電気工事技術は日本だけで通用する技術ではありません。世界でも、産業や生活を支えるエネルギーの中心は電気です。つまり、電気技術者の活躍の場は必ずあります。
では、電気工事の技術者として海外での活躍を希望する場合、どのような求人があるのでしょうか? また、どのような働き方があり、どのようなスキルが必要なのでしょうか?
転職は人生の一大イベントです。下調べが不十分なまま転職すると、ミスマッチを惹き起こし一大イベントで失敗してしまいます。転職成功のためには、あらかじめ十分な情報収集をしておくことが大切です。
ここでは、海外勤務の電気工事求人に転職成功するための、「募集される電気工事の職種」「働き方と必要なスキル」「年収・給料の考え方」などについて詳しく解説します。
もくじ
海外求人は電気工事設計・施工管理を探すのが王道
海外で電気工事をする仕事に転職しようとするなら、電気工事設計や電気工事施工管理の仕事が第一選択肢になります。これらの職種は求人数があるので、条件に合う優れた求人を見つけやすいです。
例えば、設計の求人を下に示します。この求人は、住友電設株式会社の求人です。この求人では、タイ、フィリピン、インドネシアの現地法人のいずれかでの勤務になります。
同様に施工管理の求人を下に示します。この求人は、TAKASAGO VIETNAM CO., LTD.(高砂熱学工業株式会社のベトナム法人)の求人です。同社が請け負う設備工事の現場マネージャーとして、施工管理全般に携わる人材を募集しています。
このように、海外勤務で電気工事に携わる求人は、プロジェクトマネージャーや管理職として、電気工事の上流工程に携わる職種が募集されています。
電気工事士は現地の資格が必要
では、電気工事の下流工程である電気工事士の募集はないのでしょうか?
私の後輩が、工作機器の納入工事でアメリカや中国・東南アジアによく海外出張に行っているので、電気工事の実態について聞いてみました。すると、以下のことを教えてくれました。
電気工事の施工は、現地人の職人が施工しているところしか見たことがない。施工管理については、客先の日系企業が手配しており、日本人が行っていることもある。 |
実は、海外勤務の電気工事士を日本で募集することはまずありません。なぜならば、企業にとって電気工事士を海外に派遣するメリットが少ないからです。
なぜ、企業にとってメリットが少ないのかをもう少し深く掘り下げて説明します。
電気工事を施工するには、海外でも資格が必要である場合が多いです。例えば、アメリカだと日本の電気工事士資格に相当するものとして主任電気工事士(Master Electrician)、副主任電気工事士(Master Electrician limited)および一般電気工事士(Journeyman Electrician)といった資格があります。
そして、日本の電気工事士資格はアメリカでは通用しません。アメリカで電気工事を施工しようとするなら、アメリカの資格を取得する必要があるのです。
さらに、国が変われば必要な資格も変わります。日本企業が海外で電気工事をするとき、1つの国だけで電気工事を請け負うかどうかはわかりません。複数の国で事業を行うなら、複数の国の電気工事の資格を持った職人(電工)を雇う必要があります。
企業が社員に事業活動を行う国の資格をその都度取得させるのは、大変効率が悪いです。海外求人で現地で職人を雇ったほうが、より地域風土にあった職人を雇うことができます。
以上のことから、海外勤務の電気工事士の求人を日本で探すことは、現実的ではないことがわかります。
日系企業の設備管理・保全としてなら電気工事士の需要はある
ただし、日系企業の海外拠点の設備保全職として赴任する場合、電気工事士資格を持っていることが有利な条件になる場合があります。
例えば、下に示すAGC株式会社の求人では、歓迎する資格条件として電気工事士(1種・2種)資格を保有していることが挙げられています。AGC社は、世界最大手のガラスメーカーです。
この求人によると、日本の拠点のほか、海外拠点で保全業務や設計・調達・建設のいわゆるEPC業務を行うことが示されています。
ここで募集されている電気・計装エンジニアの仕事は、電気工事を直接施工することではありません。保全業務の中で、簡易修繕や応急処置はあるとしても、基本的にはユーザー企業として電気工事を発注する立場で仕事をします。
電気工事士資格が活かせるのは、電気工事実務の知識・経験があることで、保全・EPC業務を進めやすくなるからです。
また、この求人では電験と施工管理技士技資格も歓迎条件に挙げられています。今は電気工事士資格しか保有していないとしても、将来的に電験や施工管理技士資格を取得する予定があれば強いアピールポイントになります。
海外勤務で求められるスキル
次に、電気工事で海外勤務するにあたって求められるスキルについて解説します。
もちろん、語学力があることは採用されるにあたって有利になります。先程のAGC社のように語学力条件として、TOEICの点数を指定していることはよくあります。
ただ、今まで一緒に働いたことのある人に話を聞くと、必ずしも語学力がいるわけではありません。客先によっては、英語圏以外に行くこともあるからです。その先々全ての言葉を自在に話すことは無理です。
そのような場合は、事前に社内で語学教育があるか、通訳が同行します。私が以前勤めていた鉄道会社では、ブラジルに電気工事の設計指導として派遣されるとき、ポルトガル語の教育を社内で受講してから派遣されていました。
また、中東に施工管理として行った先輩は、通訳兼ボディガードが常に同行していたと教えてくれました。
このように、電気工事で海外勤務する場合は、語学力が最重要視されるわけではありません。ここからは、語学力以外に何が大切なのかを解説していきます。
現地スタッフを指導・管理するマネジメント能力
まず、現地スタッフを指導・管理する能力が求められることが多いです。
日本からわざわざ海外に派遣するので、現地でも調達できるような能力の人材は必要ありません。そのような人材は、現地で採用すれば良いからです。
例として、私がコスモ石油株式会社の採用担当の人と海外勤務について話を聞いた内容を書きます。コスモ石油社は、日本国内に下の写真のような石油プラントを持つと同じに、アラブ首長国連邦などで油井プラントに出資しています。
私が採用担当者と話をしたときには、大阪の堺精油所の保全担当者を募集する内容でしたが、希望すれば中東勤務も可能であるということでした。下は、そのときにもらった保全業務の内容を記した資料です。
そこで伝えられたのが、「電気の技術者として赴任するのだから、電気の技術力がいちばん大切だ」ということです。
中東では、日本の電気設備技術基準のような法令が未整備である。つまり、何を作ってもよい。
しかし、電気の技術的な根拠がなければ優れた電気設備を作ることはできない。電気技術者として求められるところは、まずそのような能力である。 また、現地のスタッフも技術的指針がないままに電気設備を理解していることがある。彼らを優れた技術者に育てるために、適切な指導をしなければならない。 |
また、同僚が発電所の建設でインドネシアに赴任したときには、施工管理の指導的立場で赴任しました。半年間くらいインドネシア人のスタッフに、施工管理を指導してきたといいます。
このように、海外勤務する場合には、現地スタッフを指導する立場で働くことになります。そして、電気の技術力だけでなく指導・監督する能力が必要です。
現地の法律や風土にあわせる能力
もう一つは、現地の風土に合わせられる能力が必須です。
先程インドネシアに赴任していた同僚は、中東にも赴任していたことがあります。彼が日本に帰ってきたときに、顔中ヒゲ面で驚いたことがあります。
日本のカタい会社で働くとき、仕事中にヒゲが伸び放題なのはNGである場合が多いです。しかし、中東では成人男性にヒゲがないと信用されません。また、彼は「同性愛者に狙われないためだ」とも言っていました。
また、アメリカに計装工事に行った電気工事設計会社の社長に聞くと、「契約」に対する考え方が全く違うことに面食らったと教えてくれました。
日本では、契約書に書いていないことでもお願いされたり、お願いしたりして施工することがあると思います。契約書にも、「詳細は都度協議で決める」というように曖昧に記載していることがあります。
これが、海外だと契約書にないことはまず施工してくれません。契約行為で「何をするのか」を明確に全て記す必要があります。
電気工事設計会社の社長は、契約書にはない工程表に合わせて施工指導のために現地入りしたそうです。そうすると、前の工事が終わっていなくて現地で1ヶ月半の待ちぼうけを食らったと言っていました。
これらは電気の技術力で解決できる話ではありません。現地の風土を理解して、適切に対応する能力が求められます。
海外勤務の年収は?
では、海外勤務をするとどれくらいの給料が期待できるのでしょうか?
冒頭で紹介した住友電設工業は、下記のように求人票に500~900万円の年収が提示されています。
そのほかここで紹介した求人の年収をまとめると、下表のとおりになります。
会社名 | 提示年収[万円] |
---|---|
住友電設(株) | 500~900 |
TAKASAGO VIETNAM CO., LTD. | 500~550 (ただし、支払いはUSドル) |
AGC(株) | 450~1100 |
国税庁の調査によると、全サラリーマンの平均年収が約500万円です。それを踏まえると、海外勤務の求人は高めの年収が提示されています。
また、赴任地によっては物価が日本よりかなり安い国があります。TAKASAGO VIETNAM社があるベトナムの物価は、日本の物価の3分の1から5分の1程度です。物価が低いということは、同じ年収でも相対的に高い年収水準と同じと考えることができます。
提示された給料について検討するときは、赴任する国の物価水準を考慮すると失敗を防ぐことができます。
転職サイトをうまく使って優れた求人を探す
ここまで紹介してきた海外勤務の電気工事求人は、実は数が少ないです。大手転職サイトdodaで、「電気工事をキーワードに含む海外勤務ありの求人」を探すと、下図のように16件しかヒットしません。
ほかの転職サイトで同様に検索しても、同じような結果になります。これでは優れた求人を見つけるのは困難です。
では、どのように優れた求人を探せばよいでしょうか。方法は、以下の2つがあります。
- 複数の転職サイトに登録して求人を探す
- 転職エージェントサービスに登録して、非公開求人の紹介を受ける
これらについて、順に説明します。
まず、複数の転職サイトに登録する方法です。
あなたは、もしかすると「複数のサイトに登録しても同じ求人しか探せないのではないのか」と考えているかもしれません。もちろん、同じ企業が複数のサイトに求人を出していることもあります。
しかし、一つのサイトで網羅的に全ての企業と取引があるわけではありません。取引のない企業の求人は、転職サイトに掲載されることはありません。
したがって、複数の転職サイトを横断的に探すことで優れた求人に出会いやすくなります。
私が転職したときは、最終的に3つの転職サイトに登録して求人を探しました。それぞれの転職サイトで、求人の検索結果が違うことに疑問を持ちながら転職活動をしたのを覚えています。
2つ目は、転職エージェントサービスを利用することです。転職エージェントサービスを利用することで、非公開求人にアクセスできるようになります。
非公開求人とは、転職エージェントを通して紹介される求人のことです。そして、転職エージェントを介さなければ、あなたが見ることができない求人でもあります。
非公開求人は、下の図のように転職サイトが扱う求人の8割とされています。
この転職サイト以外でも、非公開求人の割合は7~9割ほどです。つまり、転職エージェントサービスを使うことで、あなたがアクセスできる求人の数が5倍になります。
転職では、より多くの母数の中から選んだほうが優れた求人に出会いやすくなります。私が転職成功したときは、先程説明した3つの転職サイトのエージェントのうち、1社から非公開求人の紹介を受け、転職を決めました。
私は、自分で調べられる公開求人を中心に応募していました。しかし、なかなか条件が合いませんでした。そのような状況で非公開求人の紹介を受けて、条件に合う求人に出会えました。
また、転職エージェントはあなたとは違う視点で求人を紹介してくれます。このように転職エージェントをうまく使えば、優れた求人に出会う可能性が高くなります。
まとめ
海外勤務の電気工事求人に転職するときは、電気工事設計か電気故事施工管理の求人を探すのが基本になります。電気工事士としての求人は、まずないと考えて下さい。
ただし、電気工事士資格が求められる求人は、日系企業の海外拠点の保全・エンジニアリング職として赴任する場合にはあります。この場合は、電気工事が直接の仕事内容になるのではありません。電気工事を発注する立場で仕事をすることになります。
海外勤務をする場合には、もちろん語学力があると有利になります。しかし、語学力がなくても優れた電気技術力があれば、あまり心配する必要はありません。
電気工事の技術者として海外赴任するには、語学力よりも電気の技術力や指導力・風土に適応する力が重要です。反対にこれらの能力に欠けると、転職成功することは難しくなります。
電気工事で海外勤務をする場合の提示年収は、全サラリーマンの平均年収よりも高めの年収が提示されることが多いです。ただし、赴任先の国の物価水準と比べて適正な提示年収かどうかを判断して下さい。
また、海外勤務の電気工事求人は、募集される数が少ないです。したがって、「複数の転職サイトを利用する」「転職エージェントサービスを使って非公開求人の紹介を受ける」という方法を使って、より優れた求人を探す必要があります。
そうすることによって、海外勤務の電気工事の求人に転職成功しやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。