電気盤は、業務用途でよく使われるものです。一般住宅で目にすることはほとんどありませんが、産業やインフラ・公益設備では必ず使われるものです。

また、常時監視やより細やかな制御を求めるユーザー側の要請から、高度化が進んでいます。これに伴い、電気盤製作に求められる技術水準も高くなり、電気技術者へのニーズも高いです。

これらの電気盤は扱う範囲が広いため、未経験者が転職しようとしたときに闇雲に探したとしても成功しにくいです。また、経験を活かそうとして視野が狭くなると、優れた求人を見落とすことにつながります。

あなたが自分の能力を活かせるような満足できる転職を叶えるには、十分な業界研究と情報収集が必要です。

ここでは、電気盤製作の種類、求められる資格・スキル、年収の実際を詳述します。

もくじ

電気の盤を製作している会社と求人を知る

電気の盤とは、下の写真のような箱で、電気回路や制御回路をひとまとまりにして収めたものです。

箱なのに盤というのは少し違和感があるかもしれません。これは、盤が単独自立するものばかりではなく、壁面に埋め込まれて一枚の板のように設置されることもあるからです。

そして、配電盤、分電盤、制御盤、監視盤、通信盤、端子盤など、用途によってさまざまな盤があります。

当然、盤の種類ごとに製作できる会社は変わります。もちろん、求められる技術・スキルも変わります。

まずは、電気の盤に関する求人がどのように出されているかを十分把握することが、満足できる転職にする秘訣です。

動作の簡単な盤(分電盤・端子盤など)を設計製作する企業

ここからは、実際の求人例を紹介していきます。どのような仕事内容で、どのような人材が求められているかを確認しましょう。

最初は、比較的動作の簡単な盤を作る企業について解説します。動作の簡単な盤とは、分電盤・端子盤など既存の部品をカスタマイズなしに組み立てられる盤を指します。

例えば、下図の株式会社九州栄電社の求人が該当します。本社は福岡県久留米市にありますが、東京にも拠点があります。この求人は、東京拠点の人材募集の求人です。

求人票にあるように、よくある分電盤は三菱電機製などのMCCB(NFB)をアッセンブルして製作します。MCCB以外の部品も、原則社外からの購入品です。

製作手順は、顧客からの要望を受け、仕様を決めます。分電盤の仕様は、盤の大きさ、主幹容量、分岐数、負荷容量を把握します。この仕様に適合した電気部品を調達し、分電盤として組み上げます。

制御盤の製作だと、分電盤より求められる技術は高度になります。例えば、「モーターの入切を押釦スイッチで行い、動作状況などを緑・赤・白のランプで表示する」制御回路は、以下の図のようになります。

このようなシーケンス図を作り、あとは適切な電気部品を調達してアッセンブルするのは分電盤と同じです。下の写真のようなミニチュアリレーやタイマー、開閉器などを組み合わせて製作します。

ただし、作り終わったら動作確認試験をする必要があります。設計したとおりに機器が動作するかどうかを、試験表を作成して確認しエビデンスとして残す必要があります。なお、この程度の盤製作であれば、技術習得は容易です。

私が23、24歳くらいのときに、当時勤めていた鉄道会社で訓練として同じような盤製作をしていました。電気工事士資格を持っていない素人2人が、半日もすれば作れるようになります。

そのような背景もあってか、簡単な動作の盤だけを製作する求人は数が少ないです。ちなみに九州栄電社の求人では、更に高度な盤製作も行います。

下図のように、求めている人材の経験・資格不問なので、分電盤・制御盤製作は盤製作の入り口として用意していると考えられます。

このような求人は転職時点での電気の技術力が不要で、新しく盤製作に携わりたいときに敷居が低いです。一方、求人数が少ないので、根気よく探していく必要があります。

動作の複雑な高度な盤(制御盤・配電盤)を設計製作する企業

単純に近くに設置されたモーターなどの電源を入切するだけでなく、モーターの状態監視や遠隔操作をするときには、複雑な機能を持った盤を製作する必要があります

近年の生産現場・工場におけるプロセス制御であってもシーケンス制御であっても、高度な信頼性・精度が求められるようになっています。それに伴い、細やかに高精度で制御の行える電子化された盤が多く出回っています。

さらに、従来はハードウエアで作られていたスイッチ類を、ソフトウエアで実装したタッチパネル式の操作盤が開発されています。下の写真のような盤で、GOT(Graphic Operation Terminal)と呼ぶ会社もあります。

この表示器・GOTは、コンピュータープログラムによって作成されています。

電子化された盤を作っている会社の実例を示すと、下図の大阪府にあるイノウエシステム開発株式会社が一例です。この求人は、盤の配線・製作のほか、制御盤と内部で使われるソフトウエア製作などの人材を求めるものです。

イノウエシステム社は、食品・飲料・医薬メーカーから受注して、生産用機械の製作を行っている会社です。メーカーで使われる制御方式には、シーケンス制御とプロセス制御があります。

この2つの制御方式に対応した有名なPLC(Programmable Logic Controller)は、三菱電機製のMELSECです。ほかにもキーエンス、オムロンなどがPLCを製作しています。下写真は、三菱電機社のPLCの例です。

なお、三菱電機社はPLCをシーケンサと呼んでいます。PLCは三菱電機社のシェアが圧倒的に大きいため、PLCとシーケンサは全く同じ意味で使われることが多いです。

これらのPLCを使って制御を構築するとき、専用のソフトウエアを用います。三菱電機製品だと、GX Worksというソフトウエアです。

シーケンス制御なら、ラダープログラムを組むことになります。ラダープログラムとは、下写真左図のようにリレーシーケンス回路を下写真右図のように描いたプログラムを言います。

写真 : 『シーケンス制御技術』産業図書 小野孝治ほか著 9ページ

このような制御関係の経験があるなら、即戦力として採用されます。例えば、以下の株式会社大洋電機製作所は制御盤の設計でソフトウエアの制御技術者を優遇して求めています。

電気盤の求人は、これらに類似した求人を探していくことになります。

電気盤設計製作に必要な資格やスキル

では、電気盤の製作をするのに必要な資格や、転職するのに有利な資格はあるのでしょうか?

実は、盤製作に必要な資格はありません。その資格を持っていないと盤製作をしてはいけないという資格はないのです。

例えば電気系の資格で有名なものには「電気工事士資格」があります。この資格は、電気工事をするために必要な資格です。つまり、メーカーが盤を製作するのには関係ありません。

ただし、盤を現地で据え付けする場合は別です。この場合、電気工事士資格が必要になるケースがあります

一例を下図に示します。以下の有限会社新協和計装の求人では、配電盤設置を行うと記載されています。このような会社では、電気工事士資格を必要とする場合があります。

新協和計装社は、新潟市にあるJFE精密株式会社の配電盤を含む電気設備の製造・設置・保守を中心に扱っています。そのほか、五泉市にあるデンカ生研株式会社の工場設備の案件も担当しています。

この求人で書かれているようなフィールドエンジニアリングでは、盤を設置するときに電源線を布設したり、接続したりすることがあります。電源線布設・接続には電気工事士資格が必要です。

新協和計装社の求人で対象となる方の欄を見ると、第一種電気工事士または第二種電気工事士資格が歓迎条件とされています。

必須条件ではなく歓迎条件とされているのは、電気工事士資格が必要な業務ばかりではないからです。盤製作や保守・点検には電気工事士資格は必要ありません。電気工事士資格を持たずに入社したなら、まず資格が必要ない業務を担当します。

しかし、電気工事士資格を持たないと業務の幅が狭まるので、早いうちに資格取得することを促されることになります。

一方、有利になるかという観点でいうと、盤設置が業務になくても電気工事士資格が役立ちます

電気工事士資格は、制御盤配線作業をするのに活かせます。電気工事士資格は保持していなくても盤内配線作業はできますが、電気工事に似た作業もあるので技能を活かすことはできます。もちろん資格だけでなく、実際に配線できる能力が必要です。

下図のイノウエシステム社では、電気工事士資格者が歓迎されています。先に紹介したように、盤内配線があるためです。

そのほか、必要なスキル・役立つスキルとしては、プログラムに関する知識・経験があると良いです。

PLCを使ってラダーシーケンスを組むときなどは、実際に汎用言語を使って組むわけではありません。グラフィカルな操作でプログラムを組んでいくことが多いです。

操作性や製作方法は異なるものの、モノを動かす考え方は同じです。つまり、ロジカルに考えられる力が必要です。

私は、学生時代にC言語でプログラムを組んでいたことがあります。このようにプログラムに関して素地があったため、就職して電鉄用変電所の操作・保護シーケンスを読むことになっても対応できました。

プログラム的な考え方はクセがあるので、慣れていないと苦労します。読むだけならまだしも、書く・作るとなると、仕事として身につくまでに時間がかかります。

盤製作の求人案件で制御ソフト製作が業務内容にあるときは、このようなプログラム経験や知識が役立つことを覚えておきましょう。

盤設計製作メーカーの年収

最後に、盤製作の会社の年収について解説します。冒頭に紹介した九州栄電社の年収は、下図のように求人票に375万円以上と提示されています。

同様に、ここで紹介した会社の年収を求人票から抜粋すると下表のとおりです。

会社名 提示年収[万円] 仕事内容
(株)九州栄電社 375~ 配電盤製作
イノウエシステム 400 制御盤製作(ハード・ソフト)
大洋電機製作所 400~700 制御設計(ソフト開発)
(有)新協和計装 300~550 配電盤製作据付

このように、盤製作の求人では400万円程度の年収が提示されることが多いことがわかります。

盤製作は産業分類でいうと、製造業のうち電気機械器具製造業と生産用機械器具製造業に該当することが多いです。この2業種の平均年収は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると前者が「570万円」、後者が「523万円」です。

また、年齢別に平均年収を見ると、下のグラフのようになります。

引用 : 引用:平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

このグラフから、20代後半なら430万円程度、30代後半なら530万円程度が業界の平均的な年収であることがわかります。あなたの年齢を勘案した上で、提示された年収が妥当かどうかを判断すると失敗を防ぎやすくなります

まとめ

電機盤は、配電盤、制御盤、監視盤など産業にとってなくてはならないものです。また、公的施設(インフラ、建物など)にも数多く納められているものです。

それらを対象にした盤製作・設置の会社は、動作の簡単なものから複雑なものまで数多くあります。どのような会社を希望するかによって求められるスキルが大きく変わります。 動作の簡単な盤は未経験でも転職しやすく、動作の複雑な盤は経験が求められます。

採用時に求められる資格は、電気工事士資格があります。ただし、必須としている企業は少ないです。そして、資格を持っていることよりも実際に電気配線などの技能を持っていることが重要です。

また、電子化された盤を製作するには、ラダーなどのプログラムに関する経験があると有利です。即戦力として期待されます。

電気盤製作の会社の年収は、400万円程度を提示されることが多いです。電気盤製作に携わる年収は、電気機械器具製造業と生産機械器具製造業の平均年収が参考になります。あなたの年齢を考えて提示年収を比べることで、年収面での転職失敗を防ぐことができます。


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