電気系と機械系の資格のうちポピュラーなもので、電気工事士資格とボイラー技士資格があります。それぞれ業務独占資格と言って、有資格者のみがすることのできる業務があります。したがって、需要の将来性が心配のない資格といえます。

しかし、どのような企業でも電気工事士・ボイラー技士の資格者を求めているわけではありません。転職で両方の資格を活かそうとすると、ある程度転職先の企業が絞られます。これを知らずに闇雲に求人を探しても、優れた求人を見つけることは難しいです。

優れた求人を見つけ転職成功させるには、資格の意味を理解し、職種を正しく理解することが大切です。それには、事前の情報収集が重要です。

ここでは、電気工事士・ボイラー技士の活かせる職種を3種類紹介します。それぞれの特徴を詳しく説明したあと、それらの職種における年収について、考え方を解説します。

もくじ

電気工事士とボイラー技士資格はビルメン4点セット

電気工事士とボイラー技士の両方の資格が活かせる職種は、それほど多くありません。その中で、数が多いのがビルメンテナンスの求人です。

ビルメンテナンスは、商業ビル・病院・大型商業施設などの施設を管理する仕事です。あなたは、下の写真のような「防災センター」をビルの入口などで見かけたことはないでしょうか?

ビルメンテナンスの仕事は、このような防災センターやバックオフィスに待機して、施設内の設備の監視、故障対応などを行う仕事です。

ビルメンテナンスの仕事には清掃や警備も含まれます。しかし、電気工事士やボイラー技士の資格が活かせるのは、「施設管理」「設備管理」と呼ばれる職種です。

ビルメンテナンスの求人例

続いて、ビルメンテナンスの求人例を示します。

下に示すのは、株式会社マルイファシリティーズの求人です。マルイファシリティーズ社は、首都圏を中心にビルメンテナンス業務を展開している会社です。この求人では、東京・神奈川・埼玉の商業施設を担当する人材を募集しています。

求人に記載されているとおり、「電気工事士」「ボイラー技士」の2つの資格が活かせると紹介されています。

ビルメンテナンス(設備管理)で特に有用な資格は、「ビルメン4点セット」と呼ばれています。ビルメン4点セットとは、「第2種電気工事士」「2級ボイラー技士」「危険物取扱者乙種四類」「第三種冷凍機械責任者」をいいます。そのうち最も使用頻度が高いのが、電気工事士資格です。

私は、東京駅の鉄道関連設備の設備管理を担当していたことがあります。私が勤めていた会社は鉄道会社でしたが、鉄道の営業に直接関係する設備(駅員が仕事する設備)などは鉄道会社の社員が設備管理をしていました。

駅に付属するテナントや駅ビルの百貨店などは、グループ会社のビルメンテナンス会社が業務をしていました。しかし、仕事の内容はほとんど同じです。

そこで故障対応していた経験から言うと、故障対応のほとんどが管球交換(照明の球替え)です。そして、灯具が壊れていることが時々あるので、灯具交換をすることがあります。

オフィスや店舗では、下の写真のようにたくさんの照明が使われています。担当する施設が広ければ広いほど照明の数が増え、照明が切れたり灯具が故障したりする場面に遭遇する確率が上がります。

管球交換に資格は不要ですが、灯具交換は電気工事士資格が必要な場合があります。電気工事士資格を活用できる場面には、しばしば出会うことになります。

一方、ボイラー技士資格は、ボイラーの運転に必要な資格です。したがって、ボイラー技士資格が必要な業務は、日々のルーチンに組み込まれています。ボイラー技士資格を使って仕事をしているという意識は持ちづらいです。

つまり、ビルメンテナンス4点セットと言われる資格の中で、一番役に立つと感じられるのは電気工事士資格です。このように、電気工事士資格の活躍場面が多いということを知っておいてください。

ビルメンテナンスの仕事の注意点

電気工事士資格は、電気工事を施工するのに必要な資格です。ここで注意してほしいのは、ビルメンテナンス職が行う電気工事は簡易修繕がほとんどであるということです。

ビルメンテナンスの仕事は「設備管理」です。「電気工事をすること」ではありません。したがって、原則として簡易修繕や応急復旧工事以外の電気工事は外注することになります。外注区分の考え方は、下図のとおりです。

つまりビルメンテナンスは、実際に手を動かして電気工事を施工してモノを作り上げたい人にとっては物足りない仕事といえます。反対に言えば、納期に追われることはなく、肉体的にきつい仕事ではないので、ゆとりを持って働くことができます。

そして、工事の計画や外注業者の采配をする業務が数多くあります。これらの業務には、直接電気工事士資格やボイラー技士資格は必要ありません。

しかし、実際に施工者がどのように施工するか理解していると仕事を楽に進めやすいです。直接仕事に資格を活かすことはできないものの、間接的に活用することは可能です

ビルメンテナンス職に転職を考えるときには、このような仕事の特性を承知して転職するとミスマッチを防ぎやすくなります。

ビルメンと仕事内容は類似するが自社設備を管理する仕事

電気工事士とボイラー技士資格を活かした転職の第二の選択肢は、プラント・工場の設備管理・工務と呼ばれる職種です。

具体的な求人でいうと、下のコニカミノルタエンジニアリング株式会社の求人が該当します。この求人では、コニカミノルタエンジニアリング社の神戸(西神)サイトの保守人材を募集しています。

このような工場の設備管理の求人は、ビルメンテナンス職が他社の設備の保守管理を行うのに対して、「自社設備を保全すること」が特徴です。

製造業における生産拠点(工場)では、下の写真のようなユーティリティ設備が必ず存在します。写真は、高圧ガス設備、給水設備です。

また次の写真には、同じ工場の薬品を送出する設備、電気設備、ボイラー設備などの工場設備があるのがわかります。

コニカミノルタ社の西神サイトは、液晶ディスプレイに用いられるフィルムを生産している化学系の工場です。上の写真と同様の設備があります。

基本的な業務の考え方はビルメンテナンスと同じです。自社で対応できる修繕などは自社対応し、規模の大きな工事になると外部業者に発注します

ただし、ビルメンテナンス職が広く浅く知識を求められるのに対して、工場の設備管理職はその工場に特化した専門的な知識・技能を蓄積していく働き方をしなければなりません

工場の求人は、同じ「設備管理」という名前で求人が出されていることが多いです。しかし、このような違いを十分に知って転職活動を行うことが大切です。

エネルギープラントの運転員に電気工事士・ボイラー技士は有用

第三の選択肢は、エネルギープラントの運転員です。このカテゴリーでは、火力発電所やガス工場などが求人を出していることがあります。

例えば、下に示すのは株式会社三池火力発電所の求人です。三池火力発電所は、以前は東芝系の石炭火力発電所として運営されていました。今は新電力系の会社が親会社になっています。三井三池炭鉱で有名な、福岡県大牟田市にあります。

かつて石炭の積出港として栄えた大牟田港地域は、このような発電所や工業団地として再開発されています。下の写真は、三池火力発電所の遠景です。

火力発電所は、電力供給のベース電源として24時間365日運転が基本です。つまり、24時間を交替しながら監視・運転し、異常が発生した場合には直ちに対処しなければなりません。運転員の仕事は、発電所の運転・監視・故障の応急復旧が主な仕事です

例えば、下の写真のような中央制御室(中央監視室・中央操作室ともいう)で待機し、デスクワークをこなしながら、緊急時は現場に急行して応急復旧をします。

一方、ガス関係の求人は、下の東邦ガスエンジニアリング株式会社の求人があります。東邦ガスエンジニアリング社は、都市ガス大手の東邦ガスのグループ会社として、ガス製造施設などの保全を担当する事業子会社です。

なおこの求人では、愛知県内のエネルギーセンターで勤務することになります。

エネルギーセンターも発電所と同じく、ガスインフラを支える施設です。下の写真のような都市ガス施設も、24時間稼働が基本です。

このような施設には、運転員が常駐して24時間監視・運転・故障対応を行います

そして、このようなエネルギープラントは製造業の工場に付属していることもあります。下の写真は、財閥系化学メーカーの火力発電所の遠景です。このような発電所においても、運転員は必要です。

つまり、独立して発電所やガスプラントを運営している会社だけでなく、製造業の企業からも求人が出ていることがあります。具体的な例を上げると、下に示すマツダ株式会社の求人が該当します。

マツダ社は、日本では広島と山口に生産拠点を持つ自動車メーカー(輸送機器製造業)です。広島の本社工場と山口の豊富工場のそれぞれに、自社電源として火力発電所を持っています。下の求人は、その発電所で働く人材を求めています。

このような運転員はボイラーの運転をするので、ボイラー技士資格が必要です。また、故障対応をする際に、電気関係の故障だと電気工事士資格が必要な場合があります。そこで、それぞれの資格が歓迎条件に挙げられることが多いです。

私が勤める電力プラントでも、運転員は必ず2級ボイラー技士資格を取得します。電気工事士資格は難易度が上がるので、「取得推奨」になっています。

なお、働き方はビルメンテナンス職とよく似ています。ただし、お客様対応がまずありません。そして、扱う設備が空調や給排水設備といった一般的なものではなく、専門的な設備を扱うことがほとんどになります

業種の選択によって年収は大きく変わる

最後に年収について解説します。転職する理由の一つに「年収に対する不満」がある人がほとんどです。したがって、年収を上げるためにはどのように考えたらよいか、押さえておくことが重要です。

まず、冒頭で紹介したマルイファシリティーズ社の年収は、下のように360~500万円と提示されています。

同様に、ここで紹介した5社について、求人票に提示されている年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収[万円] 業種
(株)マルイファシリティーズ 360~500 その他技術サービス
コニカミノルタエンジニアリング(株) 353~450 建設業(設備工事)
※業務用機械器具製造業
(株)三池火力発電所 207~325 電気業
東邦ガスエンジニアリング(株) 270~500 その他技術サービス業
※ガス業
マツダ(株) 400~800 製造業(輸送機械)

※は親会社の業種

この中で、際立って年収が低いのが、発電所の運転員です。私の勤める電力プラントの運転員は、そのほかの職種(保全・管理)と比較して安いです。これは、電気工事士やボイラー技士資格を持っていただけでは、発電所のコア技術を運用することができないからです。

ただし、運転員でキャリアを積んで資格を取得し、発電所の保全や管理ができるようになれば年収は上がりやすいです。マツダ社の求人は、運転員だけでなくさらに技術的に高度な仕事を担当するため、年収が高く提示されています。

下の示すマツダ社の求人で示される仕事内容では、下線部が主に運転員の仕事です。そのほかの仕事が技術的に難易度の高い仕事で、担当を運転員以外にさせることが多いです。

発電所の難易度の高い仕事は、電気工事士・ボイラー技士資格を必要としません。代わりに、「エネルギー管理士」「B・T主任技術者」「電気主任技術者」などの有資格者が就きやすい仕事です。求められる技術力が高くなる分、得られる給料も上がります。

入社後の年収の伸びは、提示年収から推測することは難しいです。そこで、業種ごとの平均年収を参考にすると良いです。業種ごとの平均年収は、毎年厚生労働省が賃金構造基本統計調査として発表しています。下が、電気工事士・ボイラー技士資格が条件の求人が出やすい業種の平均年収をグラフ化したものです。

引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

グラフ中、青色で示したものが製造業で、緑色で示したものが非製造業です。

親会社が別業種の会社の年収は、親会社の業種の年収に影響されます。合わせて参考にすると良いです。

例えば、コニカミノルタエンジニアリング社の業種は建設業ですが、親会社のコニカミノルタ社の業種は製造業(業務用機械器具)です。したがって、業務用機械器具製造業の平均年収も参考にして、提示年収の妥当性を判断すると良いです。

グラフからわかる通り、最も平均年収の高い業種と、最も平均年収の低い業種で2倍近い差があります。平均年収の高い業種の企業に転職したほうが、たとえ入社直後の年収が低くても、将来的に年収が高くなりやすいです。

まとめ

電気工事士とボイラー技士の両方の資格が条件にある求人は、ビルメンテナンス業の会社でよく出されています

ビルメンテナンスでは、「ビルメン4点セット」と呼ばれる優先的に取得すべき資格があります。この「ビルメン4点セット」に、電気工事士とボイラー技士資格が入っています。したがって、転職の際の大きなアピールポイントになります。

ビルメンテナンスと同じ設備管理の仕事で、工場の設備を扱う仕事でも2つの資格が役立ちます。ビルメンテナンスが一般的な電気・ボイラー設備を扱うのに対して、工場の設備管理ではその工場に特化した電気・ボイラー設備を扱います。

また、自社、もしくは親会社の設備を管理するのが、工場設備管理の求人の特徴です。専門的な設備に対応するため、求められる技術力も高くなります。

そのほか、火力発電所の運転員などでも電気工事士・ボイラー技士の有資格者が求められることが多いです。火力発電所は、単体で電気業を営んでいる企業のほか、製造業の工場にも併設されていることがあります。つまり、製造業の会社も選択肢になります。

電気工事士・ボイラー技士資格が活かせる求人における提示年収は、業種によりさまざまです。政府統計によって、平均年収が業種によって大きく差があることがわかっています。平均年収の高い業種に転職することで、一時的に入社時の年収が低くても、将来的に年収が高くなりやすくなります


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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