今まで一生懸命に電気の勉強をしてきて努力してきた人は、多くの人に求められる技術力を身に着けていると思います。「そのスキルを多くの場面で活かしたい!」と思うこともあるでしょう。しかし、一企業に在籍したままでは、活かす場面も限られてしまいます。

そこで、誰かに電気の技術を教えることで、より多くの場面に電気技術を使ってもらうことを考えたことが少なからずあるはずです。人に教える仕事として、「講師」を目指すきっかけというのは、概ねこのようなことではないでしょうか?

では、実際に講師として転職しようとしたとき、どのように探せばよいのでしょうか? また、どのくらいの電気の技術力を求められるのでしょうか? 転職で成功するには、事前に十分な準備をして適切な情報収集と企業に対するアピールが不可欠です。

ここでは、「電気の講師が募集される3つのパターン」「転職成功を高める工夫」「求められる資格・スキル」について詳しく解説します。

もくじ

電気の講師・教員になる方法3つ

電気関係の知識・技能を教える「講師」に転職するには、3つの方法があります。それは、「電気工学を教える専門学校の講師に転職」「電気関係の技能を教える職業訓練校の講師に転職する」「一般企業の電気系技術を教える研修講師になる」の3つです。

それぞれ教える対象や人数、学ぶ意味・目的が違います。したがって、講師に求められるスキルも違います

まずは、それぞれの講師がどのような特徴を持った仕事なのかを理解してください。その上で、実際の転職活動において、あなたの経験・スキルの中から適切なものをアピールすると転職成功しやすくなります。

電気系専門学校の講師募集を狙う

まず解説するのは、電気系専門学校の講師の仕事です。電気系の専門学校は、大都市部を中心に設置されています。この講師職を狙います。

専門学校の講師の教える対象・年齢層・人数・学習の目的は下表のとおりです。

教える対象 主に10代の学生
教える人数
1クラス30~40人程度
学習の目的 就職がほとんど

就職のために電気工学を学ぶことが多いですが、中には進学する学生もいます。ただし、基本的に職業に就くための実践的な技術を身につけることが目的の学校です。したがって、就職できる技術力を教えることが求められます。

電気系専門学校の講師の求人は、転職サイトに掲載されることがあります。例えば、下図の学校法人片柳学園の求人が該当します。片柳学園は、東京都大田区にある工学系の専門学校です。

求人票には「専門学校の教員」として記載されています。しかし、仕事概要の中に「講師として指導」と記載があります。このように、多くの求人で厳密に「教員」「講師」という言葉を使い分けて求人票を書いていないことがほとんどです。

また、一般的な企業の数に比べて、専門学校の数が圧倒的に少ないため、このような専門学校の求人が出ることは多くありません。募集されるタイミングさまざまなので、頻繁に転職サイトを巡回して専門学校講師の求人を探す必要があります

職業訓練校の電気系講師募集を狙う

専門学校と同様に職業に就くための学校として、職業訓練校があります。職業訓練校の教える対象などを整理したものが下表です。

教える対象 幅広い年齢層の大人
教える人数 1クラス30人程度
学習の目的 再就職

職業訓練校は、下の写真のようにポリテクセンターなどが都道府県に数カ所設置されていることが多いです。

職業訓練校の目的は、訓練生が実践的な技術を身に付けて再就職することにあります。したがって、「電気工学」の理論的な部分を教えることは少ないです。

私の友人が職業訓練校の講師をしていて、彼に話を聞くと以下のように教えてくれました。

訓練で教える内容は、再就職してすぐに使える技術を繰り返し演習する。
座学もあるが、難しい電気理論よりも実践的な工事設計、電気法規、電気技術基準などの知識を教える。クラスの名前も、「電気設備科」「電気工事科」などで、電気工事会社、電気設備保全会社または部門に再就職するスキルを身につけることを想定している。さらに、電気工事士資格など、すぐに業務で必要とされる資格を取得目標としていることが多い。

また、職業訓練は公的な仕事のため、職業訓練校の講師の身分は公務員です。したがって、転職サイトに求人が出されることはありません

各地にあるポリテクセンターのホームページなどで、職業訓練講師募集の要項を手に入れ、年1回の採用試験を突破するしか方法がありません。下記は、ポリテクセンターから職員採用(職業能力開発職)として講師募集しているwebページです。

 

また、年齢制限や資格要件が厳しいです。ここで紹介する電気の講師の中では、一番転職する難易度が高い仕事です。

企業の電気系研修講師募集を狙う

最後に紹介するのは、企業が社内で実施する研修講師の仕事です。社内研修講師の特徴は、下表のとおりです。

教える対象 同社社員
教える人数
人数は研修による
学習の目的 業務での実践

社内研修で専任の講師を置く会社は、社員研修センターが会社組織としてあるような規模の大きい会社です。

実際の求人例でいうと、下記のトーテックアメニティ株式会社の求人が該当します。トーテックアメニティ社は、愛知県を中心に、関東関西の大都市圏で事業展開している会社で、社員数は2,000名を超える大きな会社です。

トーテックアメニティ社の事業では、メーカーからの受託設計・開発で電気制御関係の設計を行うことがあります。そこで、社内に一定程度の技術力を維持するためにエンジニアの養成を行っています。この求人では、電気制御設計に関わる技術を教える社内講師として募集されています。

企業の研修講師の場合は、原則同業種での転職が前提です。実際にトーテックアメニティ社の求人でも、下図のように電気設計の業務経験が必須条件に挙げられています。

このように広く浅い技術・技能を教えるのではなく、その企業の業種に特化した実経験に裏打ちされる深い技術・技能を教える必要があります

魅力的な求人を見つけたらすぐに応募するとよい

ここまで紹介してきた電気の講師の求人は、そのほかの職種に比べて数が少ないです。さらに、転職求人は募集人員が充足したら求人の期限が残っていても、募集を打ち切ります。応募を迷っていてはすぐに募集が終わって、講師になる機会を逃してしまいます。したがって、魅力的な優れた求人見つけたら、すぐに応募すると良いです。

また、転職サイトで自由に閲覧できる「公開求人」は、転職サイトには下図のように全求人数の20%ほどと記載されています。

「非公開求人」は、転職エージェントを介してのみ紹介されます。講師求人のように求人数の少ない場合は、転職エージェントの力を借りることも選択肢として持つと良いです。

また、「講師」だけでなく「教員」「指導」などのキーワードも合わせて求人検索してください。「講師」としての業務内容であっても、「講師」というキーワードを求人票の中に使っていないことがあるからです。

このような工夫を行うことで、より優れた求人に出会える確率が上がります。

電気の講師に求められる資格は?電験は有利か?

最後に、電気の講師に求められる資格・スキルを紹介します。あなたのこれまでの経験に加えて、電気などの資格を取得しているならば、適切にアピールすることで有利に転職できることが期待できます

まず、専門学校の求人を見ると、下図のように片柳学園では「教員免許不要で、電子・電気業界での実務経験」のみが必須条件とされています。

また、下図に示す学校法人木村学園大阪電子専門学校では、教員としての免許または「電気主任技術者(電験)の一種・二種・三種」「第1種電気工事士資格」のどれかが必須条件とされています。

学生・訓練生に十分に教えるだけの知識・技能に精通していることを示すには、より難易度の高い資格が有利です。

電気主任技術者(電験)資格、電気工事士資格のほかは、電気工事施工管理技士資格も条件に挙げられることがあります

電気の技術力と同時に教える技術力が大切

講師として活躍するには、前項で説明した資格と同時に「教える技術」が重要です。企業におけるOJT(On the Job Training)では、教える人と教わる人の数が1対1、または1対少人数であることがほとんどです。一方、講師と学生・受講生の数は、1対多(20人以上)です

知識の少ない人に新たに知識を教えるための電気の知識は必要ですが、それ以上に多人数の教室運営をしていくスキルが必要です。

これについて、私の友人がパソコン授業の講師を始めて痛感したことを教えてくれました。

自分はパソコン関係の授業を持っている。コンピューターに関する難易度の高い国家資格を持っているし、過去の仕事でも大きなプロジェクトに関わるなど、コンピューター技術に関しては自信を持っている。

しかし、授業を受ける学生はコンピューターに関して疎い学生だ。初めて自分の授業を持ったときは、伝えたいことが、言葉が難しくて伝わらないことがたくさんあって苦労した。

例えば、電気通信の業界では常識である「IPアドレス」という言葉が通じなかった。そこで、「郵便番号」を例に説明することでやっと伝わるようになった。このような、言い換えや例え話が学生の理解度向上には必要不可欠だ。

また、学生が真剣に授業に取り組む雰囲気を作るのも講師の役目だ。

さまざまな学生がいるので、授業の内容が簡単すぎて内職を始める学生も出てくる。そのような学生を放置していると、次第に教室全体が無秩序になり収集がつかなくなる。いわゆる学級崩壊状態で、そうならないように教室運営しなくてはならない。

自分は一般企業からの転職組で、教員免許を持っていない。多人数に教えることが初めてで、ノウハウを全く持っていなかった。そこで、知り合いの小学校の先生に教室運営の方法を聞き、試行錯誤しながらうまくいくようになった。

この話を聞いたときに、なるほど多くの人を一箇所に集めて一定期間で一定水準以上の教育を施すには、「特別な技術」が必要なんだなと理解しました。

先程の大阪電子学園の求人でも、職業訓練指導員免許や高等学校教諭免許を求められているのは、多人数に教えるための特別な技術を有していると判断できるからです。

これは企業講師の場合でも同じです。トーテックアメニティ社の求人を見ると、教える内容である「電気制御設計関係の業務経験」が必須であると同時に、「リクルーター、ブラザー、トレーナー」などの新人を教育した経験が歓迎条件とされています。

会社によって位置づけは多少違いますが、リクルーター、ブラザー、トレーナーの業務内容は概ね以下のとおりです。

リクルーター 新卒採用を専門に担当する
ブラザー 入社数年後に、主にOJTで新たに入社してきた社員の指導を担当する
トレーナー 集合研修において、入社年次の浅い社員に対しての指導を担当する。

これらに共通するのは、「技術的に未熟な後進に対して積極的なコミュニケーションを行う必要がある」という点です。歓迎条件として求められているのは、このような他者に対して積極的に教えるコミュニケーション力が仕事上で重要だからです。

特に他職種から講師に転職する場合は、電気技術を持っていると同時に「教える技術を学ぶ姿勢」が求められます

まとめ

電気関係の講師に転職するには、大きく「専門学校の講師」「職業訓練校の講師」「企業の講師」を狙う方法があります。それぞれ教える対象や内容・目的が違うので、自分のスキル・経験を整理した上で適切にアピールすることが大切です。

専門学校と企業の講師職は、転職サイトに求人が掲載されることがあるので、それを見逃さずに応募する必要があります。職業訓練校の講師は、公務員なので年1回の公務員試験を受験して合格することで転職できます

専門学校や企業の講師職を探すときは、ほかの職種と同様に転職サイトで探すことができます。その際、「講師」以外にも「教員」「指導」「指導員」などのキーワードでも探すことで、より多くの求人を見つけやすくなります。

また、転職エージェンから紹介される非公開求人も含めて探すことで、より優れた求人に出会える可能性が高まります。

電気系の講師職に転職するときに求められやすい資格は、技術系だと「電気主任技術者資格」「電気工事士資格」「電気工事施工管理技士資格」などがあります。教える資格として「高校教員免許」「職業訓練指導員免許」があると有利になりやすいです。

注意しないといけないのは、「あなたが卓越した電気の技術力を持っていること」ではなく、「あなたが他者の電気の技術力を高めることができるかどうか」が求められるということです。この点に注意して適切にアピールすることで、転職成功しやすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

Follow me!