現在の工場では、電気は欠かせないものです。動力や制御・監視のために、工場の至る所に電気が使われています。

一方、電気工作物を扱うスペシャリストとして、電気工事士があります。国家資格である電気工事士資格をもった電気技術者で、電気工作物(電気設備)を工事できるのは電気工事士だけです。

では、工場内には電気設備がたくさんあるので電気工事士が活躍できる職種もたくさんあるのでしょうか?

実は、電気工事士資格の有資格者が工場に転職しても、活躍できる職種は限られます。このことを十分に知らずに転職するとミスマッチを惹き起し、結果的に不幸な転職となってしまいます。

満足できる転職にするには、正しい情報収集によりアンテナを高くし、優れた求人を見つけることが大切です。

そのために、ここでは、工場で電気工事士資格が活かせる職種、必要な電気工事士資格、工場勤務の年収についてくわしく解説します。

もくじ

電気工事士資格が活きる工場の職種を知る

工場で電気工事士資格を活かすには、電気工事を行うことがある職種に転職することが必須です。工場で電気工事を行う可能性の高い職種は、「設備管理職」「運転員・作業員」「生産技術職」の3つの職種です。

実際の求人では、これらの職種がはっきりと別れていない場合があります。例えば、「生産技術職」の中に「設備管理」の仕事が含まれていたり、「運転員」が「設備管理」を行ったりします。また、職種の名称が違う場合もあります。

したがって、求人を探すときには十分に職種を理解した上で、求人の仕事内容をよく読んで応募することが大切です。そうすることによって、満足できる転職に繋がります。

以下、それぞれの職種について詳細を求人例とともに紹介します。

・設備管理職(工務、設備保全、設備保守)

設備管理職は、電気設備が故障しないように適切な頻度で検査・点検し、必要により設備の延命処置や修理をする仕事です。工務、設備保全、設備保守とも呼ばれます。

工場の場合、生産設備以外の電気設備を扱う場合に「設備管理」と呼ぶことが多いです。生産設備を扱う職種は、後述の「生産技術職」として別にしています。

設備管理が対象とする設備は、ユーティリティー設備と呼ばれる「配電設備」「照明」「給排水設備」「消防設備」などです。一度完成した工場設備に日常的に手を入れることはありませんが、単発的に故障したときには修理する必要があります。

このとき、簡易なものは設備管理職が即修します。ここで電気工事士資格が役立ちます。設備管理職の求人は、下図のような株式会社浅川製作所の求人が参考になります。

浅川製作所社は、神奈川県と山梨県の工場で自動車部品を作っている会社です。この求人では、横浜市の工場で働く人材を求めています。

同じ求人の「求める方」の欄を見ると、下図のように「第二種電気工事士」資格を持っていることが必須条件に挙げられています。

求人にあるように、工場内の点検のほか修理や改良に伴う電気工事を行うことも業務内容に含まれます。

しかし設備管理職では、大規模な修繕・取替などになると自社能力で工事するのではなく外部に発注することが多いです。下の写真は配電盤設置にともなう架台設置・配線敷設です。このような工事は、自社で行うのではなく業者に発注します。

このとき、設計および積算が業務内容に含まれることがあります。設計・積算に電気工事士資格は必要ないものの、電気工事士としての知見・経験は大変役に立ちます

設計・積算とは、工事の設計図を作り、工事費を算出する仕事です。私は鉄道会社勤務時代に、設計・積算に携わっていました。

実は現場経験の少ないときから設計・積算をしたため、始めた当初はどのような工法・工程で工事を行うのかよくわかりませんでした。大変頭を悩ませ、先輩に叱咤されながら、時間をかけて設計した覚えがあります。

電気工事士として経験があると施工で何をするかよく知っているため、設計・積算で頭を悩ますことなくすすめることができます。

・プロセス工場の運転員・作業員(オペレーター)

次に紹介するのは、運転員・作業員の仕事です。オペレーターとも呼ばれます。実際にプロセス工場の現場で生産・監視・メンテナンスを行う職種です。

プロセス工場とは、簡単に言うと主に流体を扱う工場です。例えば、石油製品、化学製品の工場が該当します。また、エネルギープラントや環境プラントにも、この職種があります。

運転員・作業員で電気工事士資格が活躍する場面は、応急処置の場面です。

例えば、下の写真のようなベルトコンベアーの動力モーターが故障したとき、電源ケーブルを取り外すことがあります。このようなときに、電気工事資格を活かすことができます。

運転員・作業員の仕事は、あくまで故障時の応急処置で本格的な修理はしないことが多いです。自分の当直時間内に発生した故障で、影響範囲を最小限に収める対応をします。最終的な復旧は、設備の保全担当に引き継ぎます。

私の後輩に、化学工場で運転員として働いている人がいるので詳しい話を聞いてみました。

運転員の仕事は、決められたコースをパトロール(点検)することと、設備故障が起きたときにアイソレーション(系統分離)することだ。

設備故障がなければ、パトロールだけで勤務が終わる。

設備故障が発生すると、化学製品の生産に影響が小さくなるように故障設備を切り離す。このときに電気配線を触ることがある。

しかしながら、全体の生産に影響するような重要な系統は2重化3重化されており、滅多なことでは停まらない。

また、およそ想定できる故障は、対応手順がマニュアル化されている。

このように、運転員・作業員に求められる電気工事の能力は、事故がほかに波及することなく早く、そして復旧しやすいように処置する能力です。出来上がりがきれいで、機能を十分に満たすように施工することではありません。

もちろん資格だけ持っていて、技能が全くできないようでは使い物になりません。これは十分に理解しておく必要があります。

このような、運転員・作業員の求人は、下図のような月島テクノメンテサービス株式会社の求人が参考になります。

月島テクノメンテサービス社は、全国で環境プラントやエネルギープラントでOM(オペレーション・メンテナンス)業務を請け負っている会社です。設備の運転員として働くときに、第2種電気工事士資格が活かせることが記載されています。

この運転員・作業員は、違う呼び方で募集されていることがあります。下図のピー・アンド・ジー株式会社の求人の仕事内容を見ると、生産・メンテナンスの仕事があります。しかし、募集職種は「生産設備管理スタッフ」と記載されています。

また、対象となる方の欄には、電気工事士資格が活かせるスキルとして挙げられています。

少しわかりにくいですが、この職種も運転員・作業員の一種です。表記だけを見るのではなく、仕事内容をよく読んで判断すると良いです。

なお、運転員・作業員の勤務は、下図のように交代勤務であることが多いです。

もちろん、工場が24時間稼働なのか昼間だけの稼働なのかによって勤務時間帯は変わります。その場合は、仕事内容を見て判断することになります。

運転員・作業員の求人は、これに類似した求人を探していきます。

・生産技術

最後に、生産技術職の紹介をします。生産技術職はディスクリート工場で活躍する職種です。ディスクリート工場とは、自動車や電気製品などの組立加工を行う工場を指します。

このような工場では、それぞれの工程専用の生産機械(加工機械)があります。この生産機械を最適な状態に保ち、必要に応じて改良・改善するのが生産技術職の仕事です。もちろん、新製品を作るときには、生産機械を新しくチューニングすることもあります。

現代において、このような生産機械は動力源や制御に電気を用いています。下の写真のような多関節ロボットはさまざまな生産現場に用いられていますが、動力・制御は全て電気です。したがって、生産機械を動かすための電気配線をすることがあります。

生産技術職も設備管理職と同様に、電気工事はたくさんある業務の中の一部です。電気工事を主体として行っているのではなく、「電気工事も含まれている」程度と考えておきましょう。

生産技術職の求人の具体例は、下図の大塚テクノ株式会社の求人があります。大塚テクノ社は、主に徳島県に生産拠点を持ちプラスチック成形に強みを持つ会社です。この求人では、FA(Factory Automation)や工程改善に携わる技術者を募集しています。

生産技術職は、設備管理職や運転員・作業員より技術的難易度の高い仕事を任されることが多いです。したがって、求められる能力はより高度になります。

大塚テクノ社の場合、下図のように第二種電気工事士資格は歓迎条件に挙げられています。しかし、必須条件としてPLC(Programable Logic Controller)に関する知識・経験が求められています。

この求人では電気工事士資格だけでなく、PLCを使った制御の経験がないと応募できません。生産技術職の求人では、同様に電気工事士資格プラスアルファの経験などを求められると考えて下さい。

生産技術職の求人は、このような求人に似たものを探していきます。

製造業だけではない工場の種類

運転員・作業員の項で少し触れたように、工場を持つのは製造業だけではありません。電気ガス水道業などのエネルギープラント・環境プラントも工場の一種です。また航空運輸業や鉄道業も、航空機や鉄道車両の修理・メンテナンス工場を持ちます。

ただし、全ての業種に上で紹介した職種があるわけではありません。下表に、業種と職種をまとめたので参考にして下さい。

製造業 エネルギープラント
環境プラント
航空運輸
鉄道
設備管理職
運転員・作業員 ×
生産技術職 × ×

エネルギープラントや環境プラントは、プロセス工場である石油、化学工場に類似する特徴があります。したがって、設備管理職と運転員・作業員の職種があり、生産技術職はありません。

また、航空運輸、鉄道業の工場は、そもそも生産工場ではないため生産技術職はありません。生産とは考え方が違うため、製造業の運転員・作業員に該当する職もありません。設備管理に関する仕事が少ないながらある程度です。

ただし修理・メンテナンスに使う電気設備も頻繁に手を入れるものではないため、都度外部業者に発注する形態を取ることが多いです。

私が鉄道会社に勤めていたとき、私自身は鉄道沿線の変電所を主に担当していたものの、極稀に車両工場から要請があって故障確認に行くことがある程度でした。社内で対応できないときは、外部の電気工事会社に対応依頼していました。

業種ごとに以上のような特徴があることを理解し、選択肢として持っておきましょう。そうすることによって、優れた求人に出会いやすくなります。

工場に必要な電気工事士資格は1種? 2種?

では、工場に転職するにはどのような電気工事士の資格が必要なのでしょうか?

電気工事士資格は、扱える電気工作物の範囲によって第1種電気工事士と第2種電気工事士に分類されます。簡単に言えば、低圧で受電している工場は第2種電気工事士資格、高圧で受電している工場は第2種電気工事士資格が必要です。

下図に電気工事士資格と扱える電気工作物の範囲について示します。

つまり、必要な資格が電気工事士2種資格か1種資格かは、あなたが希望する会社の規模により決まります。6.6kVで受電する工場で第2種電気工事士資格では力不足なのがわかります。

ただし、最大電力500kW以上の事業用電気工作物を設置する場合、電気主任技術者の監督下で作業することで電気工事士資格なしでも作業できます。最大電力500kWは中規模〜大規模工場が使う電力です。

これくらいの規模の工場の場合、電気工事士資格の有資格者であるというよりか、電気工事のスキルを求めることが多いです。

しかし、電気工事のスキルを証明するには電気工事士資格以外に存在しません。したがって、求人票にはここまで紹介してきたように歓迎条件として挙げられます。

また、先述のとおり工場で働く場合には、電気工事を主たる業務として行うわけではありません。電気工事士として技能を存分に発揮したい場合は、工場出入りの電気工事会社に転職する必要があります。

工場で電気工事士資格を活かしたい場合には、このような注意点を十分承知しておくことがミスマッチを防ぎます

電気工事士資格で年収アップできるか?

最後に、電気工事士資格を持って工場勤務をしたときの年収水準について解説します。

冒頭で紹介した浅川製作所社の求人では、下図のように350~600万円と示されています。

同様に、ここで紹介した3社の求人票に記載されている提示年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 職種 業種
(株)浅川製作所 350~600 設備管理職 製造業(金属製品)
月島テクノメンテサービス(株) 300~400 運転員・作業員 その他技術サービス
ピー・アンド・ジー(株) 400~500 運転員・作業員 製造業(化学)
大塚テクノ(株) 400~700 生産技術職 製造業(プラスチック製品)

この表からもわかるように、工場で働くときの年収はさまざまです。また、電気工事士の有資格者であることで年収交渉をしようとしても、歓迎条件なので直接年収アップは難しいです。

そこで、年収アップを考えるには別の方法を考えなければなりません。実は、電気工事士資格が活かせる工場で働くとき、業種によって大きく平均年収が違います

下のグラフは、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査のうち、電気工事士資格が活かせる職種がある工場を持つ業種を抜粋してグラフ化したものです。

引用 : 平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)より作成

このグラフで示す青色が製造業、橙色がそのほかの業種です。最も多い航空運輸業と繊維製造業で500万円近く差があることがわかります。

つまり、このグラフの左側の業種の工場で募集される求人に積極的に応募することによって、年収アップを実現しやすくなります

まとめ

工場で電気工事士資格を活かして働きたいとき、資格を活かせる職種は「設備管理職」「運転員・作業員」「生産技術職」が代表的です。

これらの職種は、数ある業務の中の一部に「電気工事士資格が必要・活用できる仕事がある」職種です。電気工事を本格的に行いたい人は、工場出入りの電気工事会社を探す必要があります。

工場で働くのに必要な電気工事士資格は、工場の受電電圧により第1種電気工事士・第2種電気工事士資格どちらかです。高圧受電なら第1種電気工事士資格、低圧受電なら第2種電気工事士資格です。

ただし、資格を持っていれば良いわけではなく、きちんとした技能を持っていることが必要です。

工場勤務の年収は、求人票では様々な金額が提示されています。業種により大きく平均年収が違うので、より平均年収の高い業種に絞って転職活動を行うことで、年収面で満足のいく転職を成功しやすくなります


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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