あなたは、建物に付帯の電気設備について何を思い浮かべますか? 昭和の時代、かつては照明や昇降機(エレベーター)くらいしかありませんでした。
しかし今では、家だと空調にはじまり家電にあふれ、オフィスだとパソコン、複合機、電話など、電気設備の存在感は増す一方です。
このような背景もあり、建築物の電気設備を設計・施工する仕事は、常に一定需要があります。
では、どのようにしたら転職を成功させる求人を見つけられるでしょうか。これには、仕事内容の理解した上で、あなたの指向とあった求人を探す必要があります。
今回は、建築物の電気設備を設計・施工する仕事の業務内容と考え方、求められる資格、求人の実態と年収について解説します。
もくじ
建築における電気分野の仕事内容
建物建築における電気の仕事は、主に設計と工事の2つがあります。
あなたが転職を考えるとき、どちらに軸足を置きたいのかによって選ぶ企業が変わってきます。したがって、まず設計をしたいのか、工事をしたいのかを決める必要があります。
建築電気設備設計は、お客様の満足度に強く関わる
設計の仕事は、以下のようなものが該当します。
- JIS(日本工業規格)などの基準に基づき、照明の数や種類を選定する。
- 客先の要望により、照明の色、種類を提案する。
- 建物全体の電力需要量を把握し、経済的な受電設備を構築する。
- 部屋の間取りや、客先の使用用途に最適なコンセント配置・数を選定する。
- 将来の需要増や、改造をしやすい、機器設置・ケーブル敷設ルートを設定する。
このほか、考慮すべき事項はたくさんあります。
大事なことは、「電気の知識だけあればできるというものではない」ことです。最低限、電気の知識はある前提で、各種法令、経済性などを考慮して設計する必要があります。
各種法令とは、建築に関連する電気工事の場合、建築基準法、労働安全衛生法、消防法などの諸法令です。
私も、電気設備の設計に携わったことがあります。そのとき、ユーザーの意図に沿わないとすぐにクレームが飛んできたのを覚えています。
設計思想を説明して納得してもらうこともあるものの、場合によっては手直し・修補もありました。施工が済んだあとに手直しするのは、とても手間がかかり、かつ嫌な思いをします。
「電気的に安全かつ効率的であること」「各種法令に準拠していること」、この二つは電気設備の設計をする上で、必要最低限満たしていなければならないことです。
さらに、これだけを満たしていたとしても、お客様の満足は得られません。手直しを避けるためには、考慮すべきことがあります。照明なら、部屋の用途によって色を変えるべきです。
例えば、蛍光灯なら「電球色」「昼白色」「昼光色」の3種類があります。この色の違いは、下の図に示すように「電球色」は赤みが強く、「昼光色」青みが強いです。
引用:パナソニック社の製品情報(照明)より(文字は筆者注)
あなたは、オフィスのように煌々(こうこう)と明かりが灯った自宅でくつろげますか? また、レストランでディナーを楽しむときのような暖かい照明の中で、仕事に集中できますか?
もちろん個人差はあると思います。しかし、一般的にくつろぎたい部屋には、赤色の強い「電球色」、仕事や勉強をする部屋には青色の強い「昼光色」が用いられます。
参考に、私の自宅に近い図書館の蛍光灯は、下の写真のように「昼白色」が使われていました。「昼白色」は、太陽光の色合いに近い無難な色合いです。
図書館では、小説などを娯楽として楽しむ人もいれば、勉強・調査をしている人もいるため、両者の中間をとって無難な色合いにしていると考えられます。
お客様の中には、このような光の色について知らない人もいます。設計段階で、このような色の違いを説明してあると、最終的な顧客満足度の向上につながります。
さらに、LED照明の登場にともない、自由に色合いを変えられる調色機能付き照明が増えてきました。
オフィスで調色機能付き照明を使うのはオーバースペックですが、個人住宅では積極的に客先提案することによって満足度の向上につながる可能性は高いです。
照明以外の電気設備の場合は、経済性・保守性などが求められることが多いです。これは、特にオフィスでは顕著です。
工事施工は、設計者の意図を実現する最後の砦
一方、電気設備の工事の仕事は、実際に建物の中に配線し、機器設置し電気を活かすまでを担当します。
この仕事は、設計者が熟慮の上、仕上げた工事図面をもとに施工します。このとき重要なのは、「100%現場を反映した図面はない」ということです。
設計を担当する人の中には、工事施工を実際に経験して、現場も実際に確認して設計・作図する人もいます。その一方で、全く工事経験なしに、現場の確認もせず、類似工事のコピーで済ます人もいます。
後者の設計者にあたったときは、図面通りに行かず、材料の追加発注や余剰、工程の遅れなどがあると覚悟してください。
私が設計をしていたときは、上長に「現場に足を運びなさい。施工業者を泣かすな」と口を酸っぱくしていわれたものです。
実際、デスクワークが忙しいからといって、現場をくわしく見ずに設計したところは、あとから施工業者にお叱りを受けたこともあります。
このように、工事施工をするときは、設計側が考慮しきれなかったものを、現場で調整しつつ設備を作り上げる必要があります。
求められる資格は、設計と施工で異なる
これらの、設計と工事施工に役立つ資格はあるのでしょうか。また、その資格は転職のときにどう活かせばよいでしょうか。
まず電気設備設計に関して、必須の資格はありません。持っていないと設計に携わってはいけない資格も、電気設備の設計者と名乗れない資格もありません。実際の求人を見ても、資格を求めてないものがほとんどです。
もちろん、必須の資格がないだけで、役立つ資格はあります。施工するには必須の「電気工事士資格」や、現場で施工管理するのに必要になる「電気工事施工管理技士資格」は所持していると役立ちます。
また、電気の技術者として、「電気主任技術者試験(電験)」に合格していると、電気の深い見識を有しているとして他者にアピールできます。
もちろん、電気工事士資格は持っているだけでは意味はなく、工事を施工できるだけの実力が伴っている必要があります。
私は、電力プラントに勤務しているとき、スーパーゼネコンで電気設備の設計をしてみないかと誘われたことがあります。
これは、単なる転職ではなく、個人事業主としてスーパーゼネコンと契約を結び、大規模な建築物電気設備工事の設計の仕事をするというものでした。
声をかけてくれた人に、何が決め手でそのような話を持ってきてくれたのかを訊くと、「電験を試験で取得したこと」「日頃の電気に対する考え方・知識を見ていると、できると思った」ということでした。
この例からも、電気設備設計には、資格だけは役に立たず、実力があることが求められることがわかります。
工事施工では、電気工事士資格などが活きる
一方、工事施工には電気工事士資格が必須です。電気工事業を行うには、電気工事士資格が必須であることが法令で定められています。
したがって企業からすると、電気工事士資格を取得している転職希望者は喜ばれます。これは、採用後すぐに即戦力として期待できるためです。
同様に、「電気通信の工事担任者(工事担任者)資格」も、電気工事士資格のように扱われます。
インターネットの普及にともない、電気通信工事(電話・LANなど)の工事も増えてきたからです。電気通信工事を行うには、工事担任者資格が法令で必須とされています。
例えば、下図のように一般住宅では黄色とピンクで示された部分の配線は、工事担任者資格をもった人でないと施工できません。
引用:財団法人日本データ通信協会 電気通信国家試験センター
「工事担任者資格パンフレット」より
また、これとは別に、比較的規模の大きな工事を施工管理する会社では、「電気工事施工管理技士資格」が生きてくることがあります。
転職活動より資格取得を先に目指してはいけない
ここまで紹介した資格は、あなたが今取得しているなら、転職活動における大きな武器になります。資格と経験に裏打ちされた電気の実力を持つ、あなたを欲している企業は必ずあります。
しかし、今これらの資格を取得していないからといって、取得してから転職しようとするのはおすすめできません。なぜなら、気になった求人があったとして、その求人がいつまでもあるとは限らないからです。
下の図は、転職サイト「マイナビ転職」に掲載されている求人です。
橙色で囲った部分に、情報更新日(掲載日)と掲載終了予定日が記載されています。このように、一つの求人の掲載期間は2ヶ月ほどです。あなたが資格を取得しようとしている間に、求人はなくなってしまいます。
また、中途採用の求人は、募集要員が集まればそこで打ち切りです。せっかく苦労して資格を取得したとしても、そのときにあなたが見た「資格必須」の求人があるとは限らないのです。
さらに、年齢は資格以上に価値があります。
転職は、高齢になればなるほど難しくなります。企業からすれば、一度採用したからには長く働いてほしいため、年齢の低い人を積極的に採用したがります。
ここで紹介した資格は、年に1~2回しか実施されません。しかも、1回で合格するとは限りません。そうすると、1年や2年はすぐに過ぎ去ってしまいます。
したがって、当該の資格を持っていない場合でも、働いてみたいと思える会社が求人を出していればすぐに応募すべきです。
そのとき、当該の資格が「歓迎条件」なら全く問題ありません。その場合、マイナス要因にはなりません。
ただし、「必須条件」となっているときは、少しアピールが必要です。具体的には、以下のような方法を取ります。
- 次の当該資格試験に申込み済み、または申込む予定で、勉強中であること
- 資格を持っていなくても、実力があることを職務経歴書などに、くわしくアピールすること
転職サイトのエージェントサービスを利用していると、これらの方法に加えてエージェントを通してアピールできます。
実際、私が転職活動していたとき、条件に満たない求人に応募して、上記の方法で内定をもらったこともあります。
このようなことからも、資格を取得してなくてもすぐに転職活動をはじめることが、転職を成功させる秘訣です。
求人の実際と年収を研究する
ここからは、実際に求人がどのように出ているのかを確認していきます。
まずは紹介するのは、設計に特化した企業です。下の図は、大阪で従業員20名弱ほどの企業、株式会社フューチャーアットマークテクノの求人です
この会社は、中・大規模建築物の建築電気設備設計を行っています。具体的には、ショッピングモール、病院、学校などです。
求人情報に、「受変電設備から電灯・コンセント・弱電設備」の設計を、計画から実施まで行うとありますので、電気に関わる広い知識が求められます。
下の図は、同じ求人の対象となる方の欄です。
学歴も資格も求められていませんが、設計の実務経験が3年以上あることが求められています。まさしく、うわべだけの知識よりも、経験と実力を求められています。
設計する対象設備が幅広く、歓迎される資格も多いです。資格の章で説明したもの以外に、「技術士(電気・電子)」資格と「消防設備士」資格が歓迎とされています。
技術士資格は、電気系最高峰の資格の一つです。学問的に広く深く電気工学の見識を問う資格で、その資格取得者が歓迎されるということは、業務に必要となる電気の知識が広く深いものが必要になる場面があると想像されます。
また消防設備士資格は、建物で火災が起きたときに必要な、スプリンクラー設備や自動火災報知設備などの工事施工に必要な資格です。
消防設備は、機械的な設備と電気的な設備によって構成されています。私が新卒で就職した鉄道業界では、機械担当が管理していました。しかし、「〇〇電工」のような電気工事会社が施工しているのも、よく見かけます。
この会社も、電気設備として消防設備を設計することがあるので、消防設備士の資格を歓迎条件としていると考えられます。
なお、設計業務を行うのに、技術士資格も消防設備士資格も必要ありません。設計業務に求められているのは、あくまでも実際に設計をできるだけの知識・技能を持っているかです。
消防設備士の資格を持っていなくても、これまでに消防設備の保守管理や設計の経験があり、十分な知識と経験があれば問題ないです。
次に紹介するのは、工事施工の会社です。下の図は、株式会社東京宮本電気の求人情報です。
この求人は、施工管理の仕事を中心に行うことになります。施工管理とは、実際に手を動かして電気設備を作る人が仕事をしやすいように、お世話をする仕事です。また、必要によって施工方法を指導することもあります。
少人数で作業をする場合は、段取りから施工完了まで、特にテクニックがなくても簡単にできます。施工管理が重要なのは、数十人以上で行うような大きな工事です。
下の図で示すように、1人から5人に作業者を増やしても、出来上がる仕事は5倍にはなりません。これは、相互にコミュニケーションを取ったり、作業を次の工程担当者に渡すときに待ちが発生したりするからです。
このロスは、多人数になればなるほど大きくなります。施工管理は、このロスを小さくする仕事です。具体的には、「工程引き継ぎ待ち時間が小さくなる工程の立案・実施」「工事の全体進捗の把握と、作業員への周知」などです。
施工管理が下手だと、工事費用や工事期間に直接跳ね返ってきます。企業の利益のためにも、重要な仕事です。
次に、この求人の対象となる方の欄を下に示します。
高卒以上で「基本的なPCスキル」のみが必須条件の、非常に対象の広い求人です。「基本的なPCスキル」とは、Microsoft Officeを使って、表や図入りで数十ページの書類作成ができる程度と考えてください。
施工管理では、施工計画書などの書類を客先に提出することがあります。この作成や作成補助をするには、Microsoft Officeが使えれば十分です。
また、建築系CADが使えることが歓迎条件になっています。私がこれまで付き合いのあった建築土木関係の企業だと、JW-CADかAuto-CADを使っていました。これを、基本はJW-CADで、客先要望によりAuto-CADと使い分けていました。
これらのCADを使って仕事をした経験があると、このような会社には喜ばれます。
施工管理は、自ら工事施工しないのに「第二種電気工事士」資格が歓迎条件になっているのは、実際に手を動かす電気工事士(電工)に指導する事があるからです。資格持っていなくても指導はできますが、持っていると説得力があります。
この図の一番下、「電気工事施工管理技士」は施工管理の実力を担保する国家資格です。この資格は、取得していなくても施工管理の仕事はできます。
その場合は、施工管理技士資格を取得している先輩社員の下について仕事をします。
ただし、この資格が無いと建設業法で定める「監理技術者」「主任技術者」になることができません。これは、ある一定規模の工事では絶対に設置しなければなりません。
したがって、将来的には電気工事施工管理技士取得を目指すことになります。
建設業界の年収が参考になる
最後に、給料・年収について説明します。
設計と工事施工を比べると、設計の方が高い傾向にあります。これは、仕事をこなすのに高いスキルが求められる分、高い給料になっていると考えられます。
先述の求人例で挙げた会社の給料・年収を下の図に示します。1枚目が株式会社フューチャーアットマークテクノで、2枚目が株式会社東京宮本電気の年収例です。
それぞれ、年収を概算で推定(賞与は2ヶ月、提示月給以外の手当なしで計算)すると、前者は「560~980万円」、後者は「350~700万円」です。
これを見ても、設計が業務内容にある会社は比較的高い提示年収です。もちろん、地域や企業規模によって年収提示は変わるので、注意する必要はあります。
業界全体の年収の分布は、国税庁の民間給与実態調査が参考になります。以下に、建設業の調査結果を示します。
引用:平成29年度民間給与実態調査(国税庁) 第8表をグラフ化
このグラフから、建設業の年間給与は400~500万円に中央値があることがわかります。会社を選ぶときや、年収交渉のときは、このデータを参考にすると良いです。
まとめ
建築関係の電気設備工事は、施工対象物が照明・電源配線・通信設備・空調などが中心です。これらについて、広く知識技能が求められます。
また、大きく分けて設計と施工の仕事があります。あなたはまず、「どちらの仕事に就きたいのか」を把握する必要があります。
設計の仕事は、法令や客先要望など、検討・考慮すべき点がたくさんあります。あなたがこれまで身につけてきた電気の知識や、工事施工の経験も活かすことができます。
工事施工の仕事は、設計者の意図を現場に実現する仕事です。この上手下手でお客様の満足度は変わってきます。
これらの仕事をするのに必要な資格は、工事施工の仕事用に「電気工事士資格」です。ほかに、仕事に生かせる資格は「電気主任技術者試験」「電気通信の工事担任者」「電気工事施工管理技士」などがあります。
建築電気設備工事の年収は、建設業の年収と比較して吟味すると良いです。建設業では400~500万円が年収のボリュームゾーンです。設計と工事施工では、設計の提示年収のほうが高い傾向があります。
以上のような情報を活かして転職活動を行うことで、転職が成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。