電気主任技術者資格は、高圧以上の電気工作物を扱うのに必要な資格です。高圧以上の電気設備といえば、鉄道会社の電気設備は代表的な設備の一つです。電験の問題にも電気鉄道に関する問題が出題されるので、あなたも興味を持ったのではないでしょうか。

では、鉄道会社に転職を考えたとき、電験資格はどのように評価されるのでしょうか。また、電験資格を持って鉄道会社に採用された場合、どのような仕事をすることになるのでしょうか。

実は、私は鉄道会社に勤めていた13年間に電験三種と電験二種を筆記試験で取得しています。その経験を踏まえて、「鉄道会社の電験資格者の採用の実態」「鉄道会社での電験資格者の仕事内容・評価」「鉄道会社の年収」について、詳しく解説します。

もくじ

鉄道会社の求人で電験資格が条件にある求人は少ない

鉄道会社の求人で、電気主任技術者資格が条件に挙げられている求人はどのくらいあるのでしょうか。

まず、必須の条件として挙げている会社は、1社ありました。下に示す静岡鉄道株式会社の求人には、電験3種が必須資格とされており、電験1種・電験2種が歓迎条件とされています。

静岡鉄道は、静岡県内で普通軌道の静岡清水線11kmと日本平ロープウェイを運営する中小私鉄会社です。沿線に変電所が数カ所あり、高圧または特別高圧で受電しているため社内で電気主任技術者を選任する必要があります。したがって、電験3種保有が必須とされています。

もう1件、電験保持が条件にある求人を紹介します。下図は、秩父鉄道株式会社の求人です。電気主任技術者資格が、あると活かせる資格として記載されています。

秩父鉄道は、埼玉県に約80kmの路線を持つ鉄道会社です。この会社も沿線の変電所で特別高圧で受電しており、電気主任技術者資格の有資格者を選任する必要があります。例えば、同社の大麻生変電所では東京電力から66kVで受電しており、第二種電気主任技術者資格が必要です。

実は、鉄道会社の電気技術職の求人では、電験資格について具体的に示している求人は少ないです。例えば、下に示す東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、275kV受電の変電所や数十kmに及ぶ275kVの送電線を持っているにも関わらず、電験資格について記載していません。

同様に、ほかの大手鉄道会社の求人を見ても、電験資格に触れていることはまれです。まずはこの事実について、承知しておかなくてはなりません。

鉄道会社で電気主任技術者資格が役立つ働き方の実際

では、鉄道には電気主任技術者の有資格者が絶対に必要なのに、なぜ求人募集には条件として謳われないのでしょうか。それを理解するには、鉄道会社の電気技術職の仕事内容を知っておく必要があります。

鉄道電気技術職が担当するのは、地上の電気設備です。車両にも電気は使われていますが、車両は機械系技術者が担当します。

そして地上の電気設備は、6つの系統に分類されます。それは、「電車線」「電灯」「変電」「信号」「通信」「システム」です。この内、「信号」「通信」「システム」は弱電分野の仕事であり、電気主任技術者資格は必要ありません。

電験資格が必要な強電分野は「電車線」「電灯」「変電」です。電車線分野が扱う下の写真のような電車線路設備は、在来線で600~20,000V、新幹線で25,000Vで加圧されます。

また、「電灯」では6.6~66kV、「変電」では22~275kVで使われる電気設備を持っています。下の写真は、新幹線用の変電所で電力会社から220kVで受電しています。変電所構内で60kVまで降圧し、線路側に送り出しています。

そして、このような設備を扱う強電系統に配属されたらまず目指すのが、第三種電気主任技術者資格取得です。

私が鉄道会社に入社した当時に言われたのは、「鉄道の電気技術職の仕事は、自分の手で設備を工事する技能職ではない。理論的な裏付けや検証を行う技術職だ。したがって、他人に説得力を持って説明するために、最低限電験三種を取得してほしい」ということです。

このように、電験三種は取得して当たり前という社内の雰囲気があります。これを受けて、私は入社1年目に電験三種資格を取得しました。同期生も、多くは2~3年のうちに電験三種を取得しています。

そうして電験を取得しても、直ぐに電気主任技術者に選任されるわけではありません。私が勤めていた鉄道会社の電気主任技術者は、課長級(200人規模の組織の長)が選任されていました。したがって選任されるのは、早くても40代でした。

つまり、鉄道会社は電気主任技術者資格を必須として求人を出す必要性がほとんどないのです。求人で電験資格の制限をつけるより条件無しで募集したほうが、採用できる可能性が高まるからです。

一方、電気主任技術者選任以外の実務では、電験資格を取得することで電気技術的に難易度の高い仕事を任されやすくなります

鉄道技術者の日常業務は、検査・管理・工事発注などそこまで難しい仕事はありません。しかし、中には設備の新設や大規模改良工事など、難易度の高い仕事もあります。このような仕事には、電験資格を持っていると任されやすくなります。

例えば、下の写真のような電鉄用変圧器の取り替えで、工事計画・仕様検討・メーカーとの折衝・工事設計・工事監督などの仕事も難易度の高い仕事のうちの一つです。

特に、仕様検討のフェーズでは、社内の有識者(電験資格取得者で類似工事の経験者)が何人も集まり技術検討をします。あなたに、電験資格とともに、電気設備更新のエンジニアリング経験があれば、活躍できる可能性が高いです。

なお、鉄道の電気設備は、経済産業省所管の電気事業法における電気技術基準だけでなく、国土交通省所管の鉄道営業法における技術基準の適用を受けます。鉄道独自の解釈や基準値があるので、あなたが全くほかの業種からの転職を考えているなら、新たに追加で学びなおす必要があります。

鉄道会社で評価されるのは電験2種以上

仕事で電験資格を活かすことができることがわかったところで、実際に評価されるのは第何種の電験資格からでしょうか。これは第2種電気主任技術者資格からです

私が電験3種資格を取得したときは、会社からの受験料補助や資格取得一時金(報奨金)は全くありませんでした。また、資格手当のように毎月給料に上乗せされる手当もありません。社内での評価も特に変わりませんでした。

一方、電験2種資格を取得したときは、資格取得一時金として受験料プラス5,000円を支給されました。下の写真が、資格取得一時金が支給されたときの給与明細の一部です。電験受験料12,400円に5,000円を加えた額が支給されています。

そのほか、資格手当は支給されませんでした。当時の規定だと、電験1種を取得しても同じ扱いです。鉄道会社の後輩に聞くと、これは今でも変わっていません。

このように、電験資格を取得したことによる給与面でのプラスはほとんどありません。ただし、社内での私の位置づけは変わったように感じます。

電験二種資格を取得したことで、社内のほかの部署から電気の技術的な相談が来るようになりました。また、社内で電験取得のための講座の講師を依頼されることもありました。明らかに一目置かれるようになりました。

これは、鉄道会社が必要としている電験資格が、二種以上であるからです。例えば、先程示した新幹線の変電所は220kVで受電しており、電験一種の有資格者を選任する必要があります。

また、下の写真は在来線の交流電変電所で、電力会社から66kVで受電しています。したがって、電験2種の有資格者を選任する必要があります。

そのほか、駅や事業所などで6.6kVや22kVで受電していることもあります。しかし、列車運転用の変電所のほうが高電圧であるために、電験一種または電験二種資格を持っている電気主任技術者は駅や事業所も合わせて管理できます。

また、先述のように、入社してすぐに電験三種資格取得を強く促し、電験三種の資格者が相当数在籍しています。電験一種資格や電験二種資格だと、筆記試験で取得する人も極端に減り、実務認定で取得する人が多くなります。この傾向は、私が出向していた別の鉄道会社でも同じでした。

つまり、電験三種資格を取得したとしても、鉄道会社では大きく評価されることは期待できません。電験二種資格以上を取得しているなら、将来の電気主任技術者選任も含めて、評価される可能性が高くなります

鉄道会社の平均年収と電験資格

最後に、鉄道会社の平均年収について解説します。まず、ここで紹介した求人票では、どの程度の年収・給料が提示されているのか確認します。

冒頭で紹介した静岡鉄道の求人では、下図のように300~700万円が提示されています。

もう2件、比較のために電験資格が求められていない求人を提示します。1件目が、秋葉原からつくばまで、つくばエクスプレスを運営している首都圏新都市鉄道株式会社の求人です。下のように、400~600万円が提示されています。

2件目が、北海道で広域に鉄道を運営している北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)の求人です。下のように、250~500万円が提示されています。

同様に、ここで紹介した5社について求人票に提示されていた年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 電験資格
静岡鉄道(株) 300~700 3種必須
秩父鉄道(株) 250~450 電験資格歓迎
首都圏新都市鉄道(株) 400~600 電気の国家資格歓迎
北海道旅客鉄道(株) 250~500 記載なし
東日本旅客鉄道(株) 368以上
(月給提示を年収に換算)
記載なし

このように、電験資格に関係なく提示年収はさまざまです。鉄道会社のようなインフラ系企業の特徴として、年齢が低いときはそれほど高い給料ではありませんが、年齢を重ねるほど世間の給料より高くなる傾向があります。

これは、厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査を見ても明らかです。下に、賃金構造基本統計調査をグラフ化したものを示します。緑色が鉄道業、青色が全産業の年齢別平均年収を示しています。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

鉄道の電気技術職の仕事は、基本的にコスト部門で利益を上げる仕事ではありません。そして、高卒程度の学力があって粘り強く取り組めば誰でもできる仕事内容です。

つまり、勤務成績評価でわかりやすく高評価をつけることができません。したがって、昇給や昇進には勤続年数の長さが重要視されます

鉄道会社勤務時代の先輩は、変電所を総合受電にすることで年間約3億円のコストカットをしたのに、昇給昇進に全く影響なかったとぼやいていました。

もちろん、先にも書いたように、電験を取得しているからといって給料に反映されることもありません

一方、社会インフラであることから地域独占が認められており、会社の安定度は高いです。リストラがないこと、定年後の再就職先が多いことを考えると、長く安定して給料を得るということには向いています。

したがって、電験資格を活かして高給を狙うというよりは、「技術力を公共に役立てる」「長く腰を据えて働く」と考えていたほうがミスマッチを防ぎやすくなります

まとめ

電気主任技術者資格を保有していると、鉄道会社に転職できるのか、そして転職したあとはどのように評価され、どのように活用できるのかについて解説してきました。

鉄道会社の求人では、電気主任技術者資格を条件に挙げている求人は少ないです。これは、社内にある程度の電験有資格者がいるためです。

そして、電験3種資格だけだと、鉄道会社では力不足です。電験2種以上の資格を持っていれば、社内での見る目は変わります。例えば、技術的な仕事が多く回って来やすくなります。

ただし、採用に電験資格がマイナスになることはないので、電気の技術力を示す証拠としてアピールすると良いです。

鉄道会社の年収は、長く勤めることによって高くなりやすいです。ただし、電験資格を持っているからといって、金銭面で特段優遇されることはありません。

したがって、電験資格を活かして鉄道会社に転職を考えるときは、短期的に高年収を狙うのには適していません。鉄道会社の置かれた環境から、長く安定して技術力を社会インフラのために活かしたい人が働くのに向いている業種です


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