ゼネコンはGeneral Constructorを略した言葉で、総合建設業者のことを指します。「地図に残る仕事」を売り文句にしているだけあって、大規模なビルや公共施設を手掛けることも多く、やりがいの感じやすい仕事です。
ゼネコンでは、土木・建築の技術者が活躍するイメージが強いです。しかし、電気技術者も活躍することはできます。なぜなら、現代において建築物に電気は必須だからです。
電気がないと、照明や通信はおろか、給排水・空調も動きません。電気がない建物に住みたいとか、電気のない建物で仕事をしたいということは、まずないでしょう。
では、ゼネコンのどのような職種に電気技術者が必要とされているのでしょうか?
実は、私は電験を持っている電気技術者としてゼネコンに誘われたことがあります。ある職種で技術者が足りないので、来てほしいという話でした。
ここでは、私の経験を踏まえて「ゼネコンで必要とされる電気系職種」「電気系職種に必要なスキル・資格」「ゼネコンの年収」について解説します。
もくじ
ゼネコンで求人募集される電気系職種と活かせる資格
ゼネコンに電気系技術職として転職するとき、どのような職種に就いて、どのような仕事をすることになるのでしょうか。ゼネコンに転職するなら、このことについて十分に知っておかなくてはなりません。
ゼネコンが求める電気系技術職は、大きく2つです。それは、電気設備設計職と電気設備施工管理職です。以下、それぞれについて詳しく説明します。
・電気設備設計
1つ目は、電気設備設計職について説明します。電気設備設計とは、簡単な例で示すと、下図のような照明など電気設備を設置するのに仕様を決めて図面をおこす仕事です。
図面は、下図のように描きます。赤の太線が設備、細線が旗揚げです。
照明を取り付けるといっても、適当に決めて良いものではありません。客先の要望をまとめて、仕様に落とし込む必要があります。
例えば、照明の色合いはオフィス用か住宅用かで別にする必要があります。多くの場合、オフィスでは昼光色か昼白色、住宅では電球色か昼白色が使われます。
引用:パナソニック社の製品情報(照明)より(文字は筆者注)
また、照度も計算する必要があります。例えば、住宅の場合は部屋の中央と隅で照度が大幅に違っても問題ないことが多いです。しかし、オフィスではある程度一様にする必要があります。
照明を例に説明しましたが、電気設備としてほかにも給排水、通信(電話・テレビ・インターネットなど)、消防設備、空調機など様々な機器があります。そして、機器に電力を送る配電設備も設計します。
ゼネコンが施工するような大型の建築物だと、高圧以上で受電することもあります。場合によっては、受電点に設置する保護回路の整定計算もしなければなりません。
そして設計職は、お客様のほか消防署や電力会社、通信会社などとも打ち合わせをすることもあります。
そのほか、ゼネコンに電気系の技術者少なく、施工管理を自社でできない場合は、サブコンに電気設備工事の仕事を任せることがあります。私が見た例だと、スーパーゼネコンのO社の下に、K電工が入って施工した例があります。
サブコンに発注する場合には、その打ち合わせや指示伝達も設計の仕事になることがあります。
実は、私が誘われたのもこの職種です。発注側の施工管理として、業者の采配をしていたのと第2種電気主任技術者資格を持っていることで興味をひいたということです。
このように、技術的なことだけでなく、たくさんの人と打ち合わせをしながらお客様の要望を施工できる形にしていくのが、設計の仕事です。
・電気設備施工管理
次に電気設備施工管理職について説明します。電気設備施工管理は、主に建築現場で行う仕事です。
通常ゼネコンが受注する建築工事は、数千万~数百億円の大型の工事です。規模の大きい工事だと、たくさんの作業員が現場で作業をします。
作業員が増えると、増えた分だけ成果が増えるのではなく、一人分の成果×人数分より成果は目減りします。下に1人で作業する場合と、5人で作業する場合について図示しています。
このようなことが起きるは、作業員相互の意思疎通のために時間が必要だからです。また、作業の待ち時間が発生して時間ロスになることもあります。施工管理の仕事は、この成果の目減りを少なくする大切な仕事です。
また、設計段階で詰めきれなかった詳細な仕様変更にも対応します。わかりやすい例でいうと、コンセントの位置を変えたり、現場ではほかの配管通っていたためケーブルルートを変更したりするなどがあります。
これらの簡単な設計・図面変更と積算は施工管理職の仕事です。ただし、設計職との棲み分けは各社それぞれです。
このような仕事をしつつ、「安全管理」「品質管理」「コスト管理」「工程管理」をしていくのが施工管理職の使命です。
電気系職種で求められるスキル・資格
では、電気設備設計職と電気設備施工管理職に求められるスキルや資格はどのようなものがあるのでしょうか。ここからは、実際の求人票を示しつつ解説します。
・電気設備設計
設計職に必要なスキルは、何をおいても電気の技術力です。平たく言うと計算力ともいえます。
電気設備設計で出てくる計算は、下記のようなものがあります。
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これらはただ計算して求めればよいだけでなく、電気設備技術基準などの法令にそっている必要があります。場合によっては、客先の規定・仕様書があったり、社内規定があったりするので、それらも考慮しなければなりません。
また、計算して出した結果にちょうど適合する設備を選定する必要があります。そのためには、さまざまな設備を知っていなければ適合するように選定することはできません。
例えば下の写真のようなマンションでは、戸数や受電電圧によって適切なキュービクルを選定します。また、条例によってキュービクルの周りの保安距離を設定する必要があります。
このように、電気設備設計の仕事は、電気の技術力として様々な計算ができることや知識の引き出しをたくさん持っていることが求められます。
この技術力を端的に示すのが、電気に関係する資格です。技術士(電気)や電気主任技術者の資格が該当します。
これらの資格は、高度な計算が必要です。さらに一朝一夕で身につくような知識ではなく、電気に関するとても広い知識がないと取得できません。
また、電気工事施工管理技士資格も、現場の施工を知らないと取れない資格なので重宝されます。
したがって、実際の求人票には下図のように示されることがあります。この求人票は、株式会社大林組の電気設備設計職を求めるものです。
設計経験があることと、当該の資格を持っていることが前提になります。
私も電気設計に5年ほど携わっていたことがありますが、当初はなんども上長にダメ出しを食らって自分の設計の甘さを痛感しました。何年か設計に携わっている人たちは、みな引き出しが多く、教えてもらうことばかりでした。
そして設計をしはじめて何年か経ったあと新しく設計経験のない後輩と働くようになったとき、自分が膨大な電気設備に関する知識を得ていることに気づきました。もちろん、仕事以外でも求人票にある電験を取得したり、自分で研鑽を積んできたりした結果です。
このような難関資格は、自分の技術力を他人に示すには効果的です。あなたがすでに保有しているなら、資格を武器に大いにアピールすることができます。
技術力のほかに意外かもしれませんが、電気設備設計職にはコミュニケーション力が必要です。コミュニケーション力と言っても、「誰とでも仲良く話せる」「人見知りをしない」というようなレベルの能力ではありません。
前項で述べたように、設計の仕事はお客様や施工者と打ち合わせをすることがかなりあります。
お客様からは、要望事項を適切に聞き出さなければなりません。お客様の中には電気設備にくわしくない方もいるので、わかりやすく説明する必要もあります。
施工者は、社内ですべてまかなえることもあれば、他社(サブコン)に発注することもあります。設計職は、図面と仕様書で全て指示をするので、相手の技術レベルに合わせた適切な指示をしないと思った通りの出来上がりになりません。
私はこれまで、設計者として施工業者と打ち合わせをしてきた経験が何度もあります。このときに私は、施工業者と十分に顔を突き合わせて話をしてきたつもりでした。しかし、それでもいざ出来上がってみると意図通りではなく、修補(やり直し)をお願いしたことが何度かあります。
このように、こちらが求める内容を正確にわかりやすく伝えることができなければ、仕事をスムーズに進めることができません。「知りたい情報を十分に聞き出し、伝えたい情報を確実に伝える」コミュニケーション力が大切です。
電気設備設計の求人は、これらの注意点を踏まえた上で探していきます。
・電気設備施工管理
電気設備施工管理職に必要な資格は、まず「電気工事施工管理技士資格」です。これは、ある一定規模の工事を請け負うときには、資格者を常時設置する義務があるからです。
そして、電気主任技術者資格も求められることがあります。電気の技術力を評価すること以上に、建設現場で仮設電源を用いる場合、会社は主任技術者を選任する義務があるからです。
工事中の主任技術者を、発注側企業が選任するのか、受注側のゼネコンが選任するのかはケース・バイ・ケースです。しかし、電気がないと工事を進められないので、ゼネコン側で選任し、その分を役務契約として工事料金に上乗せすることもあります。
実際の求人では、下図のように記載されています。下図は、株式会社竹中工務店の電気設備施工管理職の求人です。
また下図のように大林組も、竹中工務店と同様の電気設備施工管理職の求人を出しています。この求人でも、電気工事施工管理技士や電気主任技術者資格が必須です。
なお、どちらの求人も建築会社での施工管理経験を求めています。施工管理経験のない全くの素人だと応募できません。
ちなみに、電気工事士資格は持っていても応募の対象になりません。電気工事士資格は実際に施工するときに必要な資格であって、施工管理には直接必要ない資格だからです。
電気設備施工管理の求人は、これらに類似した求人を探していきます。
ゼネコンでも建築以外の分野の求人がある
ゼネコンの電気系求人は、ここまで紹介してきた電気設備設計・電気設備施工管理のほかにも募集されることがあります。例えば、下図の清水建設株式会社の求人です。この求人は、再生可能エネルギー発電の技術者を求めるものです。
「ゼネコン=建築・土木」のイメージが強いですが、現在では様々な分野に事業を広げています。国内の建設業が縮小している中で、生き残りをかけて他事業に展開しているのです。そこで機電系技術者を求める事例が多々あります。再生可能エネルギー事業は、ゼネコンの強みを活かして展開している一つです。
清水建設の求人の求める方の欄を見ると、下図のように「電気主任技術者資格をお持ちで新エネルギーに興味がある方」とあります。
経験を必須としていない、門戸を広くしている求人といえます。ゼネコンへの転職では、このような求人があることを知っていると選択肢が広がります。
ゼネコンはきつい仕事に見合った年収か?
建設業にはどうしても「激務」のイメージがあります。知り合いの女性は、スーパーゼネコンに平成一桁に設計職として入社し、30歳くらいでやめたということですが、辞めたときには身体がボロボロだったと教えてくれました。
働き方改革の推進もあって、現場でも週休二日にしようとしているものの、きつい・やめとけという声を聞きます。
しかし、その分が給与に反映されていれば、やりがいもあります。実際のところはどのくらいの年収なのでしょうか。
冒頭で紹介した大林組の年収は、求人票に下図のように380万円~と提示されています。
年収欄には上限が示されていませんが、ほかの欄に社員の年収例が示してあります。
これを見ると、「32歳主任690万円」「40歳副課長890万円」と示されています。経験やスキルにより、年収は大きく変わると言えます。ちなみに、23歳3年目の現場施工管理職の社員が450万円くらいと教えてくれました。
そのほか、ここで紹介した求人の提示年収を、下表に一覧としてまとめます。
会社名 | 提示年収[万円] | 職種 |
---|---|---|
大林組 | 380~ | 設計 |
竹中工務店 | 332~864 | 施工管理 |
大林組 | 450~600 | 施工管理 |
清水建設 | 460~1,300 | 総合職(設計・施工管理・保守) |
この表と合わせて、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査結果を見るとよいです。下は、建設業の給与所得者数をグラフ化したものです。
引用:平成29年度民間給与実態調査(国税庁) 第8表をグラフ化
このグラフと比べると、電気設備設計職や電気設備施工管理職の場合は、建設業の平均から高めの年収が提示されています。ちなみに全産業の平均年収は約500万円です。
そして、清水建設社の発電所建設にかかる求人では上限が1,300万円とされており、非常に高い年収が提示されています。同社の今後の事業展開を握る重要プロジェクトなので、高いスキルを持った人材を集めるために設定していると考えられます。
もちろん電気主任技術者資格だけでなく、発電所建設・運営経験がないと入社後すぐに上限の年収を得ることは難しいです。しかし、ほかの職種より入社後の成果次第で高い年収を得やすいといえます。
まとめ
ゼネコンで活躍できる電気系職種は2つあります。電気設備設計の仕事と、電気設備施工管理の仕事です。
電気設備設計は技術力が必要なため、難関資格である技術士や電気主任技術者資格を持っているとアピールしやすく、実務でも役立ちます。ただし技術だけあればよいのではなく、お客様や施工者とのコミュニケーション力が必須です。
電気設備施工管理は、建築現場で作業員を統括して作業をすすめる仕事です。電気工事施工管理技士資格があり、実務経験がないと応募できない場合が多いです。
しかし、電気工事施工管理技士資格を持っていなくても、電気主任技術者資格を持っていると応募できる求人もあります。なお、電気工事士資格は応募条件にはない場合が多いです。
この2つの職種のほか、新しい事業分野で求人が出されている場合があります。その分野の一つに再生可能エネルギーがあります。
建設業の経験がなくても、発電やプラントエンジニアリングの経験だけで応募しやすい求人です。
ゼネコンの電気系職種の提示年収は、建設業全体のボリュームゾーンより少し高めです。また、新しい事業分野の求人だと、更に高い年収が提示されることもあります。
このような状況を十分理解して、転職活動に活かすと良いです。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。