電気工事士として働いていて、給料が安いことに不満はありませんか? 電気工事士資格は国家資格で、需要が高いにもかかわらずなぜ安い賃金なのでしょうか?
これは、電気工事費を決める仕組みに原因があります。あなたの給料が安すぎるなら、間違った仕事を選んでいる可能性があります。戦略的に電気工事士の仕事を選ぶことで、年収アップを狙うことはできます。
ただ、電気工事士の枠で考える以上、極端に高い年収を狙うことはできません。電気工事士の年収の実態を知り、上位2割程度の年収を得られるような転職を考えるのが現実的です。
ここでは、「電気工事士の年収の実態と給料の決定方法」「電気工事士の上位年収例」「転職成功率を高める方法」について解説します。
もくじ
電気工事士の給料の決定方法を知る
高収入・高年収の求人を探すなら、電気工事士の給料・年収がどのくらいなのか相場を知っておきましょう。
電気工事士の給料・年収は、厚生労働省が調査発表している、賃金構造基本統計調査を見ればよいです。この統計調査では、電気工事士の賃金として「電工」の項目を設けて公表しています。下図は、公表されたデータをグラフ化したものです。
引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このように、電気工の年収は400万円以下が9割を占めます。お世辞にも儲かる仕事とはいえません。
また女性の電気工の数は少ないですが、男性と同じ分布です。ちなみにグラフでは800万円以上としてまとめていますが、年収1000万円以上は0でした。
電気工事士として働く求人では、400万円を超える年収だと高い部類になることを理解しましょう。
では、なぜこの程度の年収になるのでしょうか。これは、電気工事士が施工する工事費の算出方法が決められているからです。
電気工事は、基本的に全てオーダーメイドです。したがって、個々の工事の適正価格を見積もるために「積算」を行います。この積算は、国土交通省が基準を作成して公表しています。
公共工事は、この基準をもとに工事費を算出します。また、民間工事であっても、この基準を参考に工事費を見積もります。
そのときに使う、電工一人が一日(8時間)働いたときの単価が約2万円です。これは、20代でも40代でも年齢は関係なく、一律で決まっています。例えば、電工30人で10日かかる作業だと、300万円を基本に経費や材料費を足して、総工事費を出します。
そして、電工の単価は都道府県ごとに違います。東京都が一番高く、沖縄県が一番安いです。これは、「建設物価」「積算資料」といった毎月刊行される雑誌を見ると知ることができます。
下の写真は、建設物価の当該のページです。これを見ると、関西圏(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良)の電工単価が20,000円前後であることがわかります。
これは公共工事の単価なので、民間工事で使われる単価は更に高くなります。知り合いの電気工事会社の社長に話を聞くと、民間では1.5~2倍の単価で工事費を出さないと赤字が出るということでした。
では、この金額の内どれくらいが実際に施工する電気工事士に支払われるのでしょうか。もちろん、この全額が電気工事士に支払われるわけではありません。実は、電気工事士が会社に属している場合、約半分が会社の取り分です。
わかりやすいのが、下の求人です。これは、フリーの求人誌に載っていた電気工事士募集の求人です。日払いで、8,000~15,000円が提示されているのがわかります。
なお、求人票には月に25日働くとあるので、休みは日曜日だけです。提示された条件で年収を計算すると、下表のようになります。年収は、日給×25日×12ヶ月で計算しました。
経験区分 | 想定年収[万円] |
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未経験者(見習い) | 240 |
経験者(最低額) | 360 |
経験者(最高額) | 450 |
このように、年収は240~450万円となり、冒頭で示した年収分布グラフのボリュームゾーンと一致します。この求人のような募集は、電気工事士の募集として珍しいものではありません。一般的な電気工事の施工業者なら、このような求人を出しています。
つまり、電気工事士として高年収を目指すには、一般的な電気工事を施工する仕事に就いていては無理です。戦略的に求人を探していかなければ、電気工事士として高収入を得ることは難しいです。
転職で高収入を目指すにはオンリーワン企業を狙う
では、どのような企業を探していけばよいのでしょうか。実は、積算基準に例外事項があり、積算単価の高い職種があります。
私が積算をしていたときには、電工単価の3倍以上の単価で積算していた職種があります。それは、「技術者」「技術員」です。
これは、一般的な「エンジニア」としての意味ではなくて、国土交通省が積算基準の中で使う用語です。それぞれ、下記のように定められています。
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引用 : 土木工事標準積算基準書(電気通信編)等の運用(国土交通省 大臣官房 技術調査課 電気通信室)より一部抜粋
公の資料なので分かりにくく書かれていますが、簡単に言うと「その会社のほかに、工事を依頼できる会社がなければ技術者・技術員」です。
これは、日本全国という意味ではありません。工事発注する予定の地区周辺に限って、工事能力を持った業者が1社しかいないという場合は、技術者・技術員で積算することになります。交通費や宿泊費を勘定すると、遠くの業者だと総工事費が高くなるからです。
例えば、配電盤の設置・配線・改良などは、技術者・員で積算することが多いです。日本中に配電盤を扱える業者はいくらでもありますが、特定のメーカーに限ると県に2~3社しかないことはよくあります。
この積算基準は公共工事のものですが、大手サブコンに勤めている知り合いに訊くと、民間工事も基本的に考え方は同じです。
つまり、地域でオンリーワンの技術を持った企業を狙うと、電工単価に縛られない年収アップを実現しやすくなります。
プラントの電気工事
では、実際に求人例を見ていきましょう。
最初に挙げるのは、福島県南相馬市の株式会社共栄工業の求人です。電気工事士として500~800万円の年収が提示されているのがわかります。
協栄工業社は、エネルギープラントに特化した企業です。エネルギープラントは、社会インフラとして計画的に動き続けることが求められるプラントです。
私は、現在電力プラントに勤める中で、プラントの動作信頼性について、いつも強く意識しながら仕事をしています。もちろん、工事会社にも同じ意識・技術を求めます。
そして、発注側が求める意識・技術力を持った施工会社はある程度決まっています。また、地域でも数が限られてくるので、繁忙期になると需要が極端に高まり、高い単価で施工をお願いすることになります。
つまり、電気工事士の側から考えると高い給料を得やすくなるといえます。
また、プラントで働くには第一種電気工事士資格があると有利です。協栄工業社の求人では、第2種電気工事士資格が必要条件、第1種電気工事士資格が歓迎条件とされています。
プラントに設置されているのは自家用電気工作物なので、電気工事をするためには第一種電気工事士資格が必要です。ただし、自家用電気工作物の低圧部分については認定電気工事従事者資格で施工できます。
認定電気工事従者資格は講習で取得できますが、その受講要件に第2種電気工事士資格を保有していることがあります。したがって、第2種電気工事士資格を持っていることが必須条件になっていると考えられます。
また、この求人票には、電気工事施工管理技士(1級・2級)も条件に入っています。これは、施工管理を本格的にするなら必要な資格です。ただ、施工管理に職種を変えると電気の職人仕事をする量が減り、書類仕事が増えます。
電気工事士にこだわるなら、施工管理は選択肢にならないことを覚えておくと良いです。
もう一社、プラント関係に強い企業を紹介します。下図に示すのが、神奈川県中心に事業を展開している株式会社JRCの求人です。この求人では、450~600万円の年収が提示されています。
JRC社は、エネルギー関係だけでなく、プラントの計装や通信に関わる施工を得意としています。神奈川県のプラントや通信事業者からの引き合いが強く、電工の平均年収より高めの金額が提示されています。
JRC社の求人では、必須条件としているのが、工事経験があることと普通自動車免許を持っていることだけです。学歴不問なので、高卒でも大卒でも問題ありません。入社してから必要な資格を取得させる方針の会社です。
ただ、歓迎条件として第二種電気工事士資格が挙げられています。あなたが、すでに第二種電気工事士資格を持っているのなら、採用試験で有利な条件を引き出すこともできます。
このように、まずはプラントなどに独占的に入っている電気工事会社を探してみると、高年収を提示されやすいです。
通信工事の負荷価値としての電気工事
先程のJRC社にも通じることですが、電気工事だけでなく通信工事ができると会社の強みになります。なぜなら、近年は電力だけ送っていれば十分という状況ではなくなっているからです。
例えば、プラントであれば発・送電状態を遠隔で監視・制御するには通信の技術は不可欠です。また、ビル単位の省エネを実施するにも、空調機などを緻密に制御するため、多くの地点の温度監視のために通信は用いられています。
そして通信設備を動かすためには電力が必要なので、通信工事技術と電気工事技術を持っていると重宝されます。
なぜか理由はわかりませんが、私が勤めてきた鉄道会社でも電力プラントでもどちらかに特化した社員は多いです。しかし、両方できる人は少ないし、やろうとする人も少ないです。
これらは同じ電気技術なので、極端に違うことはありません。したがって、電気工事だけを突き詰めるより、容易に地域を独占する技術者になることができます。
そのような会社の例が、下図の東京都に本社を置く京三電設株式会社です。この求人では、350~650万円の年収が提示されています。
京三電設社は鉄道や道路信号保安設備の国内大手です。全国に事業展開をしており、転轍機や踏切遮断機などを扱っているので、あなたも普段見たことがあるのではないでしょうか。
信号保安設備は、列車の安全運行や人命に関わるため、新規に事業者が参入するのを嫌がる設備です。また、鉄道会社からの要求水準が高く、それに応えられる事業者は国内でもわずかしかありません。
したがって、全国の鉄道事業者の多くが京三電設社の製品を使っています。そして、鉄道信号設備は買ったら据え付け調整までメーカーが行うことが多いです。つまり、ここに電気工事士が求められます。
また、信号設備は単体で使うものではなく、多数の機器とネットワークを作ってシステムとして使われます。他の機器との接続には通信技術が使われます。
例えば、分岐器の開方向は遠く離れた指令所に情報として送られ、指令所の指示(操作)により開方向を変更します。これらはすべて通信によって実現される動作です。
通信も電気によって行われるます。そのため、通信工事と電気工事では基礎理論の考え方はほぼ同じです。ただ、電気の利用の仕方が違うので、通信工事のテクニックは電気工事とは若干違ったものになります。したがって、通信技術を理解して通信工事できる能力があると重宝されます。
以上のように、電気工事だけに絞るのではなくて通信工事も施工している会社を選択肢に入れると、高年収を得られる可能性が高まります。
転職サイトを活用し高年収の求人を探す
最後に、ここで紹介したような求人をどのように探せばよいかを解説します。
では、求人を探す方法は、どのような方法があるでしょうか? ハローワーク、求人誌、転職サイト、ヘッドハンティング、コネなど様々な方法があります。
このうち、ヘッドハンティングやコネは運の要素が強いので説明を省きます。
残った3つの選択肢の内、最も優れた求人を見つけやすいのはどの方法でしょうか。それは、転職サイトを使う方法です。なぜなら、構造的に優れた企業が求人を出している可能性が高いからです。
転職サイトの仕組みは、下図のように求職者と企業との間を転職サイト・エージェントが仲介する仕組みになっています。
転職エージェントは、求職者が企業に従業員として採用されたとき、企業から報酬をもらいます。この金額は、求職者が採用されたときの年収の2~3割程度と言われています。
私が30代で転職したとき、この成功報酬について転職エージェントに直接訊いたことがあります。具体的な数字は教えてくれませんでしたが、「エージェント一人が1ヶ月に1~2人の転職を成功させれば十分だ」とは教えてくれました。
つまり、全産業の平均年収が約500万円なので、1ヶ月あたり100~300万円の売上を出せばよいということになります。反対に考えると、企業は一人を採用するのに平均で100~150万円の経費がかかるということです。
したがって、転職サイトでエージェントから紹介されるような企業は、人材の採用のために100万円単位で経費を使える財務基盤がある企業といえます。財務基盤があるということは、社員に対してより高い給料を払っている可能性が高いです。
一方、ハローワークに企業が求人を出すのにかかる費用はほぼ0です。また、フリーの求人誌に掲載する料金は1万数千円~十数万円です。転職サイトより、費用が桁違いに安いことがわかります。そのため、ハローワークや求人誌に集まる求人は玉石混交です。
また、ハローワークや求人誌に掲載される求人は、求人票を見た誰でも応募することができます。これは、企業側からすると採用基準に満たない人材の応募にも対応する必要があることを意味します。
転職サイトの場合は、エージェントが先にふるいにかけるため、企業に採用基準に満たない人材が殺到することはありません。したがって、企業はお金を払ってでも採用したい人材を転職サイトで募集します。
特に40歳を超える年齢の場合、直接企業に応募しても、どんなに優れた技能を持っていようが書類選考で落とされることが多々あります。
転職エージェントを通した場合は、このように門前払いを食らうことはまずなく、あなたのキャリアを十分に見極めてくれます。そこからキャリアに適した求人を紹介してくれるので、転職成功しやすくなります。
このような理由から、高年収の優れた求人を探すには、転職サイトを利用するとよいです。
まとめ
企業に属す電気工事士として働いたときの年収は、政府統計によると200~400万円が多数を占めます。400万円を超える年収になれば、電気工事士としては高収入ということをまずは理解した上で、求人を探しましょう。
電気工事士の給料は、工事積算という手順によって基準が決められています。つまり、大多数の200~400万円の年収を超えるには、基準から外れる仕事を考えなくてはいけません。
積算基準で電気工事士単価を使わずに、高額の単価で積算するのは、特別な技術を持った電気技術者です。例えば、プラントには特殊技術が必要な設備がたくさんあるので、プラント電気工事を施工している会社は狙い目です。
また、通信など弱電関係の技術と電気工事の両方の技術を持っている人材は少ないです。したがって、情報通信分野の企業を狙っても年収アップを図りやすいです。
なお、転職の際には転職サイトを使うとよいです。転職サイトには、転職エージェントに成功報酬を払えるだけの財務基盤がしっかりとした企業が多く集まるからです。財務基盤があるということは、より高い給料を払っている可能性があるということです。
また企業側からすると、ある程度年収の高い技術力のある人材は転職サイトで募集する方が、より良い人材を集めやすいです。
このような理由から、電気工事士として高年収を叶えるなら、転職サイトでプラントや情報通信分野の求人を探すと良いです。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。