ビルメンテナンス業は、従事者が100万人以上いると言われる一大産業です。ところが、表舞台に出てくることのない地味な仕事なので、大きな産業であるということはあまり知られていません。

また、現在のビルなど大型施設において、構成設備のうち電気設備が占める割合は大きいです。照明・空調・給排水・エレベーターなどの動力などさまざまなところに電気設備が使われています。

電気といえば、有名な資格に電気工事士資格があります。では、ビルメンテナンス業に転職するとき、電気工事士資格はどのように扱われるのでしょうか。

できるなら、資格を活かして有利な条件で転職したいと考えるのが自然です。そして、転職成功させるには正確な情報収集と戦略が必要です。

ここでは、「ビルメンテナンス業に電気工事士資格がどのように活かせるか」「求人票に電気工事士資格の条件がある例」「ビルメンテナンス業の年収」について、くわしく解説します。

もくじ

電気工事士資格はビルメン4点セットの1つ

ビルメンテナンスの求人を探すときに、電気工事士資格はどのように扱われるのでしょうか。ビルメンテナンス業にはビルメン資格とかビルメン4点セットと呼ばれる、業務に特に必要な資格があります。それは、以下の4つの資格です。

  • 第二種電気工事士
  • 2級ボイラー技士
  • 危険物取扱者 乙種4類
  • 第三種冷凍機械責任者

この中で、業務中に最も頻繁に必要で、取得の難易度が高いと言われているのが第二種電気工事士資格です。

ビルメンテナンスでは、大規模な電気工事は専門業者に依頼することが多いので、どこで電気工事士資格が活用できるのでしょうか。それは、下の写真のような、ユーザーが使うコンセントやスイッチ、照明器具などです。

経験談として、私が以前勤めていた鉄道会社のことを書きます。鉄道系の不動産の場合は、ビルメンテナンス業の会社に施設管理を任せています。しかし、駅などの鉄道業に直結する電気設備の管理は鉄道会社の社員が行っていました。

駅の電気設備管理の考え方はオフィスと同じです。配電設備(コンセントまで)や予め据え付けられていた空調や照明器具は、私のような設備管理をしている社員が管理します。コンセントから末端側の設備(パソコン・複合機など)はユーザーの責任で管理します。

コンセントや照明器具がそうそう壊れるものかと思うかもしれません。しかし、現実には不注意でよく壊されます

駅の電気設備を使うのは、駅員・乗務員や車両清掃会社の社員、駅改良工事の業員など様々です。これらの人々は電気の素人であることがほとんどであり、電気について知識があれば到底しないような使い方をします。そして、電気設備を壊します。

もちろん、経年による自然故障をすることもあります。よくあるのは、「照明スイッチのホタルがつかなくなった」「コンセント差込口が欠けた」「蛍光灯の安定器が壊れた」などです。ビルメンテナンスでも同様の故障対応は多いです。このような、故障した電気設備は取り替えなくてはいけません。

このときに電気工事士資格が活躍します。これらの取り替えに伴う電気配線を直接接続する行為には、電気工事士資格が必要だからです。そして、ほかのビルメン4点セットの資格の出番に比べて、必要となるケースが頻繁にあります。

したがって、電気工事士資格を取得していることは、ビルメンに転職する上で最も求められやすい技能を有しているということです。この資格を軸にして、採用されやすくなる作戦を考えることになります。

ビルメン転職には第2種電気工事士資格があるとよい

前項でビルメン4点セットと書いたように、今は電気工事士資格しか持っていないとしても、入社後さまざまな資格を取得することが必要です。

しかし、最低限の資格として第2種電気工事士(電工2種)資格を持っていると採用されやすいです。例えば、下図の株式会社東海ビルメンテナンスの求人では、第二種電気工事士資格が応募条件の一つとされています。この求人では、東京、神奈川、愛知で働く人材を求めています。

東海ビルメンテナンス社の求人のように第二種電気工事士資格が求められるのは、入社して第二種電気工事士資格があれば目下の仕事は回せるからです。下図は、第一種・第二種電気工事士資格の扱うことのできる電気工作物を示したものです。

この図から低圧で受電している設備であれば、第二種電気工事士資格があれば良いことがわかります。また、高圧で受電している施設の自家用電気工作物のうち低圧部分は、「認定電気工事従事者」資格を取得することで施工可能です。

認定電気工事従事者資格は、電気工事士資格とは異なり試験はありません。第二種電気工事士資格を取得していると、講習を受けるだけで取得できます。

このような理由があって、ビルメンテナンスの求人では第二種電気工事士資格を求めることが多いです。

また、下図に示す関電ファシリティーズ株式会社では、正社員採用の応募条件に電気工事士資格に加えて、ボイラー技士資格、危険物取扱者資格を挙げています。関電ファシリティーズ社のこの求人では、東京都で働く人材を求めています。

関電ファシリティーズ社のこの求人は、応募条件が厳しい例です。一方、応募条件が易しい例では、下図の大成有楽不動産株式会社の求人が該当します。大成有楽不動産社は、東京都のホテルの施設管理をしている会社です。

この求人では、必須資格はありません。歓迎資格として様々な条件が挙げられていて、その中に電気工事士資格があります。そもそもハードルが低い上に、あなたは電気工事士資格を持っているので、採用される可能性が高い求人です。

第二種電気工事士資格を持っている場合は、以上のような求人を探していくことになります。ただし、電気工事士資格を持っていることに満足するのではなくて、入社後に追加で資格を取得する意欲を見せることが大事です

第1種電気工事士資格で大型施設を扱う求人で優遇されやすい

あなたが、第2種電気工事士ではなくて、上位の第1種電気工事士(電工1種)資格を持っているのなら、さらに選択肢は広がります。

例えば、25,000平米くらい(イオンと100の専門店)のイオンショッピングセンターは6.6kV受電です。つまり、店舗の低圧部分を触るには第二種電気工事士資格だけでなく、認定電気工事従事者資格が必要です。

しかし、第一種電気工事士資格があれば追加の資格は必要ありません。

なお、高圧部分をビルメンテナンス会社の社員が施工することはまずなく、外部の電気工事会社に施行を発注することになります。このとき、第一種電気工事士資格を持っていれば高圧に関する知見もあるので、施工会社への的確な指示ができ、施工品質を挙げることができます。

第一種電気工事士資格が活かせる大規模な施設は、ショッピングセンターだけでなく学校・病院や、下の写真のような大型ビルなども対象です。

実際の求人例を示すと、下図の高橋工業株式会社の求人のように第一種電気工事士資格を優遇条件や歓迎条件としていることが多いです。高橋工業社は、主に東京都内でビルメンテナンス業を請け負っている会社です。

第一種電気工事士資格を持っていると、このような求人で優遇され採用試験に合格しやすくなります。

ただし、何度も書いたようにビルメンテナンスには電気工事士資格だけでなく、ほかの資格も必要です。試験では、ほかの資格を取得する意欲を見せることは忘れてはなりません。

ビルメンテナンス業はサービス業

では、ビルメンテナンス業に転職するときに気をつけるべき点はあるのでしょうか。それは、ビルメンテナンス業はサービス業であるということです。

どういうことかというと、オフィスでも病院でもユーザーの元に出向いて、ユーザーとコミュニケーションを取りながら仕事を進める仕事だからです。

私が駅の電気設備を管理していたときのことを例に書きます。ユーザーである駅員や事務員は電気の専門家ではないため、要望が的を射ないことが多々あります。「コンセントを一つ増設してほしい」ということを、回りくどいことを散々話して伝えてきます。

そのときに、根気よく話を聞いて、ユーザーの要望していることは何かをとらえて、電気設備の改修をしなくてはなりません

また、電気設備が故障したときは、ユーザーが壊したことの責任を逃れたいためか、詳しいことを話したがりません。

設備を管理する立場としては、原因をはっきりさせ、自然故障かヒューマンエラーかで対応が変わることがあります。したがって、責任追及するためではないので、ありのままを話してほしいということがよくありました。

この場合も、ユーザーが話しやすくなるように言葉を選びながら、丁寧に聞き取りをしていくことがありました。

このようにして、ユーザーが電気設備を含むビル施設をいつも快適に使える状態に管理するのがビルメンテナンスの仕事です。

電気工事を専門にやりたいなら向かない

したがって、電気工事を専門にしたいならビルメンテナンス業には向きません。電気工事士資格を持っていて、いくら転職に有利になるからといってもミスマッチになる可能性が高いです。

ユーザーが設備を快適に使える状態に管理する手順は、下の図のように「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルを回していくことになります。

この内、電気工事士の資格が必要なのは対策実施のフェーズです。対策実施のフェーズでは、照明の安定器取替のような老朽取替のほか恒久的なハード対策として電気工事をすることがあります。

ただし注意しないといけないのは、ビルメンが行うのは簡易修繕だけということです。本格的な大規模電気工事は外部の専門業者に発注します。

したがってビルメンが主に行うのは、ユーザーの立場で施工管理・設計・発注業務・工事立会などです。実際に手を動かして電気工事をすることは含まれません。

あなたが電気工事士として、「自分の技術力を高めたい」「電気設備を作りたい」と考えているのなら、ビルメンテナンスに転職してもその願いを叶えることは難しいです。

反対に、サービス業であることを十分に認識して十分なコミュニケーションが取れるなら、ビルメンテナンス業への転職成功しやすくなります

ビルメンの年収は高くない

最後にビルメンテナンスの年収について説明します。最初に紹介した東海ビルメンテナンス社の年収は、下図のように求人票に350~500万円と記載されています。

同様に、ここで紹介したほかの求人についても求人票から年収部分を抜き出してまとめたものが、下表です。

会社名 提示年収[万円] 応募条件
(株)東海ビルメンテナンス 350~500 第二種電気工事士資格必須
関電ファシリティーズ(株) 350~550 ビルメン4点セット必須
大成有楽不動産(株) 初年度400~500 第2種電気工事士資格歓迎
高橋工業(株) 入社時300 第1種・第2種電気工事士資格優遇

これらによると、概ね300~500万円がビルメンテナンスの提示年収と言えます。実は、ビルメンテナンス業の平均年収は高くありません。厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査によると、ビルメンテナンス業の年齢別平均年収は下図のようになります。

引用:令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

グラフ中に示したように、全産業の平均年収は約500万円です。ビルメンテナンス業の平均年収は400万円ほどであり、決して高くありません。

これは、ビルメンテナンス自体は利益を生まないコスト部門であることから、発注する企業としては金額を抑えたいと考えることに一因があります。

また、運営コストの大部分が人件費であり、受注金額を抑えようとすれば人件費を削る方法のほかに手が少ないことにも原因があります。

ただし、資格を取得すれば手当が支給され、昇格しやすくなります。ビルメンはビルがある限りなくならない将来性のある仕事なので、長い目で見て入社後に資格取得で手当を得つつ年収を上げていくとよいです。

まとめ

電気工事士資格を持っていてビルメンテナンスの会社に転職しようとするとき、転職活動を進めやすくする情報について記述してきました。

まず、ビルメンテナンスの会社に求められる電気工事士資格は、第2種電気工事士資格です。第2種電気工事士資格を持っていれば、ビルメンテナンスで頻繁にある電気設備の故障対応に対応できるからです。

もちろん、第1種電気工事士資格を持っていれば扱える電気設備の範囲も広がり、会社が追加で取得させる資格も少なくなるので採用されやすくなります。

ただし、ビルメンテナンスに必要な資格は、電気工事士資格以外にもあります。入社後に、これらの電気工事士以外の資格を取得することは強く促されることを承知しておきましょう。

ビルメンテナンス業の平均年収は400万円ほどです。構造的に、高年収になりにくい業種であることは知っておくべきです。その上で、入社後に資格を追加で取得することで手当を得れば給料を上げやすくなります

このような情報を十分把握して転職活動を行うことで、ビルメンテナンス業への転職が成功しやすくなります。


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