あなたは、電気の技術者ときいてどんな仕事を思い浮かべるでしょうか。作業服を着て、鉄塔を登る姿でしょうか? それとも工具を持って機器を保守している姿でしょうか?
確かに、電気技術者の仕事には、そのような仕事もあります。しかし、机上で計算・シミュレーションしたり、電気回路を描いて設備新設を検討したりすることも多々あります。
このような電気の技術者の仕事は、昔から不況に強いといわれてきました。なぜなら、社会で電気を使っていない家庭や仕事場などほぼなく、必ず仕事があるからです。
さらに、電気技術の高度化もあり、「電気は難しい」との先入観から敬遠され、若手が少ない状況が続いています。そのため、電気技術者の人手不足は慢性化し、常に需要が高い状況です。
今回は、このような電気技の技術者の仕事内容や必要な資格・心構えを説明し、転職サイトの求人例や年収について解説します。
もくじ
電気系技術者(電気系エンジニア)の仕事内容
まず、エンジニアとは何でしょうか。エンジニアとは、その工学(エンジニアリング)分野に対する、専門的な知識・技能を持った人を指します。また、日本語でエンジニアのことを技術者と呼びます。
つまり、電気系エンジニアとは、電気工学に対する専門的な知識・技能を持った人をいいます。
類似した業種に、電気工事士(電工)があります。しかし、電気工事士はエンジニアではありません。
例えば、下図のように部屋に照明を新しく設置するとき、設計図を読み解いて図面通りの仕事をするのが電工です。
その一方で、電気エンジニアは、部屋全体の明るさやユーザー要望を加味した上で、最適な照明・ケーブルの種類の選定、保護回路および保護協調の設定、経済性に優れた材料の検討など、ことこまやかに検討し決定できる技術力が求められます。
もちろん「腕のいい」といわれる電工には、設計者である電気エンジニアの検討不足を指摘して正すような人もいます。このような人たちは、職域を超えて電気系エンジニアの仕事をしているといえます。
例では、照明を挙げましたが、通信系や情報制御系でも考え方は同様です。通信系では、通信設備やデバイスなどが対象です。情報制御系は、アプリケーションやシステム、計装制御が対象です。
どの場合も、開発段階で詳細な検討ができ、設計する力を持った人がエンジニアと呼ぶのにふさわしい人です。
また、職域によっては電気技術開発に携わることもあります。新しい技術開発には、エンジニアとしての電気の深い知識と経験が必要です。
電気技術者に求められる資格
電気技術者として基礎的な力をつけたり、証明したりするのに有効な資格はあるのでしょうか。これは、分野によりいくつかあります。
転職しようとするとき、これから紹介する資格を持っていれば歓迎されるでしょう。さらに転職エージェントを通してアピールすることで、転職しやすくなります。
ただし、これらの資格はあくまで登竜門としての位置づけです。資格を生かして転職成功したあとも、日々業界情報を注視して学ぶ姿勢が、エンジニアには求められます。
強電系は電気主任技術者資格
まず、強電系の会社で必要となる資格を紹介します。強電とは主に100V以上の電気を扱う分野です。具体的には、発送電、変電・配電とそれに付随する分野です。
電気という分野は、古くは照明・動力用の電力を確保し送ることから一般化し、発展しました。そのための技術を司るのが強電です。
強電系の資格として、「電気主任技術者試験(電験)」という資格があります。電気事業法で、一定以上の規模の事業者に対して、保安のために電験の取得者を電気主任技術者として選任する義務を負わせています。
また、電験は電気系エンジニアにとっては登竜門的な意味を持つ資格です。さらに、強電ではなく弱電を専門にする人にとってもステータスになっています。この場合は、第三種電気主任技術者試験(電験三種)が該当します。
電験は強電系の資格といいつつも、情報通信や電子・計算機の問題も幅広く出題されます。そのため、電気の技術職としての素養を担保するのに、よく使われる資格です。
注意しておかないといけないのは、電験三種を取得したからといって、すぐに電気技術者として認められるわけではないということです。
私は、電験三種を新卒で鉄道会社に入社して1年目に取得しました。
しかし、エンジニアとして扱われることはありませんでした。自分でも、資格はあるものの、技術力が実際に活かせるレベルではないことを感じたのを覚えています。
このように、電験を取得しても、それはエンジニアのスタートラインでしかないことを理解しておきましょう。
弱電系は通信主任技術者資格や基本情報技術者資格
ここまでは、強電系の資格「電験」について説明してきました。弱電と呼ばれる分野にも、電験と同じような登竜門的な意味を持つ資格があります。
弱電とは、主に100V以下の電圧で動くものを扱う分野です。通信や計算機システムなどのハード・ソフトを扱います。
必要とされる資格は、通信分野なら「電気通信主任技術者」資格、情報分野なら「基本情報技術者試験」です。
まずは、電気通信主任技術者資格について説明します。
電気通信事業者は必ずこの資格者を電気通信主任技術者として専任しなくてはなりません。これは、電気事業者が電験資格者を専任しなければならない関係と同じです。
電気通信事業者とは、NTT社、KDDI社のような電話会社のほかに、テレビ局なども含まれます。実は、鉄道会社も電気通信事業者です。
電気通信主任技術者資格も、一事業所に取得者が一人いれば問題ない資格です。しかし、電験と同じように、電気通信に携わる者の登竜門として扱われます。
基本情報技術者試験は、電気主任技術者試験や電気通信主任技術者資格のように、企業が社内に資格者をおいておかなければならない資格ではありません。単なる、実力を示す資格です。
しかし、情報・システムを扱う分野で働くには、持っていて当たり前の資格になりつつあります。
私が、鉄道会社で電鉄用電力システムの保守や設計を担当していたとき、日立系メーカーのシステム会社の人に、「社内で基本情報技術者試験の取得を奨励しているのか」と質問したことがあります。そのときの回答は、以下のようなものでした。
基本情報技術者試験くらいなら、今の若い人は採用する前にみんな取得している。できる人は、その上の応用情報技術者試験を取得して入社してくる。
社内では、基本情報技術者試験の知識レベルは常識として扱われている。 年齢の高い人で、取得していない人はいるけれども、知識・技能レベルは基本情報技術者試験のレベルを凌駕しているので、実質的に問題ない。 |
年配の人は、若かった頃にこの資格がなかったこともあり、社内で資格取得を推奨することはないということです。このような状況があり、これからシステム系で働くには、基本情報技術者試験の取得は必須といえます。
転職時には資格不要であっても将来的に取得を求められる
このように、強電に進むなら電気主任技術者試験、通信に進むなら電気通信主任技術者資格、情報系に進むなら基本情報技術者試験を目指すことになります。
しかし、エンジニアとしての求人で、これらの資格が必須になっている案件はあまりありません。
これは、上記の資格取得が易しいとはいえない(合格率10~20%程度)のため、資格取得必須とすると対象者が少なくなりすぎるからです。
下の図は、上から順に第三種電気主任技術者試験、電気通信主任技術者資格、基本情報技術者試験の統計データ(合格率など)を参考に示しています。
引用:(一財)電気技術者試験センター統計より
引用:(一財)日本データ通信協会 電気通信国家試験センター 統計より
引用:独立行政法人 情報処理推進機構 統計より
もちろん、企業にとって資格所持者が転職してきてくれたら、それに越したことはありません。しかし、持っていなくてもある程度実力があって、そのほかの業務をこなせるだけの力があれば、資格は入社してから取得してくれても良いのです。
資格を必須としないことにより、資格は持っていないけれども企業にとって、とても適合した人材を雇用できる確率が上がるわけです。
これは、転職者にとっても採用の間口が広くなる以上に、良い条件です。
このような企業は、社内で資格取得を奨励する制度を持っていることが多いです。それは以下のようなものです。
- 資格取得一時金:当該の資格を取得したときに、報奨金として一時金を支給するもの
- 受験料等補助:当該資格の受験料や受験にかかる交通費などを支給するもの
- 資格手当:当該の資格を取得すると、月々の給料に予め定められた金額を上乗せ加算するもの
このうち3は資格を取得して入社しても受け取ることができます。しかし、1と2は入社してからしか受け取ることができません。
このように、電気の技術者として転職を目指す場合は、将来的にまず間違いなく上で紹介した資格を取得することになります。入社してから取得したほうが有利な点も多いので、資格は入社後に取得する算段で転職活動をすると良いです。
実際の求人例と年収
では、実際の求人を探すのにはどのようにしたら良いでしょうか。
最も手軽な方法は、リクナビやdodaなどの転職サイトを使って探す方法です。厚生労働省の機関であるハローワークもインターネット検索で探せますが、非常に使いづらいのでおすすめできません。
探すときは、「電気技術者」や「電気エンジニア」では、あまりヒットしません。これは、求人を出す企業も漠然としていて説明しづらいためです。試しに転職サイトで、上記2キーワードを使って検索してみたところ、両方共30件程度しかヒットしませんでした。
これは具体的な語を使う必要があります。強電系だと「プラント」「電力」など、弱電系だと「通信」「デバイス」「システム」などです。これと「技術者」「エンジニア」を組み合わせて検索すると良いです。また、資格名をキーワードとして検索しても良いです。
それを踏まえた上で、まずは強電系の求人です。東京に本社のある東京エレクトロンBP株式会社の求人を下に示します。
この求人では、地方の拠点(宮城、山梨、熊本)で勤務することになります。
図中にあるように、電気エンジニアではなく「工場施設管理エンジニア」と記載があります。半導体製造工場のインフラ設備を保全する仕事です。
半導体工場に限らず、「工場」と呼ばれる設備には電気の技術者は必須です。なぜなら、電気を使っていない工場は存在しないからです。
もちろん、工場の規模により電気技術者を外注することもあります。しかし、大きい工場ほど、事業者が電気技術者を雇用し、教育している場合が多いです。
また、保全というと「故障したら修理するだけの面白くない仕事」と思われがちです。しかし、本来は「故障しないように知恵を絞って設備を管理する仕事」です。
電気設備は、故障しそうな状態で動いていても、声を上げて知らせてくれません。ただ、わずかな兆候は、温度変化や音の変化として現れます。これを敏感に察知して事前に手を打つのが保全の醍醐味です。
さらに、機器の故障がないときは仕事に余裕があるため、体系的な技術・知識を習得しやすい環境があります。そして何年か一度、老朽取替や設備新設工事の設計を通して飛躍的に技術力を上げることができます。
私も、鉄道会社勤めで保全を7年担当しました。そのあと、鉄道新路線の開業に伴う設計を担当し、技術者として認められるようになりました。
保全の仕事は、時間はかかるものの、技術者としての力を養うにはもってこいの仕事だといえます。
また、この求人の「対象となる方」の欄には、下図のように記載があります。実務未経験でもOKの案件です。
このように、普通自動車運転免許以外は特に無資格で問題ありません。さらに高卒以上が対象ですので、ほとんどの人が対象といえます。
先に説明したような資格について、名前を出して挙げてあるのは「電気主任技術者資格」です。この資格を所持しているなら歓迎されるでしょう。
しかし歓迎条件ですので、持っていなくても合否のマイナス要因にはなりません。まずは、書類選考に応募してみることで、転職が成功しやすくなります。
次に紹介するのは、以下の株式会社ファシリコの求人です。これは通信系の仕事です。
これは、道路に付随する通信設備の保全が主な仕事内容です。また、この求人では電気エンジニアではなく、「電気通信機械建築技術者」と記載されています。
電気通信機械建築技術者とは、「電気通信」「機械」「建築」それぞれの「技術者」という意味です。
この求人も、保全を主に担当し将来的に設備設計をしながら技術力を高め、電気のエンジニアとして成長することが望めます。
下図のように、対象となる方の欄を見ると、資格は歓迎条件とされています。
この会社は通信事業者ではないため、電気通信主任技術者を専任する必要はありません。しかし、電気通信主任技術者資格取得が歓迎条件とされています。これはなぜでしょうか?
実は、ファシリコ社は電気通信事業者(KDDI、NTTなど)を相手に電気通信工事業をしています。これは、ホームページを確認すればわかります。
電気通信事業者には、電気通信主任技術者資格を持った技術者が相当数います。この人達から工事発注を受けるので、電気通信主任技術者と同じレベルの知識が求められます。
あなたが、仕事を外注化しようとするときを考えてみてください。あなたより知識技能が低そうな相手に、仕事を外注しますか? ほかの技術力の高そうな会社にするか、発注しても安くさせるのではないでしょうか。
これは、企業間での工事発注でも同じことがいえます。
私が、第二種電気主任技術者資格を売りにして転職活動をしていたときにも、財閥系化学会社とセメント会社の子会社に同じことをいわれました。
私が受けた会社は電気事業者ではありませんでしたが、親会社が電気事業者でした。そのため、親会社から技術および知識面での信頼を得るために、会社として電気主任技術者資格の取得を奨励していました。
このようなケースは、しばしばあります。
3つ目に、情報系の求人を紹介します。下は、神戸にある三菱電機トレーディング株式会社の求人です。
求人情報に、社内SEとあるのがわかります。「SE」とはシステム・エンジニア(System Engineer)の略です。
この会社の中心事業は、資材調達・供給や国際取引の代行です。この社内SEの仕事は、技術系社員として中心事業を支えるシステムを管理する仕事です。
つまり、ユーザーは同じ会社の社員です。したがって、システムに対する社内の様々な要求や不具合報告を整理・解決・調整して、必要な改修を行います。
実際のコーディング(プログラミング)は、業務内容に書かれていませんので、外注化していると考えられます。
鉄道系の情報システム会社で、自ら開発はせず、保守管理のみを行う立場で仕事をしている人に話を聞いたことがあります。
それによると、コーディングはしないもののコードインスペクションは行うということでした。
コードインスペクションとは、開発されたコードを第三者の目線で読んで、バグやプログラミングミスを見つけて、訂正する作業です。
コードインスペクションは、業務として行う場合と行わない場合は会社それぞれですので、自分のスキルと相談して、事前に会社に聞いてみると良いでしょう。
さて、この会社の対象となる方は、以下のように記載があります。
情報システムの開発/保守経験が必須です。開発より、保守のほうが経験しやすいので、保守経験者がステップアップを考えるのに向いている求人といえます。
また、基本情報技術者試験が「尚可(要するに歓迎)」とされています。開発の上流工程に携わることがあると書かれていましたので、開発の流れがある程度わかっていることを担保したいからだと考えられます。
システム系の求人は、このような案件のほかに、組込みシステムの開発なども技術者が求められる案件です。その場合は、プログラマーとしてではなくSEとしての案件かを確認して応募すると良いです。
電気技術者の年収は高めも狙える
最後に、電気技術者の年収を見てみましょう。
ちなみに、先に紹介した求人例の各会社の提示年収は以下のようになっています。上から、東京エレクトロンBP株式会社、株式会社ファシリコ、三菱電機トレーディング株式会社のものです。
下図は、東京エレクトロンBP株式会社の提示年収。
下図が、株式会社ファシリコの提示年収。
下図が、三菱電機トレーディング株式会社の提示年収。
これによると、転職後の年収は380~800万円くらいです。給料は、地域によって高い安いがあります。
私が転職活動中に実感したのは、大阪から西に行けば行くほど安いということです。
私は転職活動をするとき、山口県が出身ということもあり、その周辺で仕事を探していました。山口県中心なので福岡県も対象に探しました。しかし九州の求人は軒並み提示年収が低いのです。
あとで、面接を受けた広島県に近い会社の社長に聞いたところによると、山口県内でも「東は高く、西は低い。九州はさらに低い。」ということでした。
この傾向は東日本だと、関東から北上すると同様の傾向があります。年収を考えるときは、この傾向を知っておくと良いです。
さて、電気の業界全体はどのような傾向にあるか参考になるデータを示します。下記は、国税庁が行っている民間給与実態調査の平成29年のデータです。
引用:平成29年度民間給与実態調査(第8表)をグラフ化
グラフ中、青色で示す電気・ガス・熱供給業・水道業に、強電系の電気技術者が含まれます。同様にグラフ中、橙色で示す情報通信業に、弱電系の電気技術者が含まれます。
これによると、強電系電気技術者は中央値が700万円くらいで、弱電系電気技術者の中央値は500万円くらいとわかります。
この調査は、給与所得者を対象としたものです。つまり、当該業界のサラリーマンの年収が、どのくらいかがわかります。どちらの業界も1000万円以上のサンプルが相当数あるのが特徴です。
たしかに私の経験に照らし合わせてみても、以前勤めた鉄道会社では、50歳位の一般企業における課長級で1000万円を超えていました。また、現在勤める発電プラントでも課長代理級で1000万円を超えています。
電気技術者は、転職すぐの提示年収は低いものの、長く勤めて技術者として実力をつけていけば、高年収も望めます。
まとめ
電気エンジニアは、単なる技能職ではなく、深い知識と技術力によって業務を遂行する仕事です。その分野は、強電系として電力供給・工場などの設備管理、弱電系として通信業やシステム開発など多岐にわたります。
また、電気エンジニアを名乗るために必要な資格はありません。しかし、資格を持っていなくても相応の知識は求められますし、会社によっては資格取得を奨励していることが多いです。
この対象となる資格は、強電系は電気主任技術者試験、弱電系は電気通信主任技術者資格、基本情報技術者試験などです。会社によって求められるものが違うので、確認する必要があります。
なお、多くの会社が転職時は無資格でも問題なしとしています。さらに、入社してから取得したほうが金銭的に有利な面もあるので、わざわざ取得してから転職する必要はありません。
求人を探すときは、「電気技術者」「電気エンジニア」として探すと曖昧すぎて見つからないこともあります。「電気設備管理」「電気機器開発」「システム」など、あなたの得意分野をあわせてキーワードとして探すと良いです。
電気技術者の年収は、地域によって差はあるものの、総じて高めといえます。また、「時間をかけて技術力を磨いていく」という職種の特性上、長く勤めると高い年収が期待できます。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。