電気主任技術者試験(電験)は、合格率が10%を切る圧倒的に難易度の高い資格です。あなたはこの難関資格を手にして、これからの待遇改善のために転職しようとしているのではないでしょうか。

確かに、電験有資格者は需要が高く、様々な産業で有資格者が求められています。電験のブランド力は高く、仕事を探すのに困ることはありません。最低限の働き口はあります。

しかし年収アップの待遇改善を求めるならば、漫然と転職活動していたのでは実現は不可能です。これまで経験してきた範囲で転職を考えていたのでは、同じような年収になります。年収アップを望むのであれば、転職活動も戦略的に行う必要があります。

ここでは、電験の種類ごと・経験の有無などによる求人の実態を考察し、どうすれば電験を活かして年収アップを狙いやすいかについて詳述します。

電験三種所持者歓迎の求人は多い

電気主任技術者資格(電験)保有が条件に入っている求人のうち、第三種電気主任技術者(電験三種)歓迎の求人を探すのは簡単です。転職サイトを使って、「電気主任技術者」「第三種電気主任技術者」をキーワードに検索すれば数百件の求人案件が見つかります。ちなみに、「電気主任技術者」で検索すると888件、「第三種電気主任技術者」で検索すると103件ヒットしました。

一見、電験三種有資格者は募集が少ないように感じると思います。しかし次のように考えると、ほとんどの場合が「電気主任技術者を募集=電験三種を募集」と考えることができます。

電験の区分と扱える電圧は下図のとおりで、上位資格で下位資格の範囲も扱えます。

引用:一般財団法人電気技術者試験センターHPの図を参考にして作成

電験一種や電験二種を持っていれば、電験三種が担当できる領域も扱えることから、わざわざ「電験三種」と区切る必要性がありません。したがって、電験三種が必要な職場でも「電気主任技術者募集」と大きく募集しているのです。

電気主任技術者資格は、事業用電気工作物を扱うのに法令によって有資格者の選任が定められている資格です。しかし、検索でヒットする求人を見ると、必ずしも電気主任技術者として選任される求人案件ではないことがわかります。

例えばB-Rサーティワンアイスクリーム株式会社では、静岡県または兵庫県のアイスクリーム工場の設備管理を担当する社員を募集する下記のような求人を出しています。

第三種電気主任技術者の有資格者が歓迎条件とされています。

これは電験が元来の電気保安の技術者を認定するための資格という枠を超えて、電気技術者の技術力を担保するための資格の色合いが強くなっているからです。その中でも、電験3種は電気技術者の登竜門としての位置づけがあり、転職活動においても電気エンジニアとしての実力を期待されます。

また、下のような電気工事会社が電気技術者としての実力を期待される業種の一つです。下の求人は、京都府や滋賀県で電気工事業を展開する晶和電気工業株式会社の求人です。電気工事スタッフ・施工管理の職種で、電験三種取得者を歓迎しています。

電気工事会社は、顧客の電気設備を設計・工事するだけなので電気主任技術者の選任は必要ありません。しかし、この求人のように電験取得者を歓迎するのは、客先の電気主任技術者と同じレベルで技術的な打ち合わせをする必要があるからです。

電験3種募集の求人は、このような求人も探していくと、優れた求人を見つけやすくなります。

電気主任技術者資格必須=主任技術者選任の求人はほとんどない

電験3種で扱える5万V以下の事業用電気工作物は、非常にたくさん設備されています。私の自宅から歩いて5分以内の範囲で、コンビニ、スーパーマーケット、老人ホーム、公民館など身近な設備でも電験3種の有資格者の選任が必要な設備があります。下の写真は最寄りのスーパーマーケットの6.6kV受電設備です。

このように設備はたくさんあるにも関わらず、電気主任技術者に選任することが前提の求人には、なかなか出会うことはありません。

理由として、すでに事業を行っている以上、社内には電気主任技術者が選任されているということが挙げられます。また、スーパーマーケットやコンビニなどでは自社内に電験有資格者を抱えるのではなく、電気保安の仕事自体を外部に委託します。委託先は、電気保安法人です。

電気保安法人の中で有名なのは、「○○電気保安協会」と呼ばれる法人です。

例えば、高圧受電設備保安の委託業務・北海道電力からの調査業務委託業務などを行っている一般財団法人北海道電気保安協会からは、次のような求人が出されています。この求人では、札幌の本部のほか、旭川や函館の支部で働くことになります。

あなたが電験3種で電気主任技術者に選任されたいのなら、このような電気保安法人の求人を探すと見つけやすいです。電気保安法人以外で、電験3種の電気主任技術者選任前提の求人は見つけるのに根気がいることを覚悟しましょう。

認定取得と試験取得で違いはない

電験資格を取って転職に挑むときに、「認定取得」と「試験取得」でどちらが有利・不利と聞いたことがありませんか? 私が鉄道会社に勤めていたときには、以下のようなことがまことしやかに囁かれていました。

  • 認定取得のほうが、実戦経験をたくさん積んできているから転職しやすい
  • 試験取得のほうが、難関試験を突破した優秀さをアピールできるから転職しやすい

あなたはほかにも噂を聞いたことがあるかもしれません。しかし、私が実際に転職してみて、この差を感じたことはありません

実は電験の認定取得か試験取得かは、免状の番号を見るしか確認する方法がありません。下は私の電験免状です。橙色で囲んだアルファベットを確認してください。

このアルファベットは、試験取得すると必ず「E」です。認定取得した場合は、「A~L(ただし、EとIを除く)」が記載されます。ちなみに認定取得のアルファベットは、全国にあるどの産業保安監督部が所管したかにより変化します。

先輩の免状を見せてもらったとき、九州産業保安監督部は「K」で、関東産業保安監督部は「C」でした。つまり、免状番号を確認すると認定取得か試験取得かを知ることができます。

しかし、書類応募や面接の段階で電験の免状を企業に提示することはありません。また、面接時に「電験は試験で取得したのか?」と訊かれることはありました。その結果、受かったときも落ちたときも電験の「試験取得」を理由にされることはありませんでした。

したがって、転職活動において電験の「認定取得」「試験取得」は気にせずに転職活動を進めると良いです。

電験一種・電験二種指定の求人は多くない

電験歓迎の求人が多いと言っても、注意することがあります。それは、電験1種と電験2種取得者を募集している求人案件は多くないということです。

これは単純に、電験1種または電験2種資格がないと設置できない事業用電気工作物が少ないからです。例えば、第一種電気主任技術者を選任しないといけない170kV以上の電気工作物は、電力会社と製鉄会社・鉄道会社くらいにしか存在しません。以下の写真は電鉄用の超高圧(220kV)受電変電所ですが、このような設備は全国でも数えるほどしかないのです。

電験2種有資格者選任が必要な設備は50kV以上の電気設備であり、少し大きな工場などには必要です。しかし、これも絶対数が少ないので「電験2種有資格者募集」の指定をしている求人は多くありません

ちなみに、大手転職サイトのdodaを使って「第一種電気主任技術者」「第二種電気主任技術者」をキーワードに検索すると、ヒットした件数はそれぞれ27件、44件でした。

ただし、電験2種については事情が変わりつつあります。国の再生可能エネルギー推進政策により、太陽光発電所や風力発電所が次々に建設されています。あなたも下の写真のように空き地や田んぼが、突然太陽光発電所になったのを目撃したことが有るのではないでしょうか。

先行していた太陽光発電に遅れて、風力発電も「海上に設置できるようになったこと」「発電単価が十分に下がったこと」で2020年代より本格的に設置されます。私の住む福岡県北九州市でも、海上風力発電を大々的に後押ししています。

引用:北九州市港湾空港局エネルギー産業拠点化推進室パンフレットより

これらの発電所のうち、規模が大きいものは電験2種有資格者を選任する必要があります。しかし、経済産業省の試算(「電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について」2019年3月15日)によると2045年に向けて、再生可能エネルギー向けの電験2種資格者が不足するとしています。

経産省は民間からの人材不足の声を受けて(「平成28年度電気施設保安制度等検討調査 電気保安人材の中長期的な確保に向けた調査・検討事業 2017年3月17日 最終報告書」デロイトトーマツコンサルティング)この調査をしています。

この調査の中で、数字としては人材不足はないとしながらも、企業の実感としては人材不足を感じているとあり、太陽光発電所などを運営する事業者からの求人はたくさん出ているのが実情です。

例えば、下図は風力発電の保守管理・運営を行っている青森風力開発株式会社の求人です。第二種電気主任技術者資格が必須とされています。

このように再生可能エネルギー業界で電験2種以上指定の求人案件はこれから増える可能性が高いです。また、転職エージェントから入手できる非公開求人には電験2種募集の求人がある可能性があります。これもあわせて探してみると良いです。

なお、あなたが電験1種・2種の有資格者だとしても、電験3種の資格者で十分な企業も対象にすれば求人はたくさんあることを知っておくと良いでしょう。

実務未経験でも採用される

電験は免状を手にするのに、実務経験が必要ありません。電気設備の工事・運用・保安の経験がなくても電気主任技術者資格は得ることができるのです。しかし、あなたが20~30代でこのような設備管理の実務経験がないとしても、転職活動であまり気にする必要はありません

電験は、法律的には「事業用電気工作物の工事・運用・保安のために選任すべき責任者の資格」ですが、実質は「強電技術者の技術力を保証する資格」の意味合いが強いです。これは私の転職体験でも感じ取れました。

業界未経験の電気工事会社を受けたとき、電気工事会社には電験有資格者は必要ないものの、電験取得者ということでその会社の年齢水準で最高の給与提示を受けました。そのときは、目の前で給与体系表の提示を受けながら説明を受けました。

さらに、転職エージェントとの面談を受けたときには、「電験を持っているのですぐに見つかります」と断言されました。もちろん、紹介された会社を気に入るかどうかは別の話ですが、すぐに20~30社は紹介がありました。

このようなことからも、電験有資格者は経験を伴った即戦力というよりも、ポテンシャルが評価されやすいといえます。

また電気技術者活動実態調査結果報告書によると、電験3種の合格時平均年齢は34.2歳、電験2種と電験1種では37.8歳となっています。つまり、20代で電験を取得できる人は少なく、優秀であることをアピールできるということです。自信を持って転職活動できます。

実際の求人票を見ても、業界未経験OKの求人はたくさんあります。一例が下の求人です。この求人は、大阪府と和歌山県を中心に事業展開する南海鉄道グループの南海ビルサービス株式会社の求人です。

電鉄用変電所ではなく、鉄道沿線の商業施設やホテル・病院の電気設備を管理する人材を募集しています。私が鉄道会社に勤めていたときに担当した駅ビルでは、6.6kV受電で電験2種資格者が必須でした。鉄道関係の商業施設だと、同様に6.6kVなどで受電することは多く電験2種資格者が必須です。あなたが電験2種以上を取得していたら大いに歓迎されることは必至です。

保安法人は経験必須

ただし、例外的に保安法人の設備保安職種は実務経験を求められます。例えば先にも提示した、北海道電気保安協会は求人票で実務経験を求めています。

電気保安法人は、電気工作物の設置者に変わり電気設備保安の委託を受ける事業者です。委託を受けるためには要件が定められており、それが電験免状取得と実務経験なのです。したがって、電気保安法人に転職を考えるなら実務経験があると受かりやすいです。

ただし下の求人票の通り、北海道電気保安協会は実務未経験の採用枠を設けています。

北海道電気保安協会は、実務経験ありの求人だと提示年収が「370~600万円」、実務経験なしの求人だと「330~500万円」です。実務経験の有無で40~100万円の年収差は出ると考えましょう。

ほかの電気保安協会でも、実務経験必須の求人で「実未経験でも相談可」としている求人はあります。あなたが無理だと考えていても、会社側は評価してくれることが有るので、ひとまず応募してみるとよいです。

高年収を狙いたければエネルギー・鉄道業界

多くの人の転職理由の一つが、年収アップしたいというものです。あなたも電験を取得したからには、年収アップを期待しているのではないでしょうか。

例として、最初の紹介したB-Rサーティワンアイスクリーム株式会社の提示年収は、下図の通り370万円~となっています。

同様に紹介した求人の年収を下表に示します。

会社名 提示年収[万円] 職種 業界
B-Rサーティワンアイスクリーム(株) 370~ 設備管理 製造業(食品)
晶和電気工業(株) 300~600 電気工事 建設業(設備工事)
(一財)北海道電気保安協会(経験あり) 370~600 電気保安 技術サービス(電気保安)
(一財)北海道電気保安協会(経験なし) 330~500 電気保安 技術サービス(電気保安)
青森風力開発(株) 400~600 設備管理 エネルギー(電気)
南海ビルサービス(株) 300~500 設備管理 事業サービス(ビルメン)

求人票の提示年収だけ見ていても幅をもたせて記載してあり、本当に得られる年収かどうかは予想が難しいです。そこで政府統計を見ることで、どれくらいの年収が見込めるのかを精度を上げて予想することができます。

通常電気主任技術者資格が必要になる業界は、エネルギー(電気・ガス・熱供給・石油)、鉄道、製造、電気保安、ビルメンテナンス(ビルメン)、設備工事(電気工事)の各業界です。これらの業界の年齢層に分けて年収を示したのが下のグラフです。なお、製造業は食品や医薬品など様々業界がありますが、代表して電気機械器具業界を記載しています。

引用:平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

これによると、30歳くらいまでの若年層の年収は大きく変わりません。しかし、50歳以上で、エネルギー・鉄道業界の年収が高いことがわかります。一番低いビルメンテナンス業界と比べて、2倍以上の差があります。

20~30代で転職すると、電験有資格者の求人はたくさんあるがために目先の提示年収で決めてしまいがちです。しかしグラフから言えることは、40~50代の年収を考えてエネルギー・鉄道業界に転職する方が高年収を手に入れやすいということです。

ちなみにエネルギー業界(石油)の提示年収は、下図のコスモ石油株式会社の求人の通り400~700万円です。東京本社の企業ですが、千葉など製油所での勤務になります。実際に採用担当の方と話してみると、製油所では電験1種が必要な設備があるので、将来的に電験1種を取得しやすい電験2種・3種の有資格者は歓迎しているということでした。

 

このように各業界で電験有資格者が活躍できる職種は、設備工事(電気工事)を除いて電気設備保安・設備管理の職種です。したがって、業界未経験でも設備管理の経験があれば、転職は難しくありません。実際私は、鉄道業界からエネルギー業界に業界未経験で転職しています。

このように年収アップを望むときは、同業界の会社だけでなく異業界の会社にも視野を広げる事で、年収アップを成功させやすくなります

まとめ

電気主任技術者資格は様々な業界で必要な資格であり、経験の有無・認定or試験に関係なくたくさんの求人があります。さらに、電験には電気技術者としての実力認定の意味があり、資格者を選任する必要のない業界(電気工事業界など)でも評価されている資格です。

特に第三種電気主任技術者資格は設備数が多く、引き合いも多いです。一方、第一種および第二種電気主任技術者資格は、設備数が少ないため、電験一種・電験二種指定の求人は多くはありません。ただし下位の電験三種募集の求人にも応募できることを考えると、電験三種募集よりも求人は増えます。

若年層(20~30代)で電験を取得している場合は、資格以上に優秀な技術力をアピールでき、転職成功しやすいです。自信を持って転職活動を進めることができます。

電験資格者に提示される年収は、業界により様々です。電験有資格者の求人は、業界は違っても類似した職種を募集していることが多いので、あなたが業界未経験であっても転職できます。

年収の高い業界は、エネルギー・鉄道業界です。政府統計などを利用して、あなたが今勤めている業界と比較し高い年収の業界に狙いを定めて転職活動を行うことで、転職により高年収を得やすくなります

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