エネルギー管理士資格には、試験区分に熱分野と電気分野があります。試験の合格証には、どちらの試験分野で合格したのかがはっきり記載されます。

では、熱分野の試験区分でエネルギー管理士資格を取得したとき、転職活動でどのように活かせばよいのでしょうか? また、どのような分野の企業から求人が出されているのでしょうか? このような転職の疑問を予め解決しておけば、優れた求人を見つけやすくなります。

ここでは、「エネ管(熱分野)資格が活かせる求人例と考え方」「資格手当や年収」について解説します。

もくじ

エネ管(熱分野)にこだわるなら機械系求人

初めに、「エネルギー管理士(熱分野)資格所持」を条件として挙げている求人は、どのような求人なのかを理解しておきましょう。

実は、エネルギー管理士免状自体には「熱分野」「電気分野」の区別がありません。下の写真を見てわかるとおり、免状のどこにも「熱」「電気」とは記載ありません。

また、エネルギー管理士資格を持った人材を選任する必要がある「エネルギー管理者」「エネルギー管理員」も、特に熱分野・電気分野関係ありません。どちらの試験区分で取得した免状でも、問題なく職務を遂行することができます。

したがって、わざわざ「エネルギー管理士(熱分野)資格所持」と条件に挙げるからには理由があります。それは、「熱工学などにくわしい機械系技術者がほしい」「ほかの資格の要件になっているので熱分野で合格した人材がほしい」といった理由です。

前者の場合、資格を保有していることよりも、熱系の工学知識・技術力を持っていることの担保としてエネ管資格を求めています。

つまり、機械(熱)系技術が伴わないのに、資格試験だけ取れたという人にとっては厳しい条件です。そもそも書類選考で落ちたり、採用されても入社後の技術習得に苦労したりすることになります。

後者の場合は、ボイラー・タービン主任技術者資格を取得するための要件として、エネ管(熱)資格が経験年数短縮要件に挙げられているため、求める会社があります。

これは私の場合、転職後に言われたことです。私は電力プラントに就職した年に、エネ管(電気)資格を取得しました。その取得後に、「ボイラー・タービン主任技術者資格を取ってほしいから、エネ管(熱)資格を取り直してほしい」と言われました。

火力発電所など、大規模なボイラーを設置している会社では考えられることです。

このように、エネルギー管理士(熱)資格にこだわって転職活動する場合は、機械系の技術者を求めている求人に応募することになるのを理解しておく必要があります

熱設計をする仕事が第一選択肢

ここからは、求人の実例を見ながら説明していきます。

まず、熱工学などに詳しい機械系技術者を求めている場合の求人です。これは、プラントなど熱設計職などに多い求人です。

ボイラーや燃焼装置で大型のものだと、熱によって伸び縮みする動きが無視できなくなります。場合によっては、構造の強度やバランスが崩れて危険な状態になることもあります。

下の写真は、ボイラーの熱伸びを監視する治具です。ボイラーに火を入れる前後で、どのくらい構造物が歪むかを監視します。

このような技術は、機械技術者によく求められる技術です。

下図のアズビル株式会社の求人では、はっきりと「エネルギー管理士熱」とだけ謳われています。この求人は、関西支社で空調設計を行う人材を求めています。

空調機を設置するには、部屋や建物の熱収支を計算する必要があります。また、空気という流体がどのように熱を伝導するのかについて知見がないと、効率の良い空調システムは作れません。

アズビル社の求人は、大型施設の空調システムを設計するための人材を求めています。

同様にもう1件の求人を示します。下図は、日立造船株式会社の求人です。ボイラーや燃焼装置の設計をする人材を求めています。

この求人の必須条件に「ボイラーに関する基礎知識を有していること(〜エネルギー管理士が望ましい)」と記載があります。

「エネルギー管理士(熱分野)」とははっきり謳っていませんが、これは明らかに「エネルギー管理士(熱分野)」の資格者を想定しています。電気分野のエネルギー管理士試験に、ボイラーに関する知識は問われないからです。

このような求人を探すときは、「エネルギー管理士熱」だけをキーワードにしていると見逃す可能性があります。求人票の求める人物像をよく読んで判断すると良いです。

機械分野の設備管理職にも需要が高い

ここまではエネ管資格が業務に直接関わらず、機械(熱)系の技術力があることを評価する求人例でした。ここからは、エネ管資格を持っていることが業務に直結する可能性のある求人を紹介します。

本来、エネルギー管理士資格は省エネ法で定める「エネルギー管理者」などに選任されるのに必要な資格です。選任されたあとは、事業所内のエネルギー管理業務を行います。

このエネルギー管理者などの選任が必要な業種は、製造業やエネルギー供給業を中心にさまざまな業種があります。

その設備を管理する職種のうち、機械系に特化した人材を募集する求人が、「エネルギー管理士(熱)」資格を条件にあげていることがあります。

例えば、下図の三菱ケミカル株式会社の求人が該当します。三菱ケミカル社は、全国21拠点(富山、愛知、滋賀、福岡など)を持っています。この求人は、香川県の工場で働く人材を募集しています。

化学工場など大規模な工場は、安定電源を確保するために自社で発電所を運営していることがあります。この求人は、そのような発電所で働く機械系技術者を募集する求人です。

私が勤める電力プラントに、製紙会社から転職してきた同僚がいます。この同僚は、製紙会社で工場内火力発電所の機械系技術者として働いていました。以下は、その同僚が教えてくれたことです。

火力発電所の機械系技術者として働くときに必要になる資格は、「フォークリフト」「危険物取扱者」「エネルギー管理士」「公害防止管理者」などの資格がある。

このうち、「フォークリフト」「危険物取扱者」資格は、採用試験で評価するような資格ではない。「持っていて当たり前」程度の資格だ。

「エネ管」「公害防止管理者」資格は持っていると、「努力して勉強できる人」「それなりに高度な知識を持っている人」という評価をする。

特に、「エネ管」資格は熱分野の試験で取得していると、機械系の採用では有利になる。

このように、製造業でボイラーを使う企業では、エネルギー管理士(熱)資格は大変有利になります。

同様にもう1件製造業の求人を紹介します。下図の住友ケミカルエンジニアリング株式会社です。

住友ケミカルエンジニアリング社は国内3拠点(千葉、大阪、愛媛)のほか海外にも事業展開しています。この求人は、千葉の事業所で働く人材を募集する求人です。

求人票では、計装系技術者としてエネルギー管理士(熱)資格を持っていることを歓迎条件としています。

計装は、主にプロセス工場で用いられる計測と制御技術のことを指します。プロセス工場では流体を扱うので、アナログ値(連続した値)で制御します。

例えば下図のように流量を制御する場合、かつては機械的な機構によって実現していました。したがって、歴史的に機械系技術者が計装を担うことがあります

しかしながら、現在ではより精度が高く迅速に制御を行うために、電気計算機(コンピューター)を用いるのが普通です。電気を用いる場合は、下図のように機械的な値を変換装置で電気信号に変えて扱います。

図では、流量計を羽根車で表現していますが、現実には超音波や磁気を使うなど、機械的な機構がないものもあります。そして、電気技術者との境界が曖昧になってきています。

機械技術者が監視制御装置まで全て担当することもあれば、変換装置から監視制御装置側を電気技術者が担当し、計測器や弁を機械技術者が担当するように区分していることもあります。

これは会社によるので、求人ごとに確認するしかありません。もしあなたが電子計算機に関する技術も持っているなら、計装関係の求人では大変有利な能力を持っていることになります。

ちなみに住友ケミカルエンジニアリング社の求人票には、「制御システムの製作」が業務内容に記載されています。計算機側の仕事も、機械技術者が担当すると考えられます。

エネルギー管理士(熱)資格の手当や平均年収

最後にエネルギー管理士資格の手当や、有資格者の年収について解説します。

月々の給与にプラスして資格手当があると嬉しいものですが、どのくらいが期待できるのでしょうか?

実は、資格手当や資格取得一時金の支給は会社それぞれです。冒頭に紹介したアズビル社の求人票には、下図のように「資格取得支援制度有」と謳われています。

しかし具体的な内容については、同社ホームページを見ても記載ありません。同様に、ここで紹介した会社についてまとめると下表のとおりです。

会社名 資格手当 資格取得一時金など
アズビル(株) 記載なし 資格取得支援制度有
日立造船(株) 記載なし 記載なし
三菱ケミカル(株) 記載なし 資格取得支援制度有(HPより)
住友ケミカルエンジニアリング(株) 記載なし 国家資格奨励金

参考に、エネルギー管理士資格を歓迎条件としている下図のパナソニックファシリティーズ株式会社求人を見ると、資格手当として5,000円支給されることが記載されています。

ちなみに、私が勤めたことのある鉄道会社と電力プラントでは、資格手当はどちらの会社も支給ありません。一方、資格取得一時金は電力プラントで50,000円の支給があります。

このように、エネルギー管理士(熱)の資格手当は数千円程度、資格取得一時金は数万円程度と考えておくと良いです。

では、年収はどれくらいが期待できるのでしょうか? 冒頭のアズビル社の求人の年収欄を下図に示します。入社時の予定年収は400~600万円と記載されています。

同様に、そのほかの求人について年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 業種
アズビル(株) 400~600 製造業(業務用機械)
日立造船(株) 400~800 製造業(産業用機械)
三菱ケミカル(株) 400~700 製造業(化学)
住友ケミカルエンジニアリング(株) 450~800 製造業(化学)

この表によると、提示年収のボリュームゾーンは400~700万円程度といえます。

なお、エネルギー管理士(熱)資格が活躍できる業種の平均年収を示したのが下のグラフです。このグラフは、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査をグラフ化したものです。

 

引用:令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

あなたが採用試験を受けるときに提示された年収が、この平均より大きく違う場合は理由を聞いたほうが良いです。あなたが若いから安いということであれば、年功序列の会社です。長く勤めることで給料の伸びを期待できます。

納得できない答えなら、採用試験に合格したとしてもすぐに回答するのは控えるべきです。そのまま入社しても、同様の不満を抱えることになります。

満足できる転職を叶えるためにも、信頼できるデータとの違いや違和感を放置してはいけません。満足度の重要な要素である年収について、十分に検討することで転職失敗を防ぐことができます。

まとめ

エネルギー管理士(熱分野)の資格を活かした転職活動や求人について解説してきました。

この資格を活かした転職では、機械系技術者を求める求人を探すのが鉄則です。一つは、メーカーで熱設計を行う求人が対象になります。もう一つは、製造業やエネルギー供給業の機械系エンジニアが対象になります。

ただし、「エネルギー管理士(熱分野)」とはっきり謳っている求人は少ないです。求人票の内容を十分に読んで、エネ管熱資格を求めているかどうか判断することが重要です。

エネ管(熱)資格に対する資格手当などの支給は、会社によりそれぞれです。資格手当の支給があっても数千円程度と考えておきましょう。

また、エネ管(熱)資格者が求められる求人の平均年収は400~700万円程度です。業種により平均年収は変わるので政府統計を参考にすると、年収面での失敗を防ぎやすくなります。


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