弱電の分野で転職しようと考えているとき、「制御」の分野を外すことはできません。弱電とは、主に100V以下で動作する回路、機器を扱う分野をいい、通信、計算機(コンピューター)などを扱います。

電気というと、電力を作ったり、送ったりする大きな機器が頭に浮かぶ人も多いと思います。しかし、実際にそれらを私達の思うままに動かすためには、「制御」の力が必要です。

ここまで読んで、「制御とはコンピュータープログラミングのことか」と思い浮かんだのではありませんか? もちろん、コンピュータープログラミングも、制御を構成する一要素です。

しかし、それだけではありません。コンピューターが扱える電圧はごく小さい電圧(数V程度)ですが、実際に制御する機器はそれより大きい電圧(数百V程度)で動くことが多いです。したがって、コンピューターで機器を制御しようとすると、電圧を大きくする何らかの変換装置が必要になります。

このような変換装置を作ったり、据え付けたりするのも制御の仕事です。制御は、コンピュータープログラミングが得意な人だけのための仕事ではないのです

では、実際に制御の仕事とはどのようなものがあるのでしょうか。また、その仕事に生かせる資格や、実際の求人はどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、そのような疑問に答えるために、「制御分野の概要」「制御分野に生かせる資格」「実際の求人例」を解説します。

もくじ

制御にはシーケンス制御とフィードバック制御の求人がある

求人情報を見る前に、「制御」の概要を解説します。「制御」は、大きく分けて「シーケンス制御」と「フィードバック制御」があります。この2つは、発展の経緯から大きく違います。

私は、新卒で入社した鉄道会社で、主にシーケンス制御と関連の技術を習得してきました。そのときは、フィードバック制御の名前は知っていても、実際の技術には触れていませんでした。

その状態で、発電プラントに転職しました。発電プラントでは、フィードバック制御によるプロセス制御が中心です。それまで全く扱ったことのない技術で、習得するのに苦労しました。

もちろん、技術的には通信技術や、計算機(コンピューター)技術を使っており、共通する部分もあります。しかし、実際に機器に対して応用するときは、それぞれの分野特有の技術で実現することになります。

転職先の会社によっては、シーケンス制御かフィードバック制御の片方しか仕事がないことがあります。反対に、両方共同じくらい仕事があることもあります。あなたが片方しか得意でないのなら、以下は十分注意しておく必要があります。

シーケンス制御の求人は、より電気工学的である

では、それぞれの制御方式について説明していきます。まずは、シーケンス制御です。

シーケンス制御は、日本工業規格(JIS Z 8116:1994)に「あらかじめ定められた順序又は手続きに従って制御の各段階を逐次進めていく制御」と定義されています。そして、プログラム制御と条件制御に分けられます。

プログラム制御の良い例として、全自動洗濯機が挙げられます。さまざまな機能の付いた洗濯機もありますが、単純に「洗い」「すすぎ」「脱水」の機能のみあるとします。

下の写真は、2014年頃に買った全自動洗濯機です。この橙色で囲ったボタンのみ使うと考えてください。

あなたが、洗濯機に洗濯物と洗剤を入れたあとは、スタートボタンを押すと「水を○L入れる→○分回す→水を抜く→…(中略)…→高速で回す→完了のアラームを鳴らす」という一連の決まった動作をします。これは、あらかじめ登録(プログラム)しておいた動作です。

このように、「プログラム」したとおりに制御が進んでいく制御方式を、プログラム制御と呼びます。産業分野では、製品の製作ラインなどに使われます。

また、洗濯機のように家電に組み込まれたものもたくさんあります。これらは、組み込みシステムなどと呼ばれます。

もう一つ、条件制御は、踏切を思い浮かべると良いでしょう。下の図は、踏切の動作原理を簡単に表したものです。

踏切は、普段は車を通すために遮断竿(しゃだんかん)が上がっています。しかし、列車が踏切に近づいてくると警報を鳴らし、遮断竿を降ろします。

これは、「列車が踏切より○mの地点に近づいた」という条件で、「警報を鳴らし遮断竿を降ろす」という動作をしています。遮断竿を上げるときは、「列車が踏切より○mの地点に遠ざかった」という条件を用います。

このように、「条件」で動作する制御を、条件制御と呼びます。

このシーケンス制御は、かつてはリレー(継電器)とタイマーで動作を実現していました。しかし、機械的に動作する部分が故障しやすく、次々に電子部品に置き換えられています。

今では、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)で作られることが多いです。ちなみに、シーケンサーとPLCは同じものです。PLCの大きなシェアを持つ、三菱電機株式会社の商品名が「シーケンサー」です。下の写真は、PLCの例です。

PLCでも、その動作はリレーとタイマーを使っていたときと同じです。「ON」と「OFF」、そしてその動作を維持する「時間」の3要素を使って制御します。論理回路を用いて表現します。

この論理回路は、電気工学を修めた人は馴染みのある表現です。しかし、電気工学以外の機械工学などを修めた人にとっては、あまり馴染みがない分野です。

WEBで閲覧できる大学のシラバスを調べたところ、論理回路が必修項目に入っている例は少ないです。あっても、わずかな時間数しか履修していません。

このことからも、電気工学を修めた人は、シーケンス制御の分野に強みがあると言えます。また、単に電気制御というと、この分野のことを指す場合が多いです。

フィードバック制御の求人は、機械工学の色合いが強い

次に、フィードバック制御について説明します。

フィードバック制御は、日本工業規格(JIS Z 8116:1994)に「フィードバックによって制御量を目標値と比較し、それらを一致させるように操作量を生成する制御」と定義されています。そして、プロセス制御と機械制御(サーボ制御)に分類されます。

プロセス制御は、素材(鉄、紙、化学薬品など)やエネルギーを生産するプラントでよく用いられる制御方式です。これらの領域では、流量・圧力・温度などを目標値に合わせて制御するという動作が頻繁に発生します。

理想的な動作は、「目標値に設定したいと考えて、制御量を調整したときに、時間差なく目標値に達する」ことです。しかし、実際には時間差があります。これをグラフで表すと、下のグラフのようになります。

これは、お風呂の追い焚きを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。ぬるくなったので、追い焚きボタンを押してもなかなか温かくなりませんよね。望んだ湯加減になるまでしばらく時間がかかります。反対に、熱くなりすぎて水を足すこともあるでしょう。

このように、制御対象物(制御系と呼びます)の状態を監視しながら、制御量を調整して制御する方式をプロセス制御といいます。

最後に、機械制御とは、制御量が角度や位置のフィードバック制御のことを指します。産業用ロボットの制御などがこれに当たります。

フィードバック制御のこの2つの制御方式のうち、プロセス制御の歴史は古いです。かつては、電気を用いず、機械的に制御していました。例えば、下図のような流量を調整する機構は機械的に実現されていました。

この図では、配管の中を流体が流れていると考えてください。流量計は羽根車の回転数で流量を測るものです。羽根車が回るとその回転は90°向きを変えて配管の外にでます。

その軸には重りがつけられ、遠心力で上下に動きます。この上下の動きは流量調整弁に機械的に伝えられて、流量調整弁の開閉を実現します。

しかし、現在では、下図のように流量計から流量調整弁の間は、電気的に接続されることが多いです。

電気的に伝える方法では、流量計は流量を電流値などで表し、変換装置Aに渡します。変換装置Aはその電流値を通信プロトコルに合わせて変換します。

そして、変換装置は監視制御装置に流量情報を渡します。流量情報を受け取った監視制御装置は、適切な流量にするため弁の開閉量を演算し、その指示値を変換装置Bに送ります。

変換装置Bは、受け取った指示値情報を、調整弁の開閉度に変換して流量調整弁に渡します。流量調整弁は、弁の開閉を行い、流量を調整します。

この例では、単純に流量計と流量調整弁を電気的に接続しました。しかし、実際には、途中に制御演算装置としての計算機(コンピューター)が入ることもあります。

このような電気的に通信や計算機が入ることによって、制御エンジニアが従来の機械的な方式で実現できなかった複雑な制御が可能になりました。多数の要素(流量・温度・時間など)を計算機で処理して制御することにより、より応答性がよく繊細な制御ができるようになりました。

日本の製品の品質の良さや、工場の省エネは、このようなプロセス制御が支えているともいえるでしょう。

このようなプロセス制御は、制御工学で学んだ知識が活きてきます。シーケンス制御とは反対に、電気工学を修めた人はこの分野に馴染みが薄く、機械工学を修めた人は学んでいることが多いです。

プロセス制御は発展の経緯から、電気制御とは言いにくいところがあります。しかしながら、現在では電気を使って制御していることからも、広い意味で電気制御とも言えます。

機械制御(サーボ制御)は、扱うものが「角度」や「位置」の制御を言います。簡単に言うと、ロボットのアームの制御です。工場などの生産現場で、ロボットアームを制御するのによく使われます。

機械制御は、広く普及した当時から電気による制御が行われています。しかし、プロセス制御の亜種とも言えます。そのため、機械工学の学ぶことが多いです。

このように、フィードバック制御を中心に扱っている求人では、機械工学を修めた人に優位性があります

計算機(コンピューターシステム)、通信に強いと転職で選択肢が増える

ここまで解説してきたのは、制御する対象に近い分野で、制御分野の花形ともいえます。しかし、シーケンス制御ではPLCが主に用いられ、フィードバック制御でも電気的に置き換わっています。関連技術として、計算機や通信の技術も必須です。

古くからある制御では、例えば100Vの電圧の有無を用いて制御していました。100Vで制御しようとすると、制御できる数は少なく、ケーブルは太くなり、長い距離を敷設することもできません。

したがって、現在では途中の経路を通信線で置き換えることが普通です。単純にLAN(Ethernet)に置き換えると、100mを一本のLANケーブルにすることができます。光ケーブルに置き換えると何10km離れても問題ありません。

また、制御するスイッチもかつては機械的に行っていたものが、今では計算機(コンピューター)の画面上で行うようになっています。

下の写真は、かつて駅にあった鉄道のポイントを制御する盤です。切替スイッチや押しボタンスイッチが、盤面に並んでいるのがわかります。

また、下の写真は新幹線東京指令所の写真です。かつて駅にしかなかった上の写真のような装置は、東京の一箇所に統合され、東京から集中的に制御されるようになりました。

引用:成美堂出版「鉄道ジャーナル2019年1月号」82ページより

写真の橙色の矢印で示している画面が、ポイントを制御する画面です。全てソフトウエア上で行うようになっています。

鉄道だけでなく、プラントでも中央制御室などで集中的にプラント全体の監視制御を行っています。これも同様に、コンピューターのソフトウエアで制御することがほとんどです。

したがって電気制御に転職を考えるとき、このような計算機や通信の分野に強いと選択肢が増えます

電気制御の仕事に必須資格はない

これらの電気制御の仕事に転職するのに、必要な資格はあるのでしょうか。

実は電気制御の仕事内容には、持っていないと仕事ができない、絶対に必要な資格というのはありません

そのようなことから、資格取得で年収アップを狙うのが難しいとも言えます。

次の章で実際の求人例を示す中でも、ある資格が必須であるという案件はありませんでした。むしろ、無資格でもなんらかの制御実務の経験がある人を求めていることが多いです。

実務経験とは、「保守の現場でラダーシーケンスを改修していた」「プラント設計で計装制御を担当した」などの実践的なものを求めています。もちろん未経験OKのものもあります。

ただし、私の転職経験から少し補足すると、プロセス制御に関する「計装」の場合は、資格を求めていることがあります。電気工事士資格や計装士資格などです。

計装で電気工事士資格が必須になる場面は少ないのですが、制御盤設計・製作などの電気工事に似た作業があります。電気工事士資格を求めているのは、この電気工事に似た作業のスキルを担保するために求めていると考えられます。

計装士資格は、計装業界だけに使える資格です。これは単に計装経験者がほしいため、計装士資格者を求めていると考えられます。

参考に、転職サイトで「計装」を調べたところ、719件の求人案件(下図参照)がありました。

うち「計装士」資格に言及していたのは56件です。さらに、その中で計装士資格または電気工事士を必須としていたのは5件しかありませんでした。

このことから計装士や電気工事士は、わざわざ転職のために取得する資格ではないといえます。

また、転職サイトに求人の出ている期間は約3ヶ月です。ぜひ入社したい会社の求人で計装士を必須としていて、そのために取得しようとしても、まず間に合いません。電気工事士も同じで、資格の勉強をしている間に求人はなくなってしまいます。

このようなときは、試験に申し込んでから、求人にも応募しましょう。履歴書や面接で、資格受験する予定で勉強している旨を伝えると、採用に結びつくこともあります。

転職の求人は、ほかの人が採用されるとなくなってしまいます。気になる求人を見つけたら、とにかく応募してみることが転職を成功させる秘訣です。

電気制御に関する求人例

それではここからは、実際の求人例を見ていきましょう。

最初はシーケンス制御に関わる求人です。下の図は、大分県でPLCの開発をしている株式会社デンケンの求人です。

また、下の図は同じ求人の「対象となる方」の欄です。

これを見ると、学歴も資格も必要なく、PLCを使った制御で何らか経験があれば良いことがわかります。

実際にPLC開発をしていたことがあればよいのですが、保守や機器製作の経験でも、PLCユーザーの立場がわかるという強みを生かして転職することも可能です。

次は、PLCなどのプログラムをして、スマートフォンの生産ラインを制作している株式会社シライテックの求人です。この会社は大阪に工場があります。

この求人の、「対象となる方」の欄を下に示します。

この会社は、シーケンスプログラマーを求めています。PLCのプログラムは、PLCをパソコンなどに接続して、パソコン上のソフトウエアで「ラダーシーケンス」と呼ばれるプログラム言語を用いて行われることが多いです。

電気設備保守の現場で、ラダーシーケンスを改修することや、動作を確かめるために図に描かれたラダーシーケンスを追うことが、しばしばあります。私が勤めていた鉄道会社では、電鉄用変電所にシーケンサーが使われており、保守担当がスラスラとラダー図を読んでいました。

このように、これまでラダーシーケンスに触れることが多ければ、十分選択肢になる求人です。

3つ目、下の図の求人は、静岡県の浜松にある株式会社スペースクリエイションのものです。この会社は、自動車等の輸送機向け開発試験機を開発製作しています。制御機器を組み合わせて、具体的に使えるものを開発する制御系エンジニアの求人です

この求人の「対象となる方」の欄を下に示します。

上の必須条件のとおり、ハードルが低いです。短大・高専の電気系学科出身であれば、経験がなくとも応募できます。

このような求人では、高校の電気工学科卒の場合、学歴で応募できないことになっています。しかし、歓迎条件の制御設計(電気制御設計)の実務経験などがあるなら、転職サイトの転職エージェントを通して応募を打診してみると良いです。

転職の場合、学歴より経験が重視されることが多いです。しっかりとした経験があるなら、応募を受け付けてくれ、採用されることはあります

私が転職活動をしていたとき、学歴が足りない求人案件に応募し内定をもらったこともあります。工事設計の会社だったので、私の場合は鉄道新設工事の設計経験と所持していた資格で応募を受け付けてくれました。
4つ目は、組み込みエンジニアの求人案件です。岩手、宮城、東京、大分、福岡に拠点のあるイーストライズ株式会社のものです。

下にこの求人の「対象となる方」の欄を示します。

この求人は、組み込みエンジニアを募集するものです。業務系アプリやWeb系システム開発のほかにエンベデッドシステム(組み込みシステム)の開発がこの会社の業務です。Rubyなど将来性のある言語を扱っていることからも、意欲的な会社です。

この会社は、ラダーのような特殊な言語ではなくて、JavaやC言語など一般のプログラム言語で開発を行っていることが「対象となる方」の欄を見てもわかります。

組込みシステムを開発する場合、C、C++、Javaなどをよく使います。これらの言語は組込みシステム以外でもよく使われるので、あなたも触れたことがあるかもしれません。

私は組込みシステムの経験はありませんが、担当していた鉄道の電力監視制御システムではC言語を使って開発・保守をしていました。したがって、C言語で実際にどのようにものづくりをしているのかが、おぼろげでもわかります。

もちろん開発の現場で、すぐにコードを書くことはできません。ただ、このような経験があると、仕事の飲み込みが早くなります。多少でもプログラム言語に触れる機会があったのなら、十分選択肢になる求人です

最後は、プロセス制御を扱う計装の求人案件です。神奈川県に拠点のあるキリンエンジニアリング株式会社の求人を下図に示します。

下の図は、この求人の「対象となる方」の欄です。

この求人では、計装の設計を任されることになります。計装とは、プロセス制御で使われる技術です。プラントでは機械系学部出身の人が担当することが多いようです。

しかしながら、計測器は電気的に出力するものがほとんどです。また、その出力を使って制御するもの(弁、モーターなど)も電気的に制御します。したがって、制御系の転職をするときに十分選択肢になります。

まとめ

以上のように、電気制御で転職を考えるときは、自分がシーケンス制御ができるのか、フィードバック制御ができるのかを十分見極める必要があります。どちらも電気は扱いますが、シーケンス制御のほうがより電気工学的な仕事です。

また、計算機(コンピューター)や通信の知識技能があると、集中監視装置などの開発・製作もすることができます。現場側の機器(PLCや計装など)だけでなく、応募できる求人の幅が広がります。

これらの求人に応募するときに、有利になる資格はないと考えてください。これは、制御の仕事に必ず資格者を充てなければならないものがごくわずかだからです。

そして、気になる求人案件を見かけたら、すぐに転職活動に取りかかるのが良いです

転職サイトでは、同時に何社も応募することも可能です。自分の得意な分野で、複数社に申し込んで進めると転職に成功しやすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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