エネルギー管理士と公害防止管理者資格は、環境意識の高まりに連れて重用されている資格です。ただ、資格者が活躍できる企業は限られています。したがって、活躍できる企業を見極めて転職活動をしないと、いつまで経っても転職成功できないことに繋がりかねません。
基本的に2つの資格が重用される企業は、エネルギー消費量が大きく、環境負荷の大きい企業です。では、これらの企業を探すにはどのように考えて探せばよいのでしょうか? また、2つの資格はどれくらい評価されるのでしょうか?
このような転職活動の疑問に答えるために、ここでは「エネ管と公害防止管理者資格が活かせる求人例」「資格の注意点と求人を効率よく探す方法」「有資格者の年収・手当」について解説します。
もくじ
エネルギー管理士と公害防止管理者資格が有利になる求人例
まず、エネルギー管理士と公害防止管理者の両方の資格を活かして転職を考える場合、どのような企業を探せばよいのでしょうか。
これは、公害防止管理者の有資格者が求められる業種に絞られます。なぜなら、エネルギー管理士資格が必要な業種よりも公害防止管理者資格が必要な業種の方が少ないからです。
具体的には、製造業、エネルギー(電気・ガス・熱供給)業の企業を探します。
また、職種は「設備管理」職が中心になります。名称は設備管理のほかに、「設備保全」「工務」などと呼ばれることもあります。
ここからは、実際に人材を募集している製造業・エネルギー業の設備管理の求人例を紹介していきます。
製造業の求人は数が多い
製造業のうち、エネルギーの使用量が多く、環境中に放出する指定物質が多い企業・事業所がこれら2つの資格者を必要とします。つまり、比較的規模の大きい工場が求人募集していることが多いです。
最初に紹介するのは、下図のコスモ石油株式会社の求人です。コスモ石油社は本社を東京に置き、全国3箇所(千葉県市原市、三重県四日市市、大阪府堺市)に製油所を持っています。この求人は千葉の製油所で働く人材を求めています。
求人票には歓迎条件として、「エネルギー管理士」「公害防止管理者」資格が明記されています。製油所では、大規模な加熱炉・ボイラーを使い、大気中にSOx、NOxを排出します。また、ボイラー冷却に大量の水を使うため、記載の資格者が必要になります。
私は以前、コスモ石油社の採用担当の人と話をしたことがあります。そのとき、設備保全として採用されるときの資格の考え方について、以下のように教えてくれました。
製油所で働く以上、最低限の資格として「危険物取扱者乙種4類」「2級ボイラー技士」「高圧ガス製造保安責任者」の資格取得を社員全員に求めている。
これは、電気系、機械系の専門分野に関係なく、例外なく取得させている。 エネルギー管理士や公害防止管理者の資格は、難易度が先の3つより高く、取得者も少ないプラスアルファの資格であり、有利に評価する資格だ。 |
このように、エネルギー管理士と公害防止管理者の資格は選考で有利に働くと考えられます。
もう一つ、求人票に2つの資格を挙げている製造業の企業を紹介します。下図は、旭化成株式会社の求人です。
この求人では「推奨資格」として、エネルギー管理士と公害防止管理者の資格を記載しています。
この求人で採用されると、創業地である宮崎のほか、岡山や神奈川の化学工場で勤務します。化学工場もエネルギー消費が大きく、排煙や排水を放出するのでエネ管と公害防止管理者の2つの資格が歓迎されます。
製造業の求人は以上に類似した求人を探していきます。
エネルギー業は電気供給業の求人がほとんど
製造業と並んで、エネ管と公害防止管理者の資格者を求める業種はエネルギー供給業です。エネルギー供給業は、「電気供給業」「ガス供給業」「熱供給業」の3業種あります。
しかし、求人が出ているのは電気供給業がほとんどです。ここでは、まず電気供給業の求人を紹介します。
電気供給業の求人例として、下図に株式会社神戸製鋼所の求人を示します。この求人では、神戸市灘区にある石炭発電所の技術者を募集しています。
石炭火力発電所では、「燃焼ガスと冷却水を環境中に放出すること」から、大気と水質の分野で公害防止管理者資格が必要です。求人票には詳しい記載がありませんが、火力発電所を狙うなら覚えておくと良いです。
電力供給業でエネ管と公害防止管理者の両方の資格が必要になるのは、基本的には火力発電所です。火力発電所と聞くと、「○○電力」という10電力会社をイメージしませんか?
しかし、火力発電所を持っているのは10電力会社だけではありません。メーカーが自社工場の電力を安く調達するために自社で発電所を持っている場合があります。
また、電力販売する目的で10電力会社以外の会社が、火力発電所を運営していることがあります。先程の神戸製鋼所がこれにあたります。神戸製鋼所の神戸発電所は、発電量の100%を関西電力に販売しています。
これらは「新電力(PPS : Power Producer and Supplier)」と呼ばれ、相当数が存在します。
電力供給業を狙うときは、新電力の企業を含めて考えることで、選択肢を増やすことができます。
一方、ガス供給会社や熱供給会社の求人は極めて少ないです。公開されている求人で、エネルギー管理士と公害防止管理者資格者を求めている求人はありませんでした。
なお、ガス会社のホームページで採用情報を確認すると、中途採用の募集を実施しています。しかし、ホームページから直接応募できる職種にエネ管・公害防止管理者資格が活かせる技術職はありませんでした。
また、東邦ガス株式会社の採用ページによると、下図のように人材会社から募集しているとあります。
それなのに求人を探して見つからないということは、非公開求人に登録してあるということです。
非公開求人とは、転職エージェントを通してのみ紹介される求人のことです。下図の転職サイトには、全求人の80%が非公開求人とされています。
この公開求人と非公開求人の割合は、どの転職サイトでも同じくらいの割合です。したがって、非公開求人にアクセスできたほうがより多くの求人に触れることができます。つまり、ガス・熱供給業の求人を見つけやすくなります。
そして、転職サイトが扱っている求人はそれぞれ違います。どのサイトも等しく求人を扱っているわけではありません。したがって、複数の転職サイトで転職エージェントから非公開求人の紹介を受けることで、優れた求人に出会いやすくなります。
エネ管は電気科目でも熱科目でもどちらでも良い場合が多い
エネルギー管理士資格は受験のときに、熱分野か電気分野を選択して受験します。これが採用を左右することはあるのでしょうか?
答えは、熱・電気の区分は、求人票に明記されないかぎり気にする必要はありません。なぜなら、エネルギー管理士免状には熱・電気の区分がなく、有資格者ができる仕事の内容に違いがないからです。
エネルギー管理士免状さえ持っていれば、「エネルギー管理者」などの法令で定める役職に選任されることができます。選任されたあとの、「定期報告の作成・提出」「中長期計画書の策定・提出」「エネルギー管理の実務」なども、受験分野が関係ありません。
ただし、求人票に「エネルギー管理士(熱)」「エネルギー管理士(電気分野)」などと具体的に記載がある場合は注意が必要です。これは、単にエネルギー管理士の有資格者を求めているというよりか、それぞれ専門の技術者を求めている可能性があります。
つまり、エネルギー管理士(熱)資格を求めているときは機械系技術者を、エネルギー管理士(電気)資格を求めているときは電気系技術者を募集しているということです。
免状からは熱・電気の区別ができませんが、合格証には分野の記載があり判断できます。下図が私の合格証で、「電気分野」とはっきり謳われていることがわかります。
私の経験でいうと、「B・T主任技術者資格を取得する経験年数を短縮するために、エネルギー管理士資格を熱分野で取得し直してほしい」ということがありました。わざわざ求人票に「エネルギー管理士熱分野」と限定するからには、このような理由があります。
求人票にエネルギー管理士のどちらかの分野しか記載がないときは、その理由を問い合わせてみると良いです。
私の場合、電気技術者でありながら熱の学習をすることになり、大変苦労しました。先に、企業の求める人物像を確認しておくことで、入社後のミスマッチを小さくすることができます。
一方、公害防止管理者資格は試験区分に注意する必要があります。企業によって、求める試験区分がはっきりしています。
冒頭紹介したコスモ石油社は、「大気関係・水質関係第1種公害防止管理者」の有資格者を求めると明記されています。したがって、「騒音・振動関係公害防止管理者」の資格を取得していても、採用試験でプラスにならない可能性が高いです。
公害防止管理者の資格は、下写真のように最終的に手元に残る合格証書に試験区分が記載されます。
そして、事業所が排出する指定物質により、どの試験分野で合格した公害防止管理者を選任しないといけないのかが決められています。したがって、コスモ石油社のように求人票にはっきりと記載されている場合は、当該の資格以外は条件に当てはまりません。
ただし、公害防止管理者資格はある試験分野で合格していると、ほかの試験分野の資格を受験するときに科目免除が受けられます。つまり、「公害防止管理者(大気)」資格を取得していると「公害防止管理者(水質)」資格が取得しやすくなります。
このことを評価されることがあるので、「公害防止管理者資格を持っているが当該の試験区分を持っていない」場合は、企業に対して確認をすると良いです。
企業に対して確認を取るとき、直接問い合わせることもできます。しかし、直接企業に連絡するのがはばかられる場合は、転職エージェントを介して問い合わせるとよいです。
このように事前に確認をしておくことで、合格率を高め、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
転職後の手当や平均年収を知る
最後に、エネルギー管理士・公害防止管理者の資格が評価される企業の年収や、資格手当について解説します。
冒頭紹介したコスモ石油社は、求人票の給与欄に予定年収が400~700万円と記載されています。
同様にここで紹介した企業の求人票の提示年収をまとめたのが下表です。
会社名 | 提示年収[万円] | 業種 |
---|---|---|
コスモ石油(株) | 400~700 | 製造業(石油) |
旭化成(株) | 404~906 | 製造業(化学) |
(株)神戸製鋼所 | 400~600 | 電気業 |
ここで紹介した中では、400~700万円程度が提示されています。
参考までに、エネルギー管理士・公害防止管理者資格が必要な業種の平均年収を下グラフに示します。このグラフは、厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査をグラフ化したものです。
引用:令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)より作成
あなたが見つけてきた求人の提示年収が、この統計調査より大きく違う場合は理由を聞いてみると良いです。もちろん、年齢などは考慮する必要があります。そうすることによって、年収面での失敗を防ぐことができます。
一方、資格に関する手当は企業によります。エネルギー管理士資格で数千~数万円程度、公害防止管理者資格で数千円程度支給している会社があります。
求人票に資格手当の金額を明示している企業の例を上げると、下図のパナソニックファシリティーズ株式会社エネルギー管理士資格の手当について5,000円と記載しています。
また、公害防止管理者資格だと下図の株式会社エオネックスが1000円~と記載しています。エオネックス社は、石川県の会社です。
ちなみに私が勤めたことのある2社でいうと、下表のように手当や一時金を支給していました。
エネルギー管理士 | 公害防止管理者 | |||
資格取得一時金 | 資格手当 | 資格取得一時金 | 資格手当 | |
鉄道会社 | なし | なし | なし | なし |
電力プラント | 50,000円 | なし | 20,000円 | なし |
また、下の写真は電力プラントに勤めて、資格取得一時金を支給されたときの給与明細です。これは、エネルギー管理士資格を取得し研修費として50,000円支給された給与明細書です。
このように、エネルギー管理士や公害防止管理者資格に関係する手当類は、会社によってまちまちです。さらに、金額も高くはないので、資格手当にこだわって転職するのはあまり意味がありません。転職活動において、資格手当は参考程度にとどめておきましょう。
まとめ
エネルギー管理士と公害防止管理者の両方の資格を活かして転職活動をするときの考え方について、くわしく説明してきました。
これらの資格を活かした転職活動で対象になる企業は、製造業とエネルギー供給業の企業です。製造業は比較的大きな事業所を持つ企業が対象になります。エネルギー供給業では、電気供給業の企業から求人が多く出されています。
エネルギー供給業のうち、ガス供給業と熱供給業の企業は極めて少ないので、非公開求人を探すなどの工夫が必要です。
求人票に記載される資格詳細で取得分野が明確に謳われている場合は、注意が必要です。あなたが取得している資格分野と違うときは、予め先方企業に問い合わせをすると、合格率が上がりやすくなり、入社後のミスマッチも減ります。
エネ管と公害防止管理者資格が求められる業種の平均年収は、400~700万程度がボリュームゾーンです。また、政府統計を参考にすることで提示年収が妥当かどうかを判断することができます。
会社から支給される資格手当は、企業によりそれぞれです。支給される金額は数千~数万円程度なので、あまりこだわる必要はありません。資格手当は、参考程度にとどめておくと良いです。
エネルギー管理士・公害防止管理者の有資格者は、企業にとって絶対必要な人材です。ただし、求人で有利になる業種は限られています。求められる企業を見極めることで、転職活動を成功させやすくなります。
技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。
企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。
しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。
以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。