エアコンは、もはや一般家庭にもなくてはならないものになりました。また、年々省電力性能が向上しており、買い替え需要も続いている状況です。引越しでエアコンを撤去・移設するときにも活躍するエアコンの取付工事は、まだまだなくなることのない仕事です。
また、エアコンの取付工事は管工事と呼ばれる分野に入りますが、動力は電力であることがほとんどで、ほぼ間違いなく電気工事が付帯します。つまり電気工事ができる人材は、エアコン取り付けの仕事には欠かせない人材です。
しかし、エアコン取付工事と言っても、家庭用と業務用で仕事の進め方が大きく違います。あなたが、どのような働き方をしたいのかをはっきりさせないまま転職活動をして採用されたとしても、満足できる転職にはなりません。
満足できる転職を叶えるためには、エアコンの取付工事の求人で、どのような人材を募集し、どのような働き方ができるのかを十分に把握する必要があります。
ここでは、エアコンの取付工事を行う求人例を示しながら、「働き方の特徴」「必要なスキル・資格」「年収例」について、くわしく説明します。
もくじ
エアコンが家庭向けか法人向けかで空調工事の方法が異なる
エアコン・空調の取付工事の求人を探すとき、大きく分けて2つの分野があります。それぞれ、家庭向けエアコンを施工する場合と、商業施設やビルディングなど業務用の大規模な空調設備工事の場合です。
それぞれ特徴があるので、あなたが「どのような働き方をしたいのか」「どのような得意分野があるのか」を十分理解して転職する必要があります。
家庭向けエアコン取り付けの求人例
まず、家庭用のエアコン取付工事の求人について例を示しながら解説します。
家庭用エアコンを取り付ける会社で働く場合は、工事を多数こなして稼ぐスタイルです。客先の一般家庭に出向き、1件あたり1~2時間程度の作業時間で、1日5件程度を施工します。
下図の株式会社e-ロジの求人では、大阪・兵庫を中心としたエアコン取り付けを中心とした業務で2名体制で、1日5件程度をこなしていく仕事と記されています。
エアコン取付工事自体は、管工事といって電気工事が含まれないことがあります。ただし、客先の事情によっては電気工事が必要な場合があります。
また、工事施工の腕次第で施工数が大きく違ってくるため、歩合制を挙げる会社もあります。例えば、下図の株式会社カインドテックの求人が歩合制を採用しています。カインドテック社は、栃木県宇都宮市を中心に事業展開しています。
実は、エアコン取付工事は一般の電気工事より実入りの良い仕事です。知り合いの電気屋さんに訊いてみると、「簡単な仕事の割に単価が高い」と教えてくれました。
試算してみると、エアコン取り付けの標準工事費を15,000円として、日に5件施工すると75,000円です。1人で施工すると、半分を会社の経費や非現業部門に充てたとして、取り分は37,500円です。そして、2人だと18,750円です。
一般電気工事は、1日の単価が約20,000円で電気工事士の取り分は約半分の10,000円であることを考えると、エアコン取り付け工事がいかに儲かるかわかると思います。
その上、エアコン取付工事は似たような工事を続けざまに何件も施工します。一般電気工事が様々な工種をたくさんこなすのと反対に、同じ工種を何度も行う施工スタイルです。
つまり、工事に熟練する期間が短くなりやすいです。そして、工事に熟練すれば施工時間も短くなり、大きく稼げる可能性が高まります。
一方注意点は、一般家庭の客先に伺って仕事をするので、お客様とうまくコミュニケーションをとる必要があることです。さらに繁忙期は7月頃の酷暑期で、体調管理も自分で行わなければなりません。
引用 : 一般社団法人日本冷凍空調工業会 家庭用エアコン国内出荷実績をグラフ化
我が家のエアコンを設置してくれたときは7月の終わりで、取り付け位置が難しかったのもあり、休憩しつつ2時間以上かかりました。またこのときは1人での施工だったこともあり、終わったときにはかなり疲弊していたようでした。
もう一つ注意点を挙げると、エアコンの取付工事ばかりを実施しているわけではないということです。上で書いたとおり、エアコンの取付工事の繁忙期は7月頃です。それ以外はエアコン取り付け以外の仕事もする必要があります。
ここで紹介したe-ロジ社とカインドテック社の両方の求人に、リフォーム、照明、防犯カメラの取付工事(電気工事)が記載されています。
以上のことから、あなたが自分の手を動かして施工することが得意で、お客様の相手も苦にならないなら、家庭用エアコンの工事が向いている仕事といえます。そして、現場での仕事は1人または少人数での仕事なので、あなたの裁量と責任が大きい仕事ともいえます。
また、エアコン工事の閑散期には、エアコン工事以外の電気工事もする必要があることを理解しておきましょう。
家庭用エアコンの取付工事の会社に転職するときは、これらのことを十分に理解して転職する必要があります。
法人向けは施工管理の仕事が選択肢になる
一方、法人向けのエアコン取付工事は、チームワークになります。例えば、下の写真は、集合住宅の新設でエアコンを取り付けている途中の様子です。
一般家庭なら1部屋ずつ完成させて施工していくところです。しかし、写真では配管・配線が施工途中で仮置されています。これは、配管屋、配線屋が施工したあと、集中して機器を設置する手順のためです。
多数のエアコンを設置する場合は、このような手順で施工したほうが、効率が良く、機器の痛みも少ないため、このような手順を採用します。
一方、下の写真は業務用の大型空調機が設置されている様子です。
このような大型空調を設置する場合は、もちろん一人で持ち上げて設置することはできません。複数人で持ち上げるか、必要により重機を使って作業します。
また、この場所は天井ボードを設置していませんが、オフィスなどでは多くの場合化粧用の天井ボードを設置します。そして、天井ボードの施工と空調工事は別の作業班が行います。
このように、業務用空調機の施工は、多くの作業員が協力しながら作業することになります。つまり、家庭用エアコンの工事より分業して作業することが多く、施工管理という仕事が別に増えます。
例えば、下図の株式会社ヨコレイの求人を見ると、職種は電気工事士と謳っているものの、仕事の内容は空調設備の施工管理職を募集しています。ヨコレイ社は神奈川県を地盤に事業展開している会社です。
この求人の仕事内容の欄を見ると、「予算管理」「工程の管理」「安全管理」「お客様や協力会社との打ち合わせ」が項目として挙げられています。これらの業務は、施工管理の仕事の主なものです。
施工管理職の仕事を簡単に言うと、複数人の作業における指揮采配役です。一つの作業をするときに、下の図のように人数が5倍になったからと言ってできる仕事が5倍になることはありません。
私は5~6人の作業班のリーダーとして作業指示をすることが、これまでの職歴で何度もありました。そのときの経験からいっても、うまく指示を出さないと作業班の人数が増えれば増えるほど仕事の進み具合が遅くなります。
それは、リーダーと作業員の間で、指示の「言い間違い」「勘違い」「思い違い」などがあるからです。このような指示伝達の不良があると、作業は遅れ、品質は落ち、不安全になります。そして手直し・材料の無駄による追加費用が発生します。
大きな仕事をしようとすると、複数人で作業することは避けられません。そこで、施工管理職を置くことで「安全」「品質」「工期」「予算」を適切に管理します。このように業務用空調機の取付工事のように必ず複数人で行うような仕事だと、施工管理職の求人が多くなります。
もう一件、産業用空調の施工管理職の求人で、パナソニック環境エンジニアリング株式会社の求人を下に示します。パナソニック環境エンジニアリング社は大阪に本社を置いていますが、この求人は福岡の九州営業所で働く人材を募集しています。
この求人も施工管理が主な業務なので、実際に手を動かして工事をすることは少ないです。あくまで、たくさんの作業員が統率されて作業できるように指揮を取るのが仕事です。
なお、パナソニック環境エンジニアリング社の空調は、部屋を冷暖房する設備ではなくて、集塵・排ガス処理といった特殊な空調設備です。製造業におけるクリーンルームや公害防止、公共設備におけるトンネル用換気ファンなど、社会を支える空調設備を提供しています。
実は鉄道会社勤務時代に、パナソニック環境エンジニアリング社のトンネル用換気ファンを施工している部門から出向してきた人と一緒に仕事をしていた時期があります。鉄道用の電気掲示器(駅ホームで時刻を表示する電光掲示板)を扱う部門に異動してから、出向してきたということでした。
まだ私が入社して5年目くらいで、世の中の仕組みをよくわかっていないころに1年間一緒に仕事をしました。今思えば、グループ作業で事前に丁寧な手順書を作って指示しリーダーシップのある仕事ぶりは、施工管理をしていたからと推測できます。
以上のように、法人向けの業務用空調を扱う会社に転職を考えるときには、施工管理ができることを求められやすいです。したがって、書類仕事もこなさなければならないので、実施工だけしたい人に向きません。
またチームワークで仕事をするので、一人が頭抜けた施工技術を持っていることはあまり求められません。それよりも、腕はそこそこでも全体と協調して仕事を進められることが求められます。
なお、業務エアコンの出荷台数は下のグラフのとおりです。
引用 : 一般社団法人日本冷凍空調工業会 業務用エアコン国内出荷実績をグラフ化
家庭用エアコンの出荷台数は、最も多い時期と最も少ない時期で3倍ほどの差がありました。一方業務エアコンの出荷台数は、1.5倍ほどの季節変動しかありません。
また、家庭用エアコンはほとんど1日の工期で施工するのに比べて、業務用エアコンは規模により数週間程度の工期があるのが普通です。したがって、繁忙期と閑散期の落差はあまりありません。一年を通して、エアコン取り付けの仕事があると考えてください。
法人向けの業務用エアコン・空調を施工する会社に転職するときには、このようなことに注意しておく必要があります。
エアコン取付工事には電気工事士資格が必要な場合がある
では、エアコン取付工事に必要な資格は具体的にどのような資格でしょうか。
まず、エアコン取付工事は数をこなす業務スタイルのため、どのような場合でも対応できる電気工事士の有資格者は優遇されます。
e-ロジ社では、電気工事士の有資格者には資格手当が支払われることを求人票に明記しています。社内で必要としているため資格手当が支払われるのであって、入社時に電気工事士資格を持っているのなら大いにアピールできます。
なお、平成18年に家庭向けエアコン取付工事で、電気工事士資格が必要にも関わらず無資格者が20,000件以上の施工をするという大規模な不正が起きました。これを受けて、経済産業省が電気工事士資格の必要なエアコン取り付け作業を明確化しました。
下図がエアコン設置工事における、電気工事士資格が必要な電気工事の範囲を示した図です。橙色の部分が代表的な例です。エアコンコンセント増設・設置や内外配線で電気工事士資格が必要となる場合があります。
これにより、エアコン取り付け工事を施工している事業者は、施工者の資格管理について厳しく実施することを求められるようになりました。したがって、電気工事士資格を取得しているということが、以前より採用に結びつきやすくなっています。
ちなみに、エアコン設置工事なら低圧電源なので第二種電気工事士資格があれば十分です。
一方、カインドテック社は、下図のように第一種または第二種電気工事士資格を歓迎条件としています。
第一種電気工事士資格も条件に入っているのは、下図の通り第一種電気工事士資格があれば第二種電気工事士資格で扱える範囲も施工できるのが理由の一つです。
また、カインドテック社は一般用電気工作物の範囲だけでなく、自家用電気工作物の範囲の低圧で動くエアコンの取り付けも施工しています。
自家用電気工作物の低圧部分は、第一種電気工事士資格が必要です。しかし、第二種電気工事士を持っていれば、講習で取得できる認定電気工事従事者資格を補修していても施工できます。
したがって、低圧で動くエアコン取付工事が主たる業務であっても、「第一種または第二種電気工事士資格歓迎」という記載になっていると考えられます。
以上のように、エアコンの取り付けを実施工する職種だと、電気工事士資格があると歓迎されることが多いです。すでに取得しているのなら、大いにアピールすることで採用されやすくなります。
サブコンなら電気工事施工管理技士資格が活かせる
一方、施工管理として仕事をする場合には、施工管理技士資格が歓迎・優遇されやすいです。例えば、パナソニック環境エンジニアリング社の求人だと、下図のように「電気工事施工管理技士」「建築工事施工管理技士」資格が歓迎条件になっています。
施工管理の仕事自体は施工管理技士資格がなくてもできます。しかし、受注規模により施工管理を行う従業員の内、何人かは施工管理技士資格を持った人材を配置することが法令によって定められています。
したがって、会社としては施工管理技士の有資格者は絶対に必要な人材です。この資格も、あなたがすでに取得しているならアピールポイントになります。
また、電気工事士資格も歓迎されている場合があります。先に紹介したヨコレイ社の求人には、電気工事施工管理技士資格と一緒に、電気工事士資格を持っていることが歓迎条件に挙げられています。
これは、実際に電気工事を行うことがあるからです。サブコンで施工管理として長らく働いている知人に、現場で必要な資格について訊いたことがあります。そのとき、教えてくれた内容は下のとおりです。
施工管理の社員は、基本的には作業に手を出さない。しかし、電気工事の本作業を補助することはあるし、本作業をする職人が来る前に仮設や準備作業として電気工事をすることもある。
したがって、電気工事士資格を持っていないと仕事の進み具合に影響がある。 資格は、電気工事士資格のような取得しやすい資格から取得し、経験を積んで施工管理技士資格を取得することが多い。 |
このように、施工管理といえども電気工事士資格があることが望ましいことがわかります。
また、電気工事士資格を取得していると、電気工事施工管理技士資格の取得要件が緩和されます。下図が、電気工事施工管理技士資格の取得フローです。
施工管理技士になるには、筆記試験に合格することと実務経験が必要です。注意しないといけないのは、大卒と言っても電気系の学科を卒業していないと実務経験は3年にならないということです。
その場合、先に電気工事士資格を取得すると、電気工事施工管理技士資格取得までの年数を短くすることができます。
施工管理を仕事で行う以上、いずれ施工管理技士資格を取得することは求められます。したがって、電気工事士資格を持っていると施工管理技士資格も取得しやすくなるという点で、歓迎される条件となっています。
以上のように、職種によって求めている資格と理由は違います。これらを理解した上で、あなたが持っている資格をアピールすると転職成功しやすくなります。
エアコンの電気工事の年収を知る
最後に、エアコン電気工事の会社に転職した場合の年収について解説します。
冒頭に紹介したe-ロジ社の年収は、下図のように初年度想定額として390~430万円が提示されています。
同様に、ここで紹介した会社の求人票に提示されている年収をまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 職種 |
---|---|---|
(株)e-ロジ | 390~430 | 工事施工 |
(株)カインドテック | 350~600+歩合給 | 工事施工 |
(株)ヨコレイ | 300~700 | 施工管理 |
パナソニック環境エンジニアリング(株) | 400~800 | 施工管理 |
エアコンのような電気設備を取り付ける業界は、建設業のうち設備工事業に分類されます。設備工事業の平均年収が約563万円なので、e-ロジ社は少し低いものの、ほか3社は平均的といえます。
ただし、上下の振れ幅が大きいので、実際に年収の提示を受けたときには妥当かどうかを判断しなければなりません。
そのようなときは、厚生労働省が賃金構造基本統計調査を公表しているので参考にすると良いです。下のグラフが、建設業(設備工事)を送ります。の年齢別平均年収をグラフ化したものです。
引用 : 引用 : 平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このグラフには、年齢と年収額が示されています。あなたの年齢を勘案した上で、提示金額とグラフの金額を比較すると妥当かどうか判断することができます。
あまりにグラフの平均年収と乖離する年収を提示されたら、理由を訊くことが大切です。直接訊くことが難しいなら、転職エージェントを通して訊くこともできます。そうすることによって、年収面での転職失敗を防ぐことができます。
まとめ
ここまで、エアコンの電気工事の求人について解説してきました。
エアコンの電気工事を施工する会社に転職するとき、大きく2つの分野があります。家庭用エアコンを主に扱う会社と、業務用エアコンを主に扱う会社です。
前者は、実際に手を動かして施工することを求められ、電気工事士資格が活かしやすいです。後者は、施工管理などまわりと協調して仕事をしていくことが求められ、施工管理技士資格があると活用することができます。
それぞれ仕事の進め方に特徴があるので、あなたが働きやすいと考える方を選ぶことが大切です。特徴を十分理解して転職することで、ミスマッチを極限まで減らすことができます。
エアコンの電気工事の会社が提示する年収は、平均的であることが多いです。ただし、あなたが提示を受けた年収が妥当かどうかは慎重に判断する必要があります。
政府統計に年齢別で設備工事業の平均年収を示したものがあるので、あなたの年齢を勘案して提示年収と比べると良いです。そうすることによって、年収面で失敗することを防ぐことができます。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。