環境に対する意識が高まり続けている中で、企業の環境保護活動に重用される資格として、環境計量士と公害防止管理者の2つの資格があります。どちらも難関資格で、そのどちらも取得しているとなると、食いっぱぐれがないと言われる貴重な人材です。
特に環境計量士資格を取得するには筆記試験に合格するだけでなく、実務経験や長期間の講習を受けることが必要です。実務能力も求められるので、それらを求める優れた求人も多いです。
では、これら2つの資格を活かした転職活動はどのように進めていけばよいでしょうか? 資格名をキーワードに求人を探せば、いくつかの求人を見つけることは可能です。しかし、その求人はあなたが望む優れた求人でしょうか?
転職で成功するには、予め十分な情報収集が必要です。そこで、ここでは「環境計量士・公害防止管理者資格が必要とされる業種の整理と求人例」「転職で実務経験が求められるか」「給与年収」について詳細に解説します。
もくじ
環境計量士・公害防止管理者資格が必要される業種
環境計量士と公害防止管理者資格を活かして転職するなら、まずこれら2つの資格がどのような業種で必要とされているのかを理解しておかなければなりません。
環境計量士と公害防止管理者資格は、2つとも環境に関わる資格です。しかし、求められる場面も根拠法令も違います。つまり、有資格者を必要とする企業が違います。
環境計量士資格は、計量法で定められる資格です。分析にかかる測定の正当性を担保するために必要な資格です。つまり、環境調査会社や分析を事業として行っている会社が、環境計量士の有資格者を必要とします。
公害防止管理者資格は、公害防止管理者法で定められる資格です。公害を防止するために工場が公害防止組織を運営するために必要な資格です。製造業とエネルギー供給業が、公害防止管理者を選任しなければならず、この業種で有資格者が必要とされます。
企業の種類と資格の必要性の関係を、下表にまとめました。
このように、資格に対して企業の温度差があります。2つの資格を持っていても、両方の資格を100%活かせるわけではありません。あなたがどのような仕事をしたいかによって、選ぶべき業種が変わります。
まず、このことを理解した上で転職活動を始める必要があります。
環境調査会社に必要なのは環境計量士
環境計量士と公害防止管理者の2つの資格を条件にしている求人で、数が多いのが環境調査会社です。
例えば、下図に示すのは長野県で事業展開している環境未来株式会社の求人です。この求人では、環境計量士と公害防止管理者資格が歓迎条件になっていることがわかります。
環境調査会社では、依頼を受けた会社のサンプル(排気ガス、排水、そのほか)に公害物質がどれくらい含まれているかを定量的に測定します。この際、測定器の信頼性を担保するために必要な資格が環境計量士です。
環境調査会社は、自らの業務の信頼性を確約するために、環境計量士の有資格者が絶対に必要です。しかし、事業所に1人有資格者がいれば良い資格です。すでに事業を行っているので、環境計量士の有資格者が最低1人は事業所に在籍しています。したがって、環境計量士資格が歓迎条件になっています。
一方、公害防止管理者資格は、環境調査会社には有資格者を配置する義務はありません。しかし求人には、公害防止管理者資格が歓迎条件に挙げられています。これはなぜでしょうか?
環境調査会社で公害防止管理者資格が歓迎条件になっている理由は、クライアントに対する説得力を高めるためです。
環境調査会社の主なクライアントである製造業などの工場を持つ企業は、公害防止管理者を選任する必要があります。そして、その指揮管理下で環境分析を外部に委託します。
あなたがクライアント企業の公害防止管理者資格を持った担当者で、外部に環境分析を依頼するときを考えます。そのとき、公害防止管理者有資格者が多数在籍する会社と、無資格者しかいない会社のどちらを選ぶでしょうか。
そのほかの条件が同じとして、私なら有資格者が在籍している会社を選びます。多くの人は、私と同じように有資格者が在籍している会社を選ぶのではないでしょうか。
このように、環境調査会社において公害防止管理者資格はクライアントに対する信頼性を増す要素として必要とされます。しかし、社員の全員が持っていないからと言って事業に大きく影響があるわけではありません。したがって、歓迎条件として優先度が低くされています。
環境調査会社では、資格の優先度が「環境計量士>公害防止管理者」であることに注意して、転職活動を行う必要があります。
製造業・エネルギー供給業に必要なのは公害防止管理者
次に、製造業・エネルギー(電気・熱・ガス)供給業について解説します。これらの業種では、公害防止管理者を選任して組織的に公害防止に取り組むことが求められます。
例えば排水の特定物質濃度の監視は、下の写真のような機器で常時行っています。
また、現場で取得されたデータは通信により中央監視室(中央制御室・中央操作室とも言う)に送られます。中央監視室では、下の写真のようなディスプレイを用いてデータを監視し、コンピューターに記録しています。
公害防止管理者の仕事は、これらの機器が正当に動いていることを保証し、公害物質が許容量を超えて事業所外に排出されないように管理していくことです。その中で、サンプルを分析することもありますが、それは補助業務です。場合によっては、外注化されます。
つまり、分析や計量の専門家である環境計量士の仕事は、あまりありません。
このように、製造業・エネルギー供給業では環境計量士資格より公害防止管理者資格のほうが直接業務に関係するので、企業から求められやすいです。私が勤める電力プラントでも、公害防止管理者有資格者はたくさんいます。しかし、環境計量士は在籍していません。
したがって、製造業・エネルギー供給業の求人で環境計量士と公害防止管理者の両方の資格を条件に挙げている求人はわずかです。
該当する少ない求人で例を上げると、下図の株式会社神戸製鋼所の求人が該当します。この求人では、公害防止管理者と環境計量士の両方の資格が「歓迎する経験・スキル」として挙げられています。神戸製鋼所は兵庫・東京に本社機能を置くほか全国に事業所があるものの、この求人では神戸市の同社火力発電所に勤める技術者を募集しています。
神戸製鋼所のように、製造業やエネルギー供給業で、公害防止管理者と環境計量士の両方の資格が条件に挙げられている求人は珍しいです。
製造業・エネルギー供給業では「公害防止管理者>環境計量士」であることに注意して、転職活動を行う必要があります。
未経験でも転職できるか?
では、これらの業種に転職するとき、未経験でも転職できるのでしょうか?
環境計量士資格を取得するためには、実務経験か講習が必要です。実務経験を以て取得した人は、全く問題ない話です。一方、講習で取得した人は、実務未経験でもよい求人を探さなければなりません。
実務未経験OKの求人は、環境調査会社の求人でいくつかありました。例えば、下図の株式会社環境生物化学研究所の求人が該当します。必須条件は、自動車免許と社会人経験のみなので、環境調査に関する実務未経験でも全く問題ありません。歓迎条件の欄に「計量士」と記載ありますが、下の詳細事項で「環境計量士」と補足されています。
このように環境計量士で実務未経験OKの求人はいくつかあるので、根気よく探せば見つけることができます。
ただし、実務経験者を条件としている求人に、実務未経験でも応募してみる価値はあります。私の転職の経験から言うと、求人の条件を満たさなくても、書類選考を通ることは結構ありました。私の場合、学歴が応募条件に満たなくても内定までもらったことがあります。
特に、環境計量士資格は難関資格と言われる資格です。これを取得しているということは、企業にとって有益な人材であると思わせるには十分です。応募条件に実務経験があったとしても、企業側に打診してみると良い結果に繋がる可能性があります。
一方、公害防止管理者の実務経験は、あまり気にする必要がありません。先に示した神戸製鋼所の求人では、機械・電気のエンジニアリング経験を求めているものの、公害防止管理者の実務経験は求めていません。
実は、私が勤める電力プラントでは、私が大気関係の公害防止管理者に選任されたことがあります。初めて選任された当時、私には公害防止管理者の実務経験はありませんでした。しかし、公害防止管理者の仕事はルール化されていたので、特に問題なく公害防止管理者の仕事をすすめることができました。
このように、すでに稼働している事業所であれば、公害防止管理のための仕組みができあがっているはずです。また、公害防止管理の経験者が社内に複数人いるので、実務未経験であっても特に心配する必要ありません。
年収・給料の考え方
最後に環境計量士・公害防止管理者の有資格者の給料・年収について解説します。
資格を取得していることで支給される手当として、資格手当があります。資格手当は、毎月の給料に加算して支給されるので、わかりやすく手取りが増えます。
求人例から、資格手当がどのくらい支給されるのか確認してみましょう。具体的な金額を記載している求人はほとんどないものの、下図の株式会社総合環境分析の求人には、「環境計量士 : 23,000~33,000円」「公害防止管理者 : 4,000円」が支給されることが記載されています。
環境計量士と公害防止管理者の両方の資格を持っていれば、最大で月額37,000円の資格手当が支給されます。これは年収に換算して、444,000円です。環境調査会社に転職するときは、参考になる数字と言えます。
一方、製造業・エネルギー供給業では具体的に支給額を記載している求人はありませんでした。
資格手当は企業の考え方に依るので、支給されていないこともあります。ちなみに私が勤めたことのある鉄道業とエネルギー業の2つの会社では、環境計量士・公害防止管理者のどちらの資格に対しても資格手当は不支給でした。
年収については、求人票に必ず記載があります。冒頭で紹介した環境未来社の年収は、下図のように273~450万円です。
同様に、ここで紹介した求人から記載されている年収をまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 | 募集地域 |
---|---|---|---|
環境未来(株) | 273~450 | 技術サービス業 | 長野(松本) |
(株)神戸製鋼所 | 400~700 | 製造業(鉄鋼) | 兵庫(神戸) |
(株)環境生物科学研究所 | 300~600 | 技術サービス業 | 栃木(那須) |
(株)総合環境分析 | 350~670 | 技術サービス業 | 神奈川(横浜) |
ただし求人票の提示年収は、「各種手当を含むか」「残業代を含むか」など各社それぞれです。したがって、参考程度の情報です。
会社ごとではないものの、実際に支払われた賃金をもとに集計された統計データとして、厚生労働省が毎年公開している「賃金構造基本統計調査」があります。下のグラフが、環境計量士と公害防止管理者の2つの資格が活かせる業種のデータを抜粋したものです。なお、青色が製造業、黄色がエネルギー供給業、緑色が環境調査会社が含まれる業種を表しています。
引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
この調査結果によると、最も年収の高い業種と最も年収の低い業種で数百万円の差があります。単純に高い年収を求めるだけなら、資格手当の有無より平均年収の高い業種へ転職したほうが成功しやすいです。
ただし、環境計量士と公害防止管理者の両方の資格が活かしやすい環境調査会社は、ほとんどの場合「技術サービス業」です。技術サービス業の中で探すならば、資格手当の有無をよく確認すると良いです。
まとめ
環境計量士と公害防止管理者の両方の資格を活かせる求人について、くわしく解説してきました。これら2つの資格は、求められる場面が違うため、両方とも最大限活かせる企業はありません。どちらかの資格を中心に据えて、転職活動を行うことになります。
環境計量士資格が重宝されるのは、環境調査会社です。環境調査会社において公害防止管理者資格は、あくまで業務知識を担保しクライアントへの信頼度を増すものとして補助的な位置づけになります。
一方公害防止管理者資格が活かせるのは、製造業・エネルギー供給業です。これらの業種では、分析や計量の業務を専門に行うことはまれです。そのため、環境計量士資格を条件に挙げている求人は少ないです。
環境計量士・公害防止管理者の資格を持っていて、実務経験がないとしても応募できる求人はあります。また、条件に「経験者募集」と記載されていても、未経験で書類選考を通ることはあります。優れた求人を見つけたら、まず応募してみると良いです。
環境計量士・公害防止管理者の有資格者の給与年収は、資格手当と業種により左右されます。資格手当は、環境計量士資格が評価高く比較的高額を支給されやすいです。業種は、平均年収の高い業種と低い業種で数百万円の差があります。
あなたが「どのような働き方をしたいのか」で業種を選ぶとよいです。また、同じ業種の中なら資格手当の有無をよく確認すると、年収面で失敗を防ぎやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。