あなたが他業界から電気系の仕事に転職を考えているとき、さまざまな職種があって迷っていると思います。「電気」と一言で言っても、その幅は広いです。

電気系の仕事には、電気設計、電気工事設計、電気工事、電気通信、情報通信、電気設備保全などの職種があります。これらは仕事の内容や必要となるスキルが大きく異なっています。中には他業界からの転職ではなじみにくいものがあります。

その電気の仕事の中でも「電気工事」と「電気設備保全」の仕事は、比較的ゆっくりと電気について学びながらできる仕事で、未経験者であっても敷居の低い職種です。

ここでは、まず「電気工事」と「電気設備保全」について説明し、求人情報の探し方に触れます。そして最後に、電気系の仕事に向いている人を安全の観点から解説します。

もくじ

未経験の人にもおすすめできる電気の仕事の一つは、電気工事

あなたの身の回りでは、電灯、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など日常生活に関わる多くのものが電気で動いていると思います。職場でも、パソコン、電話など、電気製品がたくさんあり、電気なしでは仕事にならないでしょう。

このように、あなたの身近には電気を使うものであふれています。そのような背景もあり、電気業界はとても求人の多い業界です。

しかし、全くの初心者に間口が開かれている求人は分野が限られます。その一つでおすすめできるのが、「電気工事」です

電気工事は完成したものが目に見えてわかりやすい

電気工事がおすすめできるのは、「工事するモノがあるので目に見えてわかりやすい」「新設工事なら、電気が流れていないこともあり比較的安全」だからです。

特に40代50代の人が未経験で転職するには、電気工事の仕事はわかりやすくて良いです。自分がした仕事が、目の前に完成して実物としてあるというのは、とてもわかりやすいです。

私の元同僚で、電気系の学科を卒業していない人たちも、形としてあるものを工事したり、保守したりすることを好んでいました。ちなみにその理由は、「わかりやすいから」と言っていました。

店舗のリニューアルにあわせて電気工事をしているところを下の写真に例として示します。普段なら屋根裏に隠れて見えない配線がたくさんぶら下がっています。電気工事では、この配線や整線、器具設置を行います。

さらに、電気工事には新設工事と改修・修繕工事があり、前者なら全く電気が通っていない状態で施工することもあります。

もちろん全部の仕事が新設工事ではないかもしれません。しかし、本来電気が通っているはずのものを触りながら仕事を覚えるチャンスがあるので、早く電気の仕事になじめます

電気工事の見習いはきついのか?

あなたは電気工事の仕事をしたことがなく、「電気工事には資格が必要ではないか」と考えているのではないでしょうか。

もちろん、将来的には取得する必要がある資格がいくつかあります。しかし、無資格でも問題ない求人もたくさんあるので、転職活動を進めることに何の問題もありません。

下の図は、東京と神奈川を中心にオフィスや家庭向けの電気工事を主に行っている株式会社フューズテックの求人です。

さらに下の図は、この求人の「対象となる方」の欄です。

これにも、未経験で知識も資格も必要ないことが明記されています。

ただし、入社してから早いうちに資格取得を求められることを知っておいてください。「対象となる方」の欄にあるように、電気工事士の資格取得を目指すことになります。

電気工事士の試験は、筆記試験と技能試験がありますが、高校生が現役で取る資格でもあり、職場で工具を使いながら練習すればすぐに取得できます。

この求人であれば、入社してから先輩のベテラン社員について仕事を覚えていくうちに、電気工事士の資格取得を目指します。

もう一つ、あなたは電気工事士の上下関係に不安を感じているのではないでしょうか。電気工事士は、職人的な仕事でもあります。確かに、かつては厳しい上下関係があり、見習いのときは特にきつかったようです。

知り合いの電気工事会社の社長に話を聞くと、以下のようなことを教えてくれました。

以前に比べて(電気の)職人は優しくなった。2000年一桁代までは昔の職人気質の「技は盗め」みたいな風潮があったけれども、2010年代に入ってからは丁寧に新人に教えるようになった。

これは、工業高校卒の新人が電気工事を志望しなくなってきて、入ってきても厳しくするとすぐに辞めるというのが理由の一つにあるのだろう。
2018年現在、電気工事業界では30代40代の人材が、特に少なく大事に扱われているとも教えてくれました。

このように見習い中のきつさは和らいできており、そこまで上下関係を恐れなくてもよいでしょう。

電気工事士は、電気設備施工管理の仕事ができるようになると給料が上がりやすい

電気工事の職人として腕を磨いていくのも良いですが、電気施工管理の仕事をすると年収アップを狙いやすいです。

施工管理とは、たくさんの電気工事士をまとめて大きな仕事を動かす仕事です。電気工事士を使って仕事を動かすリーダー的な仕事ですので、電気工事士より給与水準は上になります。

この施工管理が必要になるのは、受注金額が何千万円もするような工事をするときです。つまり、受注する会社の規模も大きくなります。

次の図は、東京に本社があり、全国で事業を展開している株式会社花森の求人です。私が調査したときの求人案件では、東京、大阪、名古屋、福岡の4拠点で募集をかけていました。

この求人の「仕事内容」の欄には、下図のように電気設備施工管理と謳われてあります。

また、同じ求人の「対象となる方」の欄には、学歴・経験一切不問と明記してあります。未経験でも問題なく応募できます。

施工管理は無資格でもできますが、将来的に建築業法で定められる「現場代理人」「監理技術者」などになるために、「電気工事施工管理技士」の資格を取得することになります。

電気工事施工管理技士としての仕事は、工事の規模や発注者によって激務になることもあり、「やめとけ」といわれることもあります。しかし、その分給与に反映されるので、やりがいのある仕事です。

私が発注者側として出会ってきた電気工事施工管理技士の人たちは、たまに疲れを見せることもあったものの、総じて生き生きと仕事をしていることが印象的でした。

なお、未経験者が一人で施工管理の仕事を任されることは、まずありません。電気工事施工管理技士の資格を持った先輩社員について、施工管理を流れを覚えることから始まります。

しかし、上記の求人のように、未経験者でも応募できるものもあります。もしこのような求人を探すのであれば、キーワードを「電気工事」「電気 施工管理」「未経験」などとすると見つけやすいです。

未経験者には電気設備保全の求人も、資格が必要なくおすすめできる

もう一つのおすすめは電気設備の「設備保全」の仕事です

設備保全の仕事は、電気設備が突然壊れて停止しないように計画的に、そして継続的にメンテナンスする仕事です。この設備保全は、資格がないとできない、またはしてはいけない仕事ではなく、始めるのに敷居が低いです。また、難易度も高くありません。 私が新卒で入社した鉄道会社では、電気系の社員はまず設備保全を担当することになります。そののち、工事設計や設備研究開発などの仕事をするようになります。これは設備保全が、基本であると同時に容易だからです。

特段資格も知識もない新卒で入社した社員でも、少しの研修さえ終えれば問題ないレベルで仕事をすることができます

私も、入社後7年間「電車線路設備(車両に電気を送る電線類)」「変電設備」「計算機・通信設備」の保全を担当して、鉄道の新設工事設計を担当しました。

同期の中でも、7年間保全を担当したのは長い方です。しかし、保全の仕事でのその長い下積みが、そのあと担当した新設工事設計の仕事で存分に活かすことができました。これは、保全の仕事を経験することで、十分に基礎ができていたためだと思います。

また設備保全は、基本的には緊急を要さないルーチンワークが中心の仕事です。仕事量は多いですが、一度にすべてを覚えることができなくても、数か月か数年のうちに一通り覚えればよいです。

未経験者であれば、ゆっくりと電気について学ぶ時間も取れます

設備保全の求人例を下に示します。この求人は、近畿圏の私鉄大手南海電鉄のグループ会社で、駅や鉄道沿線の商業施設などを管理する南海ビルサービス株式会社のものです。

技術系総合職の募集ですが、「ビギナー枠」という採用枠があって、未経験者でもOKの求人です。下図は、この求人の「仕事内容」の欄です。

また、下図のように、設備管理の仕事を担当することになります。これも「仕事内容」の欄です。

最後にこの求人の「対象となる方」の欄を下に示します。ここでも経験者でなくても良い旨記載があります。

また、下の図はこの求人のPR欄にあった記載です。

「結婚や子供が生まれたことを機に入社」とあり、比較的高い年齢でも採用していることがわかります。一般に転職は35歳までといわれますが、それ以上の年齢でもこのような求人なら応募してみる価値はあります。

このような設備保全の求人も転職サイトなどで探すことは可能です。しかし少し注意が必要です。「設備保全」「設備保守」と検索するとヒット数が少ないです。

検索するときにこんなに少ないはずはないと、何度かキーワードを変えて多くヒットするものがありました。「電気設備」です。

この「電気設備」で検索すると、設備保全と同じ意味で、「設備管理」「設備保守」などもヒットします。これに「未経験」を加えて検索すると、希望する求人を見つけやすいです。

電気設備保全の仕事内容の基本

設備保全の仕事内容は、下の図のように、「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルを途切れなく回し続けていくことです。

普段の仕事は、「検査」「分析・評価」が中心です。電気設備に故障の兆候が現れたり、実際に故障したりしたときに「対策検討」「対策実施」を行います。

しかし、実際に故障したときに対策を検討していたのでは、長時間電気設備を停めてしまいます。そこで、設備が機嫌よく動いているときに、故障を想定して対策を検討したり、故障対応訓練したりします。

このような仕事をしている中で、場合によっては電気工事士や電気主任技術者の資格を取ることになるかもしれません。しかし資格取得は、入社後に電気のことを覚えながらで問題ありません

電気工事と電気設備保全以外の電気の求人を狙うのは、未経験者には難しい

ここまで解説してきた「電気工事」と「電気設備保全」のほかにも電気系の仕事はあります。中には未経験OKとしているものもあります。しかし、未経験者におすすめできるものではありません。

例えば、下図は京都に本社のあるオムロンエキスパートリンク株式会社の求人です。

この求人の「対象となる方」の欄を見ると、「未経験OK」となっていますが、「電源回路設計」「高周波回路設計」の経験者歓迎とも記載があります。

「歓迎」とは要するに、仕事で使うスキル・経験なので、転職者が持っていたら、会社が研修などで時間をかけて教え込む必要がないので歓迎としているわけです。つまり、この求人では、電源回路設計や高周波回路設計をすることになります。

では、電源回路設計や高周波回路設計をするにあたって必要なスキルとは何でしょうか。下の図は、私が持っている電気の参考書で、電源回路設計・高周波回路設計に必要な「ひずみ波」の重要公式が載っているページです。

引用:オーム社 完全マスター電験二種受験テキスト 電気数学 第1版第1刷 283ページ

このページには数式が羅列してあるのがわかると思います。電気は目に見えないため、その挙動を全て数式で表します。そのため、高等数学の能力は必須と言えます。

特に、設計は実物がないため、数式を解いて動作を予測します。そのため、上のような数式を縦横無尽に使いこなす必要があります。このくらいの数式でアレルギーを起こすようでは、このような求人の仕事は務まりません。

学生時代に、教官から「電気は数学力があれば半分以上理解できる」というようなことを言われたことがあります。10年以上電気の仕事をしていますが、この言葉に嘘はないと実感しています。

この求人では、さらに学歴として「高専(工業高等専門学校:工学を専門に教える高等教育機関)以上」としていることから、学校で工学(電気工学)を修めた人を対象としていると推測できます。

したがって、電気工学を全く修めてない人が申し込んでも、相手にされない可能性が高いです。また、電気未経験で入社できたとしても、数学が不得手では大変な努力を要することになるでしょう。もちろん数学が得意な人は、活躍できる場面はあります。

私が未経験者に「電気工事」「電気設備保全」以外の仕事をおすすめしない、理由はこの「高等数学必須であることによる敷居の高さ」にあります。

おすすめする「電気工事」「電気設備保全」では、仕事の中で高等数学を使う場面がほとんどありません。反対にそれ以外の電気の仕事では、基本的なスキルとして高等数学が必要となる場面が多いです。

求人も、「電気工学を修めていない未経験者OK」のものはごく僅かでした。私が探したときも、「電気設備保全で未経験者OK」の求人を数十件見つけている中で、上の求人のような「電気設計で未経験者OK」の求人は1件程度しか見つかりませんでした。

このように、未経験者が電気の求人を探すとき、「電気工事」「電気設備保全」以外の求人は見つかりにくくて、さらに求められるスキルが高いことは知っておく必要があります。

未経験で電気系の仕事に転職をするとき注意すべきこと

これまで全く電気に関わる仕事の経験がなくて、初めて電気系の仕事に就くときに注意してほしいことがあります。それは、「安全」です。特に、感電には十分注意してください

例えば、機械は「危険」と書かれていたら危険な理由がよくわかります。歯車が回っていて、近くに危険標識があれば、歯車に触れると巻き込まれてケガをするのだとすぐにわかります。

一方、電気は「危険」と書かれていても、何が危険でどこまで近づいていいのかもわかりません。特に慣れないうちは、危険なものが目に見えないのでどう対処して良いのかわかりません。

私は新卒で就職して以来、ずっと電気エンジニアとして仕事をしてきました。職場の仲間は、大体電気系の学校を卒業していましたが、中には高校の普通科卒や、大学の英文学科卒もいました。

彼らは一様に、電気の難しさは「目に見えずわかりにくい」ところにあるといいます。もともと電気に関する知識が少なく、働きだしてから慣れるまでに苦労したとも言っていました。

しかし、目に見えない電気を感知し、未然に感電を防ぐ方法はあります。それはとても簡単な方法です。

電気の仕事に向いている人は、慎重で手を抜かない人

では、実際に電気系エンジニアは、そこに電気が通っていることをどのようにして知り、身の安全を確保しているのでしょうか。

一番簡単な方法は、「電気が流れていないと確約できないものには触らないこと」です。当たり前のことですが、触らなければ感電しません

しかし、電気未経験者はこの当たり前のことが意外にできません。

私が鉄道会社で電気設備保全をしていたとき、入社何年かすれば作業責任者として3~4人の作業員を連れて作業をすることがあります。新入社員が現場に配属になるのが大体5月か6月で、この時期の作業責任者は気が休まりません。

というのは、現場に新たに配属された新人を連れて行くと、設備を何の躊躇(ちゅうちょ)もなく触ろうとするからです。もちろん危険な行為は体を張って止めます。かくいう私も、何度か先輩に厳しく叱責されたことがあります。

このように、感電事故を防ぐ第一の手段は、「触れないこと」です。このすぐには触らない慎重さが大切です。

感電事故を防ぐもう一つの手段は、「電気が来ていないことを確認して触ること」です

電気設備の工事や修理をするときは、電気を停めて作業します。電気は目に見えません。だったら、目に見えるようにするか、そのほか人間が知覚できるようにして、電気の存在を確認します。

これによく使われる道具を検電器といいます。下の写真は、実際に検電器で家庭用100Vの電気があるかどうかを確認しているところです。

家庭用のコンセントに電気がきていると、写真の橙色の円で囲んだところが光ります。そして、「ピー」という耳障りな音がなります。音が耳障りなのは、わざとそのように作ってあるからです。ほかに音がしている状態でも、聞き逃さないためです。

この確認方法は、家庭用の100Vでも、大きな鉄塔の数十万Vでも同じです。もちろん道具は違いますが、「目に見えない電気の有無は、音や光に変えて確認」します。

電気業界にいると、数年に1回は「感電死亡事故があったので職場でも注意しなさい」との注意喚起文書が回ってきます。感電死亡事故の原因のほとんどが、上で説明したような電気の有無の確認を怠ったためです。

また、死亡しなくても、感電負傷事故や設備を故障などの原因も、同様に確認を怠ったためというのが多いです。

このように、感電事故を防ぐ第二の手段は、「触る前に電気の有無を確認する」です。この手続きを、省略しないで行うことが大切です。

ここまで説明してきたように、電気の仕事に向いている人は、「安易に電気設備に触らない慎重な人」「扱おうとしている電気設備に電気が来ているか、そうでないかを、省略せずに確認できる人」です。できない人は、文字通り生きていけません。

自分は死ななくても誰かを感電させて殺すこともあるので、この点は十分注意してください。

まとめ

以上のように、未経験で電気系の仕事に転職しようとするとき、おすすめできるのは「電気工事」と「設備保全」です。どちらも最初は資格がなくても携わることができ、電気の基礎を学ぶにも適しています。

また、これらの求人は、転職サイトで「電気工事」「電気設備」をキーワードにすると容易に見つけることができます。

そして、電気は目に見えずわかりにくいものの、「電気工事」の仕事は比較的目に見える仕事が多くわかりやすいです。「設備保全」の仕事は、目に見えないなりに、この電気の特性にゆっくりとなじむことができます。

反対に「電気工事」「電気設備保全」以外の仕事は、高等数学が基礎スキルであるなど敷居が高くおすすめできません。それらの求人も少なく、わざわざその分野を狙って転職するには苦労することになります。

また、電気系の仕事で絶対に必要な能力は、「安易に電気設備に触らない」「触るときは電気の有無を確認して触る」の二つです。

電気は、音や光のようにわかりやすい形へ変換して確認することができます。その手順はとても簡単です。自分の身を守るために、覚えておいて下さい。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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