中途採用で電気工事の会社に転職を考えるとき、学歴や資格をどうアピールできるのか気になるところです。

ただ電気工事は、技能が必要になる仕事です。反対に、技能を身に着けてしまえば一生できる仕事でもあります。

このとき学歴はあまり関係なく、高卒も大卒も、まず電気工事士の資格を取って経験を積むところからスタートします。つまり、高卒であっても問題なく良い会社へ転職することができます。

今回は、高卒で電気工事の会社で働くために必要な経験・資格と、転職サイトを活用した転職の方法を解説します。

もくじ

電気工事会社の業態を知る

電気工事業で成立している会社は、大きく分けて2種類あります。主に一般家庭向けの電気工事を行っている会社と、工場や大規模な事業所などの電気工事を請け負っている会社です。

扱うものの規模が全く違うので、工事の仕方、考え方、求められる能力が変わってきます。例えば、一般家庭向けの電気工事の場合、1人から数人のチームで仕事することがほとんどです。一方、工場などの電気工事の場合、数十人から数百人が協力して仕事をすることもあります。

1人で作業する場合は、作業の段取りから実施工、工事完了後の機能確認、お客様への対応などすべて1人で行わなければなりません。多人数で作業する場合は、それぞれ分業して行うことになります。

しかし、作業員がそれぞれ好き勝手に作業をしていたのでは、統率が取れず、一つの大きな仕事を作り上げるうえで、品質が満足できない仕上がりになります。また、労働災害を引き起こすことも考えられます。

そこで、チーム全体の意思統一を図る会議や、工事の進行度合いを確かめ、互いに施工能力(作業員)や材料を融通しあう調整会議が必要になります。ここでは、電気工事の施工能力だけでなく、コミュニケーション力や統率力が必要になってきます。

自分が将来的に、どのような立場で仕事をしたいかを考えながら会社を選ぶとよいです。

一般家庭やオフィス向けの電気工事

まず、一般家庭や小規模のオフィス向けの電気工事を行っている会社を紹介します。下の図は、転職サイトの求人例です。

この会社は、ハウスメーカーなどから仕事を請けて、一般の住宅向けの電気工事をしている会社です。また、エアコンの設置工事もしています。

下の写真はエアコンの設置中に電気配線を行っている写真です。

実は、エアコンの筐体や、配管を取り付けるだけなら電気工事には該当しません。しかし、エアコンは電気で動きますので、その配線をするのには電気工事士の資格が必要です。

またこの求人では、学歴不問となっています。高卒でも問題ありません。似たような求人案件は、学歴不問であることが多いです。

工場などの大規模事業所向けの電気工事

次に、工場や大規模事業所向けの電気工事を行っている会社を紹介します。下の図は、転職サイトの求人例です。

この会社は、トンネル・ダムなどの構造物の電気工事や、ビルや工場の電気設備の工事を請け負っている会社です。自ら手を動かして仕事をするというよりは、多くの職人を雇って現場管理をしていくことが多い仕事です。

求人情報の中に、「少数精鋭で現場管理をする」とありますので、将来的に電気工事施工管理技士を取得することになります。必須条件の中に、第1種電気工事士か1級電気工事施工管理技士とあります。

これは、電気工事士しか持たないのなら、しばらく先輩の施工管理技士について実際に手を動かして電気工事の仕事をし、近い将来に施工管理技士を取得することを想定しています。

下の写真は、工場の電気配線を下から撮影したものです。

工場の電気配線は、このようにケーブルラックに沿って配線されます。その数は、家庭用の屋内配線とは比較にならないくらい多いです。太さも親指くらいの太さから、腕くらいの太さのケーブルまで様々です。

ケーブルは、下の図のようなケーブルドラムというものに巻かれて工事現場に搬入されます。

工事現場では、これを2~3人でケーブルを引っ張って配線します。このケーブルドラムはよく使うサイズで1~2mくらいの大きさで、ケーブルを巻いたときの重さは1t以上になることもあります。

ケーブルドラムの移動には重機を使います。このときドラムが落下して下敷きなったり、ドラムが揺れて壁と挟まれたりする労働災害がよく発生します。

一般家庭の電気工事では、そのような労働災害はまず起きません。工場の電気工事がいかに特殊で危険かがわかります。工場などの大規模事業所で電気工事をする会社には、このような危険性があることを承知しておいてください。

あるとよい資格と経験

電気工事をするには国家資格である「電気工事士資格」が必要です。

電気工事士の資格を持たないで入社したときは、準備作業や周辺作業で、ほかの作業員を支援する仕事から始まります。この場合、入社後数年のうちに電気工事士資格を取得することになります

電気工事士

まず、電気工事士資格は電気工事士法で定められる資格で、「第1種電気工事士」「第2種電気工事士」の2種類があります。

第1種電気工事士は「自家用電気工作物のうち、最大電力500kW未満の需要設備の電気工事」「一般用電気工作物の電気工事」の両方に従事できます。第2種電気工事士は「一般用電気工作物の電気工事」だけに従事することができます。

以下の図は電気工作物の範囲を示したものです。

初めて電気工事に関わるときは、第2種電気工事士から取得することになります。第1種電気工事士の試験を受けるためには電気工事の実務経験が必要だからです。工業高校を卒業した人なら、在学中に第2種電気工事士を取得していることもあります。

電気工事会社に入るのに電気工事士の資格を必須としている場合だけでなく、入社してから取ればよいという会社もあります。ただし、電気工事士の資格なしで入社したとしても、電気工作物を直接施工する作業には従事することができません。先輩・同僚の電気工事士資格所持者のお手伝いや準備作業をすることになります。

電気工事士の試験で実施される実技試験は、入社したあとの方が受かりやすいです。準備作業とはいっても、電気工事の工具は一通り使います。また、仕事で出た廃棄物(電線の切れ端、不良品の電材など)を使って、実技試験の模擬練習をすることができます。

早く資格を取れば、従事できる仕事の範囲も広がります。電気工事士の資格なしで入社したときは、入社後1~2年は早く資格取得するために力を尽くすことをお勧めします。

電気工事施工管理技士

次に、電気工事施工管理技士資格は、建築業法で定められる資格です。

建築業法では、受注金額の規模によって「主任技術者」「監理技術者」を専任させて、場合により工事現場に常駐させることを求めています。この「主任技術者」「監理技術者」なるための資格が施工管理技士です。電気工事の場合は、電気工事施工管理技士が必要です。

なぜ、この資格が必要なのでしょうか。

受注額の大きな工事は、大人数で施工することになります。大人数で一つの仕事をする場合、「指示命令系統をはっきりさせる」「連絡手段と時期の明確化をする」「工程の進捗状況の把握と遅れが出たときの対策」などの技術がないと、到底品質を満足するものは出来上がりません。また、工期に間に合わないことも出てきます。

自分が指示をされる側にいるときは気づきにくいものです。しかし、反対に指示する立場に立ったとき、他人は自分の考えた通りに動いてくれないことがよくわかります。

そこで、工事に関する最低限の監理テクニックをこの資格で保証します。そうすることによって、工事の品質を担保するのです。

計装士

最後に、計装士資格は民間の団体が認定している資格です。

工場などでは、配管中を流れる物体の状態を知るために計測器が取り付けられています。例えば、圧力計や流速計があります。

これらの計測器は、工場内の中央監視室や、ほかの遠隔監視所と通信で結ばれ、圧力や流速の数値を電気信号に変えて送っています。

しかし電圧が低いため、電気工作物としては扱われません。つまり、電気工事士資格がなくても施工できます。

ただ、計測器も電気的な機器ですので、全く電気の知識が無いようではうまく取り扱うことはできません。また、圧縮空気などを扱うこともあり、単なる電気的な知識以外のことも求められます

そこで、計測器全般にかかる知識を担保するのに、計装士の資格認定があります。

工場では、計測器の設置や調整にかかる工事をすることもあります。これを計装工事といいます。電気工事の一環として、計装工事も行うことがあるので、そういう会社ではアピールできる資格です。

ただし、施工をするにあたり計装士の資格保持者は必須ではありません。経験を客観的に判断するための資格といえるので、きちんとした計装工事の経験があり、その経験をアピールできるなら無理に取得する資格ではありません。

キャリアップの考え方

では、無事に入社が決まったあとはどのようなキャリアアップを目指すことになるのでしょうか。

高卒の場合はまず「腕の良い電工」を目指すことになります

そのあと、経験年数が増えるとともに、電気工事の実力以外の能力を求められることになります。例えば、他者と物事を調整して進める力やグループを統率する力などです。

小さい会社では、誰かが受注してきた仕事をこなすだけでなく、自分で仕事を取ってくるような営業の仕事や、会社を将来どのように動かしていくかという経営の仕事に関わることもあるでしょう。

大きい会社では、上のような経営や営業に関わることは少ないでしょう。しかし、電気工事の実力とは直接関係のない施工管理や社内調整などの仕事は確実に増えます

このように、電気工事の世界では、「下働き→(腕の良い)電工→施工管理→会社経営or独立」という具合にステップアップしていきます。もちろん全員がこの通りになるわけではありません。電工で定年になる人もいれば、早々に独立する人もいます。

しかしどの場合も、まずは「腕の良い電工」を目指します。

まずは腕の良い電工を目指す

腕の良い電工とは、「優れた技能を持った電気工事の職人」です。

腕の良い電工は、まず施工がきれいです。さらに、使う側の気持ちや使い勝手を汲み取って施工をします。

平凡な電工は、合格点ぎりぎりの施工しかしません。電気工事は、電気的に正常に接続・配線されていれば、異常な発熱を起こすこともなく、一応は合格点です。

しかしそれでは、腕の良い電工にはなれません。

ここからは、私が経験した施工の例を紹介します。下図は悪い例です。

私が鉄道会社に勤めていたときに、機器の配線ボックスに入る配管と、中の配線を取り換える工事を発注した設計図(施工指示図)です。

私の指示では、ボックスから下に出た配管は、ボックスの横を通ってボックスの上部に設置されるように設計していました。

次に、施工が終わってから業者から返ってきた施工図を良い例として下に示します。

施工図では、ボックスから出た配管はボックスの裏を通ってボックスの上部に設置されています。

私の施工指示だと配管は、固定する支持点を設けづらく不安定になります。不安定な状態では人がぶつかったり、風で揺れたりして、支持点が壊れ、配管も破損します。

しかし、業者が施工した良い例の方法だと、架台のL鋼の中に支持点をたくさん設けることができます。さらに悪い例と違って張り出しがないために、人がぶつかることもありません。

このように、発注者は必ずしも最善の方法を指示するわけではありません。発注者から言われたら、言われたとおりに施工するだけの電工は、いくら出来栄えがよくても平凡な電工です。

腕の良い電工は、発注者の考えを汲み取って、それを実現するさらに良い施工を発注者に提案します。

発注側はその設備が壊れるまで、ずっと保守・使用し続けます。設備と長い間付き合っていくので、少しの使いづらさも積み重ねることで、大きなストレスになります。

受注側は一回作ったら終わりなので、発注側の長い間使い続けるという観点が抜けている人が多いです。その点を汲んで設備に反映できる人が「腕の良い電工」です。

私は発注する立場で、腕の良い電工に仕事を頼む機会が何度かありました。私が最善だと考えて指示した内容でも、やはりもっと良い施工はあるもので、何度も改善案を提案されたことがあります。

このときは、より良いもの(使いやすく壊れにくいもの)を作りたい気持ちが、通じ合っていると感じました。このような電工には、次も指名して発注したくなります。

給与アップを考えるなら施工管理技士を目指そう

腕の良い電工になってから施工管理技士を目指した方がより良いものの、ある程度電気工事ができるようになったら施工管理技士を取得することが、給与アップにつながります

腕の良い電工は、絶対に目指すべきです。電工を使って仕事をする立場になった場合でも、腕の良い電工の施工指示は、実力に裏打ちされた説得力があるからです。

しかし、どうしても不器用であったり、配線のセンスが無かったりする人もいます。そういう人でも、腕の良い電工の考え方を身に着け、誰かに頼むことで補うことは可能です。

施工管理技士になったら、電工として仕事をしていた経験をバックボーンとして、たくさんの作業員に様々な作業を指示することになります。施工管理技士は、大人数で大きな仕事をする指揮を執ります

したがって、施工管理技士の考え方が悪いと、大きな仕事全体が悪い出来になってしまいます。施工管理技士になる前に、考え方だけでも腕の良い電工になってから、ステップアップしてください。

そうすれば、施工管理技士としての仕事の質が上がり、おのずと給与に反映されてきます。

施工管理の重要性

最後に、施工管理の重要性を書いておきます。

上で少しふれたように、1人ですべての仕事ができるなら施工管理は容易です。しかし、現実的に規模の大きな仕事は大人数で行いますので、難易度は高くなります

大人数になればなるほど、意思伝達や意思統一は難しくなり、それにかける時間や労力は増えます。1人で10できていた仕事が、10人になったから100できるわけではなくて、60~70ほどしかできないのです。残りの30~40は意思伝達や意思統一に使われます。

施工管理の4大要素として、「原価管理」「工程管理」「品質管理」「安全管理」があります。それぞれに教科書的なテクニックはあります。しかし、大人数での意思伝達、意思統一は難しいとの前提を持たずに、小手先のテクニックを使ってもうまくいきません

原価管理が甘いと、工事で赤字を出します。工程管理が甘いと、契約工期を守れず、違約金支払いが発生します。また、お客様にも迷惑をかけます。

品質管理が甘いと、求められた品質を満足できず、手直しや追加工事が発生します。結果、コストがかかったり、工期に間に合わなかったりします。安全管理が甘いと、労働災害が発生しやすくなり、けが人や死人を発生させます。

施工管理が十分になされていれば、これらがすべてうまくいき、お客様も自分も会社も幸福になる仕事ができます

転職サイトを使った求人応募の仕方

以上を踏まえた上で、求人を探すときは転職サイトを活用するとよいです。転職サイトで検索するときに、行きたい会社の業態に合わせて資格を入力することで、おおよそ絞り込むことができます。例えば、大規模工場で電気工事をしたいなら、「第1種電気工事士」と入力して検索します。

また、その会社で必須な資格は「必須条件」に記載してあり、なくても良い資格は「歓迎条件」に記載してあるので、資格の要否を見分けることも容易です。

資格を持っていないときの応募

では、実際にどのように求人を探して応募したらよいでしょうか。

受けたい会社があって、その会社が求める資格を持っているなら、何の問題もありません。条件にあった会社を受けるとよいです。

優れた電工の能力や施工管理の能力は、紙の上の知識ではなく、いかに手を動かすかという経験によって伸びます。経験を得ようと思えば、少しでも早く電気工事の会社に入った方が有利です。

問題は、必要とされる資格がないときです。このようなときは、その資格が必須条件にない会社から選びがちです。

しかし転職サイトを使った転職の場合は、多少条件に合わないときでも求人に応募することが可能です。

資格を必須としている会社でも、転職エージェントを通して熱意を見せることで受験できることがあります。例えば、「近々行われる試験には申し込み済みで、必ず合格します!」「実務経験がわずかに足りないので、その期間だけ実務経験できれば資格取得できます」などと伝えるといいです。

私が転職で何社か試験を受けたときも、条件はずれの求人に応募して面接にこぎつけたことはあります。

ただし条件はずれの求人に応募するときは、特に職務経歴書を充実させてください。下の図は、私の職務経歴書の一部です。

10年以上務めた会社のうち、3年半分(平成23年6月~平成26年11月)の記載です。ほかのところにも同じように、仕事で何をしたかを詳細に書いています。工事に関わる経験を、どのような立場で行ってきたか、工事費(受注額)はいくらか、工期はどのくらいかを書くとよいです。

電気工事に携わっていれば、工事費と工期がわかれば、その工事の難易度がある程度わかります。そこで電工見習いとして働いていたのか、施工管理見習いとして働いていたのかは、資格以上に重要な情報です。

このようにアピールすることで、資格なしでも希望の会社に通りやすくなります。

まとめ

以上のように、電気工事の会社への転職は、学歴はあまり関係なく高卒でも十分可能です。

まずは、転職サイトで求人を探してみるとよいです。このとき、上で書いたように資格名で会社を探すと目的の会社にたどり着きやすいです。

ただ、電気工事の場合は資格所持者が従事しなければならないことが多いため、必須条件に資格所持を謳っていることがあります。

このときでも、職務経歴書を充実させ、これまでの経験を転職エージェントを通してアピールすることで、条件はずれでも受けることが可能になります。また転職エージェントは、全面的にあなたの味方になって受けたい会社と折衝してくれます。

このように、資格がどのように必要になるかを把握して転職サイトを活用すると、希望の会社に受かりやすくなります


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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