正社員と非正規社員には、給料以外にも待遇面でさまざまな格差が設定されていることが多いです。正社員になれば、この格差を解消することができるので、転職して正社員を目指す人は多いです。
私自身、転職で契約社員から正社員登用という道を歩みました。短い期間だったとはいえ、不安感がつきまとう、居心地の悪い期間でした。
その際、会社が契約社員として雇いたがる理由をうかがい知ることができました。今思えば当たり前のことなのですが、転職活動していた当時は会社側の都合など考えもしませんでした。しかし、これを知っておくと転職活動の戦略が変わり、より正社員への転職成功しやすくなります。
ここでは、「電気技術者が正社員になりやすい業種・職種」「電気工事士が正社員を目指す場合の注意点」「電気技術者の年収と注意点」について、私の体験談を踏まえながら詳細に解説します。
もくじ
電気技術者が正社員になりやすい業種がある
WEB検索や転職サイトを使って、「電気 正社員 求人」と検索すれば、電気関係の正社員求人はたくさんヒットします。しかし、ここでヒットする求人は、業種や職種がさまざまです。この中から、あなたが選ぶべき優れた求人を探すのは大変です。正社員募集の求人であっても、採用条件の厳しい求人ばかりを狙っていたのでは、転職成功は難しいです。
実は、優れた正社員求人を探すには、コツがあります。電気技術者が正社員として求められやすい業種・職種を絞り込んで求人を探すことで、正社員で転職できる可能性を飛躍的に高めることができます。
浮き沈みの少ない業種・職種を狙う
では、実際に正社員求人が多いのは、どのような業種・職種でしょうか。それは、「会社・部門業績に浮き沈みの少ない業種・職種」です。
なぜかというと、日本の法制度だと一度正社員として採用すると、簡単に解雇することができないからです。経営者視点で考えて、人件費は固定費です。一人採用すると、退職まで数千万~数億円が支出として確定します。
業績の良いときに正社員をたくさん増やして、会社業績が悪くなったとき、社員が会社にしがみつくと途端に会社経営が苦しくなります。このようなときに、非正規社員だと雇用期間が契約上定められているので、会社の業績悪化で解雇することができます。
反対に、会社や部門業績に大きく変化のない会社は、正社員として採用することに抵抗が小さいです。
このことから、正社員として転職したいなら、会社・部門業績の安定している会社を狙う必要があります。
インフラ系企業の正社員求人を狙う
具体的にどのような業種から正社員求人が出ているのでしょうか。わかりやすいのが、電気・ガス・水道・石油製造・公共交通などのインフラにかかわる企業です。下表は、各インフラ業種の代表的な会社を示しました。
業種 | 代表的な会社 |
---|---|
電気 | 東京電力(株)・関西電力(株)・中部電力(株)・電源開発(株) |
ガス | 東京瓦斯(株)・大阪瓦斯(株)・東邦瓦斯(株)・西部瓦斯(株) |
水道 | メタウォーターサービス(株) |
製造(石油・石炭) | ENEOS(株)・出光興産(株)・コスモ石油(株) |
公共交通 | JR各社・私鉄各社・日本航空(株)・全日本空輸(株) |
上表で電気業の関西電力株式会社からは、下図のような求人が出されていました。関西電力は大阪に本社を置き、主に関西地域の電力を供給している会社です。同社の原子力発電所の多くは福井県に設置されており、この求人では福井県の原子力発電所で働く正社員を募集しています。
このようなインフラ系企業は、求人数自体が少ないです。また、人気なので倍率も高くなります。運良く優れた求人を見つけたら、とにかく応募することが大切です。採用試験に合格すれば儲けものです。不合格でも似たような企業に応募するときの傾向を探ることができます。
中途採用の求人は水物です。見つけたらすぐに応募しないと、次に探したときには求人自体がなくなっていることがよくあります。私も応募を躊躇(ちゅうちょ)して、何回も気になる求人を逃したことがあります。
応募して合格しても、条件が気に入らなければ断ればよいだけです。採用試験は、「企業があなたを選ぶと同時に、あなたが企業を選んでいる」という意識をもって自信を持って転職活動を進めてください。
さて、インフラ系企業そのものが狙い目ですが、上述の通り難易度が高いです。そこで、インフラ系企業のグループ企業を狙うのも良い方法です。例えば、下に示す新生テクノス株式会社の求人が該当します。
新生テクノス社は、JR東海の子会社です。東京都に本社を置いていますが、関東圏だけでなく東海道新幹線沿線の鉄道関連施設の工事を中心に事業展開しています。近年では、一般電気設備の工事・メンテナンスにも事業拡大しています。
この求人票の募集要項の欄には、下図のように正社員を募集していることが示されています。
インフラ系企業はネームバリューがあります。しかし、グループ企業になると知らない人も多いです。あなたは、新生テクノス社が東海旅客鉄道株式会社(JR東海)のグループ企業だと知っていましたか? あなたは知っていたとしても、身近な人は知っているでしょうか? 親会社の知名度に比べて、かなり知名度が劣るのではないでしょうか。
知名度が劣るということは、競争する相手が減るということです。私は鉄道会社に電気技術者として勤めていました。鉄道会社本体で、中途採用で転職してくる人はほとんどいませんでした。しかし、グループの電気工事会社では、中途採用の人が何人もいました。知名度が低いため、「採用予定数に対して、応募者が全く足りない」と採用担当者が愚痴をこぼしていたのを覚えています。
このような、インフラ系企業のグループ会社を狙えば、正社員で採用される可能性が高くなります。
インフラ系職種の正社員求人を狙う
ここまでは、企業の業種に絞って転職の戦略を紹介してきました。ここからは、「職種」に注目して転職の戦略を考えていきます。
職種というのは、会社ではなく、あなたが働くときの仕事の種類です。例えば、製造業だと「製造職」「開発職」「設計職」「研究職」「生産技術職」「生産管理職」などがあります。
これらの職種は、働き方が製品の売れ具合に大きく左右される職種です。したがって、前章で述べたように企業は正社員で雇うことに対して消極的です。
私の友人が電機メーカーで自動車部品の開発職として働いていました。彼に話を聞くと、部署で社員は一握りで、ほとんどが派遣社員か契約社員だということでした。
一方、製品を製造する工場や研究開発拠点の建物は簡単になくなりません。特に下の写真のような大規模な工場になると、特別高圧で受電するなど技術力を持った電気技術者が必須です。ちなみに下の写真の工場は、77kVで受電しています。
実際の求人を確認してみましょう。下の求人は、化学系グローバルニッチ企業のKHネオケム株式会社の求人です。KHネオケム社は、千葉県と三重県に生産拠点を持っています。この求人では、三重県の工場で電気設備保全をする正社員を募集しています。
このような職種は、「電気設備管理」「電気設備保全」「ユーティリティ」「ファシリティ」などのキーワードが入った求人で募集される職種です。求人を探すときは、これらのキーワードでヒットするか検索すると良いです。
なお、本業がインフラ企業でない会社が、自社でインフラ職種を雇用するのではなく、他社に外部委託することがあります。このような職種を、「施設管理」「ビルメンテナンス(ビルメン)」と呼びます。求人検索するときは、合わせてこれらのキーワードも検索すると優れた求人を見つけやすくなります。
設備管理・設備保全の仕事は、そのほかの電気の仕事に比べて難易度が高くありません。私は鉄道会社で入社後すぐに配属されたのが、設備管理・設備保全の仕事です。新入社員でも1〜2年で戦力になる職種であり、未経験中途でも比較的採用されやすい職種です。
電気工事士免許を持っているといって電気工事の求人にこだわる必要なし
転職において資格を活かしたいというのは、多くの人が考えることです。電気の国家資格としてポピュラーなものに、電気工事士資格があります。電気工事士資格を持っているから、電気工事会社の正社員求人を探してきた人もいるのではないでしょうか?
しかし、電気工事士資格を持っているからといって、電気工事会社ばかりを探していたのでは優れた求人に出会う確率が低くなります。電気工事士資格が活かせる職種は、電気工事だけではないからです。
例えば、電気設備をメンテナンスする会社では、電気工事士の有資格者が重宝されます。なぜなら、簡易な電気工事をすることがあるからです。実際に水道関係の電気設備保全を行うメタウォーターサービス株式会社の求人の求める方の欄には、「第二種電気工事士」が歓迎条件となっています。
メタウォーターサービス社のこの求人も、下に示すように正社員の求人でした。
実際、私が勤めていた鉄道会社の電気保全の職場に、電気工事士としての経験がある人が中途採用で入社してきたことがあります。彼は、抜群に電気工事が上手かったので、すぐに職場で頼りにされていました。
設備管理以外の職種では、業務用電気機械器具の製造職・設計職などで電気工事士資格が活かせます。下に示す、新生電機株式会社の求人では、電気工事士資格が条件に記載されています。
新星電気株式会社は、需要家が電気を受電する、配電する盤の設計・製造を行っています。新星電機社は、愛知県名古屋市に拠点をおいている会社です。
下の図のように、盤設計をする正社員を募集しています。
この求人は、いわゆる「盤屋」の求人です。業務用電気機械器具は、ユーザーの要求仕様に合わせてオーダーメイドで製品を作ります。これには「制御盤」「操作盤」といった電気配線をともなう機器がついてくることが多いです。
下の図が制御盤の中の写真です。リレーにたくさんの配線が接続されており、この配線取り回しや接続に電気工事士としてのスキルが活かせます。
製品の電気配線自体に電気工事士資格は不要ですが、資格が必要な電気工事と類似する作業も多いので電気工事士資格が活かせます。また、客先で盤据付・試験をするとき、配線のつなぎこみなど電気工事士資格が必要な場面もあります。
私はかつて「盤屋」の採用試験を受けたことがあります。そのときに電気工事士資格について確認したところ、「(電気工事士資格が)なくても問題ない。しかし、あればなお良い」という回答でした。
以上の職種をあわせて探すと、あなたが望む優れた求人を見つけやすくなります。
給料・年収の考え方
最後に、給料や年収について解説します。ここまで紹介してきた求人の提示年収を確認しながら解説していきます。
まず、冒頭で紹介した関西電力の年収は、下図のように400~800万円と記載されていました。
同様に、ここで紹介した求人の提示年収をまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
関西電力(株) | 400~800 | 電気業 |
新生テクノス(株) | 350~750 | 設備工事業(鉄道業) |
KHネオケム(株) | 503~712 | 製造業(石油・石炭製品) |
メタウォーターサービス(株) | 313~450 | その他の事業サービス業 |
新星電機(株) | 336~464 ※求人は月給表示(16ヶ月分として計算) |
製造業(電気機械器具) |
個々の求人の提示年収は様々です。しかし、業種ごとの年収は厚生労働省が毎年発表している賃金構造基本統計調査を見れば傾向がつかめます。
下に、ここで解説したインフラ系の業種とインフラ系の電気技術職種がある業種の平均年収を示します。グラフ中、青色で示したのが製造業です。工場などのファシリティ部門で求人が出やすいです。緑色で示したのが非製造業です。
引用 : 賃金構造基本統計調査(厚生労働省)より抜粋してグラフ化
このグラフの左側、平均年収が高い業種のほうが、同じ職種でも高い年収を得やすくなります。年収にこだわった転職活動を進めるなら、この統計結果が参考になります。
コスト部門は低く押さえがち
一方、電気系技術職の年収について注意点があります。特に、ここで紹介したインフラ系職種に言えることです。
設備管理職などのインフラ系職種は、仕事自体が利益を生まないコスト部門であることが多いです。つまり、会社側としては、できるだけ給料を支払いたくない職種です。
私が勤めていた鉄道会社を例に出します。鉄道会社の利益を生む職種は、駅営業職や運転士など乗務員職です。私が所属していた電気設備管理職は、正常に動いて当たり前で、修繕にお金のかかるコストセンターでした。乗務員は労働時間が短く、手当がたくさん設定してあるなど、待遇も手厚かったです。電気設備管理職は発言力も弱く、肩身の狭い思いをしていたのを覚えています。
このように、コスト部門で働くなら、手厚い待遇やインセンティブなどの給料プラスアルファは期待しないほうがよいです。
正社員の電気工事士は低め
最後に、電気工事士の正社員の年収について解説します。
WEB検索すると、「電気工事士で1,000万円の年収を手にした」というような記述を見かけます。しかし、これは電気工事会社を起こした社長の話です。雇われて働く電気工事士で、年収1,000万円は夢の話です。
これには、具体的な証拠があります。先ほど紹介した賃金構造基本統計調査には、電気工事士の年収区分別の人数がまとめられています。下のグラフが、電気工事士(電気工)の年収区分別人数グラフです。
引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このグラフは、企業に勤める電気工事士の年収を集計したものです。電気工事会社の経営者の年収は含まれていません。このグラフによると、年収800万円を超える電工は存在していないのがわかります。電気工事士の年収のボリュームゾーンは、200~400万円です。ちなみに全産業の平均年収は500万円です。
このような結果になっているのは、電気工事士は主に中小企業で働いているということが理由です。
電気工事士の一日あたりの単価は「○万円」というように決められています。大企業になると管理費が増えるため、電気工事士ではなく電気工事施工管理職でないと採算が合わなくなります。
したがって、電気工事士が仕事として成立するのは、中小企業が中心です。中小企業は扱う工事単価が安くなりがちなので、電気工事士の年収も高くなりません。
以上は、「電気工事士として働く」場合の話です。「電気工事士資格を活用して、電気工事士以外の職種で働く」場合は、先に書いた業種・職種ごとの平均年収が参考になります。電気工事士の年収については、特に注意して転職活動を進める必要があります。
まとめ
電気系技術職・電気工事士として正社員を目指す転職活動について、詳しく解説してきました。
電気系の正社員を目指すなら、インフラ系業種を目指すか、インフラ系職種を目指すのがセオリーです。会社や部門で売上の波が小さい、景気変動の影響を受けにくい業種・職種を探してください。
電気工事士として正社員を目指す場合は、電気工事以外にも目を向けると求人の選択肢が増えます。盤屋など、電気工事士のスキルが活かせる職種は多いです。「電気工事士≠電気工事をする」と知っていると、それだけで転職成功しやすくなります。
電気系の正社員の年収は、政府統計を参考にすると、高年収の会社にアプローチしやすくなります。その結果、高年収を得やすくなります。ただし、応募する会社がコストセンターの人員を募集している場合は、年収交渉で高年収を得ることは期待しにくいです。また、雇われた電気工事士はそもそも年収が低い職種です。
以上に留意して転職活動を進めることで、電気系の正社員転職を実現しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。