。どちらを優先したいかは、あなたの価値観で判断しなければなりません。いくら高い給料をもらったとしても、あなたが楽しいと思えない仕事だと辛いだけです。

私が転職したときは、希望する「働き方」「年収」を中途半端に設定して求人を探しました。前職を辞めると伝えたときの上司からは、「絶対に給料が下がるからやめとけ」と散々引き止められました。

そして、業種については特に考えずに、年収は多くを求めずに転職しました。ただ、あとから考えると高年収の業種に転職しており、結果年収アップも実現できていました。

私の場合は、結果的に「働き方」と「年収」で失敗することはありませんでした。ただ、これは運が良かっただけです。転職活動中は、働き方と年収の折り合いがつかずなかなか転職が決まりませんでした。

「働き方」と「年収」についてもっと深く理解しておけば、もっとスムーズに転職が決まったのではないかと考えています。

転職は人生の一大イベントです。後悔を防ぐためには、働き方や年収を決める要因について、十分調査して、転職活動に挑むことが大切です。

まとめ

ここまで、電気工事士と消防設備士の資格を活かして転職したいときの考え方について詳しく説明してきました。

電気工事士と消防設備士の資格を活かす転職には、どのようにそれらの資格を活かしたいのかをまず整理してください。

整理すべきは、次の2軸で考えてください。

  • 電気工事に主に関わりたいのか、消防設備に主に関わりたいのか
  • 消防設備工事をしたいのか、点検整備をしたいのか

これが決まれば、あとは合致する会社を探します。対象になるのは「電設会社」「消防設備のメーカー」「消防設備点検会社」「ビルメンテナンス会社」です

これらの会社の年収は、会社によりさまざまです。求人を見ているだけでは、年収の高い低いを判断することは難しいです。

そこで、政府統計から業種ごとの平均年収を参考にすると、高年収の業種を知ることができます。

ただし、「働き方」と「業種(年収)」を同時に最優先にすることはできません。どちらかを優先した場合、片方で妥協しなければなりません。

ここで解説した「働き方」と「年収」について十分に知識を得たあと、何を優先するのかをあなたが判断する必要があります

あなたが大切にしたい価値観で「働き方」「年収」を選ぶことで、転職失敗を防ぐことができます。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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