モーター(電動機)は産業の米と言われる重要なデバイスです。電気エネルギーを運動エネルギーに変えるデバイスとして、誕生以来長く主役を務めるデバイスでもあります。
そして、モーターは基本的な構造・技術が変わっていません。しかし、素材や制御方式の改良や、長期間にわたる技術の蓄積によって、現在の産業が成り立っています。
このような背景から、汎用的な技術だけを持った電気技術者では太刀打ちできず、経験者が強く求められる分野です。そのため求人数が少なく、転職を成功させるには工夫が必要です。
ここでは、3つの場合に分けて求人の探し方・求められる経験を解説したあと、効果的な転職サイトの使い方を紹介します。
もくじ
モーター関係の求人の具体的な探し方
モーター(電動機)関係の電気技術職の求人を探すには、以下の3つの考え方があります。
- 汎用モーター本体および付属機器の製造に直接関わる求人を探す
- 汎用モーターに間接的に関わる求人を探す
- 製品の専用モーターに直接関わる求人を探す
1と3に該当する職種は、研究、開発、設計などの職種です。これまでの実務経験が求められることが多い分野です。
2に該当する職種は、製造技術、品質管理・品質保証、セールスエンジニア、フィールドエンジニアなどの職種です。実務経験があると良いですが、ほかの業種からでも転職しやすい職種です。
まずは自分の経験を整理して、どの方法で求人を探すか決めましょう。
モーターメーカーの研究、開発、設計
それでは、具体的にどのような求人あるのかを確認しましょう。
以下は、小型モーターのシェアの大きいマブチモーター株式会社の求人です。マブチ製モーターは玩具・模型にも販売されており、あなたもかつて使って遊んだことがあるのではないでしょうか。
この求人では、モーターの価値向上のための新技術開発に携わる人材を求めています。そして、誰でも応募できるわけではなく、モーターや関連する技術の研究開発経験が求められています。
このようにモーターの研究・開発・設計の求人では、これまでに類似する職種経験があることが求められることがほとんどです。
また、モーターメーカーの名前を直接キーワードにして求人を探しても、公開求人がない場合があります。後述しますが、研究・開発・設計の職種で転職を成功させるには非公開求人を探して、多くの求人に触れることが重要です。
メンテナンスなどモーターに間接的に関わる求人
モーターと一言でいっても、使われる場所によって様々な種類のモーターがあります。例えば、前の項で紹介したマブチモーター社が得意とするのは、下の写真のような小型モーターです。
このモーターは目覚まし時計のベルを鳴らすのに使われているものです。
その一方で、モーターには下の写真のような送風機に用いられる大変大きいものまであります。
このように、モーターにはさまざまな種類があります。そして、モーターの分類を代表的な製造メーカー一覧とあわせてまとめたものが下の表です。
分類 | 出力 | 代表的な会社 |
---|---|---|
超小型モーター | 〜3W | 日本電産など |
小型モーター | 3W〜100W | マブチモーター・山本電気など |
中型モーター | 100W〜数kW | 山洋電気・オリエンタルモーターなど |
大型モーター | 数kW | TMEIC・日立産機システムなど |
一つのメーカーですべての出力のモーターを作っているわけではなく、メーカーにはモーターの出力ごとに得意分野があります。
このうち、超小型モーターや小型モーターは、保守しながら長く使うものではありません。故障したら、モーター全体を取り替えます。したがって、フィールドエンジニアの職種はありません。
反対に中型モーターや大型モーターでは、故障したからと言ってすべてを取り替えることはまれです。
私がかつて勤めていた鉄道会社では、大きなモーターが突然壊れたとしても、一旦は修理することを検討していました。一時的に代替品で運用し、なんとか修理しようとします。
これは取り替えるとなると大きな支出になるからで、故障したときには原因となった部品を取り替えて対応します。
また、摩耗や経年劣化した部品を定期的に取り替えて、一台のモーターを十数年から数十年にわたって使います。したがって、メンテナンス部隊としてフィールドエンジニアの職種があります。
フィールドエンジニアは、すでに据え付けてあるモーターを保守するだけでなく、新しくモーターを据え付けることもあります。その場合、「電気設備施工管理」と分類してあることもあります。
例えば、下図の東芝三菱電機産業システム株式会社(TMEIC)の求人が該当します。
また、下図のように必要な経験・資格はモーターに直接関係する技術ではありません。この求人に示されていることは、建設業にかかる経験なので、あなたがこれまで電気工事会社に勤めていたならその経験が活かせます。
実際私が勤める電力プラントに施工に来ていた電動機の技術者に話を聞くと、以前は別の仕事をしていたということでした。別の職種からでも転職できるという端的な例です。
フィールドエンジニアのほかに、生産現場では生産技術職が間接的にモーターに関わる職種です。生産技術職は、モーターを生産する設備の設計・保守・改良を行い、モーター出力に関係なく求められる職種です。
下図は、マブチモーター株式会社の生産技術職の求人票です。千葉工場ほか同社の海外工場にも駐在する可能性のある求人です。この求める方の欄にはモーター本体の知見に関する記載はなく、生産設備に関する経験や知識を求められていることがわかります。
また、受電5社としてインフラ系に強い株式会社明電舎では、電動機の品質管理職として以下のような求人を出しています。この求人は群馬事業所に勤めることになり、主にテストエンジニアとして納品前試験を行います。必須条件は、学歴と一般的なパソコンスキルだけしか示されていません。
パソコンスキルを必須条件として挙げているのは、試験報告書やデータ整理に必要だからです。私が鉄道会社勤務時代に立ち会い試験で同社を訪れたときには、A4キングファイル十数冊におよぶ試験成績書を提示され、確認したことがあります。
内容は、試験手順・結果・所見が文章と数値表で記載さていました。分量が多いので全くキーを打てないと大変なものの、十数ページほどの文書作成が苦にならないレベルなら問題ない程度です。
このようにモーターに間接的に関わる職種は、ほかの業種での経験も活かせる案件が多いです。そのため、業種をまたいだ転職をしやすい職種といえます。
自社開発モーターを使う企業も選択肢になる
モーター自体を生産している企業のほかに、自社製品に使うモーターを開発生産している企業も選択肢になります。例えば、下図のダイキン工業株式会社は自社のエアコンに使われるモーターを設計開発する技術者を求めています。
ダイキン工業社は業務用空調機で、世界的に大きなシェアを持つ企業です。主力である空調機のキーデバイスであるモーターを開発することになります。
エアコンは、1995年から2011年にかけて消費電力が約半分になりました。確かにかつては、エアコンは贅沢品のイメージがありました。しかし、今では贅沢品とはいえなくなっており、電気代も安いです。
これには、メーカーの省エネに対する尽きることのない努力が寄与しています。省エネにはモーター本体のエネルギー効率アップのほか、モーターに電力を送るインバーターの効率も関わってきます。
ダイキン工業社はでは、汎用品を使うのではなく、自社でモーター・インバーターを製造することで省エネに関する優位性を保ってきました。
したがって、自社でその優位性を担保するために下図のようなモーターに関する技術力を持った人材を確保しようとしています。
類似の求人は、空調機のほかに自動車メーカーでも出している企業があります。以下の、スズキ株式会社の求人では、EV(電動車両・電動二輪車)用のモーター技術者を求めています。
職種には「回路設計」としか記載がありませんが、応募条件に「ブラシレスモータの開発」「インバーターを含むモーターシステムの開発」とあることから、EV駆動用モーターの回路設計も含まれることがわかります。
このような空調メーカーや自動車メーカーでモーターの技術者には、モーターメーカーの研究・開発・設計職と同様に、モーターに関する専門的な知見・経験が求められます。
そのほか、製品に求められる仕様が明確で何に使われているのかはっきりしているので、形になった製品を目にしやすくやりがいを感じやすい特徴があります。
ドライバーやインバーターの知識があると転職の選択肢が増える
産業用ロボットやプリンターなど、一方向への回転だけでなく正転と反転を繰り返し、なおかつ正確な位置決めが必要な製品にはサーボモーターが使われます。
かつてはDCサーボモーターが主流でした。しかし、保守性や防塵性の良いACサーボモーターに置き換わりつつあります。
このサーボモーターには、位置決めのためのセンサーやフィードバック制御のためのドライバー(速度アンプ)、インバーターがないと動きません。モーター本体ではありませんが、これらの技術もモーターの動作を支える重要な要素です。
したがって、研究・開発・設計職の場合は、こうしたドライバー・インバーターの技術者であっても転職しやすいです。先程のスズキ社のほかに、産業用ロボットでも大きなシェアを持つ川崎重工業株式会社が下図のような公開求人を出しています。
この求人では、産業機械(産業用ロボット)の制御システム開発職に就く人材を求めています。
以上のように、モーター本体だけでなくモーターを動かしたり、制御したりする機器のメーカーも視野に入れると、転職先の選択肢が増えます。
一般転職サイトと専門転職サイトを使う
ここまで紹介したモーターに関係する企業に転職を希望するなら、転職サイトの使い方を工夫する必要があります。たくさんある転職サイトを漫然と利用していても、満足する転職に繋がりにくいです。
まず転職サイトへの登録は、求人登録数の多い総合転職サイトとエンジニアに特化した転職サイトの2つ以上に登録するとよいです。
転職サイトにはそれぞれ得意分野があります。似たような得意分野の転職サイトにばかり登録しても、優れた求人に巡り合う可能性は小さいです。
実際、私が転職活動を始めた直後は、転職サイトの違いを全く意識していなかったこともあり、希望する電気技術者としての求人になかなか出会うことができませんでした。また、最後に転職を決めたときには、電気技術者の求人に強みを持つ転職サイトでした。
こう書くと、エンジニア専門の転職サイトだけに登録しておくと良さそうです。しかし、転職サイトを1社に絞るのはおすすめしません。
なぜなら、あなたの転職をサポートする転職エージェントは、1社だけだと手を抜くことがあるからです。また、相性が合う合わないというのは運まかせです。
転職サイトに登録すると、まず間違いなくほかの転職サイトに登録しているかどうかを聞いてきます。このとき、ほかの転職サイトを使っていないとわかると、求人の案内が遅くなったり、連絡が遅くなったりします。
転職エージェントは、あなたを企業に転職させたときに成功報酬を受け取ります。
したがって、あなたがほかの転職サイトを使って転職しようとすると必死になります。私の経験では、以下の様なことを言われたことがあります。
ほかの転職サイトを使っていますか? ほかの転職サイトで気に入った求人があったら、ぜひ私(担当の転職エージェント)にも企業名を教えて下さい。弊社でもその企業と付き合いあるかもしれません。もしあれば、弊社から全力で推薦します。 |
転職する求職者の立場からすれば、好条件で転職できれば良いので転職サイトはどこでも良いです。このように複数の転職サイト同士で競争してくれたら、よりよい条件で転職できる可能性が高まります。
転職サイトを使ってモーターメーカーの非公開求人を探す
転職サイトを使うメリットは、もう一つあります。それは非公開求人を紹介してもらえるという点です。
非公開求人とは、転職エージェントを通してのみ紹介される求人です。転職サイトには、下図のように非公開求人が全体の求人の80%であると示されています。
企業が非公開で求人を行う理由は、「経営に直結するプロジェクト案件である」「人気企業で申し込みが殺到する」などがあります。
前者の場合は、求人を公開すると競合他社に出し抜かれる可能性があります。後者の場合は、企業側の手間が増えるなど採用コストが上がります。
以上の理由があって、多数の求人は非公開で行われます。特に、ここで紹介したような研究開発職は、経営に関わる事項であり非公開で行われることが多いです。
例えば、超小型モーターの世界的企業である日本電産株式会社をエンジニア転職に強い転職サイトのメイテックネクストで検索すると、下図のように公開求人はヒットしません。
一方、非公開求人は13件がヒットしています。このように、モーター業界への転職を成功させるには、非公開求人を得ることが鍵になります。
まとめ
このようにモーターの電気技術者として転職を成功させるには、以下の3つのパターンが有ることを認識しましょう。
- 汎用モーター本体および付属機器の製造に直接関わる求人を探す
- 汎用モーターに間接的に関わる求人を探す
- 製品の専用モーターに直接関わる求人を探す
このうち、1と3のモーターに直接関わる求人では、これまでにモーターの研究・開発・設計などに関わった経験が求められることが多いです。一方2のモーターに間接的に関わる求人では、他業種での経験を活かすことができます。
また、モーターメーカーはそれぞれ得意なモーターを持っています。フィールドエンジニアや電気設備施工管理など、大型モーターメーカーにしかない職種もあることを承知しておく必要があります。
産業用機械・ロボットやプリンター・複写機などに使われるモーターは、ドライバーやインバーターと一体となって動作します。どちらが欠けても製品として意味をなしません。
このような、ドライバー・インバーターの知見・経験を求める企業を選択肢に入れると、優れた求人に出会う可能性が高まります。
モーターの電気技術者を求める求人は少ないため、転職サイトをうまく使うことが不可欠です。具体的には、「総合転職サイトとエンジニア専門の転職サイトを2つ以上登録すること」「非公開求人を探すこと」の2点です。
特にモーターの研究・開発職の求人は非公開の場合が多いです。多くの求職者が転職サイトを有効に使って転職を成功させたのと同様に、非公開求人を広く集めることが転職成功のキーポイントです。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。