大きな工事現場の作業員をまとめて采配をふるう仕事として、監理技術者があります。だれもが就ける仕事ではなくて、監理技術者資格を持った人だけが就ける仕事です。
この監理技術者は、一定規模の工事現場では絶対に必要です。また、建設業界の市場規模は50兆円を超える非常に大きな市場を持っています。
つまり、日本の建設業について、監理技術者はなくてはならない存在と言えます。したがって、監理技術者資格を持っている人に対する求人もたくさんあります。
では、実際にどのような会社から求人が出されているのでしょうか? また、どのように求人を探していけばよいのでしょうか? 単純に「監理技術者」をキーワードに求人を探してるだけでは、優れた求人を見つけ出すことはできません。
ここでは、「機械・電気系の監理技術者への求人例」「監理技術者の年収の考え方」を詳しく解説します。
もくじ
監理技術者が求められるのは建設業の元請になる企業
監理技術者資格は、建設業法で求められる資格の一つです。監理技術者を置かなければならないのは、発注者から直接受注する元請業者のうち工事額の総額が4000万円以上の工事現場です。監理技術者は、下の写真のような現場事務所に常駐して工事監督をします。
また、監理技術者は名義貸しが許されていません。派遣会社から派遣などはできないのです。直接、元請企業が雇用する義務があります。そして下の写真のように、工事現場に監理技術者の氏名を掲示する義務があります。
一方、監理技術者資格は、工事種別ごとに細かく分類されています。機械・電気系の技術者が取得しやすいのは、「管工事」「電気工事」「電気通信工事」「機械器具設置工事」「消防施設工事」の5種類です。
したがって、「管工事・電気工事・電気通信工事・機械器具設置工事・消防施設工事で4000万円以上の工事を受注する建設業の会社」を探す必要があります。
資格の区分によって監理技術者資格の扱われ方が異なる
監理技術者資格には、国家資格(施工管理技士資格)を取得していれば講習で取得できる区分と、実務経験が必要な区分があります。ここで紹介している5区分の監理技術者資格について、国家資格または実務経験の要否をまとめたものが下表です。
国家資格が必要 | 実務経験が必要 |
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電気工事、電気通信工事、管工事の監理技術者資格なら、当該の施工管理技士資格を持っているとWEB申請なら10日程度、書面で申請しても20日程度で監理技術者資格が取得できます。施工管理技士資格さえ持っていれば、監理技術者に専任することは容易です。
そのため、求人票でこれらの監理技術者資格所持を条件にしていることは珍しいです。
一方、機械器具設置工事と消防施設工事の場合は、最低でも3年の実務経験がないと監理技術者資格を取得することができません。実務経験は、通常在籍した会社の証明書が必要です。そのため、監理技術者資格として所持していないと、即戦力として監理技術者に専任することが難しいです。
したがって、機械器具設置工事と消防施設工事の監理技術者資格は、条件として記載されていることが多いです。
電気工事の大手サブコンに勤める友人に話を聞くと、監理技術者資格について下記のように教えてくれました。
新人で入社した社員は、概ね「電気工事士資格→消防設備士資格→電気工事施工管理技士資格」の順に取得させる。ここまでは、試験に合格しないと取得できないので、社員にやる気を出させるために受験料補助や資格手当を設定して強く取得を促している。
電気工事施工管理技士資格を取ってしまえば、監理技術者資格は講習を受ければ取れる。したがって、資格取得を促すことはほとんどなくなる。 |
このように、工事の種類によって監理技術者資格の扱われ方が違うことを理解しておく必要があります。
サブコン(設備工事会社)が選択肢の一つ
建設業と聞いて思い浮かべやすいのは、ゼネコンやサブコンといった工事会社です。電気・機械系の監理技術者資格を活かしたいときは、サブコン企業が探しやすいです。
例えば、下図の株式会社日本冷熱では、機械器具設置工事の監理技術者を求められています。日本冷熱社は、長崎に拠点を持つ空調・管工事に強い設備工事会社です。九州一円で事業展開しています。
この求人票には、歓迎条件として「機械器具設置の監理技術者」と記載されています。機械器具設置工事の監理技術者資格は、先に書いたとおり、取得のために実務経験が必要な資格です。そのため、すでに資格を取得しているあなたは、即戦力として活躍が期待されます。
また、電気工事のサブコンの例でいうと、下図の朝陽電気株式会社の求人が該当します。朝陽電気社は、大阪府大阪市に拠点を置く電気設備工事会社です。施工管理の職種で、求める方の欄には「電気工事施工管理技士資格保持者」が必須条件であるとだけ記載されています。
電気工事の監理技術者資格は、電気工事施工管理技士資格があれば、講習を受けると取得できます。そのため、朝陽電気社の求人のように応募条件に挙げられていないことが多いです。
しかし、下図のように同じ求人票の待遇欄で、監理技術者には資格手当を支給することが記載されています。
資格手当は、「業務上必要な資格を持っている人」に対して支払うものです。つまり、監理技術者資格が必要であるということがわかります。
したがって、電気工事の監理技術者資格を持っていれば、即戦力として活かすことは可能です。しかし、採用試験の場では、そこまで求められていないので、監理技術者資格を保有していることをアピールしても有利にはなりにくいです。
メーカーも監理技術者有資格者を募集している
建設業だけでなく、製造業の会社でも監理技術者資格を保有している人材を募集していることがあります。
例えば、下に示す東芝エレベータ株式会社の求人では、機械器具設置工事業の監理技術者資格が歓迎条件となっています。東芝エレベータ社は、東日本に強い会社で、北は札幌から南は福岡まで主要14都市に拠点があります。
東芝エレベータ社は、日本のエレベーターの3大メーカーの1社です。下の写真のように、エレベーターの操作ボタンあたりにメーカー名が記載されることが多いので、見たことがある人もいるでしょう。同社は、エレベーターのほか、エスカレーターも製作しています。
東芝のような重電メーカーやボイラー・タービンなどを製作している重工メーカーは、自社内に工事部門を持つか、自社グループに工事会社を持つことが多いです。
製品が大きく専門的なため、一般の工事会社だけでは据付・調整することができません。そのため、作るだけではなく据付工事・調整まで行う必要があるからです。
エレベーターやエスカレーターのような一般人も目にする機械製品のほか、プラント・工場で使われる産業用機械分野で監理技術者募集の求人が多いです。
例えば、下に示す東芝三菱電機産業システム株式会社の求人が該当します。本社は東京で全国展開している会社ですが、この求人は愛知県名古屋市にある中部支店での採用です。業務内容に、監理技術者として仕事をすることが記載してあります。
ただし、電気工事施工管理をする人材を募集していて、求める方の欄には監理技術者資格は記載されていません。電気工事施工管理技士資格を持っていることだけが条件に挙げられています。これは先に述べたとおり、電気工事の場合は施工管理技士資格があれば監理技術者資格が簡単に取得できるからです。
東芝三菱電機産業システム社は、その社名から想像できるように、東芝と三菱電機の合弁会社としてスタートした会社です。英語表記からティーマイク(TMEIC : Toshiba Mitsubishi Electric Industrial system Corporation)と呼ばれる業界大手です。
回転機(発電機・電動機)に強く、下の写真のような大型の送風機を動かすモーターなどを製造してプラント各社に納入しています。
私が勤めている電力プラントにも、TMEICの電動機がたくさん納めてあります。修繕や取替工事のときは、TMEICの工事部隊が施工しています。
また、重電・重工の製品ではなく、消防設備のような特殊な製品も同様にメーカー内で施工部隊を持っていることがあります。
例えば、下に示す能美防災株式会社が該当します。能美防災社は防災設備御三家と呼ばれ業界最大手の1社です。全国展開している会社ですが、この求人は東京都新宿で勤務する人材を求めています。
この求人では、消防施設工事の監理技術者資格が歓迎条件になっています。また、同時に機械器具設置工事・電気通信工事の監理技術者も歓迎条件とされています。
このように、製造業のイメージが強い企業でも工事部門があり、監理技術者を求めていることがあります。製造業の企業にも視野を広げて求人を探すと、より優れた求人が見つかりやすくなります。
監理技術者の年収・給料を知る
最後に、監理技術者資格を持って転職した場合の年収について解説します。
冒頭で紹介した日本冷熱社の年収は、下図のように求人票に300~500万円が提示されています。
同様にほかの3社について、提示年収を抜粋してまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
(株)日本冷熱 | 300~500 | 設備工事業 |
朝陽電気(株) | 700~750 | 設備工事業 |
東芝エレベータ(株) | 300~ | 汎用機械器具製造業 |
東芝三菱電機産業システム(株) | 500~900 | 電気機械器具製造業 |
能美防災(株) | 400~800 | 情報通信機械器具製造業 |
求人票では、監理技術者資格は歓迎条件とされていました。つまり、プラスアルファの評価項目なので、提示年収下限になるとは考えにくいです。
また、ここで示した年収例は、下限が300万円で上限が900万円です。サラリーマンの平均年収が約500万円なので、同水準かそれよりも高い年収が提示される傾向にあります。ただし、企業・業種によりばらつきが大きいです。
したがって、あなたが実際に求人に応募するときは、あなたが提示を受けた年収が妥当かどうかを判断する必要があります。提示年収の妥当性を判断するには、政府統計と比較するのがわかりやすいです。
実は、業種ごとの平均年収は厚生労働省が賃金構造基本統計調査として毎年公開しています。下に示すのが、賃金構造基本統計調査のうち設備工事業と製造業の平均年収を抜粋してグラフ化したものです。緑が設備工事業、青が製造業の平均年収です。
引用 : 賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
政府統計においても、サラリーマンの平均年収と同水準かそれよりも高めの年収であることがわかります。
この統計と比較して、大幅に提示年収が低いならばその理由を企業側に聞くと良いです。初年度の年収が低いだけで、次年度から年収が上がる制度なのかもしれません。そうでなくても、なにかしら納得のできる理由が聞ける可能性があります。
ここで、あなたの問い合わせに対して曖昧(あいまい)にぼかして返答されたらどのように判断すればよいでしょうか。おそらく、入社したあとも社員の疑問に対してまともに向き合わない会社と判断できます。
このように、年収の疑問点にたいして問い合わせることで、希望する企業の社風やあなたに対する態度が明確になります。提示年収の多い少ないをきっかけとして、企業に質問してみるとミスマッチの可能性を小さくすることができます。
まとめ
機械・電気系の監理技術者として転職するときの求人・転職活動の方法について詳しく解説してきました。
機械・電気系の監理技術者資格の区分は、「管工事」「電気工事」「電気通信工事」「機械器具設置工事」「消防施設工事」があります。このうち、「管工事」「電気工事」は、監理技術者の有資格者を募集するのではなく、「施工管理技士資格保有」が条件になっていることが多いです。
これは、施工管理技士資格を持っていれば、監理技術者資格を取得することがきわめて簡単な区分だからです。
そして、監理技術者資格は、建設業で必要な資格です。したがって、建設業の会社(サブコンなど)を探します。
また、重電・重工系の製造業や防災設備のような特殊な製品は、据付工事・調整までメーカーが行うことが多いです。したがって、このようなメーカーの工事部門または工事専門の子会社も転職先として対象になります。
監理技術者資格を持って転職したときの年収は、全てのサラリーマンと同じ水準か少し高めの年収が期待できます。ただし、会社ごとでばらつきが大きいので、提示を受けたときに個別に判断する必要があります。政府統計と比較し企業に問い合わせることで、ミスマッチを減らすことができます。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。