あなたは、機械と聞いて何を一番に思い浮かべますか? 家庭では自動車や家電製品があります。一歩外に出ると、鉄道車両や建設機械が目に入ることもあります。

また、日用品や加工食品も工場で作られています。これらは、あまり意識することはありませんが、機械で作られています。

このように、私たちの身近なあらゆるところに機械は存在し、使われています。機械がなくなると、私たちの生活は成り立ちません。

機械系エンジニアは、これらの機械を創り出し、運用していくスペシャリストです。今後、近代の社会が続く限りは、決して食えない状況にはならない仕事です。

今回解説する機械設計エンジニアは、この機械系エンジニアの仕事の中でも、上流工程を担うエンジニアです。下流工程の組立工などは、AIやロボットに比較的容易に置き換えられます。

しかし、上流工程は人間がアイデアを出す必要があるので機械に置き換わることはありません。つまり、将来性のある仕事といえます。

今回は、あなたが幅広く機械設計エンジニアの仕事を探せるように、機械設計の仕事の種類と活かせる資格やスキルについて整理します。続いて、この業界の年収の状況について解説します。

もくじ

機械設計の種類

設計の仕事を簡単にいうと、「ある要求仕様に合致するモノを、実際に作ることができるように仕様書や図面に落とし込む」仕事です。出来上った仕様書・図面を、下流工程である生産・製造に渡せば、技能工が図面通りに製品を作ります。

場合によっては、人ではなく下の写真のようなロボットや生産機械が製品をつくります。

どのようなモノを作るにも、この設計の意味合いは変わりません。さらに、仕事によっては「開発」の業務を含むこともあります。それは、要求仕様が「これまでよりスペックアップすること」だと、開発的要素が濃くなります。

仕事の難易度は、開発の要素が含まれるかどうかで大きく違います。

しかし、求人を出す企業も、開発的要素が含まれるかどうかにかかわらず「機械設計」として中途採用の求人を出していることが多いです。

例えば下の図は、技術系の転職サイトであるメイテックネクストの職種分類です。「機械設計」とだけ、表示されているのがわかります。

また、下は大手転職サイトdodaの職種分類の一部です。機械設計という分類の中に、機器の種類でさらに分けられていますが、開発要素の有無については判別できません。

機械設計に関する口コミを調べてみると、ポジティブなもの(楽しい、やりがいがある)も、ネガティブなもの(きつい、つらい)もたくさんあります。これは、機械設計の範囲を見誤ったことから、ミスマッチが多く発生していると考えられます。

したがって、転職先として機械設計を選ぶ場合には、どのような働き方をしたいのか(難易度の高い仕事にじっくり向き合いたいのか、ある程度定式化された仕事を家庭と両立したいのか、など)を、まず整理しておく必要があります。

機械設計の基本

一言で機械設計といっても、その指す範囲は広いです。「機械設計」が示す範囲は、代表的なものだけでも以下に示すものがあります。

  • 機構設計
  • 構造設計
  • 材料設計
  • 要素設計
  • 熱設計
  • 回路設計

機械設計の仕事に就く場合は、この中の一つ、または複数を担当します。

開発要素の濃い機械設計

試作品を作って検証する場合の機械設計が、該当します。これには、以下のような特徴があります。

  • 仕様はメーカー(経営者など)が決める
  • コスト課題よりも、技術課題の解決を求められる
  • 前例がない場合が多い(答えがない)

製品を世に送り出す場合には、以下の図のような手順を踏みます。

この先行開発で、試作品を作って検証をします。先行開発は、全くのゼロから新しく生み出すこともあれば、今ある製品の改善を行うこともあります。どちらの場合も、用意されている答えはありません。

先行開発では、機械工学の知識や、これまでの経験などを最大限に活用して、答えを探したり、作り出したりします。そして、これは難易度が高い仕事です。

このような求人には、下図のようなものがあります。下は、大阪府に本社がある産業機械メーカーの株式会社クボタの求人です。

この求人では、籾摺り機の新規開発を行うチームでの機械設計を募集しています。「仕様決定→設計→試作・評価」の流れが明記してあります。

次に紹介するのは、長野県諏訪市に本社を置くセイコーエプソン株式会社の求人です。ちなみに、本店は東京にあります。

ラインインクジェットプリンタヘッドの構造設計(機械設計)が、この求人で募集されている仕事です。簡単にいうと、汎用のインクジェットプリンタのインクが吐出される部品の構造を設計する仕事です。

仕事の内容の欄に詳細として、下線部「エプソン独創のコアデバイスを進化させるべく、新たな人員」を募集することが記されています。「進化」なので、先行開発と捉えて問題ないでしょう。

開発要素の濃い機械設計求人を探すときは、このような「仕様決定」「試作」「進化」などのキーワードを頼りに探すと良いです。

開発的要素の薄い機械設計

一方、量産開発では開発的要素は薄くなります。量産開発の機械設計には、以下のような特徴があります。

  • コストを抑えることが必須
  • 前例がある場合がある
  • 受注生産の場合、仕様は客先の要望が多く反映される(必ずしもスペックアップが必要ない)

先行開発と違って、量産開発の場合はコストを抑えることが必須課題です。ときには、ハード的な対応だけでなく、ソフト的な対応も必要です。

例えば、製作の工程が1工程減るような設計は、部品としてはコストダウンになっていないものの、全体としてコストダウンになります。

また、下の写真のプラントのような大きな受注製品の場合、標準型に客先要望を付加するような設計をします。

したがって標準部分は、「規格化されたものを仕様に合うように選択する」ことが多いです。追加仕様で、規格化されていなければ新しく設計します。ここは、客先の予算との相談です。

このような設計の案件には、以下のような求人があります。

まず、徳島県に本社がある藤崎電機株式会社の求人を下に示します。ファクトリーオートメーションを受注生産するのに、機械設計技術者を募集しています。

ファクトリーオートメーションとは、工場の自動機械化のことです。例えば下は、飲料品会社の「飲料水用の瓶に飲料を注ぎフタをする」機械です。

「瓶を運ぶ機構」「飲料を注ぐ機構」「フタをする機構」など、それぞれは枯れた技術でできています。したがって、受注を受けると客先の工場にあった機械を、予算通りに組み上げられるように、材料部品を選定する設計が主です。

また、以下の図は広島県で自動車用ミラーを製造販売している株式会社石崎本店の求人の仕事内容です。

この求人では、量産開発・先行技術開発のどちらにも配置になる可能性がありますが、下線部「機能、コスト、量産効率、汎用性など、~ベストバランス~」とあるのは量産設計の主な仕事です。

このように開発要素の薄い設計は、「量産開発」「受注生産」などをキーワードに探すと良いです。

機械設計エンジニアに求められる資格やスキル

まず、機械設計エンジニアに必須の資格について説明します。実は、機械設計エンジニアに必須の資格は存在しません。ここで紹介した仕事は、全て無資格でできる仕事です。しかし、相当量の知識や経験が求められます。

私は、機器の保守と設計の両方を担当したことがありますが、設計で求められる知識量は、保守とは比べ物になりません。

機器が機嫌よく稼働していれば、保守の場面でそれぞれの機器について知悉(ちしつ)することは、まずありません。保守だと、担当する機器が膨大にあるため、それぞれの機器に向き合う時間がない、と表現したほうが正しいかも知れません。

一方、設計の場合は、運用・保守の段階で起こり得るあらゆる事象を想定して設計します。したがって経験がない人は、適性が低いといえます。これは特に、開発要素の強い設計で顕著です。

このようなこともあり、実際の求人では、「必須資格の記載はなく、何らかの機械設計経験を求める求人」が多いです。文系出身の人や未経験の人が新しく設計職として機械エンジニアになるには、難しいといえます。

また、ある程度の経験を求める求人が多いことから、私が探した範囲で年齢制限をしている求人がありませんでした。したがって、30代や40代でも、きちんとした経験を積んできていれば転職は難しくありません。

下は、先に紹介したセイコーエプソン株式会社の求人における応募条件の記載です。

経験としてはっきり謳われているのは、「CADやシミュレーションソフトの使用経験」です。

そのほか「構造計算、部品加工の知識」を求めていますが、これらは機械設計に携わっていれば自ずと身につくものです。つまり、「機械設計の経験者であることが望ましい」と理解すればよいです。

設計にCAD知識は有用

ここからは、機械エンジニアに必要・有用なスキルについて解説します。

まず、設計フェーズの仕事に役立つスキルはどのようなものがあるでしょうか。

機構設計などの場合には、CADが使えると喜ばれることが多いです。開発要素の強い設計だと3DCADで、解析までできるとなおよしです。

下図は、先に紹介しした株式会社クボタの求人における応募条件の記載です。

機械設計経験と、CADが使えることが条件となっています。3Dで「CATIA」という製品はハイエンド、「INVENTOR」という製品がミドルレンジのCAD製品です。どちらも解析ができるCADソフトです。

また、2Dで「AutoCAD」と記載があります。こちらは図面を描くソフトです。解析はできません。

ちなみに、この求人は求める実務経験の要求が高く、機械設計のキャリアアップを狙う求人といえます。

なお、3DCAD関しては注意が必要です。私の職場の女性に、かつて3DCAD「SOLIDWORKS」を使って仕事をしていた人がいます。その人の話では、なまじほかのソフトウエアの使用経験があると、変な癖がついて習得し辛いそうです。

つまり、応募する企業が使っている3DCADソフト以外の使用経験をアピールしても、あまりプラス評価には結びつかないということです。その一方で、先の求人のように、ソフトが明示されていて、自分の経験と一致する場合は、大いにアピールすると良いです。

そして、図面を描くだけの2DCADの場合は、操作性は変わるものの、「画を描く」という基本的な考え方は変わらないため、あまり気にしなくても良いです。

2DCADスキルを求める機械設計の案件は、以下のようなものがあります。

先に紹介した藤崎電機株式会社の求める方の欄を、下に示します。

必須条件として、2DCAD(AutoCADなど)を使って図面を描けることが挙げられています。受注生産の場合、客先に図面を提出することが多いので、図面を描けることが必須とされていると考えられます。

はずせないコミュニケーション能力

設計というと、パソコンの画面や図面とにらめっこしている場面が思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、人間相手の仕事もあるので、コミュニケーション能力は必須です。

設計は、「要求仕様を具現化する」仕事です。先行開発で、社内からでた要求仕様は比較的わかりやすいですが、受注生産で客先からの要求仕様は的を射ていないものも多いです。

ユーザーは機械製品を発注して、何を実現したいのかが自分でわかっていないことがあります。それをユーザーの言うままに設計して納品したとしても、「思ったのと違う」といわれて、顧客満足度は上がりません。

ユーザーが、実は何を欲しがっているのかを聞き出すことができなければ、価値の無いものを作り出すだけに終わります。

また機械設計は、材料や電気の要素とも協調しながら進める必要があります。全てを自分で設計できるわけではないので、ほかの設計担当者とも円滑にコミュニケーションを取れることは、良い製品を作るために必須といえます。

下の図は、先に紹介した株式会社石崎本店の求める方の欄です。

この会社の場合、客先(ユーザー)は完成車メーカーです。完成車メーカーから仕様を受け取るため、十分な意思疎通ができるようにコミュニケーションや調整能力を歓迎しています。

また、求人のほかの部分には部門間との調整があるとうたっており、コミュニケーション能力が高い人が向いている人といえます。

機械設計エンジニアの年収

では、機械設計の技術職として働くと年収はいくら位なのでしょうか。ここまでで紹介した「株式会社クボタ」の提示年収を挙げると以下のように示されています。

そのほか「セイコーエプソン株式会社」「藤崎電機株式会社」「株式会社石崎本店」の提示年収をあわせて一覧表にまとめると、下表に示すようになります。

会社名 提示年収額 主な業務内容
株式会社クボタ 450~850万円 先行開発
セイコーエプソン株式会社 400~800万円 先行開発
藤崎電機株式会社 380~700万円 量産開発
株式会社石崎本店 300~600万円 先行開発

量産開発

これらから、300~850万円に分布していることがわかります。大企業に分類されるクボタ社、セイコーエプソン社の提示年収が高めです。藤崎電機社と石崎本店社は、大企業の前者に比べると低いです。

また、機械業界の仕事は景気動向に左右されやすいです。出身校の後輩が工作機械の機械設計職として働いているので、話を聞いてみると下記のように教えてくれました。

景気が悪いと極端に需要が減る。従って、社員の残業はなくなり、収入は減る。反対に、景気が良いときは、給料を使う暇もないくらいに忙しい時期もある。

ただし、実際に自分が提示された年収が高いか安いかは、適切な方法で知る方法があります。それは、政府統計と比べてみることです。

下のグラフは、国税庁の民間給与実態統計調査の結果をグラフ化したものです。

引用:平成29年民間給与実態統計調査(第8表)をグラフ化

政府統計では、機械設計職のみを扱った統計が存在しないので、機械設計職を含む製造業の調査結果を用いて説明します。

これによると、中央値は400~500万円です。このグラフと比較すると全種の4社は中央値より上振れしている会社が多いことがわかります。

このように、予め提示年収を政府統計と比較しておくことで妥当性が判断でき、転職の失敗を防ぐことができます。

まとめ

機械設計の仕事は、開発的要素を含んでいる場合が多いにもかかわらず、求人では単に「機械設計」とされている場合が多いです。

満足できる転職にするためには、言葉に含まれていない「開発」要素を、あなたがどう捉えるのかを、まず整理しておくと良いです。

開発要素の強い機械設計は、技術的課題を解決する仕事をします。これには、はっきりとした答えがないため、一般に難易度は高いです。この分野で使えるスキルとして、3DCADでCAE(解析)ができると、喜ばれます。

反対に、開発要素の弱い機械設計は、コスト的課題を解決する仕事が主になります。

また、機械設計に必須の資格はありません。求人では、資格より経験、そしてコミュニケーション能力を求められることが多いです。

機械設計を含む製造業の年収は「400~500万円」が中央値です。自分の年齢と、経験を鑑みて、求人の提示年収が妥当かどうかを判断すると良いです。

これらに注意して機械設計の求人に応募することで、転職で失敗することを防ぐことができます。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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