電気工事に携わる人の多くが取得を目指す資格の中に、電気工事施工管理技士資格と電気主任技術者資格があります。電気工事施工管理技士資格は数年の実務経験が必要で、電験資格はかなり技術レベルの高い資格です。

あなたは、資格取得のために大変な努力をして取得したのだと思います。苦労して資格を取得したからには、その資格を活かしてより条件の良い会社に転職したいと考えるのは自然です。

しかし、電気工事施工管理技士資格と電験資格の両方を100%活かせる会社はまずありません。したがって、資格が有効な仕事を把握し、できるだけ活用できる範囲で求人を探さなければなりません。

これには、電気工事施工管理技士資格と電験資格がどのように違うのかを十分理解しておく必要があります。ここでは、まず2つの資格の違いについて詳しく説明します。

次に、それぞれの資格について十分理解した上で、求人の実例を確認して行きます。最後に、これら2つの資格が活かせる求人の年収について説明します。

もくじ

電気工事士施工管理技士・電験資格の違いを理解する

求人を探す前に、電気工事士施工管理技士資格と電気主任技術者資格について、正しく理解しておくことが必要です。

これら2つの資格は、求められる主な業種が違います。両方を転職に活かすには、資格の特徴を理解して求人を見極めなければなりません。

電気工事施工管理技士資格は建設業に必要な資格

まず、電気工事施工管理技士資格は電気工事に必要な資格です。したがって、求める会社の多くは建設業の会社です。

そして、ある一定規模の電気工事を請け負う場合、電気工事施工管理技士有資格者を下の写真のような施工現場事務所に必ず配属しなければなりません。つまり、この資格者が必要な場所は電気工事の現場です。

電気工事の現場での仕事内容は、主に施工管理です。具体的には「安全」「品質」「納期」「コスト」を一定水準以上に保つために、下記のような仕事をします。

  • 安全管理 : 工事現場で労働災害を防ぐ対策や教育を実施する
  • 品質管理 : 顧客との契約仕様を十分に満たす施工指示、手直しの指示を実施する
  • 工期管理 : 契約竣工日までに余裕を持って工事を完成させるための取り組みを実施する
  • コスト管理 : 予算と経費が十分にバランスしていることを日々確認し、適切な処置を行う

このような管理は、どのような小さな工事であっても意識せずに行っていることです。しかし、大人数で一つの工事に取り組むときは、意識せずに「なんとなく」管理していたのでは、十分な効果がありません。

その結果何が起きるかというと、死亡事故などの重大な労働災害や施工不良です。電気工事の場合、施工不良で火災を惹き起こしたり、漏電で使用者の感電死亡事故を起こしたりします。

このような事態を防ぐために、政府が施工管理の能力を担保する資格として電気工事施工管理技士資格を認定しています。そして、電気工事施工管理技士資格者を、現場に配置することを定めているのです。

電気主任技術者資格は電気保安に必要な資格

続いて、電気主任技術者資格について説明します。

電気主任技術者資格は、電気保安をするために必要な資格です。電気保安とは、電気工作物(電気設備)が適切に工事・維持・運用されるように適切な措置を講ずることです。

日本では、高圧以上の電気工作物について、電験資格保持者の中から電気主任技術者を選任し、事業者の責任で電気保安を行うことと定められています。

つまり、電気主任技術者資格が必要なのは、電気工作物を設置している事業者です。例えば、下の写真の工場では、22kVで受電しています。したがって、この工場の常駐する従業員で電験3種有資格者の中から、電気主任技術者を選任する必要があります。

先程の電気工事施工管理技士資格と比較すると電験有資格者が活躍しやすいのは、電気工事を発注する側の企業です。

以上が、電気工事施工管理技士資格と電気主任技術者資格の基本的な違いです。もちろん、建設業界で電験有資格者を求めることや、電気保安のある会社で電気工事施工管理技士有資格者を求めることはあります。

しかし、資格者を選任常駐させるために有資格者を求めているのではありません。あくまで資格取得しているということで、施工管理や電気保安の知識があることを評価して求めるものです。

求人を探すときは、この資格者の扱いに注意して、どちらの資格を主に活かしたいのかを決めて探す必要があります

電気工事施工管理技士資格を主に活用したい場合の求人例

では、ここからは実際の求人例を紹介しながら解説します。電気工事施工管理技士資格を主に活かしたい場合は、建設業の会社を中心に探すことになります。

電気工事施工管理技士資格を取得するには、電気工事施工管理の実務経験が必要です。したがって、すでにこの資格を取得しているなら馴染みのある業種だと思います。

電気工事会社の施工管理+設計職を探す

求人例として、下に三和電気土木工事株式会社の求人を示します。三和電気土木工事社は、大阪に本社を持ち関東・中部・関西・四国・沖縄に事業展開している会社です。この求人では、徳島県の支店勤務の人材を募集しています。

求人票では、1級・2級電気工事施工管理技士資格が必須、電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。基本的な仕事内容が施工管理なので、電気工事施工管理技士資格は必須です。

一方仕事内容に、電気工事設計などの業務があります。また、同社のホームページを確認するとコンサルティング業務も行っています。

そして、同社の顧客は大型の電気設備を持つ法人が主体です。したがって、顧客企業には電気主任技術者の有資格者がいます。

設備新設や更新などの大規模工事になると、工事設計・コンサルティングする電気工事会社の担当者は、客先の電気主任技術者と同等以上の技術があることが求められます。これは、会社の信用度に関わるからです。

考えてみてください。あなたがコンサルティングを受ける相手が、あなたより知識・技術で劣っていたら、その相手からサービス・製品を買うでしょうか?  私なら、そのような相手からサービス・製品を買うことはありません。

そこで、設計・コンサルティングの技術力をわかりやすく示すために、電気主任技術者資格を示すのです。電験資格は、電気保安のための資格ですが、電気の技術力を測ることにもよく用いられます。

電験資格を持っていたら、ある程度の電気の技術力があると示せます。これは法律で決まっているわけではなく、社内に電験資格者が多ければ尚良しという条件です。したがって、電験資格は歓迎条件とされています。

そのほか電験資格を活かす場面は、電気工事会社でも少数ながら電気保安の仕事があります。それは、下の写真のように工事中に仮設電源として高圧以上を使う場合です。

仮設電源でも、電気主任技術者を選任して電気保安を行う必要があります。したがって、社員の中に電気主任技術者有資格者がいると、会社としては工事代金に電気保安料金を上乗せできるのでプラス要素になります。

ただし、仮設電源に高圧が必要な電気工事では、客先にも電気主任技術者有資格者がいることも多いです。無理に電気工事会社で電気主任技術者を選任することはないので、必須条件とはされないのです。

設計のみを行う会社も選択肢になる

もう1件、建設業の会社を紹介します。下に示すのは、東京に本社を置き中部・関東・東北を中心に事業展開している株式会社スタッドの求人です。一級・二級電気工事施工管理技士、第一種・第二種電気主任技術者資格が必須条件の一つとされています。

スタッド社は、実際に電気工事を行う会社ではなく、電気工事をするための調査・計画・設計・積算など、工事の上流工程を行う会社です。考え方としては、先に説明したコンサルティングと同じです。

上流工程では、施工管理をすることはありません。しかし、電気工事の設計や積算では、実施工で留意すべき点を押さえておかなくてはなりません。そのため、上流工程に携わるときにも、電気工事施工管理技士資格を持っていることが評価されます

私は工事設計・積算に携わっていたことがありますが、実施工がイメージできないと工事設計・積算を精度高く仕上げることができません。上長に何度も叱咤されながら工事設計・積算を覚えました。

電気工事施工管理技士資格を持っていると、この点で有利であり、歓迎条件に挙げられています。また、電気主任技術者資格はコンサルティングの「箔付け」に役立つため、歓迎条件とされています。

電気工事施工管理技士資格を主に活用した転職活動では、以上のような求人を探していきます。

電気主任技術者資格を主に活用したい場合の求人例

次に、電気主任技術者資格を主に活用したい場合を解説します。

電験資格のような難易度の高い資格を条件に挙げている求人を探すときには、転職サイトを使うことが転職成功への秘訣です。なぜなら、ハローワークや無料の求人誌には電験資格を条件にしている求人が圧倒的に少ないからです。

ハローワークや無料の求人誌が主なターゲットとしているのは、特殊技能を持った人ではなく、平凡な幅広い層です。したがって、電験資格を条件にしている求人はまずありません。

これは、私が転職活動をしていたときの肌で感じたことでもあります。ハローワークに行っても、電験資格が条件にある求人はほとんど手に入りませんでした。最終的に、転職サイトを利用して、電験資格の活かせる求人を紹介してもらって転職を成功させました。

つまり、電験資格が活かせる求人を探すには、転職サイトを有効に活用することで、優れた求人を見つけやすくなります

幅広い業種の設備管理職を探す

実際に電気主任技術者資格が活かせる求人を探すときには、製造業、エネルギー供給業、事業サービス業などの企業をあたります。職種のキーワードとして、「設備管理」「設備保全」「工務」「エンジニアリング」などが含まれていることが多いです。

例えば、下図に示す株式会社ダイセルの求人が該当します。ダイセル社は、総合化学の大手メーカーです。この求人では、兵庫・広島・新潟のどれかの工場に勤める人材を求めています。

求人には、電験三種か電気工事施工管理技士資格が必須条件の一つとされています。また、入社してから電気主任技術者資格とエネルギー管理士資格の取得が必須とも謳われています。

ダイセル社の電気系プラントエンジニアは、下図のように仕事内容に工事設計や工事管理・検収が含まれています。

このような工事設計を行うときに、電気施工管理技士資格を持っていると精度の高い成果を得られやすくなります。また、ユーザー企業として工事を管理する上で、工事業者側の施工管理経験・資格があると適切な指示・依頼が可能です。

したがって、このような製造業の企業でも電気工事施工管理技士資格を応募条件に記載していることがあります。ただし、電験資格に比べて電気工事施工管理技士資格は、ユーザー企業にとって優先順位が下がります

そのため、製造業の設備管理職の求人で、2つの資格を条件にあげている求人は少ないです。多くの場合、電験資格だけを条件に挙げています。

もう1件、2つの資格が条件にある求人を紹介します。下に示すのは、学校法人福岡大学の求人です。この求人では、必須条件として電気主任技術者資格と一級電気工事施工管理技士資格のどちらかを持っていることが記載されています。

福岡大学の求人の場合も、設備が大学にある一般電気設備になるだけで、仕事の内容はダイセル社と同じです。つまり、生産用設備ではなく、配電、空調、給排水などを動かすための電気設備を中心に管理することになります。

福岡大学はキャンパスが大きく、66kVで受電しています。つまり、第二種電気主任技術者の有資格者を選任する必要があります。第二種電気主任技術者資格を持っていると、強烈なアピールポイントになります。

一方、電気工事施工管理技士資格は、下図のように新設・修繕に関わる設計・施工・監理を担当するのに役立ちます。

ただしダイセル社と同じく、あくまで発注者側の立場で仕事を行うので、電気工事施工管理技士資格そのものが役立つのではありません。役立つのは、資格取得のために習得した知識や技術です

電気施工管理技士の資格そのものではなく知識・技能が活かせる

私は、鉄道会社と電力プラントで発注者の立場で、長らく工事設計・施工管理などの仕事をしてきました。しかし、電気工事施工管理技士資格が必要になったことはありません。ただ、施工業者の現場代理人や主任技術者と話をしているときに、体系的に施工管理を学んでおくと役立つと感じたことは多いです。

それは、以下の点などです。

  • たくさんの業者・職人を適切に作業させるための適切な指示が出せること
  • 工事全体を把握しているため、作業の組み立て方が無駄なく適切であること
  • 作業工程を遅滞なく進めるためのテクニックをたくさん知っていて実践できること
  • 工事積算ができること

これらの技術が発注者側の企業では役立ちます。

電気主任技術者資格を主に活かしたい場合は、以上のような求人を探していきます。

資格の活用できる業種の年収を知る

最後に、電気工事施工管理技士資格と電験資格が活かせる企業の年収について解説します。

冒頭に紹介した三和電気土木工事社の年収は、求人票に330~700万円と示されています。

同様に、ここで紹介した求人の年収を求人票から抜粋してまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 業種
三和電気土木工事(株) 330~700 建設業(設備工事)
(株)スタッド 360~670 技術サービス業
(株)ダイセル 500~750 製造業(化学)
(学)福岡大学 342~
(求人票は月給提示22.8~を記載データより1年を15ヶ月として計算)
教育業

表のように、ここで紹介した求人では下限が350万円程度、上限が700万円程度です。ただ、求人によって提示年収額は変わります。これは、どのように見極めて判断すればよいのでしょうか。

実は、年収が決まる要因の一つが業種です。希望する企業の提示年収と、業種平均年収を比べてみることで、提示年収が妥当かどうか判断できます。

業種ごとの平均年収は、厚生労働省が賃金構造基本統計として調査し公開しています。下のグラフは、電気工事施工管理技士資格と電気主任技術者資格が求められる業種の平均年収をグラフ化したものです。

なお、緑色が電気工事施工管理技士資格を主に活かせる業種、青色が電気主任技術者資格を主に活かせる業種を表しています。

グラフのように、電気工事施工管理技士資格を主に活かした転職活動を行う場合は、業種による年収差は少ないです。

一方、電気主任技術者資格を主に活かした転職活動を行う場合は、対象になる企業の平均年収が幅広いです。平均年収が最も高い業種と最も低い業種で2倍以上の差があります。したがって、年収を上げたいのに年収の低い業種の求人ばかりを探していたのでは、希望を叶えることはできません。

このように個別の求人票を見ていただけでは、提示された年収が妥当かどうかは判断できません。信頼の置けるデータを参考にして、求人票を見極めると良いです。

まとめ

ここまで、電気工事施工管理技士資格と電気主任技術者資格が活かせる求人について解説してきました。

まず、電気工事施工管理技士資格は主に建設業で必要な資格、電験資格は主に電気保安で必要な資格であることを理解しなければなりません

それぞれの資格が必要とされる仕事が違うために、同時に2つの資格が活用できる求人を探すのは極めて難しいです。そこで、活用する資格に優先順位をつけると求人を見つけやすくなります。

電気工事施工管理技士資格を主に活用したいときは、建設業のうち施工管理や工事設計・コンサルティングの求人が対象になります。

そして、電気主任技術者資格を主に活用したいときは、電気保安がある業種のうち、「設備管理」「設備保全」「工事設計・管理」「エンジニアリング」などが含まれている職種が対象になります。

このような求人の仕事内容をよく把握して、あなたが望む仕事内容か確認して応募すると良いです。

これらの求人の年収は、業種により様々です。業種ごとの年収は政府統計で確認することができます。求人票だけでなく、政府統計などの信頼できるデータをあわせて確認しましょう。そうすることによって、転職後の満足度を高めることができます。


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