電気通信工事は、21世紀の情報化社会を支える重要な仕事です。大規模な通信工事には、監理技術者が適切に施工管理をする必要があります。監理技術者資格は、実務経験が必要なため希少な資格です。
そこで、監理技術者資格を活かした転職を考える人も多いです。しかし、転職で成功するには、正しい情報を得たうえで、優れた求人を探すことが鍵になります。
あなたが保有している監理技術者資格が、どのような会社で必要とされ、どのような意味を持っているのかを正しく知らずに転職活動を行っても、なかなか優れた求人を見つけることはできません。私の転職活動では、資格がどのように企業に評価されるかを考えていなかったので、納得できる企業を見つけるまで時間がかかりました。
こうした回り道を防ぐためにも、事前に正しい情報を得ることが大切です。ここでは、「監理技術者有資格者が必要とされる業種・職種と求人例」「企業への確認方法」「職種変更の考え方」「年収の考え方」について詳しく解説します。
もくじ
監理技術者資格が必要なのは建設業の施工管理
監理技術者資格を活かして転職活動を始める前に、監理技術者資格がどのような価値を持つのか、どのような企業で必要とされているのかを確認しておきましょう。サラリーマンとして技術的な仕事ばかりしておくと、資格の法的な意味などがあいまいになっていることがあります。
これをそのままにして転職活動を進めると、優れた求人を見逃すことになります。また、中途採用試験で的はずれな回答をする要因にもなります。まずはあなたの認識・理解に間違いがないか、確認してください。
監理技術者は、建設業法で定める資格です。「発注者から工事を直接請け負い、その工事の下請け金額が(通信工事なら)4,000万円以上の場合」に専任しなければなりません。
つまり、請け負った工事を、外注業者を使うことなく自社で全て施工できる会社は対象になりません。たくさんの外注業者に発注する規模の大きい工事を請け負っている企業が、あなたが転職先として第一にターゲットにするべき企業です。
また、監理技術者資格は、建設業の種類により30程度に区分されています。電気通信工事業の監理技術者資格を活かすなら、電気通信工事業をしている会社に絞られます。
電気通信工事業で監理技術者資格が明記されている求人例
では、ここからは実際の求人例を挙げて解説していきます。最初に紹介するのは、募集の要件に「電気通信工事の監理技術者資格」がある企業です。この条件を掲げる企業は、電気通信工事を事業の中心に据えている企業が多いです。
下に示すのは、ヤマハサウンドシステム株式会社の求人です。ヤマハサウンドシステム社は、東京に本社のある会社で、音響工事を中心に施工している会社です。監理技術者(電気通信工事業)資格が歓迎条件とされています。
音響工事は、電気通信工事に分類されます。ヤマハサウンドシステム社の施工実績があるのは、下に示すナゴヤドームやホール、劇場などの大きな施設の音響工事です。
次に紹介するのは、全国の都市圏に事業所を持つ星和電機株式会社の求人です。歓迎条件として、電気通信工事の監理技術者資格が記載されています。
星和電機社が得意としているのは、下の写真のような高速道路の情報表示システムなど、交通に関する情報通信システムです。
ヤマハサウンドシステム社や星和電機社のように、事業の主体が電気通信工事の会社は、求人募集で電気通信工事の監理技術者有資格者を求めていることが多いです。
電気通信工事の監理技術者資格と記載されていなくても応募してみる価値あり
次に、応募条件に「電気通信工事」の監理技術者資格とは記載されていない求人を紹介します。
1つ目は、プラントエンジニアリング会社のコスモエンジニアリング株式会社の求人です。コスモ石油のグループ会社として、石油・化学プラントのエンジニアリングを中心にした総合エンジニアリング会社です。
求人票には、「通信工事の監理技術者の資格」ではなく、「監理技術者の資格」とだけ必須条件の一つとして記載されています。
プラントエンジニアリングでは、管工事・電気工事などのほか、電気通信工事も重要な位置づけにあります。
例えば、下の写真は、プラントの排水の化学物質濃度を測定している装置です。化学物質の濃度が上がったときには、環境中に放出しないように排出弁を閉じます。
このような装置・設備は計装設備といいます。計装設備は、プラントの正常運転のため、各所の測定監視を行い、必要な制御をしています。計装設備工事は、コンピューターと通信設備が主体となった、電気通信工事の一種です。
したがって、求人票には「監理技術者の種類」は記載されていませんが、電気通信工事の監理技術者資格があれば強みとして応募することができます。
念を押すならば、会社ホームページなどから、当該の会社が何の建設業許可を得ているのかを確認してください。建設業許可を持っていない会社が、監理技術者を募集することはないからです。
ちなみに、コスモプラントエンジニアリング社は、下図の通り電気通信工事の建設業許可を得ています。
引用 : コスモプラントエンジニアリング(株)ホームページより
また、会社によっては資格者の人数を開示している場合があります。コスモプラントエンジニアリング者の場合は、電気通信工事の監理技術者が2名在籍していると、会社ホームページに記載がありました。
引用 : コスモプラントエンジニアリング(株)ホームページより
これらの会社情報から、コスモプラントエンジニアリング社が電気通信工事の監理技術者を求めていると推定できます。つまり、採用試験で監理技術者(電気通信工事)の有資格者であることを強くアピールできます。
一方、監理技術者(電気通信工事)資格を持っていることで、取得のために必要な実務経験をアピールする方法もあります。
下の富士通ネットワークソリューションズ株式会社の大阪府で働く人材を求める求人では、条件の中に「監理技術者資格」は記載されていません。記載されているのは、電気通信工事の実務経験や、電気通信主任技術者の資格です。
では、監理技術者資格をアピールできないかというと、そうではありません。監理技術者資格を取得したときのことを思い出してほしいのですが、実務経験証明が必要だったはずです。
電気通信工事の監理技術者資格を取得するには、電気通信主任技術者・技術士・電気通信工事施工管理技士(電気通信施工管理技士)の資格を取得してから、最低でも2年の実務経験が必要です。
したがって、電気通信工事の監理技術者資格を持っている時点で、富士通ネットワークソリューションズの求人が掲げる「電気通信工事の施工管理経験」という条件を満たしている可能性が高いです。
さらに言えば、監理技術者になるためには「指導的立場での実務経験」が一定期間必要です。施工管理は、工事を組織的に進めるための仕事です。作業員を指導・監督する仕事とも言えます。つまり、十分に施工管理の実力を持っているとアピールすることが可能です。
転職エージェントを通して確認するのもOK
以上、求人例を示しながら、監理技術者(電気通信工事)資格を活かした求人の探し方、資格のアピール方法を解説してきました。そして、企業が監理技術者資格についてどう考えているか最も良い確認方法は、直接訊くことです。
求人を出している企業に問い合わせて、「電気通信工事の監理技術者資格を活かした仕事ができるか」とたずねるのが間違いありません。企業が求めている人材の条件ならば、丁寧に回答してくれます。
私も資格を活用して転職成功させたかったので、転職活動中は自分の持っている資格についてたずねることが多かったです。その企業における当該資格の位置づけや、入社後の展望について教えてくれることがほとんどでした。
応募する前だと、直接問い合わせることが難しい場合もあります。そのようなときは、私は転職エージェントを介して企業に問い合わせていました。
転職エージェントから紹介された求人で、資格条件欄に疑問あり、私の持っている資格がどのように評価されるのかをメールで確認したこともあります。結局、希望に沿わないことがわかり、応募を取りやめたことが何度かあります。
このように、応募前に適切に確認することで、無駄な応募を減らすことができます。特に在職中の場合は、限られた時間の中で転職活動を行うので、資格条件など希望することを事前に確認することで、優れた求人を選択して応募することができます。
監理技術者としてではなく職種変更もできる
監理技術者資格を直接活かすには、建設業の施工管理に転職するのがセオリーです。しかし、監理技術者資格を評価する他職種へ転職する方法もあります。
これは、「監理技術者」をキーワードにして求人検索すればヒットすることがあります。もし、あなたが求人検索したときにこのような求人を見かけたら、選択肢の一つとして考えてみると転職の幅を広げることができます。
具体的な求人例を示すと、下に示すパルコスペースシステムズ株式会社の求人が該当します。ビルメンテナンス(ビルメン)職の募集で、応募要項には各種工事の経験が必須とされています。
この求人は、いわゆるビルネンテナンス職の募集で、下の写真のような東京、愛知など各地のPARCO(百貨店)の施設管理をする仕事です。
一般的なビルメンテナンスの仕事自体に、監理技術者の資格は必要ありません。しかし、パルコグループの場合は、ビルメンテナンスから一歩踏み込んで買い物空間の創造事業をしています。簡単に言うと、百貨店の内装工事・改装工事を自グループで戦略的に行っています。
そこで、工事の施工管理ができる人材が必要になります。
監理技術者資格については、資格手当欄に記載があります。下の図のように、監理技術者の有資格者には月額15,000円が支払われることがわかります。
パルコスペースシステムズの仕事内容は、どちらかというとビルメンテナンスの色合いが強いです。しかし、求人票を読み込めば監理技術者の資格が活かせることがわかります。
ただし、監理技術者資格を持っていることをアピールするのではなく、施工管理のスキルがあることをアピールする必要があります。
工事会社の施工管理職とビルメンテナンス職の違いで大きな点は、「きつさ」にあります。私の知り合いを見ていると、工事の施工管理をしている知人は、いつも長時間拘束されていて大変だと言っていました。
ビルメンテナンスをしている知人は、決まった時間を働けば、引き継ぎをして帰れるので拘束時間は長くありません。ただ、サービス業の要素がありお客さんの相手をしなければならないことと、あまりにヒマでやることがなくてきついときがあると言っていました。
このような働き方の違いを受け入れられるかが、転職成功を決める重要な点です。働き方の変化を望むなら、職種変更が優れた選択肢になります。
監理技術者(通信工事)の年収を知る
最後に、通信工事の監理技術者がどれくらいの提示年収を受けるのか、業界の平均年収について解説します。
冒頭で紹介したヤマハサウンドシステム社の年収は、求人票に600~800万円と提示されています。
同様に、ここで紹介した5社の提示年収について、求人票の提示額を抜粋しまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 職種 |
---|---|---|
ヤマハサウンドシステム(株) | 600~800 | 施工管理 |
星和電機(株) | 350~840 (求人票は月給提示25~60。年収は12ヶ月+賞与2ヶ月分で計算) モデル年収提示あり、550~650 |
施工管理 |
コスモエンジニアリング(株) | 初年度300~500 | 施工管理 |
富士通ネットワークソリューションズ(株) | 450~700 | 施工管理 |
(株)パルコスペースシステムズ | 350~650 モデル年収提示あり、450~640 |
設備管理 |
サラリーマンの平均年収が500万円程度であることを考えると、ヤマハサウンドシステム社は高め、コスモエンジニアリング社は低め、そのほかの会社は平均的か高めの年収を提示しています。
実は、平均年収は業種によって大きく変わります。施工管理職の求人がでやすいのは、建設業のうち設備工事業です。ビルメンテナンスの設備管理職の求人が出やすいのは、その他事業サービス業です。これらの平均年収を参考にすると、提示された年収が妥当かどうか判断できます。
業種の平均年収のデータとして信頼できるものは、毎年厚生労働省が調査公表している賃金構造基本統計調査があります。下のグラフは、賃金構造基本統計調査から設備工事業とその他事業サービス業の年齢別平均年収を抜粋してグラフ化したものです。
引用:賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
提示を受けた年収とあなたの歳がわかれば、このグラフと比較することで提示年収の妥当性が判断できます。
例えば、パルコスペースシステムズ社の提示年収は、どの年齢であってもグラフに示されるビルメンテナンスの会社の年収よりかなり高いです。今、設備工事業の施工管理職として働いていて、パルコスペースシステムズ社の提示年収が低かったとしても、業種としては高待遇ということです。
年収に対する不満から転職を考える人も多いです。ただ、転職先の業種によっては、あなたの現状の年収より大きく変わる可能性があります。転職してから後悔しないように、適切な情報を知っておく必要があります。
反対に、このグラフのような平均年収の実情を知っておけば、冷静に仕事内容や提示年収を比較し、バランスの取れた優れた求人を見つけやすくなります。
まとめ
ここまで、通信工事の監理技術者資格を活かした転職について詳しく解説してきました。
監理技術者資格を活かすには、どのような業種・職種で必要とされるかを正しく理解していることが大切です。そのうえで、監理技術者としての経験やスキルをアピールするとよいです。
まず、監理技術者の有資格者が求められるのは、建設業です。電気通信工事をしている、建設業の会社から出されている求人を探すのがセオリーです。
求人票の中には、単に「監理技術者資格」と謳っている求人票もあります。そのようなときは、求人票を出している会社が「電気通信工事業」の許可を得ているかどうかを確認してください。電気通信業許可を得ている会社なら、あなたの監理技術者資格がアピールポイントになります。
建設業以外でも、「監理技術者」としての経験が活きる求人もあります。ただし、この場合は有資格者ということをアピールするのではなく、監理技術者として施工管理のスキルが高いことをアピールする必要があります。
監理技術者としての年収は、建設業(設備工事)とそのほかの業種で違います。提示年収の妥当性は、信頼のできるデータを参考にして判断できます。正しいデータを参考にすることで、年収面での転職失敗を防ぐことができます。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。