日本の産業を支える工場などを守る仕事として、機械エンジニアという職種があります。また、大規模施設にはエレベーターやエスカレーター、空調など、たくさんの機械設備があります。これらは、機械エンジニアが支えています。

機械エンジニアと聞くと、とても敷居が高く思えます。この仕事には、実務未経験で就くことができるのでしょうか。

実は、機械エンジニアにも様々あり、未経験者でも就きやすい仕事はあります

今回は、未経験者にもおすすめできる機械エンジニアの仕事とその内容、求められる資格・スキル、実際の求人について解説します。

もくじ

未経験者には機械保全がおすすめできる

これまで機械系の仕事をしたことのなかったあなたが、新しく機械系の仕事につきたいと考えたとき、おすすめできるのは機械保全の仕事です

機械保全とはいわず、(機械)設備管理、機械保守ということもあります。これらはほぼ同じ意味で使われています。

機械系の仕事は保全のほかに、設計や開発・工事などがあります。それらの職種は、求められる知識量や経験量が高く、初心者にすすめられるものではありません。

私が以前勤めていた鉄道会社では、機械系の職種というと「駅などの機械設備を担当する職」「車両を担当する職」があります。駅の機械設備とは、下の写真のような「自動改札機」や「券売機」などです。

どちらの場合も入社すると、まず保全から担当します。車両の場合は、「保全」とはいわずに「検査」と表現することが多いです。しかし、機械の機能を維持・管理していくという意味で、保全ともいえます。

そして、何年か保全を担当した社員は、工事や設計など難しい仕事を担当することになります。

これは、大卒でも高卒でも同様のプロセスを踏みます。これは、保全が技術的に基本であり、難易度が低いからです。知識の少ない新卒の社員でも、少しの研修で問題ないレベルで仕事ができます。

私も、入社後7年間の保全を担当しました。そのあと、鉄道の新設工事設計を担当しました。

7年間も保全を担当したのは、同期の中でも長い方です。しかし、長い下積みとしての保全の仕事で得た経験と十分な基礎があったからこそ、新設工事設計の仕事をやり遂げることができました。

このような理由からも、未経験で機械系技術職に転職を目指すなら、機械保全を一番に考えると良いです。

将来的に、難易度の高い「設計」「開発」などの職種に就きたいとしても、保全と両方の部門がある会社を選択し、「保全→設計・開発」と歩むと、途中で挫折することが少ないです

機械保全業務の基本的な考え方

では、保全の仕事とはどのような仕事でしょうか。基本は、下の図のように「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルを回して、設備が故障しないように管理することです

それぞれの項目で、具体的行う仕事の内容は以下のとおりです。

  • 検査:機械設備を、適切な周期で検査します。毎日行うものや数年周期に行うものもあります。周期の短いものは、主に外観からわかる変化を捉えます。周期の長いものは、設備を止めて分解して行います。
  • 分析・評価:検査により得られたデータをもとに、分析し評価します。定性的なデータで、機器に故障の兆候が見られるときは、改めて定量的な検査をして、再度評価することもあります。また、経時的にデータを追うことで、経年劣化を予想します。
  • 対策検討:分析評価のフェーズで対策が必要となったとき、どのような対策を取るか検討します。このとき、予算状況を勘案して決定します。故障の兆候が現れたときは、機器の交換が基本ですが、予算や機器の重要度により、全体なのか一部なのか判断します。
  • 対策実施:検討結果の対策を実施します。

この中でも、検査・分析・評価のフェーズが重要です。対策検討や対策実施は、誰がやっても同じような結果になります。しかし、検査・分析・評価は、僅かな変化に気づく感性が必要です。この僅かな変化を捉えて機械を管理していくのが、保全の醍醐味ともいえます

実際に、検査をするときには、視覚・嗅覚・触覚・聴覚を使って、下図のような項目に注目します。

この中でも特に、聴覚が大事です。私が現在勤める電力プラントでは、上長がよく「機械設備は音に注意するんだ」といいます。その上長は、朝早く職場に来ては、聴診棒を持って構内を何度も巡回しています。

聴診棒とは、下の図のようなものです。

この聴診棒は、下の図のように白い玉の部分を耳に当て、反対側の端を音を聞きたい対象物に当てて使います。

引用:有限会社山口商店 商品紹介ページより

この聴診棒の原理は、聴診器と同じです。この棒を使うことによって、管内を流れる流体の音や、モーターなど回転機の風切り音や軸音がよく聞こえます。

聴診棒で聞き取った音がいつもと違うということは、外からは見ることのできない内部に何らかの変化があるということです。

その変化が一時的なものならば、問題無いことが多いです。しかし継続するときや、さらに変化する場合は注意が必要です。このようなときは、検査を追加します。具体的には、温度を測ったり、X線写真を撮ったりします。

機械保全とは、このようにして機械設備が故障しないように、管理していく仕事です

機械工は、機械エンジニアとはいえない

機械エンジニアと一緒に、よく聞く職種で「機械工」という職種があります。機械工は技能職で、技術職である機械エンジニアとは呼べません

この違いをわかりやすく説明するのに、私が学生時代に、そのご勤めることになった鉄道会社からのリクルーターの言葉を借ります。このリクルーターは、モーターを例に、技術職と技能職の違いを、下記のように説明してくれたのを覚えています。

モーターが、1ヶ月で必ず故障するとする。そのままだと事業に差し障りがあるから、すぐに修理しなくてはならない。

このとき、今まで1時間かかって修理完了していたのを、40分で修理完了できるようになったら、これはいいことだよね。

しかし、技術職(エンジニア)として君らを採用するからには、1時間を40分にする能力は求めていない。これは技能職の仕事だから。

技術職は、なぜ1ヶ月に必ず故障するのかを突き止め、故障頻度を2ヶ月に1回や、それ以上に持つような設備にするのが仕事だ。

このように、目の前の現象のみに注力するのは技能職で、技術者はその現象の背後要因や今後の管理まで含めて仕事をする必要があります。

あなたは機械エンジニアを目指しているので、将来的にはこのような広い視点で技術力を発揮する人材となることを意識してください。

機械エンジニアに求められる資格は何か

機械保全の求人へ応募するにあたって、必要な資格はあるのでしょうか。

実は、機械保全を行うのに必ず持っていることが求められる資格はありません。機械保全は、チームで行うことがほとんどです。機械保全で使う資格は、そのチームの誰か一人が持っていれば問題ない資格が多いです。

下の図は、三菱ケミカル株式会社の求人で、対象となる方の欄です。

これには、機械系学科を卒業していること以外は求められていません。

歓迎条件として挙げられている資格は、取得しているのなら採用試験のときに大いにアピールできます。しかし、取得していないのなら入社後に取ればよいです。

この求人でいう「発電所関連資格」は、ほかにもいくつかあります。代表的なもので「危険物取扱者(乙種4類)資格」「高圧ガス製造保安責任者資格」「クレーン資格」「玉掛け作業者」「公害防止管理者資格」「ボイラー主任技術者資格」などです。

これらも同様に、今取得していないのなら入社してから取得すれば良いものです。

どうしても資格取得したいのなら、転職活動をしながら取得すると良いです。今資格試験に挑戦中と伝えることで、進んで自己研鑽(けんさん)できる人材であることをアピールできます。その場合は、希望する会社が求める資格を受験することが重要です。

電気の知識があると応募できる求人の幅が広がる

資格ではありませんが、電気に関する知識があると応募できる求人の幅が広がります。これは、機械分野といえども電気を使って制御や動かすことが多くなってきたからです。

これを機械分野のうち、「計装制御」という分野を例に説明します。下は、管路を流れる流体を、流量計と流量調整弁を用いて流量制御する場合のモデル図です。

上図の、左から右に流体が流れているとします。流体は、羽根車である流量計を回します。流量計は回転量を、振り子を使って上下の動きに変換します。この上下の動きを、機械的に接続された弁に伝え、弁の開度として制御します。

かつては、このように制御といっても機械的な機構で構成されていました。どのくらいの流量でどのくらいの弁の開度にするかは、振り子の重さやリンク機構の長さなどで調整していました。

しかし、現在では計装制御の分野は、電気通信と計算機なしでは成立しません。

下の図は、さきほどの流量制御を、電気通信と計算機を用いて実現したモデル図です。

先程と同様に、図の左から右に流体が流れています。この流体が流量計の羽根車を回すところまでは同じです。

しかし、電気通信を用いたこのモデルでは、回転数を変換装置Aで、電気的なデータに変換します。そのデータは、通信路に乗って監視制御装置に送られます。

監視制御装置は、そのデータをもとに最適な弁開度を演算し、制御信号を出します。制御信号は、変換装置Bに送られ、機械的な動きに変換されます。こうして、流量が調整されます。

さらに流量計も、羽根車のような機械的なものではなく、超音波を使って測定するものもあります。そうなると、機械的なものは流量調整弁だけです。

図中、黄色の矢印で示したものはデータの流れです。この部分は、電気的な知識があると非常に理解が早い部分です。

このような進化により、日本の産業はより精緻な制御が可能になり、今の高品質なものづくりを実現しています。産業分野では、機械的な要素だけで動いているものはかなり少なくなりました。

さらに計装制御の分野で保全を行っているのは、歴史的に機械系統から派生した分野であることから、機械の仕事とされていることが多いです。

つまり、機械系エンジニアでも電気の知識を持っていることは強みです。また、今後機械の技術職といえども、電気の知識を求められる場面は、さらに多くなると考えられます。

転職サイトに見る機械技術職の求人

では実際に、未経験でも問題ない機械系求人の例を見ていきましょう。転職サイトには、機械系の求人はたくさん掲載されており、見つけるのは容易です。

まず紹介するのは、上の資格の項でも紹介した東京に本社のある三菱ケミカル株式会社です。下に、求人票の仕事内容を記載した部分を示します。この求人では、富山の工場での勤務が前提です。

この会社では、工場に電力と蒸気を送っている火力発電所を持っています。経済産業省の発電事業者一覧にも社名の記載があり、工場内の電力使用だけでなく、一般需要家に販売もしています。

大規模工場を持つ会社で、自社の電源を独自に確保するために発電所を持つ会社は、ほかにもたくさんあります。このような会社では、同様の求人が出る可能性があります。

発電所と聞くと、電気系の仕事のように思えます。実際、私も電力プラントに勤めるまで、電気設備が多いのかと勘違いしていました。実は、発電所の9割が機械設備です。

下の写真は、ある発電所の写真です。

この写真のように、外部から見えるところに送電線や変圧器があり、さも電気設備がたくさんあると思えます。

しかし、中央に見える建物の中で電気設備は発電機だけであり、タービン、ボイラー、環境設備、給排水設備、燃料設備など多くが機械設備です。

また、仕事の内容に、設備保全(既存設備の運転管理、改良、保全)のほか、「新規設備の計画立案、設計、施工管理」「新技術導入による設備、運転高度化検討」が記載されています。

上でも書いたように、未経験で入社後、難易度の低い保全で実力を蓄えたあと、難易度の高い新規設備や新技術導入に関する仕事にステップアップするものと考えられます。

それには5年10年単位の時間がかかります。したがって、長く続けているうちに、やりがいを見出す職種といえます。

この求人における予定年収は、下図のように400~700万円と記載されています。

次に紹介するのは、東京に本社のある三菱電機ビルテクノサービス株式会社の求人です。下記は、この会社の求人の仕事内容の欄です。

この求人は、据え付けられている機械が自社内ではなく、社外にあって、その保全などを行う職種(フィールドエンジニアリング)を募集しているものです。

この会社は、ビルの昇降機や空調設備、さらにそれらを監視する設備などを総合的に販売しています。この求人では、昇降機のフィールドエンジニアを求めていますので、入社後は客先のビルなどに赴き、エレベーターやエスカレーターの点検などを行います。

下図は、同じ求人の求める人材の欄です。

高卒以上で、未経験でも問題ないことが明記されています。注意点としては、記載されていませんが、フィールドエンジニアなので、コミュニケーション能力が多少なりとも求められる点です。

コミュニケーション能力が必要というのは、どういうことでしょうか。これは、フィールドエンジニアリングは、客先に出向いて仕事するため、お客様と直接話す機会があるからです。

社外に出て仕事をするため、人見知りが激しいと仕事にならないです。

また、昇降機が不具合を起こして呼び出されたときは、お客様は不機嫌であることが多いです。そのようなときは、言葉遣いや仕草も丁寧であると、機嫌を直してくれることもあります。

このように、技術職といえども対人的な礼儀・作法が求められることは覚悟しておく必要があります。

この求人の給料と数年後のモデル年収は、下図のとおりです。

入社3年で、月給22万、諸手当賞与込みで年収が540万円と記載されています。修士了で「月給22万円~」とあり、同じく年収は540万円ほどと考えられます。

同じ条件なら、単純に「年収=基本給×24.5ヶ月分」として、高卒は400万円程度の年収になると推定できます。

最後に紹介するのは、株式会社クリアスの求人票です。本社は東京で、関東・中部を中心として全国に事業展開しています。下に、仕事内容の欄を示します。

これは、上下水道プラントや清掃プラントなどの運転員を求める求人です。

私が勤める電力プラントもそうですが、プラントの運転自体は他社に任せているところは多いです。運転員と行っても、監視センターに座ってモニターを眺めているだけでなく、先に紹介した身体感覚を使った検査・点検を行います。

また、機械への潤滑油塗布や消耗部品の取替など、簡単なメンテナンスは運転員が行います。

さらに、交代制で365日24時間プラントの運転を支えます。したがって、夜勤はあり、土日が休みとは限りません。

私も鉄道会社に勤務していたときに、指令員(プラントの運転員に類似した仕事)を2年半担当したことがあります。

常態的に夜勤ありで、土日休みでないのはきついと感じる部分も多いです。しかし、夜勤手当がつくことと、平日に休めるのは魅力的でした。

このように運転員の仕事は、生活リズムが不規則になりがちです。仕事内容も大切ですが、不規則な生活でも苦にならない人が、特にこの仕事に向いてる人といえます

この求人で「求められる人材」の欄を、下図に示します。

図のように、未経験でも全く問題ない求人です。

私の職場である電力プラントの外注運転員は、文系卒で以前自動車販売をしていたといっていました。実務未経験で運転員になって2年近く経ちますが、立派にプラントを支える一員になっています。

下図に、この求人の給料について記載されている部分を示します。

求人票にもホームページにも年収の記載はありませんので、各種手当を年間2ヶ月分、ボーナスを年間4ヶ月分として試算してみます。結果は、360~468万円です。

機械エンジニアになるには、以上のような求人に類似した求人を探すと良いです。

まとめ

機械系の実務未経験者が、機械系エンジニアを目指す場合、おすすめできる職種は機械設備保全です。機械保全には、即戦力として求められる知識や技能があまりなく、難易度が低いことがその理由です。

しかし、保全業務を通じて実力を蓄えれば、難易度の高い設計・開発などにも進むことが可能です。

保全業務の基本的な仕事は、「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルを途切れなく回して、機械設備が故障することなく管理することです。

この中では、身体感覚をフルに活用して「検査」「分析・評価」に重点を置いて仕事をすることが大切です。

機械エンジニアとともによく聞く職種で、「機械工」という職種があります。機械工は技能職で、求められるものが全く違うので注意が必要です。

機械系エンジニアになるのに、必須の資格はありません。個人ではなく、会社として資格者が必要になる場合がほとんどなので、入社してから資格取得を求められることになるでしょう。

また、機械設備といっても、近年では電気技術を用いるものが増えています。電気に関する知識があれば、重宝されます。選択できる仕事の幅も広がります。

転職サイトなどを利用し、ここで紹介したような求人を探すことで、希望する機械系エンジニアへ転職成功しやすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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