電気主任技術者(電験)資格は、電気設備がある限り必ず求められる資格です。そして、電験資格は電気技術者の技術力を測る資格として用いられることが多い資格でもあります。

電験資格にはそのような特徴があり、応募条件として電験資格を掲げている求人はたくさんあります。そのため、単に「電気主任技術者資格」をキーワードに求人を探しても、たくさんの職種がヒットしてどのような仕事内容なのかわかりづらい状況です。

転職を成功させるには、職種の仕事内容を十分に理解することが不可欠です。情報収集を怠ると、ミスマッチにつながり後悔することになります。

転職は大変な労力と決断力を使うものです。転職成功した多くの人は、正しい考え方を身につけ、適切な情報収集を行っています。

ここでは、「職種変更を伴う転職の考え方」「電験資格必須の職種」「電験資格が歓迎される職種」「年収の考え方」について、くわしく説明します。

職種と業種の2軸で転職を検討するのが基本

電験資格が評価される職種は複数あります。ただし、転職して職種変更を考えるときには、職種と合わせて業種について正しく理解しておくことが必要です。職種と業種の2軸で転職を考えると、下図のように4つのパターンが考えられます。

職種変更を伴う転職だと、「3.同業種の異職種に転職する場合」「4.異業種の異職種に転職する場合(完全未経験)」の2つの場合が考えられます。

・同業種異職種への転職

同業種の異職種に転職する場合は、これまでの業種経験を活用できます。この場合、実務が未経験なので、仕事を覚える最初は苦労します。しかし、仕事を一通り覚えたあとは広い知見や人脈を生かした活躍が期待できます

私は、鉄道における建設と保全(設備管理)の間で職種変更を経験したことがあります。このときは、仕事の進め方の違いに戸惑い、最初の1年は体調を崩したり、仕事がぜんぜん進まなかったり大変な思いをしました。

しかし、なんとか仕事に慣れたあとは、両方の職種の考え方や仕事の進め方がわかっているので、驚くほど仕事が進めやすくなったのを覚えています。

このように同業種異職種への転職は、転職直後が大変です。しかし、大変な時期を乗り切ると、知見が広がり、仕事に幅が出て余裕を持った仕事ができるようになります。

・異業種異職種への転職

一方、異業種の異職種に転職する場合は、全くの未経験からのスタートになります。つまり、実務では新入社員と同じレベルであり、給与面で期待してはいけません。心機一転して、新しく生活を作るつもりで転職しないと、激しく後悔することになります。

私の知り合いに、出版業から製造業の保全(設備管理)に転職した人がいます。彼は、趣味で電験を取得したので、それを活かしたいということで転職しました。

しかし、電気の知識だけでなく、機械や化学の知識が必要なことを転職してからわかり、大変な苦労をしたということです。社内教育体制が整っていたので、仕事に慣れるまでサポートを十分に受けられたことが幸いだったと話していました。

このように、異業種異職種への転職は、わからないことだらけで新入社員の気持ちで仕事に取り組む姿勢が大切です。

以上、職種変更を伴う転職は2つのパターンがあることを理解してください。その上で、次章から説明する電気主任技術者資格が活かせる職種への転職活動を始めましょう。

電気主任技術者資格が必須の職種は電気保安

電気主任技術者資格は、電気事業法で定める電気主任技術者に選任するために必要な資格です。電気主任技術者は、事業所の電気保安を担当する責任者です。電気保安とは、以下のような仕事を指します。

  • 官公庁への必要な認可申請・届出を行う
  • 事業所の電気設備の工事・維持・運用を、適切に行う方法を規定して遵守させる
  • 電気設備が適切に工事・維持・運用されるために保安教育を実施する
  • 災害時の対応方法を具体的に規定し、遵守させる
  • 教育を含む保安業務の記録方法について定め、実施する
  • 平常時および緊急時の連絡体制を定めて、運用させる

例えば、下の写真のような22kVの受電設備がある事業所だと、第三種電気主任技術者の有資格者が電気主任技術者に選任されて電気保安の業務を行う必要があります。

ただし、電気保安の業務だけで1日8時間、週5日全てを費やすような業務量はありません。そこで、多くの企業が設備管理を行う職種に電気保安の業務をさせていることが多いです。下図は、設備管理と電気保安の業務の関係を示したものです。

設備管理の仕事は、多くの場合技術部門が行います。製造業、エネルギー供給業、鉄道など様々な業種が設備管理部門を設けて電気保安を実施しています。

製造業の例として、下図にピー・アンド・ジー株式会社の求人を示します。この求人では、工場の電気設備を管理する職種として、電気主任技術者資格の有資格者を求めています。

ただし例外として、規模の小さい事業者では総務が担当することがあります。下図の埼玉縣信用金庫が、総務が電気保安を行っている求人の例です。総務部管財グループに所属することが、求人票に記載されているのがわかります。

そして、設備管理の技術職として採用されるため、第3種電気主任技術者資格を持っていることが、必須条件の一つして挙げられています。

埼玉縣信用金庫は技術者を社員に持つ方針をとっていますが、このような業務一切を外注する場合もあります。例えば、ビル・病院・学校・商業施設などは外部に電気保安と設備管理を委託することが多いです。このような設備管理職を特に、ビルメンテナンスと呼んでいます

ビルメンテナンスの求人例は、下図のような三井物産フォーサイト株式会社の求人が参考になります。東京都千代田区大手町の大型ビルディングで設備管理を行う職種で、第二種電気主任技術者資格が必須とされています。

そのほか、電気保安協会などの電気保安法人が電気保安を行なっています。電気保安法人では設備管理のうち、電気保安と検査・分析・評価を担当する職種があります。実際に設備の取替や工事の実施などは行いません。

下の示すのが、電気保安協会の求人です。電気主任技術者資格が必須とされているのがわかります。

通常、電気保安協会などの電気保安法人は、電気主任技術者資格に加えて電気保安の実務経験を求められます。これは、電気保安法人の主たる業務に就くには、経済産業省に従事者が電験資格と実務経験を有していることを届け出る必要があるからです。

しかし、電験資格の有資格者の人材が不足してきており、採用してから実務経験を積ませる採用も出てきました。このような求人なら、職種変更で実務未経験でも応募することが可能です。

電気主任技術者資格必須の求人は、このような求人に類似した求人を探していきます。

設備管理・保全の仕事内容

電気保安の仕事以外に設備管理・保全の担当者が取り組むべき業務はどのような業務でしょうか。設備管理とは主に、対象の設備が意図せず故障することを防ぐ一連の活動をいいます

基本的な業務の進め方は、下図のように「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルをまわして、設備故障を防ぐというやり方です。故障以外にも、設備性能向上やコスト削減のための「対策検討」「対策実施」もあります。

 

日常的な業務はルーチンワークであるため、電気主任技術者資格の試験で問われるような技術的な知識・技能の出番はあまりありません。しかし、故障が起きたり、新設プロジェクトが発足したりしたときは、電気主任技術者資格に裏付けられた技術力が活かせます

私が鉄道会社に勤務していたときに、電験2種を取得したあとは、違う部署からでも電気の技術的な相談をされることが増えました。また、社内には電験1種を取得していた人もいて、この人にはたくさんの技術的な検討依頼が集まっていました。

このように、設備管理・保全の仕事の中で、電気の技術的な検討が占める割合は少ないです。しかし、電気主任技術者資格を持っていると、技術検討するときなどに活躍できます。

電験資格が歓迎条件として募集されやすい職種

次に、電気主任技術者資格が歓迎条件とされやすい職種について説明します。実は、前章で説明した設備管理の仕事は、どのような場合でも電験資格必須とされるわけではありません

電気保安には電気主任技術者資格が必要ですが、設備管理をするには資格不要だからです。しかも、事業所で選任しなければならない電気主任技術者は1人です。

通常、既に事業を行っている会社は、既に選任された電気主任技術者がいます。つまり、既設の事業所で電気主任技術者資格必須として求人が出ている場合は、近い将来電気主任技術者が退職する可能性が高い事業所です。

一方、歓迎条件として電気主任技術者資格が挙げられているのは、どのような理由からでしょうか。それは、会社として複数の電験有資格者を抱えていたいからです。

例えば、会社として新しく事業所を建設したとき、既設の事業所に電験の有資格者がいれば、異動により電気主任技術者として選任できます。

すでにいる社員なので、会社の事業内容に対して十分理解しており、即戦力として仕事をすることができます。これが、新しく電験の有資格者を採用するとなると、即戦力として働けるかどうかは未知数です。さらに、都合よく求職者が見つかるかどうかはわかりません。

したがって、事業所の新設計画がないときでも、設備管理の人材に欠員が出れば、電験資格を歓迎条件として募集しているのです。

電験資格を歓迎条件としている設備管理職の例としては、下図に示すB-Rサーティワンアイスクリーム株式会社の求人が該当します。この求人は、静岡工場または兵庫工場の設備管理に携わる人材を募集しています。電験3種資格が歓迎条件とされています。

電験資格が歓迎条件とされやすい職種は、設備管理のほかに建設業の施工管理・設計、メーカーのフィールドエンジニア、コンサルタントなどがあります。以下に、それぞれの求人を示しながら説明します。

建設業の施工管理・設計の求人例と仕事内容

実は高圧以上の電気工作物を工事することについて、電気主任技術者資格は必要ありません。

一方、工事現場では仮設電源として高圧以上の電源で受電することがあります。仮設電源であっても、電気主任技術者を選任しなければなりません

下の写真は、ある工場の建設現場です。工事用電源として6.6kVでキュービクルに引き込んでいるのがわかります。

このようなとき、客先が仮設電源の電気主任技術者を選任することもありますが、工事会社が選任することもあります。このようなときに、電気主任技術者資格を保有している社員が必要です。

そこで、下図のように建設業の企業が施工管理職で電気主任技術者の有資格者を求めることがあります。この求人は大手ゼネコンの竹中工務店の求人です。

施工管理職以外では、設計職で電気主任技術者資格を持っている人材を求めることがあります。例えば、下図の株式会社大林組の求人では、電気主任技術者資格を持っていることを条件の一つとしています。

設計職で電験の有資格者を求めるのは、施工管理職で求める理由とは少し違います。もちろん、電気設備設計においても電験資格は必要ありません。

ただ、物件を建設するときの電気設備設計では、電力会社との折衝や、電気保安の観点を持って業務に当たらなければならないことが多々あります。したがって、電気の技術力を担保する意味で、電験資格の保持を求められることがあります

建設会社は、建設土木技術者の会社というイメージがあり、電気技術者が積極的に就転職する会社とはいえません。したがって、ゼネコンなどの大手建設会社では電気技術者が潤沢にいるわけではないのです。

実は、私は電験2種を持っていることから、大手ゼネコンに電気の設計職で働かないかと声をかけられたことがあります。特に都市部では、電験などの資格を持ったある程度技術力の担保できる電気設計の人材がいないからということでした。

建設業では、このような施工管理や設計の職種が、電験有資格者を求めることがあります。

メーカーのフィールドエンジニアの求人例と仕事内容

メーカーのフィールドエンジニアも、電験資格が歓迎条件とされやすい職種の一つです。フィールドエンジニアとは、サービスエンジニアとも呼ばれ、客先で製品の点検・修理・調整などを行う職種です。

求人例としては、下図の日新電機株式会社の求人が該当します。日新電機社は電力機器メーカーとして有名です。この求人は、京都の工場所属のフィールドエンジニアの求人です。第三種電気主任技術者資格が、応募条件の一つして挙げられています。

私は鉄道会社勤務時代に、日新電機社の製品を工事で納入してもらったことがあります。それは、下の写真のような電鉄用変電所における計器用変流器(CT)です。

鉄道会社に限らず、このような機器を入れ替えるような規模の工事だと、社内でも技術的に優れた人材が仕様や工事方法について検討します。

私が計器用変流器の取替に携わったときは、まだ駆け出しで、施工管理くらいしか任せてもらえませんでした。仕様検討や、施工方法の検討には、電験1種や電験2種を持ったベテランが指揮をとっていたのを覚えています。

フィールドエンジニアは、このような客先の優れた電気技術者を相手に説明や折衝をする必要があります。点検調整自体に電験資格は必要ないものの、顧客と同じ目線同じレベルで打ち合わせができないと信頼を失うことになります。

したがって、電気の技術力を担保するために、電験資格者を求めることがあります。ただし、全員が持っている必要はないので、歓迎条件とされることが多いです。

コンサルタント(建設・ESCO)の求人例と仕事内容

4つ目は、コンサルタントについて紹介します。電験資格が条件にされやすいコンサルタントは、建設コンサルとESCO事業を行っているコンサルタントです

まず建設コンサルの例を示します。下図に示すのが、株式会社ニュージェックの求人です。ニュージェック社は関西電力のグループ会社として全国に拠点を持つほか、東南アジアでも事業展開しています。この求人では、電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。

建設コンサルの仕事内容は、先ほどの建設業の設計職の仕事内容と同じです。ただし、自社の物件を設計するのではなく、他社の物件を設計します。

他社と言ってもニュージェック社の場合は、国や自治体などからの依頼が多いです。例えば、道路・架線・港湾などの管理施設の設計です。

どのような施設であっても、電気設備は必ず存在しているので、その設計をするにはある程度の電気の技術力が必要です。また、電験資格は国家資格として評価の高い資格です。客先に対して設計品質を保証する意味でも、建設コンサル会社は電験有資格者を社内に持ちたがります

このような建設コンサルのほかESCO事業を行っている会社が、電験有資格者を求めることがあります。例えば、下図に示すパシフィックコンサルタンツ株式会社が該当します。歓迎条件に電験資格があるのがわかります。

パシフィックコンサルタンツ社は、建設コンサル会社の一つです。ただ、特徴的な事業としてエネルギー分野でESCO事業を行っています。ESCO事業とはEnergy Service COmpanyの略で、客先に省エネ提案をして受注し、削減されたコストから一定期間サービス料金を受け取る事業モデルです。

企業が使うエネルギーの大部分は電力であり、省エネルギーを実現する設備も電気設備が中心です。したがって、電気に対する深い理解がある人材を求めます。その電気技術力の担保として電験資格を条件としています。

建設コンサルの求人は、このような求人を探していくと良いです。

職種による年収差は少ない

最後に職種ごとの年収について解説します。しかし、実は電験資格が活かせる職種ごとの平均年収の違いには、あまり意味がありません。

例えば、大手転職サイトのマイナビエージェントによると、建設分野の職種について下図のように示されています。電験資格が活かせる職種は、橙色で示した「プラント・設備設計」「施工管理・設備工事」です。

引用:マイナビエージェント職種別年収ランキング

この表によると、ぞれぞれ「468万円」「413万円」と示してあります。この年収は、求人票にある提示年収を集計して算出されてものです。しかし、1つの会社で同時に2つの職種を募集することはまれです。つまり、ほぼ「職種=会社」と考えられます

このことを踏まえた上で、ここで紹介した求人の提示年収を確認します。冒頭で紹介したピー・アンド・ジー社の提示年収は、下図の通り400~500万円です。

そのほか、ここで紹介した求人の提示年収は下表のとおりです。

会社名 提示年収[万円] 職種 業種
ピー・アンド・ジー(株) 400~500 設備管理 製造業(化学)
埼玉縣信用金庫 450~600 設備管理(総務) 金融業(共同組織金融)
三井物産フォーサイト(株) 450~800 設備管理(ビルメンテナンス) その他事業サービス
(一財)北海道電気保安協会 330~500 電気保安 技術サービス業
B-Rサーティワンアイスクリーム(株) 370~450 設備管理 製造業(食品)
(株)竹中工務店 332~864 施工管理 建設業
(株)大林組 380~ 設計 建設業
日新電機(株) 400~600 フィールドエンジニア 製造業(電機)
(株)ニュージェック 450~850 コンサルタント 技術サービス業
パシフィックコンサルタンツ(株) 700~1,000 コンサルタント 技術サービス業

そして年収は、実際には職種よりも業種や会社規模により左右されやすいです。電気主任技術者資格が活かせる業種の平均年収は、厚生労働省が信頼できるデータとして賃金基本構造統計調査を実施し、発表しています。下のグラフが、電験資格が活かせる業種の公開されている平均年収です。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

グラフ中、青色で示したのが製造業、緑色で示したのが非製造業です。橙色で示した共同組織金融業は、電験資格が求められる場合がまれなので、参考で掲示しました。また、「技術サービス」の中に、電気保安とコンサルタントの職種が含まれます。

グラフから、業種により大きく年収が違うことがわかります。このことから、転職したい職種を決めたあとは、積極的に年収の高い業種を選んで応募すると高年収を得やすいです

まとめ

電気主任技術者資格を活かした転職で、職種変更を実現する方法について説明してきました。まず職種だけに注目するのではなく、業種もあわせて2軸で考えることが必要です。

その上で、「同業種異職種」「異業種異職種」の2つの転職パターンがあることを理解してください。どちらも仕事内容が大幅に変わるので、転職当初は苦労することになります

電験資格が必須の職種は、電気保安です。電気保安だけでは業務量が少ないため、設備管理・保全職として募集されていることが多いです。電験資格が活かせる職種のメインは、この設備管理・保全の職種です。

そのほか、電験資格が歓迎条件とされる職種は、建設業の施工管理・設計職、メーカーのフィールドエンジニア、コンサルタントなどです。設備管理・保全職も、緊急でない場合は歓迎条件として募集されることが多いです。

電験資格が活かせる仕事を探すとき、年収を職種の切り口で判断するのはあまり意味がありません。それは職種が違えば、会社が違うことが多いからです。したがって、年収を判断するときには、希望する求人を出している会社の業種を把握してください。

政府統計によると、業種ごとで平均年収が大きく違います。高年収を得たいなら、平均年収の高い業種の求人を積極的に探すことが重要です。このような考え方で求人を探すことで、転職成功しやすくなります。

技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。