情報通信業界からの転職を考えるとき、製造業やエネルギー供給業などの工場への転職を検討する人は多いです。その理由は、待遇改善や環境を変えたいなど様々です。

ただ、業種をまたいで転職する場合、全くの未経験職種に応募しても転職できる確率が小さくなります。プログラマーとしての経験があるなら、その経験を活かせる職種に応募したほうが転職成功できる確率が高まります

では、工場勤務でプログラマー経験が活かせる職種はあるのでしょうか。

ここでは、「工場勤務でプログラマー経験が活かせる職種」「工場勤務で活かせるプログラマーとしてのスキル」について詳しく解説します。

プログラマー経験者が活躍できる工場での働き方は2つ

あなたがこれまでプログラマーとして働いてきた経験を工場勤務で活かすには、大きく2つの方法があります。それは、「製品に使われるプログラムを開発すること」と「プログラムを使う設備に携わること」の2つです。

前者の大きな特徴は、プログラミング自体が主たる業務になるということです。反対に後者の特徴は、プログラミングスキルが求められますが、主たる業務はプログラミングではなく別にあるということです。

この違いを十分に理解して転職活動することで、転職成功へつながります。これより、それぞれの場合について詳しく説明します。

製品にプログラムが使われている工場勤務

まず、製品に使われるプログラムを開発する職種について説明します。

現代の電気製品はほとんどがマイコン制御されています。これは、あなたが普段よく使う電気製品でも同じでしょう。

下の写真は、洗濯機の操作部分です。スタートボタンを押すと、洗濯機に入れた洗濯物を自動で計量し、洗い・すすぎ・脱水の時間や水量を計算して表示します。

使用者に対して表示するディスプレイだけでなく、洗濯中の各部の動きはプログラムによって制御されています。

このような大量生産型の製品の場合、開発職として募集されることがあります。しかし、開発職は工場ではなく、開発拠点のオフィスで仕事をすることが多いです。工場勤務を希望するなら、選択肢になりません。

あくまで工場勤務を希望するなら、受注生産型の電気製品の開発だと工場で仕事を行います。下の写真のような、多関節ロボットは一旦製造したあと、受注先の環境に合わせて動作をプログラミングします。

例えば下の株式会社キラ・コーポレーションの求人が、受注生産型の開発・設計職です。キラ・コーポレーション社は愛知県にある受注生産型の工作機械メーカーです。

この求人では、ラダープログラムの経験を必須としています。しかし、「類似の経験がある場合は採用検討する」と記載してあります。

ラダープログラムとは、下図右のような図で表現されるプログラムです。図には、PC用シーケンス回路と書かれています。

引用 : 写真:『シーケンス制御技術』産業図書 小野孝治ほか著 9ページ

ラダープログラムは、プログラムと言いながら論理回路の一つの表現でしかありません。かつては継電器(リレー)で上図左のように表現されていたものを、コンピューターでプログラムしやすいように書き換えただけです。

一般的に使われる論理回路で書き換えると、下図のようになります。なお、論理回路にディレイタイマーはないので、便宜上信号を遅らせるものとして「delay timer」を描いています。

あなたがプログラマーとして働いてきたのなら、このような論理回路を使ったことがあると思います。もちろん制御系システムの開発経験があれば、採用される可能性があります。

製品のプログラムを作る仕事は、このような求人に類似した求人を探していきます。

自動化された工場の設備保全・生産技術のエンジニア

次に、プログラムを使う設備に携わる仕事を説明します。

工場では、多くの生産機械が自動で動いています。また、それらを動かすために必要な電気・熱・給排水などのユーティリティ設備も自動で動いています。

実は、これらの自動で動く機器にはプログラムが使われています。例えば、下の写真は工場に設置される受変電設備と同様の配電盤です。

配電盤は、受変電設備における機器(断路器、遮断器など)の操作、故障発生時の保護などの全部または一部を自動で行います。

配電盤の中にPLC(Programable Logic Controller)と呼ばれる計算機が設置されており、プログラムによって制御を司ります。

また、下の写真は飲料水をボトル詰めする機械です。このような生産に直接関係する機械もプログラムによって制御されています。

これらの配電盤や生産機械などを作るのはメーカーの仕事です。したがって、プログラムを一から作るのは前項で紹介したような企業が担当します

一方、このような機械を設置している企業側には、「設備保全」「生産管理」などという職種があります。設備保全や生産管理の仕事では、プログラムを作るのではなく、変更を加えたり、バグを改修したりすることがあります

例えば、下に示す中部エコテクノロジー株式会社の求人では、仕事内容にPLCのソフトプログラムの管理・改善が記載されています。この求人は、三重県四日市市の同社工場で働く求人です。

PLCで実装される代表的なプログラムは、ラダー言語を含む5種類あります。どの言語もプログラマーの経験があれば、比較的容易に習得することが可能です。

ちなみに、私が変電所の配電盤を保守していたときに使っていたPLCは、ラダー言語が用いられていました。私自身、C言語とVisual Basicを学生時代に修めていたので、ラダー言語を読むのには苦労しませんでした。

ただ、工場の設備保全・生産技術の仕事で注意すべき点は、プログラム改良が仕事の中心ではないということです。そのほかの点検・修理・トラブル対応・書類仕事がたくさんある中で、一部にプログラムに関係する仕事があります。

中部エコテクノロジー社の求人票には、それぞれの仕事の比率が「トラブル対応 : 予防保全 : 改善 = 2 : 3 : 5」と示されています。

この点が許容できるなら、工場の設備保全・生産技術職が転職先の有力な候補になります。

IT業界からの転職で活かせるスキル

ここまで紹介した求人は、プログラマーの経験が活かせる求人です。しかし、プログラマーの経験や得意言語によっては、転職先の工場で活用方法が変わってきます。

今まで製品の開発や組込みシステムなどを扱ってきたのなら、すぐに活用できるスキルも多いです。しかし、あなたがIT業界で情報通信系の仕事をしていたのであれば、仕事に対する考え方を整理しておく必要があります。

この章では、IT業界から工場へ転職する場合に、活かせるスキルや注意点について解説します。

情報系システムではなく制御系システムであることに注意

まず考えを変えなければならないのは、工場がある製造業やエネルギープラントで扱うシステムは、基本的に制御系システムであるということです。制御系システムでは、実体のあるモーターやスイッチの状態を制御します。

情報系システムは全て計算機の中だけで処理が完結しますが、制御系システムでは実機器の動きまで含めて処理を考えなくてはなりません

また、実機器は挙動が複雑です。例えば、ON信号を送ったとしても、モーターは定常状態になるまで時間がかかります。そして、軸が破損することもあれば、コイルが過熱し焼損することもあります。

もちろん故障の頻度は小さく、ほとんど起きることはありません。しかし、実機器の故障は近くで作業している従業員に危害を及ぼしたり、建物火災を惹き起こしたりします。

そのような事態を防ぐためにも、制御系システムでは実機器に対する知識や安全への配慮が重要です。

かつて、私は鉄道や発電所の制御系システムの開発・設計・保守に携わったことがあります。その中で、情報系システムを扱っていたエンジニアに話を聞くと、制御系システムの開発を嫌がる人が多かったです。

やはり、実際のモノを動かすことが躊躇(ちゅうちょ)する原因でした。

工場で扱うプログラミングは、制御系システムであることを承知しておかなければなりません。

プログラミング的思考はプログラムがない工場の仕事でも活かせる

工場の設備保全・生産技術でプログラミングをすることは、業務の中心ではないと説明しました。また、プログラムに触れることがあっても、改良やコードインスペクションが中心で、自分で新しくプログラミングすることはまずありません。

では、そのほかの業務ではプログラマーとしての経験は活かすことができないのでしょうか。

実は、プログラマーとして培ったプログラミング的思考は十分に活用できます。プログラミング的思考は、論理的思考とも言い換えることができます。

プログラミングは、人間の感覚的要素を極力排除して行われます。コンピューターは一切忖度してくれないので、コンピューターにしてほしい動作は全てプログラム言語で指示しなければなりません。

つまり、「入力→出力」「原因→結果」といった関係が、不確定要素なく直接結びつきます。もしくは、不確定要素を排除します。

これがプログラミング的思考で、プログラミングをしていれば自然と身につくことです。そして、このプログラミング的思考が設備保全で役立つのです。

設備保全で最も頻繁に行うのは点検・検査です。設備が正常に動作しているかどうかを、視覚・嗅覚・触覚・聴覚を使って判断します。人間の感覚で検知できない情報は、下の写真のような計器を使って確認します。

設備が故障するときには、点検で確認する項目に必ず変化があります。その変化は、故障の種類によって違った変化として現れます。つまり、「入力→出力」の関係として「点検で確認する項目の変化→各種故障の予兆」として推定することが可能です。

特に電気のような目に見えないものを扱う設備は、表に出てきた限られた情報から機器状態を推測することが求められます。プログラマーも、デバッグで目に見えないバグを工夫して可視化し、問題を解決する能力が求められます。

このように設備管理に求められる能力と、プログラミングで培った論理的に物事を突き詰める能力は類似しています。したがって、プログラミング自体が仕事内容になくても、設備管理ではプログラマーの経験を役立てることができます

まとめ

あなたがこれまでプログラマーとして働いてきた経験を、工場勤務で活かす転職方法について解説してきました。

プログラマー経験が活かせる工場勤務の形態は、「製品に使われるプログラムを開発すること」と「プログラムを使う設備に携わること」の2つです。

前者は、開発・設計職として募集されることが多いです。工場勤務を希望するときには、大量生産品を扱う企業ではなく、受注生産型の製品を扱う企業の方が工場勤務になりやすいです。この職種なら、プログラミング中心の業務になります。

後者は設備管理・生産技術職として募集されることが多いです。ただし、プログラミングが仕事の中心ではなく、プログラミングは一部の仕事です。

なお、どちらの場合も制御系システム特有の言語や考え方があります。PLCを使う場合は、ラダー言語を使うことが多いです。

そうはいっても、プログラミングで培われる論理的思考能力は共通します。転職当初は覚えることがありますが、理解するのに難易度は高くありません。また、設備管理職の場合、プログラムが直接必要な業務以外でも論理的思考能力が活かせます。

以上を理解した上で工場の求人を探すと、プログラマー経験を活かした転職活動を成功させやすくなります。

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