年収を上げようと考えたとき、資格取得や業績を上げても上積みされる金額はわずかです。また、転職したとしても業界を間違えると年収アップどころか、ダウンすることも考えられます。

実は、比較的年収が上がりやすい業界があります。それはエネルギー業界です。エネルギー業界に的を絞って転職活動をすれば、転職成功させると高い確率で年収アップを期待できます。

しかし、闇雲に求人を探しても転職成功することは難しいです。まず、どのような職種が電気の技術者としてエネルギー業界に求められているのかを知っておかなければなりません。また、業界の研究も必須です。どのような会社があり、あなたはその会社でどのように貢献できるのかを考えなければなりません。

ここでは、まずエネルギー業界の年収の実態について考察し、「エネルギー業界で求められる経験・スキル・資格」「電気・ガス・石油・石炭業界の求人例」「転職成功確率を上げる非公開求人について」を詳述します。

もくじ

エネルギー業界は年収が高い

今働いている会社の給料が満足のできるものでないとき、年収を上げる方法はいくつか方法があります。その中の一つが「年収の高い業界に転職する」ということです。

一般にエネルギー業界は、「安定した収入基盤がある」「独占企業である」ことから収入が高いといわれます。エネルギー業界とは、電力・ガス・石油・石炭を主に製造・販売・供給する企業です。

電力では、東京電力・関西電力のような電力会社、ガスでは大阪ガス・西部ガスのようなガス会社が該当します。石油では、JXTG・出光・コスモが市場をほぼ独占しています。なお石炭業界は、宇部興産や日本コークスが取り扱っています。

確かに、名を連ねた会社は大企業ばかりで安定しているイメージがあります。では、実際にこれらの業界の年収を確認してみましょう。厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査の結果を、年収に換算しグラフ化したものが下図です。

引用:平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)より

寒色で示したグラフが電気・ガス・石油・石炭業界の平均年収です。比較対象として、電気機器製造業の平均年収を暖色で示しています。電気機器製造業に該当する企業は、大手だと日立製作所・ソニー、パナソニックなどが該当します。

グラフから、20代前半まではエネルギー業界も製造業(電気機器)業界も差があるようには見えません。しかし30代後半から差が開きはじめ、50代になると200万円くらいの差になります。

若くして転職した場合、すぐに大幅な年収アップが見込めるわけではありませんが、長く勤めることで高年収が期待できます。また、40代以上で転職するのは難易度が上がります。しかし、成功すれば年収アップを見込めます。

このように、エネルギー業界への転職は年収アップしやすいと考えて良いです。

業種未経験からでも転職して年収アップ可能

実は、私は鉄道会社から全くの業界未経験で電力プラントに転職しました。したがって、どれくらいの給料アップが見込めるのか具体例を示すことができます。

私は33歳のときに、大手鉄道会社の電気系総合職から再生可能エネルギーを扱う電力プラントに電気系技術職として転職しました。鉄道会社勤務最後の年の基本給通知書が下写真です。約27.5万円の基本給であることがわかります。

次に示すのが、転職後の給与明細書における基本給です。基本給は36.2万円です。

わかりやすく年収に換算してみます。計算式は、基本給×(12ヶ月+ボーナス4ヶ月)です。これで計算すると、鉄道会社の年収は440万円、電力プラントの年収は579万円で約140万円の年収アップに成功しています。

実際には、残業手当・通勤手当・住宅手当・夜勤手当などの支給があり、年間でプラス100万円くらいはあります。しかし、手当は人によって違うので参考にならないため除外して考えています。

このような転職が可能なのは、業界が違っても電気の技術職としての職種は類似しているからです。あなたが今勤めている会社での職種や、かつて経験した職種が、エネルギー業界の企業で求められていれば、転職は難しくありません。

設備管理経験があると転職しやすい

では、エネルギー業界に転職するためには、どのような業務経験が求められているのでしょうか。それは、「設備管理」です。

設備管理は、「設備保全」「設備保守」とも呼ばれます。下の図のように、1.設備を検査し、2.検査データを分析・評価して故障の予兆を察知し、3.費用と故障したときの損失を天秤にかけ対策検討します。そして、4.十分検討した対策を実施して、設備が安定して動くことを担保します。

このサイクルを常に回し続け設備が故障しないように管理していくのが、設備管理という仕事の使命です。

エネルギー業界では、電気・ガス・石油・石炭を市場に送る・作るための巨大な設備を持っています。これらの設備が故障することなく、安定して動作し続けることが経営を支えています。したがって設備管理の重要性が高く、人的資源も金銭的資源も多く投入する必要があり、優れた人材を求めています。

特に電気の設備管理ができる技術者は、電力・ガス・石油・石炭のどの分野でも活躍できます。なぜなら、電気を使っていない事業はないからです。例外的に電力会社は、電気を使うのではなく作るのが主ですが、電気を作る設備にも電気の設備管理ができる技術者は必須です。

下図は北陸電力の求人票です。この求人票において業務内容で、発電設備などで図中は点検・工事・保守・維持・運用などと表現されている設備管理が挙げられています。

私は、鉄道会社勤務時代に受変電設備の設備管理・工事を担当していた経験があり、それを買われて電力プラントへの転職を成功させました。鉄道会社での最後の2年間は現場の設備管理の仕事をしてなかったにもかかわらず、それ以前の経験を重要視されました。つまり過去の設備管理の経験でも、問題なく転職は可能です。また、業界未経験でも全く問題ありません。

エネルギー業界への転職で求められる資格・スキル

電気の設備管理経験のほかに、関連資格を取得していると重宝されます。具体的には、電気主任技術者資格、エネルギー管理士資格などです。これらの資格をすでに持っているなら、より転職成功しやすくなります。

実際のところ、資格について企業がどのように考えているのか聞いてきたので紹介します。大手転職サイトでは、転職フェアを開催していることがあります。下の写真は、マイナビが開催していた転職フェアです。

転職フェアでは、石油関連企業と話をすることができました。その設備管理担当者によると、下記を教えてくれました。

製油所の運営をするので、電気系の社員であっても「2級ボイラー技士」「危険物取扱者乙種4類」「高圧ガス製造保安責任者乙種」は必ず取得してほしい。

さらに電気系社員として、「電気主任技術者」「公害防止管理者」「エネルギー管理士」の取得を奨励している。

意味合いとしては、「前者3つは評価対象にならない」「後者3つは評価対象になる」ということです。あなたが今まで電気の研鑽を積んできたのなら、「電気主任技術者」「エネルギー管理士」を取得しているか、受験したことがあるでしょう。上で示したそのほかの資格は機械系の資格なので、持っていなくても問題ありません。

私が今勤める電力プラントを受験したときも、「電気主任技術者」「公害防止管理者」「エネルギー管理士」の資格は入社してから取得してほしい旨を言われたので、あなたが今現在取得しているなら大きな強みになることは間違いありません。

参考に、石油元売会社のコスモ石油株式会社の求人を2件示します。それぞれ、「エネルギー管理士」「第一種公害防止管理者(大気・水質)」「第三種電気主任技術者」資格が歓迎条件となっていることがわかります。

またエネルギー業界の会社が持つ設備は、動力としての電力を扱う設備だけでなく、プラント各所の状態を監視しプラントを適切に制御するための情報通信設備を持っています。さらに電力会社だと、自前で広域通信網を持っていることがあります。

通信事業者ではないので資格を求められることは少ないですが、これらの情報通信設備を保守・設計できるスキルを求める求人がいくつかあります。大電力を扱う強電系技術者ばかりが求められる印象があるエネルギー業界でも、情報通信などの弱電技術者が活躍できる場面はあります。

なお、電気工事士資格は取得していても強みにはなりにくいです。なぜなら、エネルギー業界の企業はユーザー企業であり、自ら手を動かして設備を修繕・取替することはまずなく、工事発注をして請負業者に依頼することが多いからです。電気工事士資格は、実際に手を動かして仕事をするときに必要な資格なので、強く求められることはありません。

今取得している資格を武器にしてエネルギー業界に就職しようとするときは、これらのことに注意して進めると成功しやすくなります。

電力業界には情報通信の仕事もある

ここからは、電力・ガス・石油・石炭業界個別の求人について、例を挙げながら解説していきます。

まず電力業界について解説します。電力業界は10電力と呼ばれる北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・中国電力・四国電力・九州電力・沖縄電力・電源開発がエネルギー業界に該当します。

この内、電源開発株式会社の求人は見つけやすく募集職種の種類も多いです。電気系で該当する求人は「計測制御システムの技術者」「送電線の保守技術者」「発電所の情報システム保守技術者」がありました。下に示すのは、発電所の情報システム保守技術者を求める求人です

ちなみに提示年収は下図のように「600~1,000万円」が提示されています。

また、10電力では下図に示すように関西電力が送配電技術者を募集しています。

この求人では27歳までの年齢制限をした上で、年収「300~1,000万円」が提示されています。

ここまで電力会社の求人を紹介してきました。しかし、電力会社の公開求人は少ないです。これは電力会社が安定していて、給料もよく、社員がやめないことが大きな理由です。

厚生労働省の雇用動向調査によると、2017年の電気・ガス・水道・熱供給業の離職者数は16人です。これくらいの離職者数なら新卒採用でも間に合うため、積極的に中途採用していないと考えられます。

なお、定年による自然減や事業拡大に伴う要員増を補う中途採用は、厚生労働省の統計からは分かりません。電力業界は人気業界でもあり、後述の非公開求人を探すことで希望する求人に出会う確率を上げることができます。

ガス業界はガス事業のほかに新電力事業をしている

電力会社と同様に、安定して給料が高いのがガス会社です。家庭用では電力に押されて影の薄くなったように思えるガスですが、実は(電力会社の発電用を含む)法人向けに供給される量が供給量全体の6割を超えています。収入を悲観するような状況ではないのです。

そのせいか、都市ガス大手4社「東京ガス」「大阪ガス」「東邦ガス」「西部ガス」の求人で公開されているものはありませんでした。これも非公開求人を探してみる必要があります

ただし、ガス会社は電力事業に乗り出しており、こちらの求人はいくつか見つけることができます。下が、大阪ガスが100%出資して電力事業を行っている株式会社ガスアンドパワーの求人です。

入社直後は、LNG火力発電所の保全を担当として発電所の運営・維持管理を行います。将来は、新規発電所の開発などを行うことも示唆されています。この求人の提示年収は、下の図のように「540~840万円」が提示されています。

私が住む福岡県でも、西部ガスが同様のLNG火力発電所建設を計画しており、今後求人が出る可能性があります。下の写真奥に西部ガスのプラントがあり、手前の空き地には火力発電所の建設が予定されています。

ガス業界に就職を考えるときは、このような電力事業も含めて考えると選択肢を広げることができます。

なお、このような新電力と呼ばれる事業は、製造業において自前で発電所を運営している企業も行っています。しかし厳密にはエネルギー業界の会社とは言えないため、ここでは触れません。

また再生可能エネルギー業界を含めた新電力は、外資系投資会社も参入してきています。新電力については、下の記事で詳述していますのでそちらを参考にしてください。

石油業界は海外勤務も視野に入れる

石油業界はJXTG・出光興産(昭和シェル含む)・コスモ石油の3社が元売りとして国内需要のほとんどを賄っています。このうち、出光興産とコスモ石油の求人は、公開求人として確認することができました。以下は、コスモ石油の求人です。

この求人で採用されると千葉県市原市の製油所で勤務することになります。同社は、大阪府堺市と三重県四日市市にも製油所を持っており、そちらでも勤務する求人も出されていました。ちなみに提示年収は、400~700万円です。

私もこの求人に大変興味を持ち具体的な仕事内容を聞きたいと思い、同社と直接話す機会がありましたので紹介します。以下はそのときの資料の一部と話した内容です。

・設備の重要性は理解した。社内の雰囲気は、設備更新のために十分な予算を付けているか。

→かつては予算が少ないこともあったが、今は設備故障で停めたほうが経営的に損だということで十分な予算がつくようになってきた。

・設備故障で呼び出しされる頻度はどのくらいか。

→1製油所で3ヶ月に1回位だ。

・残業時間はどのくらいか。

→平均で月15時間位。働き方改革を進めているところだ。ただし、製油所は法令で定められた定期点検があり、その時期は残業時間が多くなる傾向にある。つまり、定期点検や故障が無ければ残業はほとんどない。

・海外勤務はあるか。

→希望すれば中東で勤務することはある。社内では海外勤務の人気が高く、手を挙げてもすぐに行けるかどうかはわからない。

・電気系社員として入社したあと、機械系の仕事を振られることはないか。

→ない。ただし、アイソレーション(系統分離)のために機械系の仕事に電気系社員が立ち会うことはある。

・今後の石油業界の展望についてどう考えているか。

→出光興産と昭和シェルの経営統合で業界再編は落ち着いた。これ以上の再編は、独占禁止法があり考えにくい。ガソリンスタンドも60,000箇所あったのが30,000箇所まで減り、過当競争が解消されている。これらのことから、石油元売業界を取り巻く環境の最も苦しい時期は脱したと考えている。

話をうかがっていて、働き方改革に力を入れていると感じました。そこであらためて調べてみると、経済産業省が認定している「健康経営優良法人認定制度」に「コスモ石油株式会社」と載っていました。これは、ホワイト企業であることに政府のお墨付きをもらっているということです。ちなみに、石油業界ではJXTGと出光興産も健康経営優良法人に認定されています。

なお、コスモ石油は海外勤務について求人が出されています。アブダビ(アラブ首長国連邦の首都)で、設備保全をする仕事です。この求人では、1,200万円~という年収が提示されています。

同社千葉製油所の電気系保全職が400~700万円の提示年収でした。これと比べると、海外勤務が倍近い金額を提示されていることがわかります。

そのほかの石油元売各社も海外での事業を行っています。電力・ガスと違い、石油業界は海外勤務を選択肢に入れると大幅な年収アップを期待することができます

・石炭業界の求人はほとんどない

最後に石炭業界の求人について解説します。我が国における石炭の使用は、火力発電用と製鉄用で大半を占めます。顧客が一部の業界・企業に限られているため、石炭業界の企業も限られています。例えば、宇部興産・日本コークスなどです。JXTG・出光興産も、石油だけでなく石炭の備蓄販売を行っています。

しかしながら、公開求人ではこれらの石炭を扱う会社の求人は見つかりませんでした。これは、東日本大震災以降石炭需要は増えつつあると言っても微増であり、積極的に採用を増やす段階にないことと、石炭の取り扱いは機械的な技術が多く、電気技術者が活躍できる場面は少ないことが挙げられます。また、石炭を扱う商社もありますが、電気の技術者のポストはありません。

したがって石炭業界への就職を狙うなら、非公開求人を探すとともに、根気よく求人が出るまで待つことが必要です。

転職エージェントに依頼し非公開求人を探す

ここまで説明してきたエネルギー業界は、あまり流動性のある業界ではありません。したがって、求人数は少ないです。ただし非公開求人には募集が出ている可能性があるので、非公開求人もあわせて探すことで転職成功できる確率を上げることができます

では、非公開求人とは何でしょうか。非公開求人とは、限られた方法でしかみることのできない求人のことです。その方法は、転職エージェントに紹介してもらうという方法です。

企業の求人は、必ずしもオープンに募集しているわけではありません。会社の経営に直結するようなプロジェクト要員を公開して募集すると、競合他社にも情報が漏れて出し抜かれる可能性があります。また人気企業だと、応募が殺到して収集がつかなくなることもあります。

このような事態を避けるために、企業は非公開求人という手段を取るのです。ちなみに、マイナビエージェントでは下の図のように全ての求人の8割が非公開求人としています。

エネルギー業界の求人を探す場合、公開求人だけを探しても数が少ないです。そこで、転職エージェントサービスに登録して非公開求人を紹介してもらうことで手に入る求人を増やすことができます。そうすることで、転職で年収アップする確率を上げることができます。

まとめ

エネルギー業界は年収が高く、他業界から転職して年収アップを狙いやすい業界です。ただし、20代前半までは他業界と比べても飛び抜けて高いわけでありません。長く勤めることで、30代後半くらいから他業界より高い年収が期待できるようになります

電気・ガス・石油・石炭などを扱うエネルギー業界で求められることが多いのは、設備管理の技術経験がある人です。生かせる資格は、「電気主任技術者」「公害防止管理者」「エネルギー管理士」である場合が多いです。これらの資格を持っていれば、力強い武器になります。

電気・ガス・石油業界では、よく名前を聞く有名企業が電気系技術者を募集する求人を出しています。100V以上の電圧を扱う強電系技術者だけでなく、情報通信系技術者や計装技術者などの弱電技術者も募集があります。

エネルギー業界は国内でも年収は高いですが、石油業界だと海外勤務も選択でき、国内で働くより高い年収を期待できます。

しかし、エネルギー業界全体の求人数は多くありません。公開求人だけでなく、非公開求人もあわせて探す必要があります。非公開求人を探すことで、エネルギー業界への転職成功させる可能性を高めることができます


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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