電気主任技術者資格が活かせる場所として、高圧・特高の需要設備だけなく発電所があります。設備管理の職種であり、あなたに発電所常駐勤務の経験がなくても、設備管理の経験があれば違和感なく仕事ができます

私は需要家の設備管理経験しかない状態で、発電所勤務をしていて全く不都合を感じていません。特に電験資格を取得できるだけの技術力があれば、心配する必要はありません。

ただ、求人を探す段階でいくつか注意点があります。需要設備に比べて発電所は数が少ないため、どのような会社に発電所があるのかを把握しておかないと優れた求人に出会える可能性が著しく低くなります。また、安定したインフラ業界だったのが電力自由化などによりたくさんの事業者が参入してきて動きが激しくなっています。それについても注意が必要です。

ここでは、電験有資格者が発電所で働くための「多くの求人の見つけ方」「選任に関する注意点」「長く働くための注意点」「年収の考え方」を詳述します。

もくじ

電力会社の発電所勤務求人例と注意点

発電所勤務と聞いて、一番に思いつくのは電力会社ではないでしょうか。いわゆる電力会社には国内10電力会社と電源開発株式会社が該当します。しかし、これらの企業で電気主任技術者として発電所勤務の職種を募集していることは少ないです。

公開されている求人の中から、私が見つけることが出来た電力会社で発電所勤務の求人は1つだけでした。転職サイトのメイテックネクストに記載があった、北陸電力株式会社の求人を下図に示します。

この求人では「プラント設計」の職種になっています。しかし、仕事内容の詳細を見ると火力発電所の設備管理の仕事をするように記載されています。また、応募条件の欄には推奨事項として「第2種電気主任技術者」「第3種電気主任技術者」資格の有資格者であることが挙げられています。

この求人で採用されると、火力発電所の設備管理をしながら将来的に電気主任技術者に選任されることもあります。ただし、北陸電力の電気主任技術者については注意点があります。以下は、以前私が同社の石川総合制御所を見学したときに、社員の人が言っていた内容です。

年配社員:我社では第1種電気主任技術者試験を試験で取得させる。

若手社員:第2種電気主任技術者試験までは実力で取得できた。しかし、第1種電気主任技術者試験は難しい。認定取得の条件は整っているのだから、第1種電気主任技術者資格は認定取得させてほしいものだ。

年配社員:電力会社で働いている以上は、意地でも試験で取得させる。

このようなことを話していたので、電気主任技術者に選任されたいとなると入社後第1種電気主任技術者試験を試験で取得する必要があります。電気主任技術者試験は難関資格として有名です。電験二種以上になると10年単位で受験する人もいます。

ただし、東京電力に勤めていた先輩は第1種電気主任技術者資格を認定で取得したと免状を見せてくれたので、この対応は電力会社によります。中には試験で取得させる電力会社もあることを承知しておきましょう。

発電所の求人は新電力や再生可能エネルギー業界からが多い

電力会社以外だと、新電力や再生可能エネルギー業界から発電所の求人が出ていることがあります。

新電力とは、電力会社・電源開発以外で発電所を持ち電力の販売を行っている会社です。発電電力全量を一般供給する会社もあれば、自社で使う分を引いた残りを一般供給する会社もあります。

例えば、下記の求人は広島地盤のマツダ株式会社の発電所常駐勤務の求人です。電気主任技術者の有資格者を求めていることが記されています。

また、下の求人は本社が東京にある三菱ケミカル株式会社の求人です。この求人で採用されると茨城県鹿島にある鹿島動力株式会社に出向して働くことになります。この求人では第三種電気主任技術者資格保有が必須条件、第二種電気主任技術者資格保有が望ましい条件とされています。

私の同僚には新電力からの転職者が3人います。それぞれ製鉄所(共同火力)、製紙工場、化学工場の発電所で働いていました。新電力の発電所は、このような会社の求人を含めて探していきます。

一方、再生可能エネルギーとは「太陽光」「風力」「地熱」「バイオマス」で発電するものを指します。東日本大震災以降にわかに脚光を浴びて、身近に聞くようになった発電方式です。電力固定買取制度の後押しもあって、たくさんの事業者が参入している業種でもあります。

このうち、地熱発電は事業者数が少ないので求人を見かけることはほとんどありません。したがって、「太陽光」「風力」「バイオマス」の発電所の求人を探すのがセオリーです。

・太陽光発電所

太陽光発電所運営の求人は、例えば下記の求人があります。まずオリックス・リニューアブルエナジーマネジメント株式会社の求人を示します。この会社はオリックス社の太陽光発電事業のみを子会社化した会社です。リースのイメージが強いオリックス社ですが、自社不動産に太陽光パネルを設置して電力販売した経緯から、今では太陽光発電事業者の大手になっています。

・風力発電所

次に示すのは、風力発電所運営の求人です。これは、株式会社ユーラステクニカルサービスの求人です。 ユーラステクニカルサービス社は豊田通商60%と東京電力40%の資本で設立された会社です。この求人では、北海道・秋田・青森にある風力発電所のうちどこかで電気主任技術者に選任される前提の求人です。

なお、風力発電はヨーロッパが先進国です。したがって、機器や発電方式などをヨーロッパから輸入して使っているものが多いです。以前、風力発電所内部を見学したとき、配電盤から発電機までヨーロッパ製品がたくさんありました。

そのため求人票にも、海外製機器を使う上で支障のない英語力があることが歓迎条件になっています。

・バイオマス発電所

最後に示すのは、バイオマス発電所常駐勤務の求人です。この求人は、株式会社ガスアンドパワーの求人です。ガスアンドパワー社は大阪ガスの100%出資子会社として設立された会社で、関西圏を中心に木質バイオマス発電、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業を行っています。この求人では愛知県の中山火力で働く人材を求めています。

電気主任技術者として発電所に勤める求人を探すには、このような新電力・再生可能エネルギー業界を探すと転職しやすくなります。

新設発電所で、実務未経験だと電気主任技術者に選任されるのは難しい

では、転職してすぐに電気主任技術者に選任される前提の求人はたくさんあるのでしょうか。実は、そのような求人は少ないです。先に紹介した求人のうち、電気主任技術者選任前提の求人は株式会社ユーラステクニカルサービスの求人だけです。

このように、電気主任技術者選任前提の求人が少ない理由は、主に2つあります。

1つは、すでに稼働している発電所の場合、電気主任技術者が選任されていないと稼働することができないので電気主任技術者のポストは埋まっているからです。ポストの空きがなければ、募集もありません。

2つ目は、電気主任技術者の選任要件が厳しいことにあります。法令に定められる電気主任技術者の職務に、「保安監督」があります。電気設備の保安に関しては、事業所全体に対して監督責任があります。

この監督とは、事業所の社員に対して指導し、対応を是正させることです。つまり、事業所内で一定の権限を持った人でないと電気主任技術者に選任することができません。

例えば、入社一年目の新卒社員を電気主任技術者に選任したとしても、年配社員が指導に素直に応じるとは考えにくいです。このような新人を電気主任技術者に選任することはできないのです。

電気主任技術者に誰を選任するかは、保安規程に定めることと法令に謳われています。WEBに公開されてある行政機関の保安規程を確認すると、役職者を選任することとされています。下は、金沢市の保安規程です。

引用:金沢市発電事業電気工作物保安規程より

また、私が以前勤めていた鉄道会社だと、電気主任技術者は課長(100人規模の組織の長)以上でないと選任できませんでした。現在勤めている電力プラントだと、課長というポストがないため電気系社員のトップが電気主任技術者に選任されています。

特に発電所の場合は、受電設備よりもはるかに送電系統への影響が大きいです。したがって、電気主任技術者の責任がより重大です。転職してすぐの人に安易に任せられるポストではありません。しばらくの間は設備管理担当として会社に慣れて、信頼を得てから電気主任技術者に選任されます

下は、風力発電所を運営していると紹介したユーラステクニカルサービスの求人です。職務内容に、電気主任技術者としての経験がないと出来ない「指導」も記載があります。

しかし、すでに発電所の電気主任技術者に選任されていた経験があるなら話は変わります。転職エージェントから紹介される非公開求人で、電気主任技術者に選任させることが確約された求人があれば、即電気主任技術者として働くことができます。

設備管理担当として入社し、将来電気主任技術者になる

ここまで説明したように、転職後すぐは設備管理の一担当として仕事を覚え、ゆくゆくは電気主任技術者選任を目指すというのが発電所で働く考え方です。

先に紹介したマツダ株式会社の火力発電所で働く場合も、まずは設備管理担当として火力発電所設備の維持管理を行うことが、求人票の仕事内容の欄に記載されています。

実は、私が転職した電力プラントも再生可能エネルギーの発電所で、同じ考え方で求人が出されていました。下図は当時の求人の一部です。

私が勤める発電所では、電験2種以上の有資格者を電気主任技術者として選任しなければなりません。私は、転職時すでに電験2種を取得していましたが、発電所には電験1種の電気主任技術者がすでに選任されていました。現在は、電気主任技術者の仕事を補佐しつつ、将来の選任に向けて実務を覚えているところです。

発電所の電気主任技術者を目指す場合は、まずは設備管理を担当することが多いということを理解しておきましょう。

長く働きたいなら太陽光発電所には注意!

あなたは下の写真のように空き地が太陽光発電所になったのを見たことがありますか?

2011年以降再生可能エネルギーを普及させるために、政府が電力の全量固定買取制度を始めてから様々な場所で見かけるようになりました。電力インフラの知見も自負もないような投資会社が資本投下して、メガソーラーを作ったのも全量固定買取制度のためです。

私の身の回りでも、電気を専門に指定ない人や会社が太陽光発電に興味を持ち、続々と参入していていました。

しかし当初40円/kW以上だった買取単価が、2010年代後半には半分以下になりました。さらに制度上の不備があり、規制強化の方向に制度見直しがかけられました。

投資して利回りを得るための不動産にようになってしまった太陽光発電の今後の動向は、全く見通しが付きません。単なる投資としてしか太陽光発電所を運営していない会社に転職したとしたら、以下の点は覚悟しておくべきです。

  • (投資が対象として魅力的でなくなったとき)会社の身売りによる待遇変更
  • 事業撤退による失業→転職

私は鉄道業界から再エネ業界に転職しました。再エネ業界は電力インフラだから急激な変化が少なく、腰を落ち着けて仕事ができるだろうと思ったからです。しかし、思っていた以上に他業界からの投資資金が入っていて、変化の激しい業界です。あなたが電気主任技術者として腰を落ち着けて働きたいとしたら、太陽光発電の求人案件には安易に飛びつくべきではありません

年収はサラリーマン平均より高い

最後に年収について解説します。

冒頭に紹介した北陸電力株式会社の年収は、掲載した図に「年収400~750万円」と記載ありました。二番目に紹介したマツダ株式会社の年収は、下図のように年収欄に400~800万円と記載があります。

同様に、ここで紹介した会社の年収を下表にまとめました。

会社名 年収[万円] 発電方式 業種
北陸電力(株) 400~750 火力 電力
マツダ(株) 400~800 火力 製造(輸送機)
三菱ケミカル(株) 400~700 火力 製造(化学)
オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(株) 500~900 太陽光 電力
(株)ユーラステクニカルサービス 400~700 風力 電力
(株)ガスアンドパワー 490~840 バイオマス火力 ガス

このように、400~700万円がボリュームゾーンとなっています。また、電気主任技術者選任が必須の求人はユーラステクニカルサービス社だけです。そのほかの会社は、将来的に電気主任技術者に選任されることで、選任手当や役職手当が期待できます。

電気主任技術者資格を持って発電所で働く年収は、サラリーマンの平均年収約494万円(国税庁の平成29年民間給与実態調査より)と比べて高いです。これは、発電所を運営できるだけの企業体力があるからです。発電所への転職は、年収面では成功しやすいといえます。

まとめ

電気主任技術者資格を持って発電所で働きたいと考えたとき、電力会社からの求人のみを探すのではなく、新電力や再生可能エネルギーの会社からの求人を探すとよいです。

新電力の会社は、大きな工場を持つ会社は自社で発電所を持っていることがあるので、そのような企業を探しましょう。

再生可能エネルギーの会社は、「太陽光」「風力」「バイオマス」発電所を運営している会社を探すのがセオリーです。国の再生可能エネルギー振興政策のために、この業界に参入する企業や事業拡大している企業が多いです。求人も見つけやすいです。

ただし、入社後すぐに電気主任技術者に選任される求人は少ないです。あったとしても、十分な経験が必要です。あなたに電気主任技術者の実務経験があるなら、選任前提でもそうでなくても重宝されるので、自信を持って転職活動をすると良いです。

なお、太陽光発電については先行き不透明なため、あなたが長く勤めたいと思っているならおすすめできません。

電気主任技術者の有資格者が発電所で勤務するときの年収は、サラリーマンの平均年収と比べて高いです。電験資格取得を契機に、年収アップを目指して転職成功しやすい分野です


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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