エネルギー管理士資格は、技術系の人が取得することが多いです。しかし、エネルギー管理の仕事は省エネにかかる技術的な検討・提案のほか関係官庁に提出する資料の作成や規定の作成など、事務方の作業・仕事がかなりあります。
会社の中でも、事務系または管理系職種でエネルギー管理の仕事を割り振っていることもあるでしょう。
では、エネルギー管理士の有資格者が転職を考えたときに、事務系職種での募集はあるのでしょうか? あるとしたらどのような働き方で、どれくらいの年収が見込めるのでしょうか?
ここでは、そのような疑問に答えるために「エネ管資格が活かせる事務系職種の求人例」「優れた求人を探し出す工夫」「平均年収や資格手当」について、くわしく解説します。
もくじ
事務系職種でエネルギー管理士資格が条件にある求人例
エネ管資格を活かした事務系求人への転職なら、総務事務が第一選択肢になります。例えば、下図のような求人です。
この求人は、愛知県にある自動車部品メーカーである株式会社セントラルヨシダの求人です。
業務内容を見ると、株主総会や社内行事対応などいわゆる総務の仕事のほかに、採用など人事の仕事も含まれています。そして、「関係官庁への提出書類管理」も総務の仕事内容として記載されています。
実は、設備管理に関係する関係官庁とのやり取りは総務課が担うこともあります。設備管理のメンテナンスや点検は技術職ですが、実務では法令に従った書類仕事がたくさんあります。この部分を総務職が担当していると考えられます。
同じ求人の「求める方」の欄を見ると、エネルギー管理士のほか技術系資格が歓迎条件として並んでいるのがわかります。
この求人欄に記載されている資格者は、事業者ごとに責任者を選任して届け出る必要があります。関係官庁は下表のとおりです。
資格者を選任する責任者 | 関係官庁 |
---|---|
公害防止管理者 | 県または市町村の環境局・課 |
エネルギー管理士 | 経済産業局 |
衛生管理者 | 労働基準監督署 |
電気主任技術者 | 経済産業局 |
関係官庁には、責任者の選任・解任届のほか、事業所の施設・規定・定期報告などを届け出たり、申請したりする必要があります。
エネルギー管理士だと、「エネルギー管理企画推進者」「エネルギー管理者」「エネルギー管理員」として選任されます。そして、「エネルギー管理標準」を届け出るほか、毎年「中長期計画書」と「定期報告書」を経済産業局に届け出る必要があります。
私は、エネルギー管理標準とそれに伴う社内規定を制定したことがあります。また、事業所における年間のエネルギー使用状況をまとめて定期報告書を作ったこともあります。その経験から言うと、これらの仕事は書類を作成する事務仕事です。
実際に設備を触ってメンテナンスする設備保全は、技術的な経験がないと難しいです。しかし、書類仕事は事務を中心に取り扱う総務課に任せてしまったほうが取り扱いに慣れています。
このような理由から、総務事務でエネ管資格者を募集することがあります。
エネ管資格が有利になる事務系の求人は少ないので探し方を変えよう
総務のようないわゆる事務系の仕事で、エネ管資格者を募集している求人は少ないです。そこで、少し「事務」の範囲を広げて求人を探すと選択肢が増えます。例えば、工事事務やコンサルタント(ESCO事業)が該当します。
・工事事務
工事事務とは、設備新設・更新工事にかかる仕様決定から設計・積算・発注までの事務仕事を指します。実際に手を動かして設備を設置・調整するのは専門の業者に発注するので、書類仕事や打ち合わせが主な仕事です。
具体的な求人例では、下図の国立研究開発法人 理化学研究所の求人が該当します。
この求人票に示されている、「関係部署との調整」「監理」「工事の計画から竣工までの各業務」「必要な資料の作成と業務管理」は、工事事務と呼ばれる事務仕事です。
工事自体は外部業者に発注するので、設備を作ったり補修したりする「作業」はありません。もちろん現場に赴いて調査・検査を行うことはあります。しかし、ほとんどがオフィスで行う仕事です。
この求人の対象となる方の欄を見ると、「エネルギー管理士」が歓迎する資格として記載されています。
私は以前、このような工事事務を担当していたことがあります。下の写真は、私が設計(工事事務担当)をしていたときの事務所の様子です。
遅い時間の帰りがけなので、私以外の机は片付いています。それぞれ、自分の机にノートパソコンを出して行う仕事でした。服装も、作業服ではなく私服のスーツ(背広)で行っていました。
このとき、多くの仕事時間を割いていたのが関係各所との打ち合わせ・調整です。
工事は一人の力でできるものではないので、一つの工事にたくさんの人が関わります。ユーザー、施工業者、オーナー、そして私のような設計(工事事務担当)など、関わるそれぞれが設備に対して期待や考え方を持っています。
それらをうまくまとめなければ満足いく設備になりません。そのために、関係者の意識を統一させ誤解を防ぐために資料を作り、必要とあれば顔を突き合わせて話をします。
よく先輩から言われていたのは「段取り八分」ということで、関係者との意識合わせがうまくできていれば、工事はほとんど成功すると教えられていました。
したがって仕事の多くが、実際に手を動かしてモノを作る人が気持ちよく実力を発揮してもらうための事務仕事でした。
このような工事事務の仕事も、事務系の仕事といえます。
・ESCO事業
次に選択肢になるのが、ESCO事業を行っている企業です。
ESCO事業とは、Energy Service COmpanyの略で、顧客に省エネ提案をして、顧客が省エネ分で得をした分からサービス料をもらう事業・ビジネスモデルです。下図にESCO事業の概念を示しています。
ESCO事業も工事事務と同様に、実際に設備を施工するのは専門の業者ということが多いです。つまり、ESCO事業者の主たる仕事は、顧客や施工業者との打ち合わせ・調整と、データの分析や提案・工事資料の作成といった事務仕事です。
実際の求人例を見てみましょう。下図は、東京電力100%出資子会社の日本ファシリティ・ソリューション株式会社の求人です。
この求人では、ESCO事業を進めていく上で「エネルギーデータ収集、計測、分析」「エネルギー試算」「設備の基本計画・設計・工事費の算出・省エネ効果検証」「提案書の作成およびプレゼン」といった仕事が業務内容に挙げられています。
先程紹介した工事事務の仕事内容とあまり差異がありません。それも当然のことで、自社設備の省エネを実現するか、他社設備の省エネを実現するかだけの違いです。
- 工事事務:自社社員の能力を使って、自社設備のエネルギー改善を実現する。
- ESCO事業:自社社員の能力を使って、他社設備のエネルギー改善を実現する。
つまり、ESCO事業のこのような人材募集も事務系の仕事といえます。
また、ESCO事業では顧客に対する説得力が増すため、エネ管資格保有者を強く求めています。日本ファシリティ・ソリューション社の求める方の欄を見ると、下図の通りエネ管資格者は経験不問で応募できます。
エネルギー管理士資格が活かせる事務系の求人を見つけるには、以上のような業種・職種も選択肢にすると転職成功しやすくなります。
転職エージェントを活用して事務系求人を見つける
しかしながら、ここまで紹介したような求人は数が少ないです。何の考えもなしに求人を探しているだけでは、優れた求人に出会う可能性は低くなります。
そこで、あなたは自分から積極的に求人を探す工夫をしなければなりません。ここでは、どのように工夫したらよいか解説します。
まず1つ目は、転職エージェントを介して非公開求人を探すことです。非公開求人とは、転職サイト運営会社が持っている求人の中でも、転職エージェントを介してのみ紹介される求人のことです。
大手転職サイトのマイナビAGENTでは、下図のように全求人数の8割が非公開求人だとしています。
この「全求人数の8割」という数字は、どの転職サイトも大きく外れることはありません。概ね7~9割くらいが非公開求人とされています。
つまり、転職エージェントサービスを利用して非公開求人の紹介を受けるだけで、あなたが転職サイトで見ている求人数の4倍の求人に触れることができます。つまり、優れた求人に出会う確率が大きく上昇します。
また、扱う求人は転職サイトによって違います。したがって、複数の転職サイトを使って非公開求人を探すことが、理想の転職を実現するための秘訣です。
そして2つ目の工夫は、あなたが希望する職種を募集していないか企業に打診することです。
これは転職フェアなどで、企業と直接話すと理由がよくわかります。企業が出している求人で募集している職種でなくても、資格や経験を持っていれば採用したいということはよくあります。
私は転職フェアで直接企業と話したとき、募集している職種とは別の職種で採用試験を受けてみないかと言われたことが何度もあります。例えば、「施工管理職を募集している企業で、エネルギー管理士を持っているなら工事設計職で採用試験を受けてみないか?」という話がありました。
これは、求人票を眺めているだけでは絶対にわからないことです。なんとか企業と接点を持って、あなたが希望する職種の採用があるかないか聞き出すと良いです。
しかし、あなたの気になる会社があったとして、転職フェアに出展しているとは限りません。そのようなときは、転職エージェントを通して当該の企業に打診する方法があります。
あなたと企業の間にパイプがなくても、転職エージェントと企業との間にはパイプがある可能性は高いです。
以上のように、エネ管資格が活かせる事務系求人を探す工夫をすることで、転職が成功しやすくなります。
平均年収や手当を知る
最後に、ここで紹介した企業の年収やエネ管の資格手当について説明します。
年収について、冒頭で紹介したセントラルヨシダ社の年収は、求人票の中に下図のように400~500万円と提示されています。
同様に、理化学研究所と日本ファシリティ・ソリューション社の提示年収を、一覧表にまとめたのが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
(株)セントラルヨシダ | 400~500 | 製造(金属) |
国立研究開発法人 理化学研究所 | (大卒)397~ (高卒)327~ 求人票は月給表示。 そのほか記載事項を参考に、月給×20ヶ月で計算。 |
準公務員 |
日本ファシリティ・ソリューション(株) | 350~700 | 技術サービス |
この表によると概ね350~500万円くらいが提示されています。しかし、平均年収は業種によって大きく違います。
例えば、エネルギー管理士が活躍できる主な業種だと下グラフに記載された業種が該当します。これは、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査をグラフ化したものです。
引用:令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このような統計調査とあなたの年齢を勘案して、企業から提示された年収が妥当かどうか判断すると良いです。また、平均年収の高い業種に転職すると年収の伸びも期待できます。
なお、準公務員の年収は全産業の平均年収をもとに決められます。そして、若いときは安く、年齢が上がるほど高くなる傾向があります。つまり、20代30代だと年収は、全産業平均より安くなります。
もう一つ、資格手当について説明します。
資格手当は、どの企業でも支給しているものではなく、企業の考え方でそれぞれです。ここで紹介した企業3社について、具体的に金額を示していなかったので、下図に求人票に資格手当の記載があったパナソニックファシリティーズ株式会社の例を示します。
求人票には、エネルギー管理士資格を持っていると資格手当で5,000円が支給されることが示されています。そして資格手当は、ただ取得するだけで支給されることは少なく、エネルギー管理者などに選任されることで支給されることが多いです。
一方受験補助や資格取得一時金は、資格の受験費用や交通費を補填するために支給していることがあります。これは資格手当より支給されている場合が多いです。ここで紹介した3社についても、受験補助・資格取得一時金の記載はありました。
ちなみに私の例でいうと、新卒で勤めた鉄道会社と現在勤める電力プラントでは資格手当は、選任されたとしても0円です。資格取得一時金は、鉄道会社は0円、電力プラントでは50,000円が支給されます。
下の写真は、私がエネルギー管理士資格を取得したあと、研修費として資格取得一時金50,000万円を支給されたときの給与明細です。
何にしろ、エネ管資格の手当類の相場は、数千円~数万円です。こだわるべきは、入社時の年収や入社後の年収の伸びです。転職において、資格に関する手当類の優先度は低いです。
以上のように、収入面で注意すべき点について解説してきました。これにより、年収面で大きく失敗するのを防ぐことができます。
まとめ
エネルギー管理士資格が活用できる事務系の求人では、「総務」「工事事務」「ESCO事業」があります。
総務職は、いわゆる事務職としてイメージしやすいと思います。エネルギー管理にかかる届出や関係官庁とのやり取りを、そのほかの事務と一緒におこなうことが仕事です。
工事事務職は、設備を管理する上で工事をするための打ち合わせや仕様決定・契約業務を行う仕事です。現場に出ることもありますが、実際に手を動かしてものを作ることはありません。
ESCO事業の仕事は、他社の設備を改善して収入を得る仕事です。工事事務と同様の仕事内容です。ただし、他社設備を対象にするので、より合理性や説得性が求められます。
このような事務職といってイメージしにくい工事事務やESCO事業を対象にしても、求人数は少ないです。そこで、転職エージェントをうまく利用して求人を探す必要があります。
具体的には、「複数の転職サイトで非公開求人を探す」「直接企業に打診する」といった工夫をすると、優れた求人に出会いやすくなります。
最後にエネ管資格が活用できる求人の平均年収は、企業によりさまざまです。業種により入社時の年収や入社後の年収の伸びは変わります。
また、エネ管資格にかかる手当類は、数千円から数万円程度です。エネ管資格を持っているだけで高年収になることはありません。
手当類より提示年収や業種にこだわったほうが、入社後により高い年収を得やすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。