電気主任技術者資格(電験)は難関資格として知られており、一朝一夕の学習・経験では取得することができません。あなたも大変苦労して取得したのではないかと思います。
ひょっとすると、職場で後進の指導や技術資料をまとめる役割を担っているのではないでしょうか。私も電験を取得したあと、社内勉強会の講師役や技術検討会に出席することが増えました。
このような人に教える仕事は、後進の成長を目の当たりにでき、さらに自分の成長も見込める大変楽しく、やりがいのある仕事です。片手間で教えるだけでなく、本格的に教える仕事をやってみたいと思うのは自然の流れです。
人に教える職業といえば、学校の先生(講師)がすぐに思い浮かびます。では、電気主任技術者として学校の先生として働く求人はあるのでしょうか? 今回は、電気主任技術者資格を活かした専門学校講師への転職の考え方、大学講師求人の考え方を解説します。
もくじ
専門学校の講師は転職サイトに求人が出やすい
電気主任技術者資格が活かせる講師の求人は、専門学校の講師だと比較的容易に見つかります。例えば、下図のような求人です。この求人は、東京都新宿区で開校している学校法人電子学園の求人です。必須条件として、第三種電気主任技術者資格が挙げられています。
このほかにも、次のような求人もあります。下図の求人は、大阪市で大阪電子専門学校を運営している学校法人木村学園の求人です。第三種電気主任技術者以上の資格が必須条件の1つとされています。
このような専門学校の講師(教員)の求人は、転職サイトを探せばすぐに見つかります。ただし、地方にこのような専門学校はなく、勤務先として東京・大阪の大都市部に限られることに注意が必要です。
上記の専門学校とは少し色合いが違うものの、企業の研修施設で講師として働く求人もあります。例えば下の求人は、DOWAホールディングスの求人です。この求人は、静岡県にある同社の磐田テクニカルセンターで社員教育をする社員を募集するものです。この求人では、第三種電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。
電気主任技術者資格を活かして講師として人に教える仕事の求人は、類似の求人を探していくことになります。
では、このような講師の年収はどのくらいが提示されているのでしょうか。例えば、先に紹介した学校法人電子学園の求人だと、年収は下図のように400~650万円と求人票に示してあります。
そのほか2社の提示年収は、求人票を見ると学校法人木村学園が「300万円~」、DOWAホールディングス社が「300~560万円」と提示されています。給与所得者の平均年収は441万円(国税庁 平成30年民間給与実態統計調査)ですので、平均的な給与水準といえます。
また、求人が見つかると言っても数は少ないです。転職エージェントを通して非公開求人を紹介してもらい、できるだけたくさんの求人を見つけることが転職成功への必須条件です。
専門学校では、電験の知識より現場の経験を求められる
専門学校の講師の求人に、電気主任技術者資格が有効なのにはいくつか理由があります。
一つは、専門学校が技術・技能を身につけるための教育機関であるためです。専門学校に求められるのは、「就職率の良さ」です。つまり、「企業に入社したあと優秀な技術者として活躍できる人材を送り出せるか」が強く求められます。したがって、現場で使える電気の知識を教えられる必要があります。
求人票にも、試験としての知識ではなく、あなたが現場で培った知識・経験を学生に教えるということが記載されています。
電気主任技術者資格は、難関試験といえども実務経験や実技試験・口頭試問などがなく、筆記試験だけで取得できる資格です。取得者の中には、頭でっかちで電気設備の現場のことなど知らない人もたくさんいます。
私が以前勤めていた鉄道会社では、20代で電験三種を取得するのが通例になっていますが、資格は取れても電気設備について首を傾げるような人がたくさんいました。これでは、人に教えられるはずはありません。
また、電気主任技術者資格は主に強電について扱う資格です。しかし、強電の現場には機器を操作するための下の写真のような制御・システム・通信の設備がたくさんあります。
現場で活躍できる人材を育てようとするなら、強電ばかりに偏った人材ではなく、弱電設備もある程度理解できる人材を育てる必要があります。現実には、たくさんの弱電設備が強電の現場にあります。
あなたが教師としてのプロフェッショナルではなく、電気主任技術者資格を活かして専門学校講師になろうとするなら、求められる力は現場で使える力だということを忘れてはいけません。
大学の講師募集に電気主任技術者資格は必要ない
次に大学の講師募集の求人があるかどうかについて解説します。これは、電気主任技術者資格が有効に働く求人はないと考えてください。
大学は教育機関であると同時に研究機関です。講師と名前がついていても、「助教→講師→准教授→教授」と続く研究職の序列の一つでしかありません。研究職に電気主任技術者資格は必要ありません。
例えば、近畿大学産業理工学部電気電子学科の教員募集では下記のように講師を含む教員募集で、資格として挙げられているのは博士号の資格です。そのほか、研究や教育に関する実績が求められています。電気主任技術者資格に関することは記載ありません。
電気主任技術者資格は電気保安のために必要な資格であり、研究職についてなんら実力を証明するものではありません。資格試験の内容も、現存する電気設備に関する知識や技術力を問うものです。研究職に求められる未知の分野に対する向き合い方などは含まれていないのです。
大学の研究職には、学会での発表実績(執筆論文の提示)や研究実績のほうが求められます。
私の学生時代には、助教(当時は助手)として働いていた教員が、学生に対して「就職のために電気主任技術者試験(電験)を取得しろ、というのだから自分も取得すべきだろう」という理由で、電験を取得していました。この事実をしても、大学助教としての採用に電験が不要ということがわかります。
大学職員→助教→講師へステップアップする方法がある
直接大学講師になることが無理でも、一旦大学内に職員として転職してから助教を経て講師を目指すこともできます。この場合、
- 職員への転職には、電気主任技術者資格が有効であること
- 学内では情報が入りやすいこと
という2つの利点があります。
大学の技術職員として転職する場合、教育支援系または施設系の仕事をします。教育支援系だと、学生や教員の実験・研究支援を行います。
一方施設系だと、下の写真のような非常用発電設備や学内の電気設備を維持管理する仕事や、中央監視室で故障監視する仕事があります。これらは、一般的な企業の設備管理職と同様の仕事です。
このうち、施設系だと電験が有用なのは一般の企業と同じです。大学であっても、高圧以上で受電していれば電気主任技術者を選任する必要があります。例えば、下に示す京都大学の技術職員募集の求人では、電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。
職員として学内に入職できると、研究職の講師として採用されるにはどのように手順を進めていけば良いか情報が入りやすくなります。求めている研究者像や採用の要件など、学外にいるよりくわしい情報が手に入りやすいです。
このほかにも、ある地区の大学・高等専門学校などが合同で求人を出すことがあります。下図は、北海道地区国立大学法人などが合同で採用を行っている求人です。大学のほか、工業高等専門学校が勤務先になります。
大学講師を目指すなら、このように一旦技術系職員を目指すのも有効な手段です。
ただ、大学に勤める友人に聞いたところ、大学職員への中途採用は大変人気ということです。つまり、倍率が高く、転職成功させるのは難しいです。さらに倍率の高い求人の場合、応募者が殺到するのを防ぐため、非公開求人として募集することがよくあります。
非公開求人は、転職エージェントを介してのみ紹介されます。また、学校がどの転職サイトに求人を出すかはわかりません。したがって、転職成功させるためには複数の転職サイトに登録して非公開求人の紹介を受けることが必要です。
まとめ
電気主任技術者資格を活かした講師への転職を考えるとき、専門学校講師であれば、電気主任技術者資格が有効な求人はあります。しかも、プロとして教えた経験がなくても問題ない求人が多いです。
ただし、学生に対して卒業後すぐに現場で活躍できるような知識技能を身に着けさせる必要があります。試験で得た知識だけでなく、あなたが実際の現場で培った経験も合わせて伝える必要があります。
なお、専門学校の公開求人は東京・大阪の大都市部の学校から僅かに出ているだけです。転職活動では、転職エージェントから非公開求人の紹介を受けるなど、たくさんの求人に当たることが転職成功させるためには必要です。
一方、大学講師への転職は難しいです。大学講師に求められるのは研究実績で、電気主任技術者資格が担保する技術者としての能力ではないからです。
しかし、設備系の大学職員に転職するなら電気主任技術者資格が役に立ちます。直接大学講師になる方法ではないものの、一旦大学職員として働きながら職場のごく近くで講師になるための情報を得るのは良い方法です。今研究職に就いてないなら、将来的に講師になるために働きながら情報収集できます。
設備系大学職員なら、転職サイトにも求人が出ることもあります。転職エージェントに予め大学職員に転職したい希望を伝えておいて、求人が出てきたらすぐに紹介してもらうといった工夫をしましょう。さらに非公開求人を積極的に探すことで、転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。