転職を考えたとき、電気工事を検討する人は多いです。自分でモノを作り上げるやりがいのある仕事というのもあるでしょう。あなたも、工具を持って作業したり、図面を描いたりすることが好きなのではないでしょうか。
しかし、自分の年齢を考えて躊躇することもあります。一般に35歳を超えると転職は難しくなるといわれており、それ以上の年齢だと不安になります。周りからも、年齢を引き合いに止められることもあるでしょう。
実は、電気工事で転職のときに年齢がネックになる求人はごく僅かです。これは、法律で年齢制限されていることや、人材不足によるものなど理由は様々です。
今回は、電気工事に転職するとき、なぜ年齢制限が無いのか、年齢とほかの条件の関係、採用実績の探し方などについて解説します。
もくじ
求人に年齢制限ができないことは法律で決められている
求人を探す前に、企業が求人するときに、求職者の年齢による扱いを理解しておきましょう。
あなたはきっと、「年齢が高くなると転職が難しくなる」「そもそも何歳くらいまでなら採用があるのだろうか」などと考えて、転職を躊躇しているのだと思います。
しかし、企業は採用に際して、正当な理由なしに年齢を制限して求人してはいけないことになっています。下に、その根拠である雇用対策法の条文を示します。
雇用対策法 第10条 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。 |
このように、企業が求人するときは、年齢ではなく実力本位で採用しなさいと国(厚生労働省)が指導しています。これは、2007年に雇用対策法が改正されて義務化されました。
かつては、求人で年齢制限をしてはいけないということが義務ではありませんでした。したがって、古い情報のまま漠然と「高年齢だと求人がない」という雰囲気が流れているのではないでしょうか。
正当な理由というのも、ただ「体力のいる仕事で年齢の高い人には難しい」「今いる社員の年齢が40代以下で、50代以上の人は職場で浮く」などというような理由は該当しません。下の例のような、「長期キャリア形成のため40歳以下に限る」「定年が60歳のため、60歳以下に限る」というようなものしか認められません。
下図は、転職サイトの「マイナビ転職」に記載されている年齢制限の例です。千葉県のインフラ系電気工事会社の求人票です。これには、「若年層の長期キャリア形成を図るため」と記載があります。
また、次の図は転職サイトの「doda」の年齢制限の記載例です。この求人は、大阪府の医療系通信設備の工事を主に行う会社のものです。これにも、「長期勤続によるキャリア形成を図るため」として、40歳以下に限るとしています。
このような年齢制限がある求人はわずかです。「電気工事 40歳以下」で検索したところ、マイナビ転職で7件、dodaで2件しかヒットしませんでした。
「電気工事」だけをキーワードとして検索すると1,000件単位でヒットしますので、ほとんどの求人が年齢制限をしていないということです。
求人を探すときは、まずこのことを認識してください。
40代、30代の電気工事への転職は未経験でも成功しやすい
では具体的にどのような求人があるのでしょうか。
下は千葉県で家庭用の太陽光発電システムの施工を行っている、株式会社エイジー・ジャパンの求人票で、対象となる方の欄を引用しています。
この求人には、年齢制限について書かれていません。そのため、年齢に関係なく応募することができます。
このように、「年齢不問」「年齢制限無し」というような記載がなかったとしても、基本的に求人に年齢制限をすることができないため、全年齢で応募できると考えて良いです。
さらに、30~40代は転職成功しやすい状況にあります。それは、この年代は新卒のとき、いわゆる就職氷河期にあたり、企業の人材が少ない年齢層だからです。
この話は、私が2017年に転職活動をしていたとき、財閥系化学メーカーの人事担当の人に聞きました。電気設備工事のある職種で応募したときのことです。
大企業でも、就職氷河期の時期は採用を控えており、本来ならば中堅どころとして企業を支えるべき人材が不足しているということでした。
また、テレビなどの放送通信設備の保守を行っている社員750人ほどの会社に勤める友人にも状況を聞きました。この会社は、電気工事業も行う会社です。すると、「50代以上が多く、40代以下が少ない。中途採用も多く、30代を中心に採用している」ということでした。
このように、30代40代で電気工事に転職するのは、難しい状況ではありません。
電気工事士の見習いはきついのか
電気工事の施工を仕事とする場合、法律で電気工事士資格を持っていないと作業をしてはいけないと定められています。つまり、電気工事士資格なしで転職すると、先輩社員に見習いとしてつき、準備作業やお手伝い作業から始めることになります。
この見習い期間がきついのではないかと、初めて電気工事に就きたいと考える人からよく聞きます。
確かに、かつて電気工事は職人の世界で、徒弟制度が残るような雰囲気はありました。しかし2010年代になって、全国的に電気工事を志向する若手が減ったため、40代以下の職人が少なく、ベテラン職人も優しく指導している場面が多くなりました。
このことについて、一緒に働いたことのある電気工事会社の社長が以下のようなことを教えてくれました。
電気工事も、かつては徒弟制度のような雰囲気が色濃く残っていて、経験の浅い人に対して「技は盗め」「背中で語る」というような、言葉で教えない状況だった。
しかし近年の人材不足や、これまでの教え方だと途中でやめてしまう実情から、昔は厳しかった人も優しく教えるようになった。 |
私もプラント内を巡回するとき、工事の現場ではそろそろ定年と思われる人が、入社したばかりに見える若手に丁寧に教えている場面をよく見かけるようになりました。
このように、電気工事士見習い期間を極度に恐れなくても良いようになってきています。
また、電気工事士資格は年2回試験実施しています。試験難易度も、工業高校の生徒が現役で取得できるくらいの難易度です。現場で働きながらでも、1~2年のうちに取得できます。
電気工事士資格を取得したあとは、下働きではなく、一人の職人として扱われます。このように、一人前になるまでの見習い期間も短いです。
工事施工から電気工事施工管理に進むことで年収アップも期待できる
電気工事は、電気工事士として施工を中心に行う仕事もありますが、施工管理に進む道もあります。工事施工から施工管理にシフトすることによって、年収アップも狙いやすくなります。
施工管理が、なぜ工事施工よりも高年収が狙えるかというと、その仕事の位置づけにあります。
下の図のように、一人で10できていた仕事が、五人集まったときに5倍の50できるかというと、そのような事はありません。
たくさんの人数が集まれば、意思疎通(コミュニケーション)や工程の引き継ぎなどで、必ず時間ロスが発生します。これにより、上の例の場合、30や40の仕事しかできないことはよくあるのです。
施工管理の仕事内容は、このロスを最小限にするために、作業工程を考えたり、作業員全体の情報共有を図ったりします。これにより複数人で仕事をしたときの、出来上がりを最大化するのです。
この仕事は、目の前にある仕事だけこなしていてはできない仕事です。つまり、工事施工より難易度が高く、その分だけ給料も高くなります。
また、施工管理の仕事には、電気工事施工管理技士の資格が必要になります。しかし、これは一つの作業現場で1~3人程度が必須なだけであって、全員が資格者である必要はありません。
したがって、 将来的に全員が資格取得を求められるものの、「未経験」「無資格」でも施工管理の仕事から始めることもできます。
施工管理は、自分の手を動かして仕事をするよりも、職人を采配して成果を出させることが主な仕事です。よって、施工管理に向いてる人は、手先は不器用で施工は得意でなくても、コミュニケーション力が高く、全体を俯瞰しながら仕事を進められる人です。
施工管理技士資格を取得する場合は、以下の図のように第1種電気工事士や第2種電気工事士資格を取得してからのほうが、施工管理技士資格の取得に時間がかからない場合があります(図中には、電気工事士を「電工」と記載してあります)。
どの場合も実務経験が必要なため、転職してから取得を考えることになります。
このように、30代40代が電気工事に転職する場合、「工事施工→電気工事士資格取得→施工管理→施工管理技士資格取得」というように進むのが、着実に技術力と年収を上げる道筋です。もちろんこれは、現状で資格や経験があれば、大幅に短縮可能です。
40代より上になると、「資格なし」「経験なし」は技術的・体力的にきつい
しかしながら、50代60代で電気工事や施工管理の「資格なし」「経験無し」では、転職を成功させるのは難しくなります。
電気工事士資格取得は技能試験があります。これまで説明したように、いくら難易度の低い資格といっても、50歳までドライバーもニッパーも持ったことのないような人が挑戦するのはおすすめできません。
また、電気工事の現場の仕事は体力が必要です。電気工事は空調が入る前に行う工事ですので、夏暑く冬寒い場所で仕事をすることになります。
求人例を見ても、50代以上だから制限しているものは少ないですが、だれでもOKというわけではありません。今まで、空調のきいた部屋でパソコンの画面上で仕事をしていた人が、「定年を期に60歳から電気工事でも始めるか」というようにできる仕事ではありません。
50代以上の場合で転職成功させるには、資格か経験のどちらかがあることが前提になります。
本当に年齢制限無しの求人で採用はあるのか
ここまでで、企業が人材を募集するときに年齢制限をしてはいけないことはわかりました。しかし、本当に年齢に関係なく採用しているのでしょうか。希望している年齢層より高い年齢の人が応募してきたとき、難癖をつけて落としているのではないでしょうか。
これは、求人票などを読み込むことによって、どの年齢層を採用したか推し量ることができます。以下、転職サイトの求人を例に説明します。
例えば下図は、神奈川県で交通インフラの電気工事会社が転職サイトに出している求人票の給与例の欄です。
ここには、入社6年目で40代とあります。したがって、34~44歳で入社したことがわかります。また、入社5年目で50代とも記載してあります。これは45~55歳で入社したということです。
このような記載がある会社は、その年齢層での採用実績があるので、「年齢不問」に偽りのないことがわかります。
もう一つ例を紹介します。下図は関西の大手メーカーの子会社で、施工管理を中心に行っている会社の求人票です。そのPR欄にあった記載です。
この求人では、施工管理の経験がある方に限っていますが、50代60代の中途入社の実績があることが示されています。
このように、求人票には採用の年齢についてヒントとなる情報が書かれていることが多いです。この情報を参考にすることによって、転職に成功する確率を上げることができます。
まとめ
転職を考えるとき、基本的には年齢制限はありません。電気工事の求人に限っても、年齢制限をしている会社はごくわずかです。
そして30代や40代の年齢では、「未経験」「資格なし」でも問題ない求人が多いです。このような条件で入社した場合、電気工事士や電気工事施工管理技士の資格を取得し、技術力と給与アップを図ることになります。
しかし、さらに上の年代、50代以上になると「未経験」「資格なし」では、転職成功しづらくなります。50代以上OKの求人はありますが、経験か資格のどちらかが必要になるケースが多いです。
求人を探すとき、あなたの年齢で本当に採用があるかどうかは、求人票のほかの欄を読み込むことによってある程度推定することができます。PR欄や給与欄にヒントとなる記載があることが多いです。
このような情報を把握して転職活動に挑むことによって、年齢に関係なく転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。