第一種電気主任技術者資格は、電気系で最難関の資格です。毎年数十人しか合格しないこの電験一種を手にしたあなたは、様々な企業から引き合いがあると期待しているのではないでしょうか。
しかし、現実には第一種電気主任技術者が実力を存分に発揮できる企業や場面は限られています。あなたが、すでに求人を探しているとしたら、あまりに求人が少ないことに驚いていませんか?
実は、電験一種を活かした転職を叶える優れた求人を探すには、根気と工夫が必要です。
ここでは、「電験一種が活かせる求人の実態」「優れた求人を探す工夫」「年収の考え方」などについて詳しく説明します。
もくじ
電験一種資格が活かせる求人の実態を知る
転職で求人を探すときに、多くの人が使うのが転職サイトです。電験1種保有を条件にしている求人を探すときも、同様に転職サイトで探してみるのは自然な発想です。
では、実際に電験1種が条件にある求人はどのくらいあるのでしょうか。私が大手転職サイトで「第一種電気主任技術者」をキーワードに検索すると、下図のように42件の求人がヒットしました。
また、「電験」や「1種」というようにアラビア数字を使ってヒット数が変わるかを調べてみました。大手転職サイト3つで調べてみた結果が下表です。
キーワード | 転職サイトA[件] | 転職サイトB[件] | 転職サイトC[件] |
---|---|---|---|
電験1種 | 1 | 0 | 0 |
電験一種 | 0 | 0 | 0 |
第1種電気主任技術者 | 7 | 0 | 3 |
第一種電気主任技術者 | 42 | 0 | 2 |
これによると、正式名称である「第一種電気主任技術者」をキーワードに探したとき、最も多くの求人にヒットしました。
それでも、第一種電気主任技術者の有資格者を求める求人は少ないです。これは単純に、第一種電気主任技術者が必要な17万V以上の電気を使う事業所が少ないからです。
17万V以上で使われる電気工作物がある代表的な会社は、電力会社(新電力含む)、鉄道会社、製鉄会社、製油会社などです。
日本にこれらの会社は数えるほどしかありません。しかも、すでに稼働している事業所には第一種電気主任技術者が選任されています。
つまり、今選任されている社員が退職しない限りは求人が出されることはありません。さらに、事業継続するための保険として、通常社内に選任されていない第一種電気主任技術者の有資格者がいます。
現在選任されている電気主任技術者が退職した場合には、社内の第一種電気主任技術者の有資格者が優先して選任されます。求人募集がかかるのは、何らかの理由で保険が効かなかった場合です。
このような実態があるために、第一種電気主任技術者資格を条件とした求人は極めて数が少ないことを理解しておく必要があります。
中身は2種・3種で扱える電圧の仕事がほとんど
では、実際に出されている求人は、どのような内容で第一種電気主任技術者を募集しているのでしょうか?
下図に示すのは、神奈川県に本社を置き、東日本で強みを持つ株式会社三技協の求人票です。この求人では、千葉県で働く人材を募集しています。資格条件の欄で、電験1種または電験2種資格が必須とされているのがわかります。
三技協社が強みを持つのは、情報通信分野の技術です。情報通信機器では、安定的に電力を供給する電気設備もインフラとして重要です。この求人は、そのような電力供給設備の技術者を求めるものです。
求人票の中に「特殊高圧電気設備」とあるのは「特別高圧電気設備」の誤植でしょう。特別高圧とは7,000Vを超える電圧です。
情報通信設備でも大規模なものになると、特別高圧で受電することがあります。したがって、電気主任技術者を選任しなくてはなりません。
求人で第二種以上の電気主任技術者資格が必要とされているのは、6.6万Vや7.7万Vなどで受電している情報通信設備があるものと考えられます。
ただ、17万V以上で受電している情報通信設備があるとは考えにくいです。下図のように、第一種電気主任技術者は第二種・第三種電気主任技術者が扱える範囲の電気工作物も扱えます。
したがって三技協社の求人では、第二種電気主任技術者の代わりに第一種電気主任技術者資格を持った人材を充てようとしていると考えられます。
転職サイトで「第一種電気主任技術者」で検索すると、少ないながら求人はヒットします。しかし、「第一種電気主任技術者でなければならない求人」は稀で、「第一種電気主任技術者資格でもよい求人」がほとんどです。
したがって、あなたが第一種電気主任技術者でなければならない働き方をしたいなら、求人の探し方に工夫が必要です。
第1種電気主任技術者資格が必要な求人を見極める
数は極小ながら、冒頭で示したような検索方法で電験2種のかわりではなく、本当に電験1種資格者を求めている求人にヒットすることもあります。
下図のピー・アンド・ジー株式会社の求人がそれに該当します。ピー・アンド・ジー社は、世界的な総合化学メーカーのP&G株式会社の日本における製造部門の企業です。この求人には、第一種電気主任技術者資格が歓迎条件とされています。
さらに求人票のほかの部分を確認すると、下図のとおり電験二種・三種から電験一種へのステップアップを期待しているという記載があります。
このことから、第二種電気主任技術者の代替で電験一種の有資格者を求めているのではなく、本当に電験一種の有資格者を求めていることがわかります。
ただし、この求人で人材募集されている群馬県の工場は、第一種電気主任技術者の選任が必要な工場ではありません。将来的に、17万V以上で受電する工場に転勤するのか、新しく超高圧で受電する工場を作るのかなど、理由は確認する必要があります。
確認するのに、あなたが直接企業に問い合わせることもできますが、転職エージェントを通して訊くこともできます。
実は、転職エージェントを通して企業に訊けるのは、求人票の記載事項ばかりではありません。求人が出ているものの電験資格について記載がない企業に対して、有資格者であることがどのように評価されるか訊くこともできます。
例えば、私が勤めていた鉄道会社では、下の写真のような超高圧で受電している変電所を持っています。したがって、第1種電気主任技術者の有資格者が何人もいました。
同様に東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、東北新幹線や上越新幹線において超高圧で受電しており第1種電気主任技術者が必要です。また、特別高圧~超高圧に接続される火力・水力発電所と送電線も持っています。こちらでも、第1種・第2種の電気主任技術者が必要です。
しかし、JR東日本の電気系技術者を募集する求人票を見ると、電験資格に関する記載がありません。
これは、求人票をキーワード検索していただけでは絶対にヒットしない求人です。
鉄道会社のほかには、製油会社も該当します。例えば、下図に求人を示すコスモ石油株式会社は、求人票に電験について記載していません。
しかし、この求人で人材が募集されている千葉製油所は27.5万Vで受電しています。したがって第1種電気主任技術者が必須です。
実は、私はコスモ石油社の社員と話したことがあります。私は製油所が超高圧で受電しているとは知らず、そのとき電験1種の有資格者が必要ということを初めて知りました。
のちほど、Google MAPや東京電力パワーグリッド社が公開している資料で調べると、間違いなく27.5万Vの送電線が引き込まれているのを確認できました。
ここで示した鉄道会社・製油会社の例では、すでに稼働している事業所なので、すぐに電気主任技術者として選任される求人ではありません。しかし、将来的に選任される可能性は十分にある、電験1種資格を活かせる求人であるといえます。
このように、鉄道会社、製油会社には17万V以上の電気工作物を持っている企業があり、電験1種資格を活かせる可能性があります。ほかにも、電力会社や製鉄会社にも同様の電気工作物があり、電験1種資格を活かせる可能性は高いです。
そこで、「17万V以上で受電している企業を探し出して、その企業で設備管理などの求人が出ているか探す」という逆算的な発想が有効です。該当する企業を見つけることが難しいようであれば、転職エージェントを介して超高圧の電気工作物がある企業を教えてもらうことも有効な手段です。
このように、第1種電気主任技術者資格を活かした転職を叶えようと考えるなら、逆算的な探し方をすると良いです。
転職に実務経験は必要か?
次に、第1種電気主任技術者としての実務経験の有無は、どのように評価されるのでしょうか。もちろん選任された実務経験があれば、なお良いでしょう。しかし、選任の必要な事業所が資格者より大変少ないので、実務経験がないこともよくあります。
実は、実務経験の有無は気にする必要ありません。なぜなら、電験1種が必須、つまり第1種電気主任技術者に即選任される求人がないからです。
また、前項で説明した逆算の方法で探した求人では、すでに社員の誰かが第1種電気主任技術者として選任されています。つまり、あなたの実務経験の有無は問題になりません。実務経験なしでも、先に選任されている電気主任技術者の指導下で仕事をすすめることになります。
電気主任技術者の年収・給料は?
最後に、第1種電気主任技術者資格を求められている求人の給料・年収について説明します。
冒頭で紹介した三技協社の年収は、下図に示すとおり400~600万円です。
同様に、ここで紹介した求人の年収を下図に示します。
企業名 | 提示年収[万円] | 求人票への電験の記載 | 業種 |
---|---|---|---|
(株)三技協 | 400~600 | あり | 建設業 |
ピー・アンド・ジー(株) | 初年度400~500 | あり | 製造業(化学) |
東日本旅客鉄道(株) | 368以上 (求人票は月給表示18.4以上) |
なし | 鉄道業 |
コスモ石油(株) | 400~700 | なし | 製造業(石油) |
なお、JR東日本は求人票の給与提示額が月給表示だったため、年間20ヶ月(12ヶ月+ボーナス6ヶ月+手当2ヶ月)で計算してあります。
この年収提示額を見ると、電験1種の有資格者だからといって高額を提示されるわけではないことがわかります。また、そもそも電験について記載のない求人では、提示年収は低いです。
したがって、採用時の年収交渉で上積みを勝ち取る必要があります。あなたが自分で年収交渉することもできますが、転職エージェントに代わりに年収交渉をしてもらうこともできます。
なお、私が勤めていた鉄道会社では、第一種電気主任技術者に選任されたとしても、数千円の手当がつくだけでした。資格を取得しただけでは給料への上積みはありません。
さらに、基本的に電気主任技術者には管理職が選任され、管理職には手当がつきません。つまり、実質電験一種取得による給料への反映はありませんでした。
しかし、管理職登用への要件の一つに「電験一種を取得していること」があります。管理職になれば、40代前半で年収が1,000万円を超えます。電験1種は、直接給料への反映はないものの、間接的に大きく影響する資格でした。
一方、入社後の年収アップについては業種により大きく違うことを知っておかなくてはいけません。下図は、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査で得られた平均年収のうち、電験資格が役立つ可能性のある代表的な業種の年齢別平均年収をグラフ化したものです。
引用 : 平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化
このグラフによると、最も平均年収の高い業種と、最も平均年収の低い業種では、20代で150万円ほどの差だったのが、50代では250万円近くの差になります。
採用試験などで提示を受けた年収額を、あなたの年齢を勘案した上で、このグラフで確かめると入社後の年収の伸びを推し量ることができます。提示年収が満足いく金額でなくても、入社後の年収の伸びが大きい場合があります。
このような公的に信頼できるデータと比較することで、年収面における失敗を防ぐことができます。
まとめ
第一種電気主任技術者資格を活かした転職を考えるとき、転職サイトなどのキーワード検索のみに頼っていただけでは優れた求人を見つけることはできません。
なぜなら電験一種の有資格者を対象とした求人は極少だからです。さらに、電験二種・三種の代わりという求人案件がほとんどです。これでは、満足いく転職を叶えることは難しいです。
実は、求人票には「第一種電気主任技術者」を求めていることを記載していない企業があります。そのような企業を探すには、超高圧以上で受送電している事業所の企業を見つけ、それからその企業の求人を探すといった逆の発想が必要です。
また、転職エージェントを通して企業にコンタクトを取るなどの工夫をすれば、優れた求人はさらに見つけやすくなります。
これらの求人で提示される年収は、電験一種資格が考慮された金額を提示されたものかは、求人票だけではわかりません。実際に採用試験などで提示された金額を、政府統計などと比較し妥当性を判断すると良いです。
なお、電験資格が活かせる業種は多々あり、業種ごとで平均年収は大きく違います。これらのことを十分理解した上で転職活動を行うことで、優れた求人を見つけやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。