公害防止に関する国家資格として、公害防止管理者資格があります。この資格を持った公害防止管理者を、必ず選任しなければならない事業場が一定数あるので、需要が絶え間なくある資格です。

ただ、公害防止管理者資格取得には、実務経験が必要なく試験のみで取得できる資格です。転職を考えたときに、公害防止管理者資格を持っていても実際に公害防止管理者に選任されて実務を行った経験がないことはありえます。果たしてそれでも転職可能なのでしょうか?

転職活動を始める前に、そのあたりの疑問を解決しておけば、戦略的に効果的な転職活動を行うことができます。また、実情を知っておけば、自信を持って企業にアピールすることができます。十分な情報収集は、転職成功するには必須の条件です。

ここでは、「公害防止管理者資格が求められる業種と未経験者の評価」「公害防止管理者の有資格者を求める求人例」「公害防止管理者の資格手当・年収」などについて詳しく説明します。

もくじ

公害防止管理者資格が必要な業種を知る

公害防止管理者資格を活かして転職活動をするなら、まず公害防止管理者の有資格者がどのような業種で求められているのかを知っておかなくてはなりません。また、そのような業種ではどのような職種で、どのような内容の仕事をしているのかを合わせて知っておきましょう。

まず、公害防止管理者の有資格者を事業所に配置しなければならない業種は、製造業、エネルギー供給業(電気・ガス・熱)です。求人を探すと、これらの業種の企業から求人が多く出されています。

また、法的に公害防止管理者の有資格者が必要ではない業種として、調査業務を行っている業種(技術サービス業など)が選択肢になります。これらの業種は客先の環境測定をする業務で、信頼性を高めるために社員の公害防止管理者取得を歓迎しています。

この表を念頭に置いて、あなたの経験を踏まえた上で転職・再就職先を探します。

オペレーターではなく管理側の資格である

では、これらの業種で働くとき、どのような職種で働くことになるのでしょうか。多くの場合、「設備管理」「設備保全」と呼ばれる職種で働くことになります。

製造業であれエネルギー供給業であれ、プラントで製品を直接製造したり、工場の運転を直接担ったりする人材がいます。彼らは、「オペレーター」「製造職」「運転員」などと呼ばれます。

公害防止管理者は、何かを生み出す仕事ではなく、プラントから排出されるガス・水などが環境基準を満たすように設備を管理するのが仕事です。環境基準を満たすように公害防止管理者を設置しなければいけない事業者は、ある程度規模の大きい企業です。

組織の大きい会社だと、通常「生み出す仕事」と「(設備を)管理する仕事」は、別の人材が担当します。部門が分かれていることもあります。

したがって、これまでなんらかの「設備管理」をしてきた経験があると、採用試験で評価されやすいです。

公害防止管理者の実務未経験でも問題ない

また、公害防止管理者の資格を取得したものの、実際に公害防止管理者に選任された経験がない場合はどのように評価されるのでしょうか?

私自身、鉄道業から電気業に転職してから、下の「公害防止管理者(大気第一種)」資格を取得しました。

もちろん、公害防止管理者としての実務経験はありませんし、具体的な仕事内容も知りませんでした。それでも、電力プラントの公害防止管理者として選任されました。

公害防止管理者は、主担当と代理の2人を必ず選任しなければなりません。そのどちらもが未経験であることは、まずありません。私の経験から言っても、未経験であっても特に問題なく業務を行うことができます

また、同僚に製紙工場で機械担当として働いていた人がいます。彼は、技術担当として採用に関わっていたこともある人です。その同僚に、公害防止管理者資格についてどのように評価していたのか聞いたのが以下の内容です。

設備管理職に採用するときに、評価の高い資格がいくつかある。その代表的なものが「エネルギー管理士」「公害防止管理者」の2つだ。

これらの資格を持っていると、「努力して勉強できる人」「技術について高度な知識を持っている人」という評価をする

このように、公害防止管理者資格は転職で有利に評価される資格と言えます。

公害防止管理者の需要が逼迫しているわけではない

ただ、公害防止管理者資格は講習を受けることで取得することもできます。つまり、社内で公害防止管理者の有資格者が不足したら、講習を受けさせておけば、企業としては何の問題もありません。

このあとの求人例でも示すとおり、公害防止管理者資格を持っていることを必須条件としてしている求人は少ないです。それは、企業が公害防止管理者の有資格者を確保するのが易しいということです。

したがって、公害防止管理者資格を持っていることだけをアピールしても、採用担当者に響かない可能性が高いです。応募する職種で、あなたがどのように活躍できるかを合わせて示すと良いです。

例えば、設備管理職に転職する場合は、以下の例文が参考です。

  • 行政との折衝が得意です。環境だけでなく、消防など、認可・届出関係は任せてください。
  • 設備管理で、老取のコスト削減に自信があります。工事だけでなく、中長期的なコスト削減を実現します。

このように、公害防止管理者資格のことだけでなく、設備管理の仕事全体についてできることをアピールすると良いです。

エネルギー供給業の求人例

ここからは、実際の求人例を示しながら解説を進めていきます。

最初は、エネルギー供給業の求人例です。エネルギー供給業の中で、ボイラーがある業種(電気・熱供給)は、大気関係・水質関係の公害防止管理者資格が必要な場合が多いです。

例えば、下の写真のような火力発電所だと、大気関係と水質関係の公害防止管理者を設置しなければなりません。煙突から煤塵(ばいじん)と、冷却水として使った水を環境中に放出するからです。

実際の求人でいうと、下の箱崎ユーティリティ株式会社が公害防止管理者の保有を歓迎条件として挙げています。

箱崎ユーティリティ社は、福岡市の箱崎地区食品工業団地の熱(蒸気)供給・電気供給・水供給・廃水処理を一手に引き受けている会社です。したがって、熱・電気供給のためのボイラーがあり、公害防止管理者有資格者が必須です。

また、次に紹介するのは愛知県を中心に事業展開している東邦ガスエンジニアリング株式会社の求人です。この求人では、一般商業施設などの熱供給設備(ボイラー)を扱うため、公害防止管理者資格が「あれば活かせる資格」として記載されています。

小型の熱供給設備で排水が少なければ、水質関係の公害防止管理者資格は必要ありません。大気関係の公害防止管理者資格も、煤塵の排出量が少ないため、「大気4種以上」と記載あり、ハードルが低いです。

なお、東邦ガスエンジニアリング社は都市ガス供給施設の業務も行っています。

しかし、この求人では都市ガス施設に関わることはありません。会社名だけでなく、求人の仕事内容をよく読む必要があります。

ここまで紹介したエネルギー供給業関係の求人は、どれも公害防止管理者資格を持っていることを歓迎条件として挙げています。一方、公害防止管理業務については経験を問うていません

製造業の求人例

次に、製造業の求人を紹介します。製造業と一言でいっても、実は下表の24種類(日本標準産業分類)に分けられます。

食料品 印刷・同関連 窯業・土石製品 業務用機械器具
飲料・たばこ・飼料 化学 鉄鋼 電子部品・デバイス・電子回路
繊維 石油・石炭製品 非鉄金属 電気機械器具
木材・木製品
(家具除く)
プラスチック製品 金属製品 情報通信機械器具
家具・装飾品 ゴム製品 はん用機械器具 輸送用機械器具
パルプ・紙・紙加工品 なめし革・同製品・毛皮 生産用機械器具 その他

以上の、どの製造業でも公害防止管理者の有資格者を求める可能性があります。しかし、公害防止管理者を設置しなければならない事業場は、比較的大きな事業場に限られます。これは、大きな事業場のほうが環境に与える負荷が大きいからです。

したがって、小さな町工場ではなく数十〜数千人単位の従業員をかかえる工場が勤め先になります。

製造業で最初に紹介するのは、下図の株式会社オニマルです。福岡県みやま市にある高菜漬けのメーカーで、水質関係の公害防止管理者資格を有していることが歓迎条件になっています。

食品や飲料のメーカーでは、工場内を衛生に保つために水を使うことが多いです。例えば、下の写真は飲料の充填工程で、床には継続的に水が流されていました。

このように使われた水は、未処理で環境中に排出されることはありません。必ず排水処理施設で浄化されてから、環境中に排出されます。その処理状況を管理し、適切に処理水が排出されることを維持するのが公害防止管理者の役目です。

もう一つ製造業の求人を紹介します。以下は、長野県に工場を持つ合同会社ベルトン・トウトク・テクノロジーの求人です。この求人でも、水質関係の公害防止管理者資格が活かせる資格として記載されています。

ベルトン・トウトク・テクノロジー社の場合、切削工程などで大量の排水が出ます。したがって、その処理のために公害防止管理者を配置していると考えられます。

製造業の会社がエネルギー供給業をしていることもある

製造業の会社では、自社で火力発電所を持っていることがあります。自社工場に安定した電力を供給する目的です。自社工場で自家発電の電力を使い切れない場合は、電力会社に売却します。

例えば、下の写真は財閥系総合化学メーカーの工場内にある、石炭火力発電所です。

このような製造業の工場内にある火力発電所でも、エネルギー供給業の火力発電所と同じように大気関係・水質関係の公害防止管理者を選任しなければなりません

実際の求人例でいうと、下の株式会社神戸製鋼所の求人が該当します。この求人では、兵庫県神戸市の同社工場内にある神戸火力発電所の技術者を募集しています。公害防止管理者資格が歓迎条件に挙げられています。

神戸製鋼所の神戸火力発電所は、発電全量を関西電力に売却している発電所です。数は少ないものの、製造業でもこのようなスタイルの発電所は存在します。

火力発電所の仕事は、製造業におけるプロセス工場の仕事に類似しています。化学・石油・鉄鋼・紙などの生産工場で設備保全・エンジニアリングで働いているなら類似する仕事内容が多いです。現在このような職種で働いていると、転職してもすぐに慣れることができます。

また、製造業の求人もエネルギー供給業の求人と同様に、公害防止管理者資格保有を歓迎条件としているだけで、経験については不問です。

環境調査業務の企業の求人例

求人例の最後は、公害防止管理者資格が必須ではない業種の求人です。下図の株式会社富士清空工業所の求人が該当します。富士清空工業所は、岐阜県にある環境調査会社で、歓迎する資格として公害防止管理者資格が記載されています。

富士清空工業所は、製造業でもエネルギー供給業のどちらでもありません。では、なぜ公害防止管理者資格を歓迎条件としているのでしょうか。

富士清空工業所のような環境調査分析業務を行っている事業者は、企業などの環境調査分析の専門家がいない組織から調査を依頼されます。中には、製造業やエネルギー供給業の企業も調査を依頼します。

そのとき、調査する側の会社が環境基準を知らなくて調査・分析できるでしょうか? また、調査・分析を依頼した企業からすると、環境基準を知らない調査会社から出された報告書を受け取って、信頼性のおける調査報告と思えるでしょうか?

公害防止管理者資格を保有しているということは、環境基準などについて一定の知識を担保できるということです。また、資格保有者を社内に置いているということは、企業として対外的に環境調査・分析の信頼性をアピールできます

このような環境調査・分析業務を行っている企業でも、公害防止管理者の実務経験は不問です。

以上のように、公害防止管理者の実務経験を求められる求人はほとんどありません。求人を探すときは、公害防止管理者資格が条件にあるかどうかを中心に探していけばよいです。

公害防止管理者の資格手当・年収

最後に、公害防止管理者資格を持って転職したときの資格手当や年収について解説します。

まず、公害防止管理者資格保有で支払われる資格手当は数千円程度と考えてください。下は、株式会社総合環境分析の求人票です。公害防止管理者の有資格者には月に4,000円の資格手当が支給されると記載されています。

月4,000円を資格手当として支給されるということは、年収に換算すると48,000円増になります。ただし、資格手当が支給されるかどうかは企業によります。ちなみに私が勤めたことのある2社(鉄道業・電気業)では、どちらも公害防止管理者の有資格者には不支給でした。

次に、年収について解説します。最初に紹介した箱崎ユーティリティ社は、下記のように求人票に月給で182,200円以上と記載されています。年間15ヶ月分支給として計算すると、年収273万円以上と考えられます。

同様に、ここで紹介した求人について、求人票から年収の記載事項を抜粋してまとめたものが下表です。月給表示しかない会社は、年収に換算して記載しています。

会社名 提示年収[万円] 業種
箱崎ユーティリティ(株) 273~(最低保証額)
(求人票の月給表示×15ヶ月で計算)
電気業
東邦ガスエンジニアリング(株) 350~500 技術サービス業
(株)オニマル 360~480 製造業(食料品)
(同)ベルトン・トウトク・テクノロジー 300~370 製造業(情報通信機械器具)
(株)神戸製鋼所 400~700 製造業(鉄鋼)
(株)富士清空工業所 255~330
(求人票の月給表示×15ヶ月で計算)
技術サービス業

このように、提示年収は会社によってまちまちです。実は、会社が提示する年収は、業種の平均年収に左右されます

業種ごとの平均年収は、政府統計(賃金構造基本統計調査)によって公開されています。下のグラフが、公害防止管理者資格が求められやすい業種を抜粋してグラフ化したものです。グラフ中、青色が製造業、緑色が非製造業です。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

 

このように、業種により大きく平均年収が変わります。その差は、最も平均年収の高い業種と最も平均年収の低い業種で2倍近くあります。

資格手当による年収増を狙うよりも、平均年収の高い業種へ転職したほうが、長期的に高い報酬を得られやすくなります。また、入社初年度の提示年収が低くても、長く勤めたときに高年収になりやすいです。

したがって、「資格手当の有無は問わず、公害防止管理者資格が歓迎条件とされている平均年収の高い業種の求人」を探し積極的に応募することで、年収面で転職成功しやすくなります。

まとめ

ここまで、実務未経験の公害防止管理者資格の保持者が転職する場合について、詳しく解説してきました。

まず、公害防止管理者の有資格者が求められる業種は、「製造業」「エネルギー供給業」「技術サービス業(環境調査業務)」の会社です。求人は、これらの業種の会社からしか出されていません。

そして、職種は設備を管理したり、工場全体を管理する立場で仕事をしたりする職種が多いです。設備管理・設備保全の職務経験があるとあわせて評価されやすいです。

公害防止管理者は、稼働中の事業場であれば、まず需要が逼迫するものではありません。そして、通常複数人で業務に当たります。したがって、実務未経験者が応募できない求人はほとんどありません

ただ、公害防止管理者資格持っていることだけではアピールが不足するので、あなたの職務経験とあわせてアピール方法を工夫してください。

公害防止管理者資格保有に対して支払われる資格手当は、月額で数千円、年収換算で数万円程度です。資格手当の支払い有無は会社によるので、資格手当の有無を会社選択の決め手にするのは不適です。

公害防止管理者の有資格者が求められる業種は幅広く、平均年収の差が大きいです。したがって、政府統計などの信頼のおけるデータを参照し、平均年収の高い業種の求人に積極的に応募することで、長期的な高年収を得やすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

Follow me!