公務員は、小学生の将来なりたい職業に挙がるくらい人気の職業です。電気系の仕事に転職を考えていて公務員が選択肢にあるなら、ぜひ受験したいという方も多いでしょう。
ただ、人気ということは、競争倍率も高くなります。電気の技術職としての公務員採用は実際にありますが、採用枠が小さいです。公務員にこだわるなら、一カ所に決めて試験に臨むのではなく、幅広く選択肢を持っていた方が合格率は高くなります。
ここでは、公務員の電気系技術職はどんなものがあるのか、公務員試験の応募方法、少し幅を広げて準公務員の募集の探し方を解説します。
もくじ
電気系の公務員の募集はどんなものがあるか
まずは、電気系の公務員採用はどんなものがあるのかを見ていきましょう。
国家公務員
1つ目は、国の機関に属することになる「国家公務員」です。転職の場合、社会人試験(技術)枠、または経験者(技術)採用枠で受けることになります。
東京の中央省庁で働くほか、各地方の出先機関などで働くことになります。日本全国の転勤が前提と考えてください。
官吏となって、自分のことよりも国家を最優先で考える、国家を裏で支えるやりがいのある仕事です。
試験申し込みや基本的な情報収集は、下図の人事院のホームページから行います。
地方公務員
2つ目は、地方自治体に属する「地方公務員」です。地方自治体とは、都道府県、市町村、政令指定都市の場合があります。
原則として、採用された自治体の範囲内で働きます。例えば、大阪府で採用された場合、大阪府内での異動が前提となります。また、福岡市で採用された場合は、福岡市内のどこかで職務に当たります。
ただし、出向という立場で、採用の自治体以外で仕事をすることもあります。例えば、私の知り合いは高知市の公務員でしたが、中央省庁に出向し、東京で働いていました。
電気系で地方公務員に応募する際は、「電気・通信・情報」「技術職(電気・通信)」などと、募集要項に記載があるので、その枠に応募します。それぞれの自治体のホームページから申し込むことがほとんどです。
地方公務員も国家公務員と同じく、国民に奉仕する仕事です。国家公務員よりも、より地域住民に近いところで仕事するので、それぞれの地域に合った政策やサービスを行うことになります。
警察官
3つ目は、警察です。厳密にいえば、地方公務員の一種です。警察は、都道府県職員として採用されます。
電気系で警察官に転職する場合も、都道府県や都道府県警の採用ホームページから応募することになります。警察官の募集で、ほかの公務員と違うところは、電力系の案件よりも、情報通信系の募集案件が多いことです。
これは、サイバー犯罪対策に力を入れているからです。設備の保守や、工事にかかる設計・積算・施工管理が中心となるほかの公務員とは、色合いが異なる職種です。
自衛官(自衛隊員)
最後は、自衛官です。自衛官も国家公務員の一種といえます。しかし、国家公務員とは色合いが全く異なります。
自衛隊という名前であっても、世界的な常識からみれば軍隊です。したがって、自衛官は軍人としての振る舞いを求められます。単なる国家公務員として入隊すると、ミスマッチを起こし不幸な転職となりますので注意が必要です。
自衛隊の技術職は、海上自衛隊なら「技術海曹」、陸上自衛隊なら「技術陸曹」、航空自衛隊なら「技術空曹」として採用されます。これには必要な資格があり、電気系だと「電気主任技術者試験」「情報処理試験」の資格保持者が対象になります。
私は、第2種電気主任技術者試験の資格を持っていて、技術海曹に応募したことがあります。この資格だと、2等海曹に採用されます。ちなみに、第3種電気主任技術者試験の資格があると、3等海曹に採用されます。
下図は海上自衛隊の階級を図式化したものです。
陸上自衛隊も航空自衛隊も、名前が多少変わるだけで、管理職(幹部候補)と曹士の区分は同じです。
技術職で中途採用される場合は、矢印のところ(2等海曹、3等海曹)からスタートになります。注意しておかなければならないのは、曹長と1等海曹は定年が54歳、2等海曹と3等海曹は定年が53歳です。
管理職である尉官、佐官、将官になれば定年は、54~60歳まで延長されます。しかし、幹部候補生になるには所属する部隊の推薦と、試験があります。民間の会社でいう管理職登用試験があります。
それをこえて無事に幹部候補生になっても、今度は2年に一度、日本各地の部隊・拠点を転々とする生活になります。基本的に転勤なしか、限られた地域での転勤のみの曹士とは大幅に生活が変わります。
自衛官に転職する場合は、以上の点に注意しておく必要があります。
自衛官に応募するためには、各都道府県にある地方本部を通します。詳しい話も地方本部で聞くことができます。
電気系の公務員の仕事内容
では、上記のような電気系の公務員は、どのような仕事として募集されているのでしょうか。
担当する設備は、「電気」採用なら受配電設備・需要設備、「通信」なら通信設備とその付随設備、「情報」なら計算機が中心となります。もちろん採用区分が重複することや、反対に細分化することもありますので、自分が受験する分野について事前に受験案内などを読み込んでおきましょう。
仕事の内容は、基本的に、保守、設計、積算、施工管理などとそれに付随する事務仕事です。国家公務員など行政として指導する立場では、政策実現に向けての折衝や法令に則った届出、許可申請への対応などがあります。以下、それぞれについて詳細を書きます。
・保守
国や地方自治体が財産として持っている設備について、壊れないように面倒を見ることです。適切な周期で検査・点検し、設備運転中の各種データの時系列変化から故障の兆候を察知し、消耗部品の取り換え、設備更新など必要な処置をします。
下の図は保守の基本的な概念を図式化したものです。
日々の検査で得られた設備のデータを分析して、設備の老朽化の進行度や健全性を評価します。評価で、設備が壊れそうだという結果になれば、何らかの対策を取らなければなりません。
その対策が設備の更新なのか、消耗品の交換なのかは、その時の予算や設備の重要度により変わります。
予備の設備がなく、その設備が壊れると行政サービスが止まるようなものは、ほかの予算を削ってでも更新するでしょう。一方、2重3重の構成になっており、大勢に影響のないものは、実際に壊れてから取り換えることもあります。
様々な事情を勘案して検討された対策は実施に移されます。対策後は、また検査・点検のルーチンに入ります。
このように保守は図のようなサイクルを常に回し続け、設備が健全に機能することを担保する仕事です。
・工事設計
日々の検査・点検の結果を受けて、修繕工事や更新工事を行います。このとき、どのような工事をするのか図面をおこして、詳細仕様を決める必要があります。この仕様を決める作業が「工事設計」です。
例えば製品を作る場合には設計図を書きます。修繕工事や更新工事の場合も同じで、一つのモノでないだけで、何かを作るということは同じです。「どこに何を設置して、どのくらいの長さの配線でつなぎ、その電線の仕様は~」というように設計します。
・工事積算
工事設計をもとに、外部業者に見積もりを出します。業者は、設計をもとに自社の基準で工事費を算出します。
こういった工事は、ほとんどの場合でオーダーメイドです。つまり広く一般的に、適正な価格というものがありません。同じ工事なのに、A社では1000万円、B社では2000万円というような差異が出てくることがあります。
このとき、A社の価格が適正な価格でB社が吹っ掛けてきているのか、B社の価格が適正な価格でA社が無理をして安い価格で受注を取りに来ているのか判断しなければなりません。
国民の税金で行う工事ですので、適正な価格より高い価格で発注することはあってはなりません。また、適正な価格より極端に安い価格は、元請けのさらに下請け業者にしわ寄せがいくことになります。その結果、品質の悪化や労働条件の悪化を招くことになり、行政としては避けなければなりません。
したがって、適正な価格を受注側も知っておくことが必要です。この適正な価格を導き出す手続きが「工事積算」です。下の図は工事設計から契約までの工事の流れの例を図で示したものです。
私は鉄道会社に勤めていて、この工事積算をかなりやりました。民間会社とはいえ、公社あがりの会社でしたから、工事積算は第三者に対して的確に説明できる公正なものであるべきだと指導を受けてきました。
公務員の場合は、鉄道会社の場合以上に公正性、透明性を求められると考えてください。
このような工事積算を通して算出された基準価格をもとに、見積もりを出してきた業者と価格協議ののち、両社が納得した価格で工事契約します。なお、この基準価格は、次年度の予算や中長期計画を立てるための予算算定のときの参考資料としても使われます。
・施工管理
施工管理は、上の手続きを経て工事契約した後の仕事です。
施工管理で重要な要素は、安全管理、品質管理、工程管理です。発注側と受注側で、それぞれの要素について受注側の提供するレベルが上回っていれば問題ありません。しかし、多くの場合において発注側と受注側の求めるレベルが食い違います。
法令で定められるものを順守するのは当然です。しかし、法令にもあいまいな部分があって、その部分を発注側と受注側それぞれで解釈するとき齟齬が発生します。多くの場合、発注側のレベルに合わせることになります。
このような齟齬(そご)があるとき、受注側が勝手に発注側のレベルに合わせてくれることは、なかなかありません。発注側から積極的に受注側に注文を付けることになります。
安全管理が疎かだと、労働災害で死人が出ます。品質管理がでたらめだと、手直しや再工事などで国民の税金を余計に使うことになります。工程管理が適当だと、納期遅れや関係のあるほかのプロジェクトを遅らせることにつながります。
確保した予算枠で、最大限の品質を、労働者の安全を最大限配慮したうえで、期日内に納めることが施工管理の目的です。
電気系で公務員になるには
では、電気系の公務員になるにはどのようにしたらよいのでしょうか。ほかの公務員と同様に、年に1回程度の試験を受けて合格する方法が一般的です。
そのほかに、一旦臨時職員として採用されてから、その後に登用試験受験して正職員になる道もあります。
採用試験では、筆記試験(一般教養、専門、論文)、面接、適性検査、身体検査などを受けます。下図は試験の例を図式化したものです。
準公務員を目指す手もある
公務員試験は年に1回程度しかないため、チャンスが限られています。また、その数少ない試験に受験者が集中し、倍率も高くなり、転職成功の難易度は高くなります。
そこで、少し視野を広げて、準公務員を対象にすると選択肢が大きく広がり、転職成功の可能性が高まります。
準公務員とは、特殊法人や独立行政法人などのことです。かつて公務員だったのが、名前を変えて法人化されたものです。法人とはいえ、中身は公務員に準じており、待遇の面では公務員とほとんど同じです。
また、民間にも公務員にもない事業内容の特殊法人や独立行政法人があります。自分のやりたいことがその事業内容にあれば、またとない良い条件での転職となるでしょう。
公務員試験のための勉強をしなくても良いという大きなメリットもあります。
準公務員の採用を探す
では、どのように準公務員の採用を探したらよいでしょうか。
最も簡単な方法は、転職サイトで「独立行政法人」や「特殊法人」をキーワードとして検索してみることです。下の図は、私が検索した結果の一つで、「独立行政法人 水資源機構」の求人です。
水資源機構は、安定的に水を供給するインフラや洪水を防ぐ治水設備を建造し、維持管理している法人です。
一見電気とは関係ないように思えますが、ダムなどで水を止めたり流したりする機構部分を動かすのは電力です。大きな動力を使うので、高圧で受電します。そのための受変電設備の維持をしていく必要があります。
また、ダム・水路は人間が立ち入るのに危険なところにあることも多いです。さらに都市部から遠く離れていて、操作のために現地に行くのが経済的ではない場合も多々あります。
このような場合、多くは遠隔地から機器を制御し、水を流したり止めたりします。遠隔地から操作するためには、制御指令や機器の状態を、制御所と現地で相互にやり取りする必要があります。そこで通信設備が必要になります。
一方、制御指令を受けた現地の機器は適切に制御されなければなりません。さらに、その状態を適切に把握し、制御所に伝える必要があります。ここで、計装制御技術が使われます。
水資源機構の仕事は、公務員と同じように公共性の高いものです。民間企業が事業として行うには、採算をとるのが難しかったり、住民への公平性が保てなかったりするからです。そこで、独立行政法人として公務員に準じた扱いで、設備と仕事を維持しています。
次に下の図は、同様に検索した「独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構」の求人です。
この求人は、電気とは直接関係のない求人です。しかし、発電事業に関わったことがある人は、なじみのある石油・天然ガス・石炭に関わる仕事ができます。
また、前述の「臨時職員として採用され正職員を目指す」ときの良い例としても挙げています。この求人は、表向き「契約社員」の募集になっています。しかし、「次期正職員育成のため」とはっきり謳っており、将来的に正職員になることを期待されている臨時職員です。
転職サイトで検索するときに、最初から「正職員・正社員」のみを対象として検索する人には、この求人を見つけることができません。つまり、競争相手が少ないということになります。
しかも、正職員に登用する気のない臨時職員募集ではなくて、正職員になることを前提とした臨時職員です。何年か臨時職員として過ごすことを許容できれば、ほかの高倍率の公務員試験を受けるより、圧倒的有利に公務員を目指すことができます。
このほか、設備管理以外の求人は、国立大学法人で教授・助手を支える「技官」の道もあります。これは大学だけではなく、工業高等専門学校(高専)も対象になります。
まとめ
このように、電気系で公務員になるにはたくさんの道があります。また職務内容もさまざまです。自分に合った道を探すことができます。
ただ、原則年1回の試験である上に、その試験に受験者が集中するため、かなり難易度が高いです。
しかし、待遇や職務内容が公務員に準じる「独立行政法人」「特殊法人」まで範囲を広げると難易度が下がります。また、臨時職員からの正職員登用まで許容できれば、さらに容易に転職できます。
電気系で公務員への転職を考えるときは、「独立行政法人」「特殊法人」も同時に考えてみると、転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。