現代社会において電気通信は、欠かすことのできないツールです。インターネットの普及で、産業も家庭も電気通信なしでは成り立たなくなっています。インターネットだけではなく、無線通信などさまざまな分野で電気通信が使われています。

さらに電気通信は、日進月歩の進化をしています。次々に新しいものへと置き換わっています。

そこで重要な役割を担うのが、通信設計の技術者です。モノを作るには、必ず設計をしなければなりません。電気通信の設計技術者は、電気通信を支える技術者であり、電気通信がなくならない限り仕事がなくなることもありません。

では、通信設計職に転職しようとするとき、どのように考えて転職活動をすればよいのでしょうか? 実は、電気通信と言っても技術者が求められる分野は広く、それぞれに特徴が違います。転職成功するには、その特徴を十分に理解する必要があります

ここでは、「電気通信設計ができる3分野の特徴と求人例」「通信設計に活かせる資格の考え方」について詳しく解説します。

もくじ

電気通信設計ができる3つの分野

通信関係の設計職に就くなら、大きく3つの分野があることを整理しておくと、優れた求人を見つけやすくなります。3つの分野とは、以下の3つです。

分野 主な転職先
通信機器設計 メーカー企業
ネットワーク設計 ユーザー企業、システム会社
通信工事設計 工事会社、建設コンサルタント

設計の仕事は、ものやサービスを具体的に作れるように設計図を作ることが目的です。作るものやサービスによって、「通信機器」「ネットワーク」「工事」の3つの分野に分かれます。

これらの分野が違うと、求められる能力・経験・考え方が変わります。あなたがこれまで働いてきた経験を活かして、満足できる転職を叶えるためには、それぞれの違いを理解し、適切に転職活動を行わなければなりません。

ここからは、それぞれの分野の特徴を解説しつつ、実際の求人例を示しながら、転職活動の戦略を考えていきます。

通信機器メーカーのエンジニアは機器単体を設計する

最初に解説するのは、通信機器の設計についてです。通信機器は、下の写真のようなスイッチのほか、交換機、搬送装置、無線機などさまざまあります。

一言で設計と言っても、「外観や部品配置の設計」「回路設計」「基板設計」「動作させるためのソフトウエア設計」などがあります。このうち、通信技術に直接関係するのは「回路設計」「ソフトウエア設計」です。

回路やソフトウエアの設計であれば、通信プロトコルや規格を意識しながら設計していきます。通信分野らしい仕事ができます。

実際の求人例でいうと、次の村田製作所の求人が回路設計のできる人材を求めています。村田製作所は京都に本社を置く会社で、この求人では神奈川県で働く人材を募集しています。

村田製作所の求人は、移動通信体(携帯電話など)で使われるRF(Radio Frequency : 無線周波数領域)のPA(Power Amp : 電力増幅器)やSAW(Surface Acoustic Wave :弾性表面波)フィルターなどの回路設計者を募集しています。

それぞれの役割の違う電子回路は、基板上に都度製造されるのではなく、一つの完成したLSIチップや基盤で大量生産されます。そのようなモジュールを設計することが、村田製作所の求人で求められています。

このような求人では、同様の回路設計経験が必須であることが多いです。村田製作所の求人でも、RF回路やRF部品を扱った経験が必須の条件として挙げられています。

それにプラスして、品質評価や通信プロトコルに知見があると強いアピールポイントになります。

インフラエンジニアとしてシステム全体を設計する

次に解説するのは、通信ネットワークを設計構築するインフラエンジニアについてです。インフラエンジニアというと、下の写真のラックに収められるようなサーバーの設計も仕事内容に含まれることがあります。サーバーも通信情報系のインフラだからです。

しかし、通信ネットワーク部分に特化して設計をしたいなら、「ネットワークエンジニア」のキーワードに注目して探すと良いです。この言葉の使い方は、会社によってまちまちなので求人票を読み込むとともに、先方企業に十分確認する必要があります。

私の経験では、求人票の募集職種の「設計」という文言に魅力を感じて採用試験を受けたら、仕事の内容は単にCADで図面を描くだけだったということがあります。この会社では、設計課の主な仕事がCAD図面を描くことなので、間違っているわけではありません。しかし、私が想像していた設計とは違いました。

「インフラエンジニア」「ネットワークエンジニア」にも同じことが言えます。仕事の内容は、納得行くまで十分に確認してください。これはミスマッチを防ぐ大切な手段です

実際の求人例では、下の株式会社アイ・エー・アイがインフラエンジニアを募集しています。アイ・エー・アイ社はシステム会社で、東京に拠点を持っています。

この求人では、インフラエンジニアとしてサーバーエンジニア、データベースエンジニアなどシステムのインフラに関わる多種のエンジニアを求めています。その中に、ネットワークエンジニアもあります。

ネットワークエンジニアが求められる能力は、ネットワークを構築する現場にはさまざまな制約があり、それを克服して要求を満たす通信ネットワークを設計することです。簡単な例でいうと、下の写真のような光ケーブルとUTPケーブルの使い分けです。

UTPケーブルは、いわゆるLANケーブルでメタル線です。よく使われる規格だと、100mまでしか布設することができません。100mというと、少し大きな工場や施設だとすぐに限界に達してしまいます。

また、直線距離だと100mより十分近くても、最短距離で結ぶ通信管路がなく光ケーブルを布設せざるをえないときもあります。現場の十分な下見が必要です。

そのほか注意しないといけないのは、古い施設の場合です。上下階わたりに下の写真のようなメタル線が使われていることがあります。これは、アナログ電話が主流だった頃の設備です。

私が経験した通信工事では、4階と10階のLANネットワークをつなぐのに、上下階をつなぐEPSに古いメタル線しかなかったことがありました。このときはDSUをそれぞれの階に設置し、ネットワークを完成させました。

ネットワークエンジニアが設計で気にしないといけないのは、ハードウエアの制限だけでなく、通信速度などのソフトウエアの制限もあります。

上のDSUを使った例では、DSU間で大きく通信速度が落ちます。頻繁に通信を行う機器ではなかったのでDSUを採用しました。これが頻繁に通信する設備だったら別の方法を考えないといけません。

また、ある大手電機メーカーP社が設計したEthernetで結ぶ複数の電光掲示板システムでは、通常想定される通信トラフィック量が多い場面になると、システムがダウンするという不具合を頻発しました。これは明らかに通信トラフィック量を見誤って機器選択した設計ミスです。ちなみに、このシステムはリプレースでM社製に変わりました。

現在の通信ネットワークはTCP/IPが使われることが多いので、まずはこれを使いこなせるということがネットワークエンジニアに求められる最低限の能力です。それに加えて、複数の通信プロトコルやそれに対応した通信機器を適切に選択できるとアピールポイントになります

通信工事設計エンジニアは実際の工事で活躍する

最後に解説するのが通信工事設計です。通信を行うには、必ず通信機器や通信線が設置されます。また、動作のためには電気が必要で、電源線も布設しなければなりません。通信工事設計は、このような一連の設備を設置するための工事の設計図を作ります

例えば、下図のようなフリーアクセスフロアにサーバーラックを設置し、ケーブルを引き込む場合を考えてみます。

実際に通信ができるようになるには、ケーブルを布設し、動作確認を行わなければなりません。このとき、通信工事設計で確認すべき項目と内容は下表のとおりです。

検討項目 検討内容
フリーアクセスフロアの板を外すか 板の枚数
通信ケーブルは何を使うか 種類と長さ
ケーブルの先端処理は何を使うか 種類と個数
ケーブルを繋ぐ機器の設定変更は必要か 設定変更の量
通信確認するか 確認項目の種類と量
上記作業量はどのくらいか 何人で何時間

このような内容を整理して定量化し、工事ができるように図面を描くのが通信工事設計の仕事です。

ちなみに、サーバーラックを設置するときの施工中写真が下の写真です。

新設だと、架台の設置や電源の確保、PF管の布設なども発生します。

通信工事は、「電気通信のことだけがわかればよい」わけではありません。先程の施工中写真の例でいうと、架台の強度計算や架台固定のためのアンカーの種類の検討など、およそ電気技術とは考えにくいことも設計検討する必要があります。

私がかつて一緒に仕事をしたことのある同僚は、通信機器の直流電源として電池を設置する部屋の床耐荷重が不足しているという事態に遭遇したことがありました。

このとき、コンクリート床を斫(はつ)って杭を打つという工事設計をしていました。やっていることはどう見ても通信の要素が絡まないのですが、通信設計担当の同僚がやっていました。

工事設計は、「形・重量のあるものを設置する設計」が含まれるため、このような他分野への知見が必要となる場合があります。このような場合でも、周りを巻き込みながら工期までにやりきることが重要なポイントです。

実際の求人例は、下図の日本電気株式会社(NEC)の求人が該当します。この求人は、日本と海外をつなぐ海底光ケーブルを敷設する工事の設計をする人材を募集しています。

日本と外国との通信は、衛星通信だけでなく、有線通信によって行われています。実は海底ケーブルを使った通信量が、通信量全体のほとんどを占めています。日本と外国を結ぶ海底ケーブルは、下の写真の青線のように張り巡らされています。

写真 : KDDIパラボラ館展示より

NEC社の求人では、このような海底ケーブルの布設設計を行います。

もう一つ求人の例を紹介します。電気通信設備設計職を募集している、株式会社スリーエスコンサルタンツの求人を下に示します。この求人では、主に公共の通信情報システムの設計業務を行います。スリーエスコンサルタンツは、大阪本社で、この求人は愛知県名古屋市の中日本支社勤務の人材募集です。

この求人は、電気通信設備として下の写真のような道路情報表示設備などを設計しています。

求人票には、工事設計だけでなく「調査、計画」を含むことが記載されています。言い換えると、設備の仕様を決めることが含まれているということです。通信部分に関して、前項のネットワークエンジニアの仕事の一部も含まれると考えて良いです。

このように、通信工事設計の場合は、幅広く知見を求められると考えてください。工事は、出来上がりが形のある設備であることが多いので、達成感ややりがいを感じやすい職種です。

求人票を読み込んで通信設計に役立つ資格を知る

ここまで紹介した通信設計の仕事に転職するには、有利になる資格はあるのでしょうか? もしあるのなら、採用試験でうまくアピールできれば、合格率アップや年収条件で良い結果に繋がりやすいです。ここからは、通信設計に役立つ資格を解説します。

まず通信設計に役立つ資格を考える上で、大切な前提があります。それは、通信設計業務を行うのに必須の資格は存在しないということです。実際に、ここで紹介した4社の求人で必須資格を条件にしている会社はありません。

反対に言えば、無資格であっても十分な経験や知見があれば採用される可能性は十分にあります。そして、あなたがすでに通信関係の資格を持っているなら、採用試験で適切にアピールすることもできます

例えば、アイ・エー・アイ社の求人で歓迎条件として、CCNA、CCNP、LPICが挙げられています。

CCNA(Cisco Certified Network Associate)とCCNP(Cisco Certified Network Professional)は、ネットワーク機器メーカー大手のCisco社が実施している資格試験です。ネットワークエンジニアとして働くなら、あなたの実力を客観的に示すことができます。

LPICは、インターネット技術の事実上の標準であるLinux OSの技術力を認定する民間資格です。ネットワークというより、サーバー、ルーターにLinux OSを使っている多いので、サーバーなどを動かす分野で活躍できる資格です。

このように、求人票に資格について記載があるときは、その資格を持っていることであなたの技術力をアピールすると良いです。どんな資格が求められるかは会社それぞれなので、求人票をよく確認することが大切です。

また、求人票だけでなく、当該企業のホームページの採用欄を見ると、求める資格について記載されていることがあります。例えば、スリーエスコンサルタンツ社は自社ホームページで下図のように技術士(電気電子)、RCCM(電気電子)、電気工事施工管理技士の有資格者を優遇すると記載しています。

引用 : スリーエスコンサルタンツ 企業ホームページより

技術士資格は国家資格、RCCM(Registered Civil Engineering Consulting Manager)は民間資格で、どちらも建設コンサルタント会社で求められやすい資格です。難関資格なので、持っていればあなたの高い技術力を示すことができます。

電気工事施工管理技士資格は、設計ではなく施工管理で必要な資格です。施工管理の知識・経験があれば、よりよい工事設計ができるので求める設計会社も多いです。

このほか、通信工事の工事担任者資格、電気通信主任技術者資格があると通信関係の技術力を示すことができます。

実際に、通信主任技術者と工事担任者の資格を条件に挙げている求人を下に示します。この求人は、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社の求人です。通信主任技術者と工事担任者資格が必須条件の一部になっています。

この求人には、「通信設計」の記述がありません。しかし、事業内容を見ると、下図のように建設コンサルタント業務があります。

建設コンサルタントは、電気通信工事を含む工事設計を行う事業です。中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋社は、NEXCO中日本から点検・保守・管理の工事発注に対して工事設計を行います。この工事設計で、電気通信主任技術者や工事担任者資格に裏付けられる技術力を活かすことができます。

また、私が以前工事設計をしていた会社では、通信事業者として登録されていたので、電気通信主任技術者資格を社員に取らせていました。設計部門では必要ないものの、技術力を端的に評価するのに使われていました。工事担任者資格も同様です。

通信関係で求められやすい資格は、概ね以上のような資格です。必要とされていない会社でアピールしても全くの無駄なので、あなたが希望する会社がどのような資格を求めているか調査した上で採用試験に臨まなければなりません。

企業がどのような資格者を求めているかは、一番は求人票を読み込むことでわかります。それに加えて、企業ホームページにも記載されていることが多いので、十分に調査してからアピール方法を考えてください

まとめ

ここまで、通信関係の設計職に転職する方法を解説してきました。通信設計職を募集しているのは、「通信機器設計」「ネットワーク設計」「通信工事設計」の3分野です

通信機器設計は、通信ネットワークを支える機器や機器内部の電子部品(モジュール)の設計を行います。転職先として、メーカーが選択肢になります。

ネットワーク設計は、通信ネットワーク自体を設計します。通信機器を組み合わせて、適切な通信役務が提供されるように設計する仕事です。システム会社などが選択肢になります。

通信工事設計は、通信ネットワークを実際に構築する工事を設計します。ネットワーク設計も同時に行うことがあります。工事会社や建設コンサルタント会社が選択肢になります。

通信設計業務を行うのに必要な資格はありません。しかし、会社により技術力を評価するのに特定の資格者を歓迎、優遇していることがあります。どのような資格を求めているかは、求人票のほか企業ホームページなどを調査して知ることができます。

以上のことを踏まえた上で、あなたの経験や知識・資格が活かせる分野を絞り、適切なアピールを行ってください。そうすることで転職成功しやすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

Follow me!