機械系の国家資格の代表的なものにボイラー技士免許があります。ボイラー技士免許は、産業界に欠かせない「熱」を供給する設備のボイラーを安全に扱うスペシャリストであることを担保する資格です。
特に大きなボイラーでは、事故が起きたときの影響が大きいので、ボイラー技士の重要度が高いです。産業界にとってなくてはならない人材と言えます。ボイラーが存在する限り、将来性が心配ない資格でもあります。
2級ボイラー技士(ボイラー2級)免許は、ボイラー技士免許の中でも最初に取得することが多い資格です。転職や再就職を考えるときに、このボイラー資格を活かして有利にしたいと思うのは自然です。
しかしながら、手当たりしだいに求人を探して応募しても、希望通りに転職を成功させることは難しいです。2級ボイラー技士資格を活かそうとするなら、資格の意味を知り、どのような会社が2級ボイラー技士を求めているかを知る必要があります。
ここでは、「2級ボイラー技士免許でできる仕事」「具体的な求人例」「資格手当と年収」について、詳しく説明します。
もくじ
2級ボイラー技士資格が活かせる仕事内容と業種・職種を知る
求人を探す前に、2級ボイラー技士資格を持っていると何ができるのかを確認しておきましょう。
企業は、2級ボイラー技士の有資格者だけができることを求めて求人を出します。つまり、企業が求めてもいないのに、2級ボイラー技士資格をアピールしても全くの無意味です。
私は、転職活動を始めた当初、自分の持っている資格の意味を深く理解していませんでした。そのため、転職活動初期では希望する会社に内定をもらうことができませんでした。なかなか転職先が決まらない状況は、精神的にきつい状況だったのを覚えています。
そこで、転職活動の途中から、自分の持っている資格がどのような価値を持っているかを考え直しました。そうすると、最終的には希望する職種・業種に良い条件で転職することができました。
資格を活かして転職をするからには、資格の意味・価値を十分に把握しておくことで、優れた求人を見つけ出し、転職成功しやすくなります。
まず、2級ボイラー技士免許は、業務独占資格です。業務独占資格とは、「資格保有者にのみ行うことが認められた業務がある資格」のことです。
2級ボイラー技士免許を持っていると、以下の業務を行うことができます。
- すべてのボイラーの取り扱い
- 合計が25平方メートル未満の伝熱面積を持つボイラーのボイラー取扱作業主任者になること
このような独占業務があるため、「社内にボイラー設備を持っている業種でボイラーを取り扱う職種」が転職の選択肢になります。
直接ボイラーを扱う業種(発電プラント・熱供給プラント・製造業など)
ボイラー設備を持っている業種の代表的なものは、発電プラント(火力・原子力・バイオマス・ゴミなど)・熱供給プラント・製造業(特にプロセス工場)です。以下、順に説明します。
・発電プラント
生活に欠かせない電気を作る発電所のうち、火力・原子力・バイオマス・ゴミ発電ではボイラーが要の施設です。下の写真は、福岡県にある石炭火力発電所の例で、中央部下に見える背の高い構造物がボイラーです。
しかもこれらの発電方法はベース電源として扱われ、24時間・365日稼働が基本です。そのため、運転員が常時駐在して発電所の監視をしています。監視対象には、もちろんボイラーが含まれます。
常時監視と言っても、ただ単に状況を眺めているだけではありません。運転状態に応じて必要な操作があり、「ボイラーの取り扱い」が必ず発生します。つまり、これらの発電所の運転員にはボイラー技士免許が必要なのです。
私が勤めるバイオマス火力発電プラントでも、運転員には必ず2級ボイラー技士資格を取得させています。
実際の求人では、ボイラー技士資格が条件にどのように謳われているか確認します。下に示すのは、北海道苫小牧にサーマルリサイクル発電所を持つ、株式会社サニックスエナジーの求人です。2級ボイラー技士資格が歓迎条件になっています。
発電所と聞くと、東京電力や中部電力などのいわゆる電力会社を思い浮かべるかも知れません。しかし、電力会社以外にも売電を目的とした発電所を運営する会社や、製造業で自社工場の電源を確保するために発電所を運営する会社もあります。
例えば、下に示すのはマツダ株式会社の求人です。広島本社工場と山口県の防府工場における自社発電所の技術者を募集しています。ボイラー技士資格が歓迎条件になっているのがわかります。
この求人で募集しているのは、運転員としてだけ働くのではなく保守・管理エンジニアとして働くことを求めています。ボイラーの保守・管理にボイラー技士資格は直接必要ありません。しかし、ボイラーに関する知識があると社員間の意思疎通がスムーズになり、仕事がはかどります。
このように製造業を中心として、火力発電所を運営している会社はたくさんあります。発電事業の自由化の影響もあって、新たに火力発電所が建設されているので、求人は探しやすいといえます。
・熱供給プラント
次に紹介するのは、熱供給プラントです。暖房などの熱を作り出すのに、ユーザーが個別に空調を使うより、集中的に熱を産生して配給するほうが、エネルギー効率が良いです。そこで、ある地域の熱供給を一手に担うのが熱供給プラントです。
ただし、規模が大きくないとメリットを得られにくいので、主に都市部にある施設です。したがって、会社も都市部に多くあります。
具体的な求人例を挙げると、下の池袋地域冷暖房株式会社の求人が該当します。東京都池袋にあるサンシャインシティとその周辺の建物に熱供給を行っている会社です。歓迎条件としてボイラー技士2級以上の資格が挙げられています。
熱供給は熱媒体として蒸気を使います。つまりボイラーがあります。そしてボイラーの取り扱いの必要があるので、ボイラー技士資格を持っていることが歓迎される条件になります。
・製造業
3つ目として紹介するのは、製造業です。発電所の項で「製造業にも火力発電所がある」として紹介しました。しかし、ここで紹介するのは、生産工程に熱(蒸気)を使う工場の求人を紹介します。
下の写真は、医療用品を製造する工場の写真です。生産工程で熱を使うために、蒸気が漏れているのがわかります。
生産工程で熱を使う工場の多くで、直火で加熱するのではなく、蒸気を使って間接的に加熱します。これは、蒸気を使ったほうがムラなく加熱できたり、熱源を離して配置できたりするなど多くの利点があるからです。
蒸気を使うにはボイラーが必要なので、必然的にボイラー技士の有資格者が求められます。
このような製造業の求人例を下に示します。これはユニオン石油工業株式会社の求人で、山口県岩国市にある潤滑油製造工場でボイラーを含む製造装置の運転を行う人材を募集しています。歓迎する条件として、「2級ボイラー技士」の記載があります。
熱を使う製造業では、同様にボイラー技士有資格者歓迎・優遇の求人が出やすいです。
ほかにも私の経験談から具体的な例を示します。私が以前直接話す機会があった石油会社の採用担当の人は、ボイラー技士資格について以下のように教えてくれました。
(製油所で働く人材募集の話の中で)製油所で働くからには、「2級ボイラー技士」「危険物取扱者乙種4類」「高圧ガス製造保安責任者」の3つの資格を必ず取得させている。 これは学生時代の専攻に関係なく、全員に取得を求めるものだ。もちろん資格試験を受けても合格できるかどうかはわからない。しかし、合格するまで受験を促している。 |
製油所では、原油を蒸留する過程などで大量の熱を使います。また、外部電源喪失に備えて自家発電設備としてボイラーを持っています。
このような生産工程の熱源としてボイラーを使う工場はたくさんあります。したがって、製造業の会社でボイラー技士資格が活かせる求人はたくさんあるのです。
ビルメンテナンスでは2級ボイラー技士資格がほぼ必須
続いて紹介するのは、ビルメンテナンス職です。ビルメンテナンスは、大型商業ビル・大型商業施設・マンション・公共施設・病院・学校などで施設の管理をする仕事です。
下の写真のような大型のビルでは、多くの場合設備を常時監視し、故障時にはすぐに応急処置を行う係員が常駐、もしくは短時間で駆けつけられる体制で配置されています。
また、下の写真のような防災センターという部屋を見たことがないでしょうか? 防災センターは、ビルの入口に設置されていることが多いです。
ビルメンテナンス職は、この防災センターやバックオフィス(中央管理室など)に待機して、故障に備えます。もちろん日常点検・パトロールや、設備の定期修繕の手配なども行います。
このような大型施設にあるボイラーは、空調・給水(温水)などの熱源として使われます。先に紹介した、地域熱供給を受けていない施設で、ボイラー技士の需要があります。
実際の求人例を挙げると、下の朝日建物管理株式会社の求人がビルメンテナンス職として2級ボイラー技士資格を求めています。朝日建物管理社は朝日新聞社のグループ会社で、この求人では東京の物件管理をする人材を求めています。
また、ビルメンテナンスにはビルメン4点セットと呼ばれる重要な資格があります。それは、「2級ボイラー技士」「第2種電気工事士」「危険物取扱者乙種4類」「第三種冷凍機械責任者」の4つです。
ビルメンテナンス会社の中には、これらの資格取得が上位職への昇級条件となっていることがあります。つまり、2級ボイラー技士資格を持っていると、仕事に活用できるだけでなく入社後も有利になります。
ボイラーメーカーは歓迎条件としている会社がある
最後に、ボイラーメーカーの求人を紹介します。2級ボイラー技士資格はボイラーに関する資格なので、「ボイラーを作る会社に転職する場合でも役に立つのでは?」と思えます。
実際に2級ボイラー技士資格が、条件にある求人は存在します。例えば、下の株式会社ヒラカワの求人が該当します。この求人では、サービスエンジニアとして客先のボイラーを点検・整備する人材を募集しています。
ヒラカワ社は、大阪に本社を置くボイラーの老舗メーカーです。サービスエンジニアは、客先に出向いて機器の点検・修理などをおこなう技術者の職種です。
点検に関してボイラー技士免許は不要です。しかし、試験運転をすることがあれば、ボイラー技士免許が必要になります。
もう一つ別のボイラーメーカーの求人を確認してみます。下の求人は、岐阜県にあるボイラーや圧力容器の製造会社である株式会社藤沢鐵工所の求人です。この求人では、ボイラーの製造スタッフを募集しています。
藤沢鉄工所の求人を見てわかる通り、製造スタッフではボイラー技士資格を求めていません。これは、ボイラー製造に「ボイラー技士資格が不要」だからです。
このようにボイラーメーカーへの転職を検討するときは、ボイラーを扱う職種かどうかを確認して下さい。ボイラーを扱う職種でなければ、あなたの持っているボイラー技士資格を有効に使うことができません。
二級ボイラー技士免許は給料や年収にどのように影響するか
では、2級ボイラー技士資格は給料にどのくらい反映されるのでしょうか。また、年収はどれくらいを期待できるのでしょうか。ここから年収という、転職するのに大いに気になる点を解説していきます。
まず、2級ボイラー技士資格を取得しているともらえる資格手当について解説します。ここで紹介した求人で、資格手当について具体的な金額の記載がある求人はありませんでした。
参考に、ビルメンテナンスの会社で東京・千葉・埼玉・宮城に拠点があるグローシップ株式会社の求人を見てみます。すると、2級ボイラー技士資格取得で月に2,500円を支給すると記載されています。
実は、ビルメンテナンス企業の特徴として、基本給が安く、資格手当などの手当類が手厚いという特徴があります。ちなみに私が働いたことのある鉄道会社と電力プラントでは、ボイラー技士資格に対する資格手当はありません。
そう考えると、2級ボイラー技士資格を持っていてもらえる資格手当は、月に数千円までと推定できます。年収に換算すると最大で数万から10万円程度の増を見込めます。
ところで、ボイラー技士が求められる業種は多岐にわたります。実は、年収は業種によって大きく違います。
冒頭で紹介したサニックスエナジー社の年収は、求人票に266〜365万円と示されています。
同様に、ここで紹介した求人の提示年収と業種をまとめたものが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
サニックスエナジー(株) | 266〜365 | 電気業 |
マツダ(株) | 400〜800 | 製造業(輸送機械) |
ユニオン石油工業(株) | 300〜500 | 製造業(石油製品) |
池袋地域冷暖房(株) | 390〜610 | 熱供給業 |
朝日建物管理(株) | 300〜 | その他事業サービス |
(株)ヒラカワ | 300〜450 | 製造業(はん用機械器具) |
グローシップ(株) | 270〜500 | その他事業サービス |
このように提示年収は下限も上限も会社(業種)により様々です。しかし、厚生労働省が賃金構造基本統計調査で業種ごとの平均年収を公表しており、おおよその傾向を知ることができます。
下に示すグラフが、2級ボイラー技士資格が活かせる可能性がある業種を賃金構造基本統計調査から抜粋してグラフ化したものです。なお、グラフ中青色は製造業、緑色は非製造業を示しています。
引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このグラフからわかるように、最も平均年収の高い業種と最も平均年収の低い業種で2倍くらいの差があります。もちろん、平均年収の高い業種に転職すれば、将来的に高い年収を得やすくなります。
目先の資格手当を狙って転職するよりは、平均年収の高い業種に積極的に応募することで、年収面で失敗しにくくなります。
まとめ
二級ボイラー技士免許を活かした転職では、業務にボイラー運転がある会社を探すのがセオリーです。ボイラーが関係していても、運転業務がないと資格を活用することは難しくなります。
「ボイラー運転がある」という条件で会社を探すと、発電プラント・熱供給プラント・製造業・ビルメンテナンスの会社が見つかります。また、ボイラーメーカーでも、客先に出向いて運転調整を行う職種では、ボイラー技士資格が活かせます。
二級ボイラー技士資格に対して資格手当を支給している会社はあります。月額で数千円、年収換算して10万円程度までの増を見込むことができます。ただし、資格手当の支給があるかないかは会社によります。
また、ボイラー技士資格が活用できる業種は幅広いので、目先の資格手当を狙うよりも、年収の高い業種に転職したほうが長期的に高年収を得やすくなります。
年収の高い業種は、政府統計などの信頼性の高いデータを参照するとよいです。このデータで高年収の業種に絞って転職活動を進めることで、年収面で成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。