大気関係第一種公害防止管理者資格は、ばい煙による大気汚染を防止するために法令で定められた国家資格です。近年の環境意識の高まりにより、企業の事業活動において公害防止は絶対に避けて通れない課題です。公害防止管理者資格を持っているということは、そのような企業の需要にマッチします。
ただ、「公害防止管理者資格を持っていたらどのような企業でも選び放題」というわけではありません。公害防止管理者を求めるのは、ある程度の業種・規模に絞られます。また、業種により、「資格を必ず持っていなければならない」のか、「資格を持っていればなお良い」のか温度差があります。
資格を活かした転職で成功するには、あなたの資格がどのような企業に需要があり、どのように評価されるのかをしておく必要があります。これを知らずして手当たりしだいに求人に応募しても、良い結果を得ることはできません。
ここでは、「公害防止管理者(大気一種)資格が求められる業種」「企業からの評価」「資格手当・年収の考え方」について、詳しく説明します。
もくじ
大気関係第一種公害防止管理者資格が有利になる企業を知る
公害防止管理者資格は、製造業およびエネルギー(電気・ガス・熱)供給業で公害防止管理者を選任するために必要な資格です。大気関係第一種資格だと、何かを燃やしたり加熱したりする工場・プラントで必要とされます。
公害防止管理者(大気一種)が必要な施設の詳細は、一般社団法人産業環境管理協会の資料に紹介されています。大気関係第一種公害防止管理者資格の効力を最大限に活かすなら、比較的大きなエネルギープラント・生産工場が転職・再就職先の選択肢になります。
エネルギー供給業の求人が第一選択肢
ここからは実際に求人例を示しながら説明します。まず、エネルギー供給業の企業を紹介します。
下の求人は、株式会社神戸製鋼所の求人です。兵庫県神戸市の同社工場内にある発電所で、機械系の技術者として働く人材を募集しています。
神戸製鋼所は鉄鋼の会社ですが、自社内に発電所を持ち発電を行っています。神戸製鋼所の場合は、発電電力の100%を関西電力に売電しています。
2010年代以降、旧一般電気事業者(いわゆる10電力)のほか、電気供給業としてバイオマス火力発電所がたくさん建設されています。下の写真も、F-POWERという会社のバイオマス火力発電所です。
火力発電所では、燃料を燃やしたときに大量のばい煙を発生します。そのため、大気関係第1種公害防止管理者資格を求められます。
ちなみに私が勤めている11.2MWの火力発電プラントでも、大気1種の公害防止管理者有資格者が必要です。
同様に燃料を燃やすエネルギー供給業に、熱供給業があります。熱供給業では、ボイラーで電気を作るのではなく、熱を発生させ蒸気などの形で熱を顧客に届ける業種です。
例として、Daigasエナジー株式会社の求人を下に示します。地域熱供給業として、大阪・兵庫のエネルギーセンターで働く人材を募集しています。公害防止管理者資格が歓迎条件に記載されています。
同じ熱供給業で、池袋地区冷暖房株式会社の求人を下に示します。この求人では、大気関係3種公害防止管理者資格が歓迎条件に記載されています。大気1種公害防止管理者資格があれば、応募できます。
熱供給業では、ボイラーが小さいこともあり、大気3種資格で十分なこともあります。Daigasエナジー社のように、何種資格が必要なのか明記していない場合は、確認が必要です。
エネルギー供給業のうちガス供給業では、ガス製造所のフレアスタックからばい煙を出すため公害防止管理者が必要です。下の写真はLNG製造所で、写真中央と左に見える塔がフレアスタックです。
しかしながら、私が求人を探したときにガス製造所の募集案件はありませんでした。
以上のようにエネルギー供給業では、火力発電所(石油・石炭・バイオマスなど)がある企業の求人を探していくと見つけやすいです。
製造業で何かを燃やす企業で公害防止管理者の需要がある
公害防止管理者資格が活かせる、もう一つの主な分野が製造業です。製造業では、製品の生産過程で熱を使ったり、副生成物を燃やしたりします。
例えば、下の写真のような石油精製所では製造過程で様々な加熱工程があります。原油蒸留・加熱・脱硫などの工程で使う施設が、公害防止管理者が管理しなければならない施設として定められています。
実際の求人だと、下のコスモ石油株式会社の求人が該当します。この求人では、千葉県の製油所勤務の人材募集をしています。大気関係第一種公害防止管理者を持っていることが歓迎条件として挙げられています。
製造業の求人例をもう一つ挙げます。旭化成株式会社の求人を下に示します。この求人では、宮崎県延岡市の工場で、生産技術職として環境対策などを主に担当します。
旭化成社は、国内大手総合化学メーカーです。化学工場でも大量の熱を使うので、燃料として石油などを燃やしていることが多いです。したがって、大気関係第一種公害防止管理者資格が活かせます。
なお、製造業の中には自社工場で使うための電力を賄うために、火力発電所を持っていることがあります。例えば下の写真は、財閥系総合化学メーカーの工場内にある石炭火力発電所です。
このような企業でも、電気供給業の企業と同様に大気関係公害防止管理者の有資格者が求められます。
下図のマツダ株式会社の求人を例に説明します。この求人では、マツダ工場内にある石炭火力発電所で働く技術者を求めています。歓迎条件(要件)として、公害防止管理者資格が挙げられています。
マツダ社は、広島の本社工場と山口県防府市の工場でそれぞれ火力発電所を運営しています。製造業の工場に電力供給をしている発電所でも、電力供給業の発電所と構造や仕事内容・遵守すべき法令は同じです。
したがって、このような自社電源としての発電所を持つ企業でも、大気1種公害防止管理者資格がアピールポイントになります。
企業から分析業務を受ける環境調査会社の求人
最後に紹介するのは、環境調査会社です。環境調査会社は、クライアント企業から公害物質が試料に含まれていないかの分析依頼を受けて実施する会社です。
公害防止を管理するためには、自ら排出する公害物質がどれくらいあるのかを分析する必要があります。自社内に分析できる技術者がいれば問題ないですが、いないこともあります。
そのようなときは、外部に分析を委託する必要があります。環境調査会社とは、この外部で分析を受託する会社です。
実際の求人でいうと、下図の長野県で事業展開している環境未来株式会社の求人が該当します。この求人では、公害防止管理者資格が歓迎条件として記載されています。
実は、環境分析自体に公害防止管理者の資格は必須ではありません。公害防止管理者の職務は、公害防止のために組織・設備を管理することだからです。
そのため、公害防止管理者資格を資格要件として挙げていない環境調査会社も多数あります。そのような会社は、入社後の資格取得補助の対象として公害防止管理者資格を挙げていることが多いです。
ではなぜ、環境調査会社が公害防止管理者資格取得を促したり、有資格者を歓迎したりするのでしょうか? それは、会社の信用度に関わるからです。
公害防止管理者は、環境調査会社のクライアント企業に必要です。したがって、クライアント企業に公害防止管理者資格の保有者が在籍しています。
環境調査会社は、そのような立場の人から環境分析を依頼されて仕事を行います。そして、分析結果を報告しなければなりません。
あなたがクライアント企業の立場だとして、あなたと同じ資格を持っている人と無資格の人が報告してきたら、どちらの報告を信頼するでしょうか? 私なら、有資格者のいる企業の報告を信頼します。
特に大気1種公害防止管理者は、次項に示すように取得が難しい資格です。したがって、環境調査業務の信頼を増し、説得力を上げるために、環境調査をしている企業から評価されやすいです。
公害防止管理者資格は企業にどのように評価されるか
では、大気1種公害防止管理者資格はどのように評価されるのでしょうか。また、企業から公害防止管理者有資格者に対してどのような需要があるのでしょうか。
この資格は、認定で取得することも可能ですが、技術士・環境計量士の有資格者のみが対象です。学歴や実務経験で認定を受けることはできません。
技術士・環境計量士資格は、公害防止管理者資格より取得難易度が高い資格です。つまり、大気1種公害防止管理者資格の筆記試験を受けるのが、最も取得しやすい方法です。
そして、大気関係第一種公害防止管理者資格は難易度の高い資格とされています。
したがって、企業側の評価も高いです。実は、先に提示したコスモ石油社の採用担当者と私の持っている資格について話をしたことがあります。すると以下のように言われました。
公害防止管理者(大気1種)有資格者は、製油所に必ず置かなければならない。ただ、社員全員が取得できる資格ではないと認識している。したがって、取れる社員に取得を促している。
すでに公害防止管理者資格を取得しているならば、それはプラスアルファとして評価する。 |
このように資格者が必要な業種にとっては、評価が高い資格と言えます。ただ、評価のされ方に注意が必要な場合もあります。
私の同僚が製紙会社の機械系技術職でありながら、採用に関わっていました。そのときに公害防止管理者の有資格者をどのように評価していたのかを聞きました。
機械系技術者の求人応募で、持っていて評価する資格は、「公害防止管理者」「エネルギー管理士」の資格だ。
これらの資格は、取得難易度の高い資格だと評価している。したがって、「努力して学習できる人」「問題解決に自主的に取り組める人」という評価をする。 |
つまり、「公害防止管理者資格を持っていること」を評価しているのではなく、「公害防止管理者資格を取れるだけの能力や姿勢」を評価しています。
したがって、公害防止関係業務だけでなく、そのほかの比較的負荷の高い業務を任されると覚悟しておく必要があります。
公害防止管理者の資格手当・年収
最後に、公害防止管理者の資格手当と年収について解説します。
具体的に公害防止管理者資格に対する資格手当の額を示している求人は、ほとんどありません。下は数少ない具体例の一つで、株式会社総合環境分析の求人から抜粋しています。
これによると月額4,000円の資格手当が支給されます。年収に換算すると、48,000円です。公害防止管理者資格を持っていると、数万円程度の年収増が見込めると考えられます。
ただし、資格手当の対象に公害防止管理者資格が入っていない会社も多いです。ちなみに私が勤めたことのある鉄道会社と電力プラントでは、公害防止管理者資格に対する資格手当はありません。
次に、年収について解説します。冒頭に紹介した神戸製鋼所の求人における提示年収は、下図のように450〜900万円です。
同様に、ここで紹介した求人の年収を下表に示します。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
(株)神戸製鋼所 | 450〜900 | 製造業(鉄鋼) |
Daigasエナジー(株) | 400〜800 | 熱供給業 |
池袋地域冷暖房(株) | 390〜610 | 熱供給業 |
コスモ石油(株) | 400~700 | 製造業(石油) |
旭化成(株) | 450〜960 | 製造業(化学) |
マツダ(株) | 400〜800 | 製造業(輸送用機械器具) |
環境未来(株) | 273~450 | 技術サービス業 |
このように、特に決まった年収のボリュームゾーンはなく、業種によって様々です。
実は、平均年収は業種によって大きく違います。厚生労働省が毎年発表している賃金構造基本統計調査で、業種ごとの平均年収が示されています。
下のグラフは、賃金構造基本統計調査のうち公害防止管理者資格が求められる業種の平均年収をグラフ化したものです。なお、青色が製造業、緑色が非製造業です。
引用 : 令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
これによると、最も平均年収の高い業種と、最も平均年収の低い業種で数百万円の差があることがわかります。
先程述べたように資格手当による年収差は数万円で、業種による年収差は数百万円です。つまり、年収増を狙うなら資格手当の有無より、転職先の業種が重要な要素です。
業種を選ぶ際には、政府統計など信頼の置けるデータを使うことで、年収面での失敗を防ぐことができます。
まとめ
ここまで、大気関係第一種公害防止管理者資格を活かせる求人について解説してきました。
公害防止管理者(大気一種)資格が求められる企業は、「エネルギー供給業」「製造業」「環境調査会社」です。このうち「エネルギー供給業」「製造業」では、公害防止管理者を必ず置かなければならないので、一定数の求人があります。そこで、この2業種を探すのが王道です。
公害防止管理者(大気一種)資格の企業からの評価は高く、面接時に強くアピールできます。ただし、公害防止担当部署でない限り、資格そのものを求められるのではありません。資格取得から伺える、仕事に対する取り組み姿勢を評価されると考えてください。
公害防止管理者資格に対する資格手当は、数千円程度が期待できます。これは年収に換算して、数万円です。
公害防止管理者が求められる業種の平均年収は、業種により数百万円の違いがあります。年収アップを狙うなら、資格手当の有無よりも年収の高い業種へ積極的に応募したほうが、転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。