電気工事の仕事は、女性の少ない業種です。いわゆる3K(きつい・汚い・危険)の仕事で女性保護規定があったために、長らく女性が就けなかった職業だったからです。しかし、現在では女性でも問題なく就ける仕事になり、電気工事業界で活躍する女性も増えてきました。
ただし、歴史的経緯から男性が多い業種であることには変わりなく、女性が同じ職場に入ることを嫌う風潮も残っています。したがって、闇雲に求人を探して応募しても採用されにくいです。
また、電気工事と言っても複数の職種があり、特徴がそれぞれ違います。もちろん女性の適性も変わってきます。
電気工事業界へ転職成功するには、このような情報を十分に把握した上で転職活動を行うことが重要になります。
ここでは、電気工事で女性が活躍できる職種と特徴、女性が採用されやすい求人例と考え方、電気工事の年収について解説します。
もくじ
電気工事で女性が活躍している職種は3つある
電気工事の仕事は、現場で手を動かしてモノを作る電気工事士の仕事だけではありません。大規模な工事をするためには、電気工事施工管理が必要です。そして、工事事務として設計・積算の仕事があります。
まずは、それぞれの職種の特徴を知り、女性がどのように働いているかを知っておくことが重要です。以下、順に解説します。
電気工事士は体力勝負
電気工事士の仕事は、電気工事と聞いて一番思い浮かべやすい職種ではないでしょうか。実際に、はしごに昇ったり、天井裏に入ったりして配線・電気設備設置を行う職種です。
実際に自分の手でモノを作り上げるので、達成感ややりがいを感じやすい仕事です。また技能職なので、腕が上がればきれいに速く作業できるようになります。自分の成長を感じやすい職種です。
ただ、3Kを地で行く職種なので、覚悟の上転職しないと続きません。
例えば、電気設備はかなり重いです。一般住宅に使われる細いVVFケーブルでも、長さがあるとかなり重いです。
材料の運搬だけでなく、ケーブルの敷設では力が必要な場合があります。既設管路に新しくケーブルを通すとき、管路の経路によっては大変な力が必要です。
以前、管路にケーブルを通す作業で30代くらいの体格のいい男性作業員が、額に青筋を立てて呼びロープを引っ張っていたのをそばで見ていたことがあります。
また、電気設備を扱うので汚れない、きれいなイメージを持っていたら注意しましょう。ケーブルや設備自体はきれいでも、布設・設置する場所は汚いことが多いです。
設置されて年月が経った、下の写真のようなケーブル溝に潜り込んで仕事をすることもあります。
私が経験したのは駅のケーブル調査ですが、ケーブルが布設される場所は天井裏が多いです。天井裏を掃除することはまずないので、新設以来のほこりが積もりに積もっています。
しかも天井裏に空調は効いてなく、夏場の作業で全身汗だくになりました。そして汗とホコリでドロドロです。
新設物件の場合は、既設物件の工事に比べて汚れ具合は少ないです。しかし、新設物件ばかりを扱えるかどうかは会社次第です。
さらに、電気工事は危険な仕事です。まず感電災害が考えられます。高圧は当然ながら、一般住宅の100Vの工事でも条件が悪ければ死にます。
その上、電気設備は高所に設置されることが多いため、墜落災害も多いです。よくあるのは100Vに感電して、驚いて体勢を崩し墜落し死亡または負傷したという事故です。
これらの災害は、私が電気の仕事に関わってから、嫌というほど見聞きしてきました。
もちろん、安全対策は年を経るほどに強化されています。それでも100%安全ということはなく、常に緊張感を持った作業が必須です。
電気工事士の仕事は、このような良い面・悪い面を十分に承知して転職することをおすすめします。
電気工事施工管理は精神的なきつさがある
電気工事施工管理は、大規模な工事のときに必要な仕事です。電気工事施工管理技士資格という、専門の国家資格もあります。
この職種は、自分で手を動かしてモノを作り上げる仕事ではありません。多くの作業員が足並みをそろえて効率よく作業できるように、作業環境を整え的確に作業指示を出し管理する仕事です。
通常、作業は人数が増えたからといって、増えた分だけ成果は増えません。一人で10できた仕事が、5人でやれば50になるわけではなく、40や30になります。
これは、相互にコミュニケーションを取ることや、意志伝達の齟齬(そご)があって手戻りが発生するからです。場合によっては、事故が起きて作業が止まるかもしれません。
全体を統括する指揮者がいなければ、工事が大規模になるほど全体の生産性が落ちます。施工管理職は、全体の生産性を上げるために活躍する職種です。
このような仕事の特徴があるため、電気工事士より肉体的には楽です。ただし、事務仕事が増え、顧客対応もあり得るので精神的負担は電気工事士より断然増えます。
また、電気工事士を管理する立場で仕事をするので、長時間労働になりやすいです。
サブコンに勤めて、長らく電気工事施工管理の仕事してきた知人が以下のようなことを教えてくれました。
管理する側の人間が、職人(電気工事士)より先に帰る訳にはいかない。また、職人が仕事をするといえば、休みでも出勤する。管理側である自分がいない間に事故が起きたら、大変だからだ。
ただ、働き方改革の動きは少なからずある。以前はサービス残業も多かったが、今はなくなった。働いた分はきちんと残業代に反映される。 また、一つの現場が終わったらまとまった休みが取れるような制度も始まった。 |
施工管理職には、このようなきつさがあります。
なお、現場の最前線で働くわけではないので、汚さと危険度は電気工事士ほどではありません。
・施工管理職はなめられないための自己研鑽必須
そして、もう一つ施工管理職で注意すべきなのは、「作業員からなめられる」可能性が高いということです。若くて経験が浅いだけで、作業員が指示を聞かないことはよくあります。さらに、施工管理職が女性であるとなおさらです。
冒頭述べたように、電気工事業界は伝統的に男性がほとんどの業界です。作業員もその中で育った百戦錬磨の職人がたくさんいます。
現場のことをよく知らない状態で施工管理職として指示を出しても、指示通りに動かないどころか反発されるおそれがあります。
これを防ぐには、「現場に足を運んで作業を十分把握すること」「職人が持つ資格を取得した上で、さらに上位資格を取得すること」が有効です。これは、私が実践してきた内容でもあります。
現場に足を運ぶというのは、作業方法を知るということが一番の目的です。しかし、それだけではなく職人の人となりを探る意味もあります。
そのために作業の癖を把握しつつ、仕事以外の話もしながら信頼関係を築いていきます。
通常施工管理が必要な工事では、施工管理職と職人のすべてを自社内で賄うことは少ないです。つまり施工管理職と職人は同一社内の上下関係ではなく、会社対会社の請負という対等な関係であることが多いです。信頼関係の醸成は必須といえます。
資格取得は、あなたの指示に説得力を持たせる権威付けです。あなたと職人の考えが合致しなかったとき、あなたが国家資格を持っていると説得しやすくなります。具体的には、電気主任技術者資格を取得すると良いです。
施工管理を志望するときは、このような努力・研鑽が必要ということを覚えておきましょう。
工事設計・積算は女性が多い
工事設計・積算の仕事は、工事を施工する前段階で、仕様を確認したり、工事費を算出したりする仕事です。図面作成を中心に、具体的に設置する機器・ケーブルを決定し、そこから材料費・労務費を計算します。
例えば、部屋に1灯の照明を新設する工事の場合、下図のような図面を作成します。
このような図面は、かつてはドラフターを使って手書きしていました。しかし、今ではCADによる製図がほとんどです。使われるCADソフトは、Auto-CADやTfasがよく使われます。
この図面から、どのような材料がどれくらいの数量使われているかをピックアップします。そしてそれぞれに材料費と労務費がどれくらいかかるかを計算します。
具体的には、下図のような表にして計算します。
この積算に関しては、独自のシステムを持つ会社もあれば、表計算ソフトで計算する会社もあります。
私が設計積算をしていた鉄道会社の工事部門では、独自開発システムとExcel VBAで作ったシートを使い分けていました。
積算のルールは会社によって様々です。しかし、多くの企業は国土交通省が公表している積算基準をベースにルールを作っています。したがって、一度基本的な仕組みを覚えてしまえば、どこでも通用する技術です。
以上のような設計・積算の仕事は、工事事務とも呼ばれる事務仕事です。体力的なハンディキャップがないので、女性も多く活躍している職種です。
ちなみに私が以前勤めていた鉄道会社では、電気設備保全・工事を数年経験したあと、設計部門に転属しそのまま長く働いている女性社員がたくさんいます。現場には女性社員は少ないものの、設計部門には200人中40人くらいの女性社員がいました。
このことからも、比較的女性が多い職種が、設計・積算の仕事です。
電気工事で女性が採用されやすい求人例
では、企業が上で説明したような電気工事の職種に女性を求めている場合、どのような求人を出しているのでしょうか? 実は、女性電気工事士を募集したくても、原則として求人票に「女性のみ対象」と謳うことはできません。反対に「男性のみ対象」とも謳えません。
これは、男女雇用機会均等法や雇用対策法などによって決められていることです。ただし、本音は別です。積極的に女性を採用したい企業もあれば、反対に女性を遠慮したい企業もあります。
例えば、電気工事で女性社員に期待する企業側のメリットは、以下のことがあります。
- 採用対象の人材が増えるので優秀な人材を確保しやすくなる
- 顧客対応で安心感を与えやすく、企業イメージアップにつながる
- 女性の観点からの施工ができ、新しい市場開拓につながる
反対に企業側のデメリットとしては以下があります。
- 女性用設備・制度を新設する費用・手間がかかる
- 今働いている従業員に女性と働く心構えがなく、生産性が落ちると思われる
- 環境が整っていないことによる、セクハラなどの法的訴訟リスク
企業は、これらのメリット・デメリットを天秤にかけてメリットが大きいときに女性採用を進めます。
ところで、デメリットに挙げた内容は一度でも女性の採用実績があると、なくなるか極めて小さくなるデメリットです。
つまり、求人票から女性採用の実績や意思があることが読みとれる求人に応募すると、採用されやすくなります。
例えば、下図の株式会社HEXEL Works(旧六興電気株式会社)の求人票には、女性比率が1割ほどであることが記載されています。HEXEL Works社は、東京を本社にして全国で事業展開している独立系の大手電気工事会社です。この求人では、東京で働く電気工事士と施工管理職のどちらかの人材を求めています。
求人に謳われているように、HEXEL Works社では女性電気工事士・施工管理職がすでにいます。したがって、女性用設備や制度は整っていると考えられます。また、先に上げたほかのデメリットも、すでに女性社員がいる以上問題ないので、女性が採用されやすい求人といえます。
次に、電気工事士の求人を下図に紹介します。この求人は、栃木県で電気工事業を営んでいる有限会社ママダ電設の求人です。いま女性社員がいるかどうかはわからないものの、はっきりと「男女一切問わない」と記載があります。
重視するのは意欲・人柄であるとも記載されており、さらに資格・経験があれば優遇されます。性別関係なく、純粋に実力を評価される求人です。
最後に、設計・積算の求人では、下図の株式会社山田綜合設計の求人が参考になります。山田綜合設計社は、大阪府に事務所を構える建築設計会社です。この求人では、電気設備設計職を求めています。
求人票には、職場における男女の数が記載されています。全体で38名のうち12名が女性で、3分の1が女性社員であることがわかります。設計部門には男性社員2名ですが、女性の受け入れ体制は整っていると考えられます。
求人票からは、これらに類似した観点で女性が採用されやすいかを見極めると良いです。
転職エージェントの活用と職場見学が採用率を上げる
しかしながら求人票の情報だけでは、企業がどのように考えているのかはわかりにくいです。
ならば、あなたが直接企業の採用担当に対して、女性の採用について問い合わせることもできます。しかし、これはなかなかハードルが高いと思います。
そこで、転職エージェントの力を借りると良いです。転職エージェントを介して、企業側が女性の採用についてどのように考えているのか訊くことができます。
実際私が転職活動をしたときは、企業に対して募集職種の求人に対して詳細を尋ねるほか、「募集要項の学歴に満たないが応募できるか」「当該職種の経験がないが応募できるか」などたくさんのことを聞き、回答をもらいました。
回答をくれた会社で、採用試験を受けられた会社もあります。特に、質問すること自体は問題になりません。
この方法を使って、気になる求人票だけれどもそれだけでは判断できないときは、詳細を確かめると良いです。
もう一つは、職場見学をできるとミスマッチを防ぐことができます。これは、企業が入社前では「女性歓迎」と言っていたのに、入社してみると全く受け入れ環境が整っていなかったということを防ぐために行います。
企業によっては、選考の過程で職場見学が標準で設定されていることがあります。例えば、下図のトーヨーテクノ株式会社では、求人票に職場見学についての記載があります。トーヨーテクノ社は、愛知県・静岡県でエレベーターに特化した電気工事業を行っている会社です。
職場見学ができれば、求人票だけではわからない職場の様子をうかがい知ることができます。
また、求人票に職場見学について記載がなくても、転職エージェントを経由して職場見学を申し込むことも可能です。
私が転職エージェントに職場見学について要望したときは、以下のようなことを教えてくれました。
職場見学を、企業側に要望することは可能である。
ただし採用試験に応募する前に、職場見学だけを要望するのはまず無理だ。 よくあるのは、書類選考を通過して、一次試験や二次試験のときに抱き合わせで職場見学を実施してもらうことだ。このパターンなら企業も実施してくれる可能性が高い。 |
一度応募してから、採用試験の途中〜最終段階で職場見学をすることになります。これにより、ミスマッチの可能性をごく小さくすることができます。
電気工事の年収
最後に、電気工事の年収について説明します。冒頭に紹介したHEXEL Works社の年収欄を見ると、下図のように400~700万円の記載があります。
同様に、ここで紹介したほかの会社について、求人票の提示年収を下表に示します。
企業名 | 提示年収[万円] | 職種 |
---|---|---|
(株)HEXEL Works | 400~700 | 施工管理・電気工事士 |
(有)ママダ電設 | ※360~ | 電気工事士 |
(株)山田綜合設計 | 320~380 | 設計 |
トーヨーテクノ(株) | 330~550 | 電気工事士 |
※求人票の記載は「月給20万円~」。賞与4ヶ月、年間手当2ヶ月として計算。
このように、ここで紹介した求人の提示年収は職種・企業によりさまざまです。そこで、厚生労働省が行っている民間給与実態統計調査と見比べてみましょう。下のグラフが、建設業の民間給与実態統計調査結果をグラフ化したものです。
引用:平成30年度民間給与実態調査(国税庁)第8表をグラフ化
このグラフと比べると、施工管理職は建設業全体のボリュームゾーンより高め、電気工事士・設計・積算は少し低めの提示年収です。実際にあなたが採用試験を受けるときには、このグラフと比べて提示年収が妥当かどうか判断すると良いです。
なお、会社規模や会社の経営状況にも左右されますが、職種ごとの年収は概ね「施工管理 > 電気工事士 > 設計・積算 」です。
したがって、年収アップを狙うなら、施工管理や設計・積算の求人を積極的に探し、応募することが、年収アップを実現する近道になります。
また、女性だからといって給料が安くなることはありません。仕事が同じなら、男女関係なく同じ給料でなければならないからです。これは政府が企業に対して指導していることです。
反対にいえば、女性だからという理由だけで給料が低くされる企業に入社すべきではありません。そのようなコンプライアンス意識の低い会社では、違法労働行為などの不利益を被りやすくなります。
年収面では、違和感を覚えたときは先方企業に年収の妥当性について必ず確認しましょう。直接確認するのが難しいときは、転職エージェントを介しても良いですそうすることが転職後の満足度を高めることにつながります。
まとめ
ここまで女性が電気工事の仕事をするときに、どのような求人を探せば採用されやすいかを解説しました。
電気工事を一言でいっても、電気工事士、電気工事施工管理職、設計積算職の職種があります。どれも女性でも問題なく働くことができます。ただし、女性の比率など特徴がそれぞれ違うので、十分理解して転職活動をすすめることが重要です。
転職活動の際に求人票を見るときには、女性採用に関する記述がないかを探し、詳細の記載がある求人に応募すると採用されやすいです。法的な制限で「女性限定」「男性限定」という表現はないので、わずかな記載から読み取る必要があります。
また転職エージェントを通して企業側に打診することで、採用試験に合格する可能性を高めることができます。その際、職場見学ができれば、さらにミスマッチを防ぐことが可能です。転職エージェントは、積極的に利用すると良いです。
電気工事の年収は、400~500万円が平均的な給与水準です。大きく違う場合は、根拠を聞いて納得した上で転職しましょう。
また、女性だからという理由で給与が違うのは法令違反です。入社後に様々な不利益を被る恐れが高いので、入社はおすすめできません。
以上のような点に留意して転職活動を行うことで、転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。