転職活動において、学歴と資格は採用を決める大きな要素です。せっかく大学を卒業しているのに、高卒者の多い技能職に応募したのでは、仕事内容に満足できないかもしれません。

では、電気系の難関資格である電気主任技術者資格を取得しているときに、大学卒業という学歴はどのように活用できるのでしょうか。

電験は、大卒でも取得に苦労する資格で、電気の技術レベルを測る目的でも使われる資格です。学歴と電験では、どちらを優先することが多いのでしょうか。

ここでは、「大卒・電験保有が条件の求人の実際」「求人探す幅を広げる方法」「年収の考え方」について詳しく解説します。

電気主任技術者資格保有と大卒以上が条件の求人はわずか

実際の求人で、電気主任技術者資格と大卒以上を条件に挙げている求人はどのくらいあるのでしょうか。転職サイトに公開されている求人を参考に調べてみましょう。

まず、求人票の中に「電気主任技術者」がキーワードとして含まれる求人数は、下図の通り989件です。

そして、この中から応募条件に「学歴不問」「高卒」「短大卒」「高専卒」などのキーワードが含まれていない求人数を抜き出します。その結果が大卒以上の求人で、下図のとおり65件の求人がヒットしました。

ほかの転職サイトでも同様に検索してみると、求人数は下表のようになりました。

転職サイトA 転職サイトB 転職サイトC
電験が条件にある求人 989 47 126
電験と大卒以上が条件の求人 65 1 4

このように、電気主任技術者資格を保有していることと大学卒業以上を条件にしている求人はわずかであることがわかります。反対にいえば、「電気主任技術者資格を持っていれば、学歴不問の求人が多い」ともいえます。

電験資格が必要な業界では学歴より資格が有益

では、なぜ電気主任技術者資格は求人の条件に挙がり、大卒以上の学歴は条件に挙がらないのでしょうか。それは、電気主任技術者資格が必要な職種に理由があります。

電気主任技術者資格が必要な職種は、電気保安、設備管理、設備保全と呼ばれる職種です。これらの職種では、私の経験上学歴があまり意味を持ちません。

私は長らく設備管理・保全の仕事をしています。鉄道会社と電力プラントで、高圧~超高圧の電気設備を保守管理してきました。下の写真のような、超高圧受電の変電所などの保守管理を行ってきています。

その中で、同僚の最終学歴は高卒から大学院(マスター)卒までさまざまです。では、学歴で設備管理・保全の仕事の出来が変わるかというと、そのようなことはありません。

これは、設備管理・保全の仕事の特徴により、学歴で差が出ないのだと考えられます。それは、設備管理の仕事が学校で学習・研究してきた内容が直接出てこないという特徴です。つまり、学歴を問わず入社時点がゼロスタートで、スタートラインが皆一緒なのです。

鉄道会社勤務時代には、素晴らしく優秀な上司・先輩が皆大卒ということはなく、高卒でもコツコツと真面目に仕事をしてきた人が優秀でした。また、今勤める電力プラントでは、技術部7名中の職位上位の3人は皆高卒です。

このような状況から、わざわざ「大卒以上」に条件を絞って人材を募集する意味がありません。

一方、電気主任技術者資格は企業が事業継続するためにはなくてはならない資格です。例えば、下の写真の医療品工場は22KVで受電しているため、第三種電気主任技術者を選任しなければ電力を使うことができません。

そのほか電気主任技術者の扱える電気工作物の電圧範囲は下図のとおりで、電験の有資格者がいないと発電所・鉄道が動かせないのに始まり、製造業の工場や大規模商業施設なども電気が使えません。

そして、電験は日本の産業を支えるのに必須な資格であるにも関わらず、試験では年間6,000人ほどしか合格しません。

私が勤めていた鉄道会社では、地方国立大学の理系大学院卒が入社して4~5年で第三種電気主任技術者試験に合格するくらいでした。電験二種以上の資格者になると、全社でも数えるほどしかいませんでした。

大卒以上の社員は数え切れないほどいるのに、業務に必要な電験の有資格者は大卒の社員に比べて数が少ないのです。

このような理由から、企業は業務に直結していて、なおかつ希少な電験有資格者を求人票の条件にあげることが多いのです。

大卒以上が条件の会社では負荷が高い仕事が多い

もちろん、大学卒業以上と電気主任技術者資格保有の両方を条件に挙げている会社は、少数ながらあります。

例えば、下図の東ソー株式会社の求人が該当します。東ソー社は、東京のほか山口・富山・山形などに事業所があり、この求人では三重県の工場の電気設備保全を担う人材を募集しています。

この会社に私の後輩が勤めており、大卒社員をどのように采配しているのかを訊くことができました。後輩は、下記のように教えてくれました。

高卒は一般職、大卒は総合職として働いていることが多い。

工場だと、一般職は運転員としてシフト勤務に就く。基本的にマニュアルに沿ったルーチンワークで、残業は少ない。工場を定常的に動かす作業を担うことが多い。

総合職は、運転員になることはない。保全担当として、工場設備を維持・管理するための仕事に就く。具体的には、修繕工事や老朽取替工事の計画・実施・発注にかかる事務的な仕事のほか、現地立会などがある。

マニュアルに落とし込めない仕事も多く、その都度考えながら仕事をすることが多い。資格も、一般職には求められない電験・エネルギー管理士・公害防止管理者などの難易度の高い資格取得を求められる。

また、年度末など工事が複数同時並行して施工される時期になると、遅くまで事務所に残って仕事をしているのを見かける。緊急の設備故障のときは、応急対応は運転員(一般職)が行うものの、最終的には保全担当(総合職)に引き継ぐ。この突発的な作業は、残業で対応する事が多い。

このように、学歴ではっきりと仕事を分けているため、採用の条件として大卒以上の条件を提示していると考えられます。東ソー社の求人票の仕事内容の欄を見ると、後輩が言っていたような内容が記載されています。

私が勤めていた鉄道会社では、優先して大卒社員を高負荷の仕事にあてることはありませんでした。しかし、結果として大卒社員が高負荷の業務に就いていた数が多かったです。

また、出向していたことがある別の鉄道会社では、大卒社員は東ソー社のように優先して負荷の高い仕事に就いていました。

このように大卒社員の運用の仕方は会社それぞれです。求人票をよく読み込むことはもちろん、採用試験を受ける前なら、転職エージェントを通して職務内容やキャリアパスを確認することもできます。

また、採用試験などで、あなたに求められる職務内容を十分に確認することがミスマッチを防ぐことにつながります。

電気主任技術者資格保有が必須ではない業種の求人もある

ここまで紹介したのは、電気主任技術者資格が必須な電気保安に関係する仕事です。しかし、電験資格者を求める求人は電気保安関係の仕事ばかりではありません。

実は、電気保安の仕事以外でも、電験資格は電気の技術力レベルを測るのに使われることがしばしばあります。そのような会社で職務内容の難易度の高い場合、大卒以上を条件にしていることがあります

例えば、下図のパシフィックコンサルタンツ株式会社の求人が該当します。パシフィックコンサルタンツ社は、東京に本社を置き日本全国・東南アジアで事業展開している会社です。

また、パシフィックコンサルタンツ社の求人で仕事内容の欄を見ると、下図のようにコンサルティング(調査・助言・補助)業務が中心であることがわかります。

コンサルティング業務を説明するのに、求人票に記載のあるESCO事業を例に説明します。ESCO事業とは、Energy Service Company事業の略のことです。また、ESCO事業の概念を下図に示します。

このように、ESCO事業は客先の設備やエネルギーなどの使用状況を調査し、ハード・ソフトの両面から適切な省エネ対策を助言・提案します。そして、客先の費用削減分からESCO事業者に料金が支払われます。これが、ESCO事業者の利益です。

ESCO事業者は、電気設備や関連法令・技術基準などに精通してなければ、適切な助言・提案をすることができません。ここで、技術力を示すわかりやすい方法として電験資格を持っていることが挙げられます。

また、この仕事の一連の流れは、マニュアル通りにならない難易度の高いものです。したがって、自ら考え解決策を策定できると期待される大学卒業以上の人材が採用の対象になります

また、客先からすれば大学を出ていないような人にコンサルティングを頼むのは躊躇(ちゅうちょ)しがちです。助言・提案を受けるなら、高等教育を修了した人から受けたいと考えるのが自然ではないでしょうか。

このような背景から、コンサルティングのような職種では、電気主任技術者資格と大卒以上の両方が条件になっている求人が出ていることがあります。

大卒が条件になくても平均年収は高いことがある

最後に、電気主任技術者資格を持って転職したときの年収について説明します。

電気主任技術者資格が必要な、電気保安・設備管理・保全の仕事がある業種の平均年収は、厚生労働省が公表している賃金基本構造統計調査結果を見ればわかります。

下図が賃金基本構造統計調査の当該業種の平均年収をグラフ化したものです。製造業を青色、非製造業を橙色で示しています。

引用:平成30年賃金構造基本統計調査より作成

ちなみに、ここで紹介した電験資格と大卒の両方が条件になっている2件の求人の提示年収は、下図のように東ソー社が500~1,000万円、パシフィックコンサルタンツ社が700~1,000万円と記載されています。上から東ソー社、パシフィックコンサルタンツ社の提示年収です。

両社の提示年収は、先程の業種平均と比べてかなり高い水準が提示されていることがわかります。

また、賃金基本構造統計調査には最終学歴ごとの平均年収が含まれています。先ほどグラフで紹介した業種の内、電気主任技術者の募集が多い5業種について、平均年収を下表にまとめました。

電気業 製造業(化学) 製造業
(生産機械)
製造業(食品) その他技術サービス
高卒平均年収[万円] 749 535 476 341 349
大卒平均年収[万円] 813 723 615 505 466

これによると、高卒社員と大卒社員では、大卒社員の方が100~200万円ほど高くなっていることがわかります。さらに、年齢別で平均年収が公表されているのをグラフ化したのが下図です。

色ごとに業種を示しています。実線が大卒社員の平均年収で、破線が高卒社員の平均年収を示しています。

引用:平成30年賃金構造基本統計調査より作成

グラフからわかることは、20代のうちは高卒と大卒の社員であまり差がないものの、50代になると大きく平均年収に差がつくということです。20代では、高卒社員の方が高賃金の業種もあります。

この統計は職種を分けているわけではないので、大卒の方がより平均年収の高い(=負荷の高い)職種に異動することが多いということも含めて考えなくてはなりません。

また、私が勤めていた鉄道会社だと、大卒社員の方が上位職に上がるのに、標準昇職年数が短く設定されていました。つまり、早く年収が上がりやすい会社もあるということです。

あなたが大卒であることを有効に活用したいなら、入社後に大卒が評価される会社を選ぶ必要があります。一般職・総合職の違いや、中途採用者の昇職の有無、評価方法などを確認しましょう

東ソー社の例で書いたとおり、一般職と総合職では総合職のほうが給料は上がりやすいです。中途採用者の採用枠が、スペシャリスト職だと上位職(管理職)への道がないこともあります。評価方法が、実力主義ではなく年功序列主義だと大卒の方が有利になりやすいです。

このような点は、採用面接などを利用して自分で訊くこともできます。応募前や、自分で訊くことがはばかられる場合は、転職エージェントを介して訊いてもよいです。

どのような方法にしろ、大卒として中途採用されたあとのキャリアパスを確認して転職することが、ミスマッチを減らし給与面でも満足いく転職を叶えるためには重要です。

まとめ

ここまで、大卒以上と電気主任技術者資格保有を条件とした求人について説明してきました。

これら2つの条件を両方掲げている求人は少ないです。電気主任技術者資格が必要な電気保安、設備管理・保全の仕事は、電気主任技術者資格を持っていれば、学歴に関係なく応募できる求人がほとんどだからです。

数は少ないものの大学卒業も条件にしている求人は、仕事内容の難易度が高くなりがちです。この傾向を承知した上で転職活動しましょう。

電気保安・設備管理・保全のある業種の平均年収は、政府統計に信頼性のおけるデータがあります。はっきりと大卒と電験保有を条件に謳っている求人は、政府統計の平均年収より高い年収を提示しています。

ただ、「大卒」が条件になくても、企業によっては大卒の方が高年収になりやすいです。これは、政府統計を見ても明らかです。

しかし、企業によって学歴関係なく実力主義を採用していることもあります。したがって、求人を探す段階から採用面接などを通して企業の考え方を探る必要があります。その際、自分の力だけでなく転職エージェントを活用すると良いです。

技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。