難関の電気主任技術者試験を突破し、見事電気主任技術者資格を手にしたあなたは、製造業界への転職について興味を持っているのだと思います。転職サイトなどを使って「電気主任技術者」をキーワードに検索するとたくさんの求人が引っかかります。そのため、業種・職種関係なく企業を選び放題だと考えているかもしれません。

しかし、製造業(メーカー)のうち特に工場勤務を考えているなら職種は限られます。このことを知らずに闇雲に転職活動しても納得できる転職は難しいです。転職成功するには、確かな情報収集と戦略が必要です。

ここでは、メーカーの工場に転職するための基本的な考え方、転職成功させるための2つの戦略と求人例、それぞれの年収の実際と高年収を狙う方法について解説します。

メーカーの「ものづくり」に電気主任技術者資格は必要ない!

電気主任技術者資格(電験)を使ってメーカー工場に有利に転職成功させようと考える前に、ものづくりには電験は不要だということを十分理解しておく必要があります。電験は、高圧以上の電気設備の保安を行うときに必要な資格です。

例えば高圧で用いられる電気製品(遮断器、変圧器など)を製造するときであっても、必要ない資格なのです。もちろん低圧で用いられる機器(電子製品、家電製品など)も同じく、全く必要ありません。

つまり、あなたが電験資格を持ってメーカーの中途採用試験を受けたとして、その会社の製品を製造することに対して電験アピールは全く無意味です。また職種も、製品に直接関わる開発・設計・生産管理・生産技術などには電験の有資格者であることは、資格本来の意味では効果がありません。

しかしながら、転職サイトで「電験」「電気主任技術者」をキーワードに検索すると、いくつかのメーカーの求人がヒットします。これには理由があります。次項より、その理由を詳細に解説していきます。

工場勤務の求人では設備管理が電験資格を最も活かせる

まず、メーカー工場の求人で電気主任技術者の有資格者を求める場合で、最も多いのが「設備管理(電気保安)」の職種の求人です。

下記の求人は、神奈川県横浜市に本社のある株式会社ジェイデバイスの求人です。株式会社ジェイデバイスは半導体後工程(ウエアから製品にするまで)を事業として行っている会社です。この求人では、福岡県工場勤務の電気主任技術者を募集しています。

この工場は九州電力の66kV送電系統より受電しており、第2種電気主任技術者資格の有資格者を社内(工場内)に選任しなければならないことが法令で定められています。その電気主任技術者を求める求人です。

下の写真がこの工場の受電部分の写真です。九州電力から鉄塔で66kV2回線を受電しています。

また下の写真は、上の写真で示した鉄塔直下にあったこの工場の受電設備です。鉄塔の後ろでわかりにくいですが、高圧盤とGISが確認できます。

ここで紹介した求人では、写真のような電気設備を保安する業務に携わることになります。

半導体工場に限らず、工場では動力や熱源として大規模電力を使います。電力会社から買電するとき高電圧で受電したほうが安価なため、規模により高圧~特別高圧で受電することが多いです。下は製鉄工場とその受電設備の写真です。左の鉄塔から66kVで受電しています。

高圧で受電する工場では、法令により電気主任技術者を選任することが求められるため、電験有資格者を募集する求人が出ることがあります。ジェイデバイス社のように、電気主任技術者募集で求人が出ることもあります。しかし、多くの場合「設備管理」として求人が出ます。

たとえば、下の求人がその例です。このB-Rサーティワンアイスクリーム株式会社では、静岡県または兵庫県のアイスクリーム工場での設備管理を担当する社員を募集しています。募集要項には、第三種電気主任技術者の有資格者を歓迎するとされています。

なぜこのように設備管理職としての募集されるのでしょうか。それは、法令で電気主任技術者が必要とされる設備は少なく、電気保安業務が少ないからです。受電設備だけ専任でできるわけではなく、手が空いた時間はほかの工場内の電気設備を保全します。

参考に私が鉄道会社勤務時代に担当していた電気設備でいうと、電気主任技術者の選任が必要な受電設備は4箇所、そのほかの電気設備が7箇所でした。通常行う仕事の半分以下が電気保安の仕事でした。工場の場合、基本的に受電箇所は1箇所なので、電気保安の仕事はさらに少なくなります。

また、メーカー工場から設備管理の求人がある場合、電気主任技術者資格はB-Rサーティワンアイスクリーム社のように「歓迎」とされている場合が多いです。なぜなら、すでに稼働している工場の場合、受電設備も稼働しており社内に電気主任技術者が選任済みだからです。

会社側は、すでに電験有資格者が在籍しているので、急いで電験有資格者を補充する必要はありません。したがって、B-Rサーティワンアイスクリーム社のように「歓迎」条件としています。

一方、ジェイデバイス社が必須条件としているのは、電験有資格者が定年などで社内に在籍しなくなるのが間近であると考えられます。もちろん定年以外にも様々な理由が考えられますが、会社は通常電験有資格者がいなくならないように計画的に社員育成します。したがって、ジェイデバイス社のような例は少ないです。

自社工場に発電所を持つメーカーも対象になる

なお、工場の中には電源を自社で賄うための発電所を設けていることがあります。発電所にも電気主任技術者は必要ですので、このようなメーカー工場でも人材の需要があります。

例えば、下図のマツダ株式会社の求人が自社火力発電所で働ける人材を求めています。マツダ社は広島地盤の自動車メーカーで、この求人で採用されると広島本社工場の火力発電所勤務になります。

この求人の求める人材の欄を見ると、下図のように電気主任技術者資格が歓迎条件として挙げられています。

マツダ社のように、自社内で発電所を持っている会社はいくつかあります。製鉄業・精油業・製紙業・化学業など、24時間稼働で停電が莫大な損失になる業界の工場からは同様の求人が出ることがあります。

したがって、これも選択肢に入れると転職成功できる可能性が広がります。なお、発電所でも仕事内容は、変わらず設備管理です。

このようにメーカー工場への転職で電気主任技術者資格を活かそうとする場合は、設備管理の仕事を探すことが基本になります。そして、製造業(メーカー)の工場にはまず間違いなく電気設備があるので、転職先の対象として製造業全てが当てはまります

電験資格を持っている!というポテンシャルで求人を攻略する

電気主任技術者資格を活かしてメーカー工場に転職する方法として、もう1つ方法があります。それは、電気技術に関する実力を証明するものとして電験資格を用いる方法です。

電気主任技術者試験は、難関資格と言われています。電気主任技術者試験のうち、最も難易度が低い第三種電気主任技術者試験(電験3種)でも年に4,000人程度しか合格しません。一般財団法人電気技術者試験センターが公開している電験3種の試験統計情報では、年間4万人以上が受験して合格率は10%を下回っています。

しかも、試験の難易度は工業高校卒業程度とされているのに、大学で電気を専攻した受験者が相当数いるにも関わらずこの合格率です。これは、電験の問題が極端に幅広い分野から出題されるため、付け焼き刃の知識やヤマを張ることでは太刀打ちできないからです。

このような試験の特徴があるため、電験自体は電気保安のための電気主任技術者になるための資格なのに、電気技術者にとって電験3種は登竜門として扱われます。これは専攻が弱電であろうが、強電であろうが関係ありません。つまり電験3種を取得しているということは、電気技術者としての最低限の知識を証明するものさしとなるのです。

電気主任技術者資格を評価してくれるメーカー求人例

この方法を使って転職できる企業は、当然のことながら電気を使っている製品を製造しているメーカーです。例えば、下図の川崎重工業株式会社の求人が該当します。この求人では、同社の神戸工場で船舶やエネルギープラント用の電力半導体回路設計に携わる人材を募集しています。

また、下図は同じ求人票の応募条件を示しています。電気主任技術者資格を持っていることが歓迎条件になっています。

注意しなければならないのは、必須条件に類似の設計経験が挙げられていることです。電験を持っていたら応募できるわけではありません。あくまでメーカーが製造する製品に対する技術がある前提で、さらに公的資格があると評価するという求人です。

類似の求人をもう1件紹介します。下図は、日本を代表する重電メーカーの株式会社明電舎の求人票です。この求人は、沼津工場で働く技術者を求めるものです。仕事内容は、変電プラントなどで使われる配電盤・制御盤の電気設計をすることです。

この求人票の求める方の欄を見ると、「第1種、第2種、第3種電気主任技術者」の有資格者であることが歓迎条件とされています。そして、必須条件として配電盤・制御盤に関する作図や設計経験が求められています。

川崎重工業社の求人と同じように、配電盤・制御盤の技術的知見があることが前提で、電験を持っていればさらに評価すると位置づけということに注意しなければなりません。あなたに、下の写真のような変電所用配電盤の製造の経験や深い知見があれば、応募できます。

明電舎社が電験取得者を歓迎しているのには、単なる技術的な裏付けとしての意味のほかにもう1つ理由があると考えられます。それは顧客からの信頼を得るためというものです。

上の写真のような配電盤は、客先である電力会社・鉄道会社・自治体などに納品されます。私は鉄道会社で変電所の保全を行っていたことがあります。鉄道会社の社内には電験一種・電験二種・電験三種の有資格者はたくさんいました。かくいう私も電験二種の有資格者です。メーカーとして配電盤を納めるときには、このような電験資格を持った顧客と対等に話ができないといけないのです。

メーカーは自社の製品について理解しているのは当然のことながら、客先で自社製品がどのように使われるかを十分に把握しておく必要があります。それには顧客と同じレベルで話ができる必要があります。

私は、新規に変電所を建設するのにメーカーと仕様を詰める会議に同席したことがあります。そのとき、勤めていた鉄道会社の電験1種の技術者とメーカーの配電盤技術者が難解な電気理論について議論を交わしていました。先輩には、鉄道はこうやってユーザーとメーカーが一緒になって造るものだと教えられました。

そのためにはメーカーも製品を製造するには関係のない電験を持っておくことで、ユーザーと同じ目線に立つことができ顧客からの信頼を得ることができるのです。

なお、条件として「電験」を挙げていない会社で電験アピールしても無駄になることが多いです。私が転職活動していたときは、産業機械のメーカーで未経験扱いとしてこれまでの年収の半分を提示されたことがあります。本音を言うと、残念という気持ちを通り越して怒りが湧いてくる扱いでした。

このように電験資格が実力の証明になると言っても、電験資格を評価してくれる企業に応募しないと意味がありません。この実力の証明として電験資格を活かす戦略で転職先の対象となる業種は、製品に電気を使っているメーカーです。

電験の認定取得は実力の証明にならない

ここで電験の取得方法について注意事項があります。電験には試験で取得する方法と、実務経験で取得する方法の2種類があります。転職を目指す職種によって、試験取得か認定取得かは違った意味を持ちます。

設備管理の職種に転職する場合は、試験取得・認定取得の違いは特に気にする必要はありません。求人を出している企業は、あくまで電験資格者がほしいのであって、それが試験取得だろうが認定取得だろうが関係ないのです。

一方、実力の証明としての電験資格の場合は、認定取得だと意味をなしません。試験で取得するとなると、かつては司法試験より難しいと言われた電験1種も、認定取得だとかなり楽に取得できます。知り合いの認定電験1種の取得者が、電験1種の試験に挑戦して何度も不合格になっているので、その差がよくわかると思います。

実力の証明として電験を活かした転職で、認定取得の電験を使うと入社後に大変苦労する可能性があります。もちろん、きちんとした実力を持っていながら認定で取得する人もいます。その場合は問題ありません。

ちなみに電験取得の試験・認定の別を判断するのは免状を見ればわかります。下の写真は私の電験2種免状ですが、橙色で示す部分が「E」とあるのが試験取得です。

認定取得の場合、この「E」が所管の各地方産業保安監督部によって別のアルファベットに変わります。先輩の免状を見せてもらったときには、関東産業保安監督部は「C」で九州産業保安監督部は「K」でした。

したがって、免状を提出すると必ず試験取得か認定取得かバレます。あなたが認定で電験を取得しているならば、電気技術の実力を担保する武器として利用できないことを理解しておかなければなりません。

メーカーの業種による年収の違いを知る

最後にメーカー工場に転職した場合は、どれくらいの年収が期待できるのかを検証してみます。

冒頭に紹介した株式会社ジェイデバイスの年収を下図に示します。求人票には500~625万円と提示されています。

同様にここで紹介した求人票から提示年収を集約したのが下表です。

会社名 提示年収[万円] 職種 業種
(株)ジェイデバイス 500~625 電気保安
(設備管理)
半導体
B-Rサーティワンアイスクリーム(株) 370~
450(30歳)
設備管理 食品
マツダ(株) 400~800 設備管理 輸送用機器(自動車)
川崎重工業(株) 400~750 設計 輸送用機器
(株)明電舎 400~800 設計 電気機械

この表を見ると400万円以上は間違いないように思えますが、高年収の確度を増すには業界を選ぶ必要があります。実は、製造業(メーカー)の平均年収は業種によって大きく違います。下のグラフを見てわかる通り、一番高い石油石炭製品業と一番低いなめし革・同製品・毛皮業では倍近く平均年収が違います。

引用:平成30年賃金構造基本統計調査より作成

設備管理の仕事であれば、グラフに示したどの業種であっても求人が出る可能性があります。電験資格を実力の証明として活用する場合は、輸送用機械器具・電気機械器具のほか、「情報通信機械器具」「はん用機械器具」「電子部品・デバイス・電子回路」「業務用機械器具」「生産用機械器具」の各業種で求人が出る可能性があります。

どちらの戦略を用いて転職を進める場合でも、グラフの左側の平均年収が高い業種の求人に積極的に応募したほうが高年収を得られやすくなります

まとめ

ここでは、電気主任技術者(電験)資格をメーカーの工場へ転職するのに活かす方法はないかを解説してきました。

まず、電験はものづくりには不要だということ理解しておく必要があります。その上で、現実的に取れる方法は2つあります。設備管理の職種を探す方法と、電験により電気技術の実力をアピールする方法です。

設備管理の職種は、電気を使っている高圧以上で受電している工場ならどの会社でも求人が出る可能性があります。また自社で発電所を持っている企業も対象になります。ただし、電気主任技術者が必要な電気保安の仕事だけでなく、そのほか一般の電気設備の管理保全もすることになります。

一方、電気技術の実力をアピールする方法では、自社の製品に電気を使っている会社に応募できる可能性があります。注意点は、あくまで電験有資格者であることは歓迎条件であって、その製品に関する経験を必須としていることが多いということです。

資格の取得方法について、設備管理の職種であれば特に気にする必要はありません。電気技術の実力をアピールする場合は、認定取得だとアピールにならないのと入社してから苦労する可能性が高いことを承知しておきましょう。

最後に年収は、メーカーの業種によって大きく変わることを知っておく必要があります。特に設備管理の場合はどの業種でも応募することが出来ますが、平均年収の低い業種に応募すると満足できる年収が提示されることは少なくなります。高年収を狙うなら、平均年収の高い業種へ応募することで転職成功しやすくなります

技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。