技術者として転職を考える場合、身につけた技術を使って製品を生み出したり、設備を管理したりする仕事に目が行きがちです。しかし、「技術営業(セールスエンジニア)」として働く道もあります

製品は技術的に優れていても売れるとは限りません。いかにお客様に納得してもらうかが大切です。技術営業職はお客様が製品導入を検討するときに、適切な情報を提供し製品購入に踏み切ってもらうことなどを目標に仕事をします。

このような特徴があることから、多くのエンジニアとは仕事に関する考え方や取組姿勢が変わってきます。例えば社外のお客様が相手になることから、社内で製品や製造ラインを相手にしているときとは違ったスキルが要求されます。技術営業職に転職するには、そのような特徴などを十分理解して転職することが大切です。

ここでは技術営業職について理解するために、「仕事内容」「技術営業に求められる成果」「求められるスキル」「年収」などについて詳述します。

もくじ

技術営業(セールスエンジニア)の仕事内容

技術営業職の仕事内容を簡単にいうと、「ある製品を客先に提示するときに、通常の営業職が説明できない技術的内容を提示して営業する仕事」です。営業とエンジニアの中間的な職種で、メーカー営業の一種です。職種として、セールスエンジニアと呼ばれることもあります。

規模の小さい会社だと、技術者が営業職と一緒に客先説明に赴くことで、技術営業職の仕事を兼ねることも多いです。したがって技術営業に人を割り当てているのは、ある程度大きな会社が多いです。

私は、技術者として下の写真のような配電盤を作る電機メーカーの営業職の方とも、技術営業の方とも仕事で付き合ったことがあります。

この大手電機メーカーの技術営業と営業の印象の違いは、下記のようなものです。

・技術営業職

顔を合わせるのは、打合せがほとんど。たまに酒席にも顔を出す。客先の技術的な質問・疑問には、矢面に立って回答する。製品不具合などの場合は、説明とお詫びに来る。

・営業職

打合せ、酒席など、客先との接点には必ず顔を出す。打合せのときも、受発注(契約、金額など)の話以外は、持て余している印象。技術的話題は、技術営業か、エンジニアに振る。酒席では、太鼓持ちもする。口が上手い。

私が付き合ったことのある技術営業の方は、エンジニアから異動で技術営業をしている人が多かったので、このような印象です。

特に印象に残っているのは、ユーザーが感じた技術的疑問に関して、ユーザーのレベルに歩み寄って解説してくれる点です。現場のエンジニアの説明ではあまりに専門的すぎて理解できない内容を、技術営業の人はユーザーの技術レベルに応じて適切に解説してくれ、判断にたいへん役立ったのを覚えています。

デバイスメーカーに勤める友人や工作機械メーカーに勤める後輩に技術営業のキャリアパスを聞くと、現場のエンジニア経験者が多いと教えてくれました。つまり、技術者のうち、営業的スキルが高い人が技術営業として活躍しています。

技術営業はきつい?求められる成果を把握する

あなたが今まで技術営業をしていて、技術営業職を探すなら特に注意すべき点はありません。希望に沿う優れた求人を見つければ良いです。ただ、職種を変えて技術営業職を転職先として考える場合は注意が必要です。この職種変更には、パターンが2つあります。営業職から技術営業職に変わる場合と、エンジニア(技術職)から技術営業職に変わる場合です。

それぞれのパターンで適合する求人は変わり、これを間違えると不幸な転職になりかねません。それぞれの場合で求められる成果が違い、あなたが得意でない分野の成果を求められることになると大変です。十分注意して求人を探す必要があります。

・エンジニア→技術営業職の場合

まず考えるのは、エンジニアから技術営業職に転職する場合です。この場合は、「技術要素が主体で、営業もできる」求人を探すと良いです。例えば、以下のようなアテック株式会社の求人が該当します。アテック株式会社は、愛知県に本社を置きエア漏れを調べる計測器を製造販売する会社です。なお、この求人は関東営業所(神奈川)での募集です。

 

 

客先に出向き機械の修理などをしながら、技術的な提案営業も行うことが謳われています。このような求人が、いわゆる「技術営業」の求人です。単に技術営業というと、この求人のような職種を指します。

今までエンジニアとして経験がある人が対象になるので、少なくとも工学・科学について学歴相当以上の知識がある想定で話が進みます。冒頭で述べたように、営業の補助として仕事をすることになります。

このパターンの技術営業職は新規顧客の獲得を目指すというよりは、「見込み客を説得するために詳しい技術的説明をする」「既存顧客の満足度向上のために出向いて説明する」などが主な業務になります。

したがって、新規顧客獲得ノルマや売上目標が課せられることは少ないです。実際に、さきほど紹介した求人でも「ノルマはない」と記載されています。

私の友人が技術営業をしていたときは、営業職も混在している部(課)として売上目標があったものの、個人には定性的な目標(顧客満足度への貢献など)しか課せられていなかったと教えてくれました。

エンジニア経験者は、このような技術営業職を探すとミスマッチを防ぎやすいです。

・営業職→技術営業職の場合

営業職から技術営業職へ転職する場合は、「営業が主体で、技術的な提案・検討もできる」求人を探しましょう。例えば、以下のような株式会社シバックスの求人です。株式会社シバックスは、神奈川県を中心に自動車メーカーを中心に工業製品の総合デザイン開発支援を事業している会社です。

技術営業と書いてありますが、具体的な仕事内容を見る限り営業色の強い仕事です。

営業職から技術営業職を目指す場合、エンジニア経験者と比べると技術的な知識・技能は劣ってしまいます。もし、趣味や本業から外れた仕事で知識を習得していても、その知識は狭い領域の知識であることが多いです。

あなたがこのような場合に該当するなら、まず検討すべきは営業主体の技術営業職です。営業主体なので、新規顧客・案件の獲得、見込み客の囲い込みなどが成果目標になります。これなら今までの営業的スキルを活かしつつ、自分の好きな技術について仕事で取り組むことができます

 

転職サイトを使った探し方は注意が必要

ここまで紹介した技術営業は、転職サイトを探せば比較的容易に見つかります。しかし、探し方によってヒットする求人が大きく変わってくるので注意が必要です。

転職サイトでは、下図のような職種カテゴリから絞り込むと探しやすいです。

この職種選択画面は、大手転職サイトのdodaの職種選択画面です。「技術職(機械・電機)」の詳細職種選択で選ぶことができます。

ちなみに、セールスエンジニアとアプリケーションエンジニア、FAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア:Field Application Engineer)を同じような意味で扱っています。狭義でアプリケーションエンジニアはIT業界の仕事ですが、広義には客先の課題解決のために自社のアプリケーションソフトを提案する仕事です。

そのほかに、大手転職サイトdodaが提供しているような検索窓でも、「技術営業」「セールスエンジニア」をキーワードで探す事ができます。しかし、この職種はキャリア変更しやすい職種で、設計などほかの職種募集でも求人票にキーワードとして書かれることが多く、望まない職種もたくさんヒットします。技術営業の求人を探すのに非効率なので、おすすめできない方法です。

参考までにdodaの職種選択で探した求人が、以下の埼玉県に本社を置く株式会社コアテクノロジーの求人です。半導体を洗浄するのに必要な水を作る装置を扱っている会社です。

技術営業職の求人は、このような求人を探して応募することになります。

技術営業に求められるスキルや資格はあるのか

それでは、技術営業職に求められるスキルや資格はあるのでしょうか。もちろん営業職の一種なので、社交性は重要です。デバイスメーカーで技術営業として働いたこともある友人に適正を聞いてみると、開口一番「社交性」だと教えてくれました。人と話すことが苦手であるときつい仕事です。

そのほかには、どのようなスキルが必要なのでしょうか。

エンジニアとしての経験は重宝されるが、未経験OKの求人もある

スキルについては求められるレベルが様々です。文系や未経験で良いものもあれば、特定の製品群に特化した技術的経験を求める求人もあります。

下図は株式会社GTM WEIDMANNの求人です。外資系で、絶縁紙のサプライヤーとして重電メーカーや産業機械メーカーと関係の深い会社です。学歴不問とされていますので、営業経験があれば文系OKの例です。

また、次の図は特定の製品群に詳しいことを求める求人例で、京都に拠点を置くシーシーエス株式会社の求人です。京都市に本社や主な工場などがありますが、国内では仙台・東京・名古屋に営業拠点があります。

この求人ではセールスエンジニアの職種募集で、マシンビジョン(画像から製品品質を検査する技術)の検査装置に関する設計経験を必須条件として求められています。技術営業で、ここまではっきりと技術経験を求められる求人は少ないです。

極端な例を2社紹介しましたが、技術営業職の多くは広く技術的知識があると仕事を楽に進めやすいです。技術営業という立場で客先に向かう以上、顧客が技術的な質問を投げかけてくることはあります。そのときに「全く答えられない」「持ち帰って確認」ばかりだと、あなたの技術営業としての実力だけでなく会社や製品の信用も疑われます。

そして、単一の製品について説明しに行ったとしても、会社が扱っているそのほかの製品について聞かれることもあります。そのとき全く答えられないようでは、営業機会を逃すことになります。

このように、深く専門的な知識を活かすよりも、浅くても幅広い技術的知識や経験を活かす場面が多くあります

資格よりも、素人にわかりやすく説明できる深い理解が必要

また、技術営業職になるために必要な資格はありません。電気や機械の難しい資格(技術士資格・電気主任技術者資格などを)を取得していれば、客先に赴いたときに信用されやすいということはあります。「難易度の高い資格を持っているから言っていることは正しいのだ」という箔をつけることができます。

しかし、資格以上に大切なのは提案する技術に対する深い理解です。先に少し述べたように、技術営業として説明する相手は必ずしも技術者ではありません。技術者であっても、提案する製品に関する技術の知識に明るいとは限りません。

そのような相手に技術の説明をするので、難しい内容をできるだけ噛み砕いて易しく説明する必要があります。メーカーで技術営業をしていた友人に聞くと、下記を教えてくれました。

提案するときにはできるだけ数式や化学式を使わないようにしていた。自分たち技術屋は、数式で表現してくれると簡潔でわかりやすいが、特に文系相手だと数式を見せるだけでアレルギー反応を起こして話を聞いてくれない。

だから定性的な説明から話に入り、図やプレゼンテーションソフトのアニメーションを効果的に使って説明することが多かった。

このような工夫は、資格のために公式丸暗記しただけではできないことです。資格取得では後回しにする公式の深い理解や応用知識について、使いこなせることが重要です。

したがって、あなたが「技術系の資格を持っているなら慢心せずに理解を深める」「資格を持っていないなら悲観せずに技術知識を蓄える」ことが、技術営業職として成功する秘訣です。

既存客のフォローをする技術営業職は、営業経験がなくても仕事に馴染みやすい

ここまで紹介した技術営業の中で、業界シェアの高い企業はノルマが無いことが多いです。これは、新規顧客の開拓をするというよりは、既存客のフォローや提案営業が中心になるからです。

紹介した求人のうち、アテック株式会社と株式会社GTM WEIDMANNの求人が該当します。両者はそれぞれ、「エア漏れ計測器」「絶縁紙」のトップメーカーです。

私が勤めたことのある鉄道業界や電力業界でも、シェアの高い企業はあります。例えば下の写真の電鉄用変圧器は、東日本だと日立・東芝、西日本だと三菱電機のシェアが大きいです。

鉄道や電力業界の電気設備は、全く新しく作るより老朽取替の市場規模が大きいのが特徴です。老朽取り換えの場合は、もともと設置されてあるメーカーの設備を入れることがほとんどです。ごくまれに老朽取替でメーカーを変えるときがあり、取りこぼしたメーカーの営業は担当を変えられるもあります。しかし、技術営業はほとんど変わることがありません。

一部の設備がなくなっても、そのメーカーと付き合いが完全に切れることはない(ほかにも設備がある)ので、営業は変わったことがすぐに分かります。一方技術営業は、トラブルがあったら同じ顔ぶれで来ていました。案件を取れないくらいでは、技術営業の担当替えはないのです。

このようにシェアの大きい企業の技術営業だと、新規顧客の開拓をする場面は少なく、ノルマなく仕事に取り組める場合が多いです。

技術営業職の給料を確認する

それでは、技術営業職の年収はどのくらいを期待できるのでしょうか。ここまで紹介した求人の提示年収を確認してみましょう。

最初に紹介した株式会社シバックスの提示年収は、下図の通り350万円です。

また、それ以外の求人の提示年収も下表に併せて記載します。

会社名 提示年収[万円] 備考
(株)シバックス 350以上 営業寄り
アテック(株) 375(大学新卒) 技術寄り
(株)GTM WEIDMANN 400~550 中間
シーシーエス(株) 400~600 技術寄り
(株)コアテクノロジー 400~600 中間

マイナビエージェントが公開している職種別平均年収では、技術営業職、営業職、エンジニアで下表のように示されています。

職種 平均年収[万円]
技術営業・セールスエンジニア 467
営業(法人営業) 447
エンジニア(設計) 478
エンジニア(生産技術) 477

引用:マイナビエージェント職種別年収ランキングより一部抜粋

この技術営業・セールスエンジニアの平均年収と比べると、各社の提示年収は少し低め~標準的といえます。また、技術営業職への転職が選択肢になりそうな代表的な営業職・エンジニアの平均年収も、技術営業の平均年収とさほど変わらないことがわかります。

つまり、技術営業への転職では大きな年収アップを期待できるものではないということです。年収アップというよりは、働き方や仕事への適性の改善を狙って転職すると成功しやすいです。

まとめ

技術営業職はセールスエンジニアとも呼ばれ、製品提案や不具合時の説明などでお客様に対する技術的な情報提供を行うことが主な仕事内容です。営業職と同じように、お客様との酒席に同席して親睦を深めることもあります。お客様との接し方で考えると、営業職と技術職の中間的な仕事内容です。

人的に余裕のない会社は、技術職に技術営業をさせることもあります。したがって、技術営業職を募集するのは人的に余裕のある大手企業が中心になります。

技術営業と一口に言っても、営業寄りの場合と技術寄りの場合の2つのパターンがあります。あなたのこれまでの経験により、正しい選択をする必要があります。

技術営業職に求められるスキルは、いわゆるエンジニアに求められるようなスペシャリストとしての技術力ではありません。お客様には会社が扱うすべての製品について説明することもあります。またお客様はスペシャリストではないので、噛み砕いて説明する力が要求されます。もちろん、お客様と接することから円滑にコミュニケーションできる人が向いています。

またシェアの大きい製品を扱う企業の技術営業は、顧客の新規開拓がなく、ノルマに追われることが少ないです。これまでの働き方を見直したいとき、選択肢に加えておくと良いです。

技術営業職の平均年収は、営業職やエンジニアと比べて大きく増えるものではありません。年収アップを期待しても、望む結果を得られない可能性が高いです。したがって技術営業職への転職は、働き方や適性の改善を狙うと良い結果を得られやすいです。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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