電気技術者の大きな目標であり、一つの到達点であるのが、電気主任技術者資格の取得です。電気主任技術者資格を取得できれば、電気技術者として実力を認められることになります。

そして、企業のグローバル化とともに注目されているのが英語力です。英語力があれば、国内に留まらず多くの人とコミュニケーションでき、世界中の情報を手に入れやすくなります。

では、これらの電気主任技術者資格と英語力を、同時に活かして転職成功するにはどのように考えればよいのでしょうか。国内外を問わず、転職できる求人がたくさんあり、容易に転職が可能なのでしょうか。

ここでは、そのような疑問に答えるために「電験資格が必要とされる企業」「同時に英語力を求められる求人例」「年収の考え方」について解説します。

もくじ

電気主任技術者資格は国内で最大限に必要とされる

電気主任技術者資格と英語力を活かせる求人探しを始めるときに、まず理解しておかなければならないことがあります。それは、電気主任技術者資格は電気事業法に則って経済産業大臣が交付する資格であるということです。

電気事業法は、日本の法律です。つまり、電気主任技術者資格が活かせるのは日本国内の企業に限られます

海外では、日本のような電気主任技術者制度がなく、相当する資格もありません。したがって、海外の求人だと英語力は活用できても、電気主任技術者資格を活かすことは難しいです。

国内で事業を行っている企業であれば、どのような企業であっても電気事業法の規制を受けます。電気主任技術者の有資格者を必要とするのは、高圧以上の電気工作物がある企業です。そのような企業のうち、英語力を必要としている企業を探すのが前提になります。

外資系企業の設備管理職を中心に探す

それでは実際に求人を探すとき、英語力を活かすという点に着目すると、外資系企業がすぐにイメージできるのではないでしょうか。もちろん、外資系企業でも日本で高圧以上の電気工作物を設備してれば、電気主任技術者を必要とします

ただし、高圧の電気工作物だけならば電気保安法人に電気保安業務を委託することができます。しかし、特別高圧以上の電気工作物を持つ事業所は、原則として自社社員の電気主任技術者が必要になります。つまり、特別高圧以上の電気工作物を持つ外資系企業を探せばよいということです。

この特別高圧以上の電気工作物を持つ外資系企業が多いのは、メーカー(製造業)の会社です。そこで、一番に探すとよいのは国内に製造拠点(工場)を持つ、外資系企業です。

日本に工場を持つ外資系企業はたくさんあるので、転職サイトなどで「電気主任技術者」をキーワードにして、企業形態を外資系企業として絞り込めば比較的簡単に見つかります。

例えば、下図は透析医療分野の業界リーダーであるフレゼニウスメディカルケアジャパン株式会社の求人です。

この求人では、福岡県豊前市の工場のユーティリティー管理の職種で、電験3種資格が必須条件の一つとされています。また、英会話スキルが歓迎条件に挙げられています。

ユーティリティー設備とは、生産に直接関係しないラインのことです。ここでは、電気、熱、給排水設備などが該当します。

そして、フレゼニウスメディカルケアジャパン社が上図求人で募集している豊前工場では、下の写真のように22kVで受電しています。

22kV受電では、第三種電気主任技術者を選任する必要があるので、当該資格が必須条件に挙げられています。

応募者全員への必須条件とはされていないので、すぐに電気主任技術者に選任されるかどうかはわかりません。しかし、将来的に選任されることは十分に考えられる募集です。

英語力について、英会話スキルが歓迎条件とされているのは、場合によっては海外の工場に出張に行くことがあるからです。基本的に国内で完結する仕事ですが、技術情報の共有などで英語力があると迅速に自分の工場に展開できます。

この求人のように、電気主任技術者資格を活かした転職は、基本的に設備管理やプラントエンジニアリングの職種であることが多いです。

もう1件、外資系メーカーの求人を紹介します。下図は、化学大手のピー・アンド・ジー株式会社の求人です。電験3種以上の資格が必須で、英語に抵抗がないことが歓迎条件とされています。

この求人では、群馬県の工場で働く人材を募集しています。ピー・アンド・ジー社の商品は主に日用品で、群馬県の工場はこれらを製造している工場です。

また、ピー・アンド・ジー社は、親会社である米国The Procter & Gamble Companyの日本における製造部門法人です。グループで同様の工場は世界中にあり、技術交流をしています。このような場面で、英語力があると仕事を進めやすくなります。

なお、高崎工場では154kVで受電しており、第二種電気主任技術者を選任する必要があります。第三種電気主任技術者資格を保有していても応募条件は満たしますが、入社してから電験二種資格を取得するように求められる可能性は高いです。

外資系のメーカーは、以上のような求人に類似したものを探していきます。

外資系以外で英語力が求められる求人例

外資系企業以外でも、数は少ないものの英語力と電気主任技術者資格を求める求人はあります。企業の探し方の基本的な考え方は、「海外との関係が強い会社」を探すことです。具体的には、以下の点に着目します。

  1. 海外に積極的に事業進出している
  2. 海外株式市場に上場している
  3. 英語圏がリードしている技術を使っている

このような企業が日本で大規模な電気設備を持っていると、英語力と電気主任技術者資格を持った人材を求めることがあります。

・積極的に海外進出している企業

まず、積極的に海外に事業進出している会社の例として、株式会社ダイセルを紹介します。下図の求人票には、必須条件として「英語初級」「第三種電気主任技術者」が示されています。

ダイセル社は、大阪に本社を置き関西圏を中心に発展してきた会社です。現在では、日本全国に事業所があり、海外にも積極的に販路を拡大している会社です。このような会社は、海外での業務を見据えて、社内で英語力強化に取り組んでいることが多いです。

私が転職活動中に採用試験を受けた大手化学系エンジニアリング会社では、面接試験で「英語を勉強する意欲はあるか」と訊かれました。この化学系エンジニアリング会社も、積極的に海外展開している会社です。

また、日本で業務をしているときに積極的に英語を使う場面は少ないが、上位職に上がるときに英語力が必要になるということでした。このように、採用試験時に英語力が有利に働くほか、入社後に有利になることがあります。

・海外株式市場に上場している企業

次に、2の海外株式市場に上場している会社の例を示します。下図は、株式会社インターネットイニシアティブのデータセンターで働く人材を募集する求人です。歓迎条件として、電験およびビジネス英会話能力が挙げられています。

インターネットイニシアティブ社は、日本のほか米国でも株式上場しています。株式上場すると、株主に対して適切な情報提供をすることが求められます。これは技術部門も求められることです。

電験が必要な設備管理部門が日常的に英語で海外に情報発信することは考えにくいですが、社内で節目に報告することは十分に考えられます。

また、情報技術は英語圏の技術情報が圧倒的に多い分野です。強電の設備部門が直接関わることはないにしろ、情報技術を支える立場として適切な情報収集が必要です。

情報通信業では、このような点で電験と英語力が転職に活かせます。

・英語圏がリードする技術を使っている企業

最後に紹介するのは、3の英語圏がリードする技術を使っている会社です。情報通信業も英語圏がリードする技術を使っている側面はあります。そのほかの業種では、再生可能エネルギー業界が対象になります。

再生可能エネルギー業界でも風力発電が、電験と英語力を活かすのに最も適していると言えます。

実は風力発電において、日本は後進国で、欧米が先進国です。風力発電機の各種設備は、輸入品のほかライセンス契約で作っているものがほとんどです。

例えば、下図のように発電端の電圧は575Vで、日本ではあまり一般的でない電圧です。これは、欧州の規格に合わせて作ってあるからです。

引用 : 株式会社NSウインドパワーひびき パンフレットより

また、風力発電所に見学に行くと、発電所内部に設置してある配電盤などは、海外製がほとんどでした。

そして、発電所は電気主任技術者が活躍できる施設の代表です。つまり、電験と英語力の両方を活用する環境が整っていると言えます。

実際に、日本における風力発電事業には、外資・内資ともに多数の業者が参入しています。

外資系企業の例を挙げると、下図のSIEMENS GAMESA RENEWABLE ENERGY PTY LTD(シーメンス・ガメサ・リニューアルブル・エナジー)がサービステクニシャンとして人材を募集しています。この求人では、ビジネスレベルの英語力が必須条件、電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。

シーメンス・ガメサ・リニューアルブル・エナジー社はスペインの会社です。

この求人は、日本支店に配属されます。そののち、日本における発電サイトで保守の実務を行うことになります。同社のグローバルスタッフと、日常的に英語でコミュニケーションを取る必要があると求人票には謳ってありました。これが英語力が必須とされている理由です。

続いて、日系企業で風力発電に関わっている会社を紹介します。下図は、青森県で風力発電所の保全を事業として行っている森山ディーゼル株式会社の求人です。電験資格・英語力ともに歓迎条件とされています。

シーメンス・ガメサ・リニューアルブル・エナジー社は風力発電設備を生産から保守まで幅広く手掛けているのに対し、森山ディーゼル社は原則として風力発電の保守・運転業務を請け負っています。どちらにせよ、構成設備は海外製が多いので、英語力が活かせます。

なお、経済産業省によると再生可能エネルギー業界では、電験2種資格者が不足することが見込まれています。さらに、日本では2020年代以降洋上風力発電の建設が加速します。電気主任技術者有資格者への需要が増すことは明らかです。

そして、風力発電には日系企業もたくさん参入しています。以上のような経緯を踏まえると、求人票に「英語」「電気主任技術者」の条件が記載されていなくても、有利に転職しやすくなります

年収は業種による

最後に、電験・英語が条件にある求人について提示年収がどの程度であるか確認します。冒頭で紹介したフレゼニウスメディカルケアジャパン社の年収は、下図のように400~600万円と提示されています。

同様に、ここで紹介した企業について、提示年収・条件・業種をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収 応募条件
(電験)
応募条件
(英語)
業種
フレゼニウスメディカルケアジャパン(株) 400~600 3種必須 歓迎 製造(業務用機械器具)
ピー・アンド・ジー(株) 初年度400~500 3種以上必須 歓迎 製造(化学)
(株)ダイセル 500~750 3種必須 初級必須 製造(化学)
(株)インターネットイニシアティブ 400~800 歓迎 歓迎 情報通信
シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーpty LTD 500~600 歓迎 必須 その他事業サービス
森山ディーゼル(株) 初年度320~420 歓迎 歓迎 技術サービス

このように求人票で提示されている年収は、企業によりさまざまです。実は、年収は会社の業種に大きく影響されます。業種ごとの平均年収は、厚生労働省が賃金構造基本統計調査で一般に公開しています。

下のグラフは、賃金構造基本統計調査のうち電気主任技術者資格が必要とされやすい業種の年収をグラフ化したものです。青色は製造業、緑色は非製造業を表しています。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

グラフの左側の業種が平均年収の高い業種です。グラフ左側の企業の求人票の年収は高めに提示されやすいといえます。また、入社初年度は低くても、年次を重ねたときの年収の伸びも期待できます。

ただし、個別の企業の年収が妥当かどうかは、あなたの年齢などと合わせて考える必要があります。これらの情報を把握した上で企業研究すれば、年収面で転職成功しやすくなります。

まとめ

ここまで、電気主任技術者資格と英語力を活かして転職活動をするときの考え方について説明してきました。

まず、電気主任技術者資格は、日本のみで有効な資格であり、いくら英語力があるからといって海外で働くには活用できる資格ではありません。したがって、必然的に日本国内で事業を行っている企業が転職の対象になります。

英語力が活かせるのは、外資系企業がわかりやすいです。外資系企業であっても、日本で電力を使って事業を行うには電気主任技術者を選任しないといけないので、英語力と電験資格の両方を活用できます。

ただし、高圧だと電気保安法人に選任を委託できるので、特別高圧以上の電気工作物を持つ企業を狙うと良いです。具体的には、大規模な工場を持つ製造業が対象になります。

外資系企業以外では、「積極的に海外展開している企業」「海外の株式市場に上場している企業」「英語圏がリードする技術を使っている企業」が対象になります。

これらの企業から提示される年収は、業種によりさまざまです。平均年収の高い業種は、政府統計によって明らかであり、平均年収の高い業種に積極的に応募することで、より高い年収で転職できる可能性が高まります。

以上のような情報をもとに、個別の企業研究を行うと転職成功しやすくなります。


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以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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