あなたが工場などの保全部門(プラントエンジニアリング)に転職を考えるとき、機械を使うための必要資格、または免許を持っていた方が有利に転職できると考えていませんか。

工場には、工作機械やボイラー、生産ラインの特殊機械などたくさんの機械があります。また、重量物を運ぶには天井クレーン・門型クレーンやフォークリフトを使うこともあります。

大きな事業所になると、環境やエネルギーに関する法令で定められた資格者を置かなければならない(必置資格といいます)こともあります。

私は、よくある資格ランキングや使える資格一覧のような資格を「なんでもいいから取得していればいい」と考えていました。

しかし、実際に工場で採用を担当していた人に話を聞くと、持っていて評価できる資格は限られるということです。中には、あまりいい印象を与えない資格もあります。

また、工場の機械保全の求人を見ても、新たに資格取得を目指すより、転職活動を進めた方が良い結果を生むと考えられます。

今回は、工場の機械保全の仕事で役立つ資格とその評価に触れ、転職活動ではどう生かせばよいか、転職活動をどう進めればよいかについて解説します。

もくじ

工場の機械をメンテナンスする仕事で優遇される資格は何か

機械系の役に立つ、さらに工場に必要な資格は、「機器を操作するのに必要な資格」「知識技能を国家などが認定する資格」「法令で定める役職に資格者を充てなければならない資格(必置資格)」があります。簡単に例を挙げて整理すると、以下のようになります。

  • 機器を操作するのに必要な資格:「クレーン」「玉掛け」「フォークリフト」「溶接」など
  • 知識技能を国家などが認定する資格:「機械保全技能士」など
  • 必置資格:「危険物取扱者」「高圧ガス製造保安責任者」「エネルギー管理士」「公害防止管理者」など

これらのうち転職活動において、機械系で有利になる資格がわかっていれば、その資格を取得し持っていることをアピールすることで、年収の交渉や待遇などで有利に進められます。では、実際にそのような資格はあるのでしょうか。

これは、工場で機械の設備保全をしつつ、採用を担当したことのある人に話を聞くとよくわかります。

かつて製紙工場で機械系社員として働いていて、機械保全の技術職の採用にも携わったことのある人に話を聞くことができました。その人は、以下のようなことを言っていました。

採用面接のときに評価できる資格は、エネルギー管理士(熱分野)資格と公害防止管理者資格の二つの国家資格くらいだ。

エネルギー管理士資格は取得するのに、レベルの高い計算をしなければならない。その試験に合格したということは、工場運営でも、ある程度難しい計算をしなければならない仕事を任せられると期待できる。

公害防止管理者資格は、持っている人が少ないので重宝する。公害防止管理者として、公官庁との煩雑なやりとりを任せられる。公害防止管理者資格の種類は「大気」「水質」「騒音・振動」「ダイオキシン」「粉じん」があるが、まずは「大気」「水質」を持っていればいい。

危険物取扱者(乙種4類)資格は、持っていてもプラスの評価はしない。難易度の低い資格なので、プラスの材料にならないということだ。では、上位資格の甲種危険物取扱者資格ならどうかというと、これは化学マニアを想像し、良い印象にはならない。

フォークリフト、クレーンや溶接の免許や高圧ガス保安責任者資格も同様で、プラスの評価はしない。文系出身の未経験者や違う業界から転職してくれば持っていないのは当たり前で、それでマイナス評価もしない。仕事で必要になれば、講習ですぐに取れる資格である。

機械系の設備保全をするにあたって、機械保全技能士という資格もある。しかしこれは持っているだけではだめで、技能が伴っていることが前提である。面接のときに技能をアピールできなければプラス評価にはならない。

このように、転職するときに企業から評価されるのは、エネルギー管理士資格と公害防止管理者資格くらいです。そのほかの資格は持っていてもあまりメリットはありません。わざわざ転職のために、取得する価値はないといえます。

また少し補足すると、この方は機械保全をずっと仕事としてきた人が工場に転職することを想定して話してくれました。したがって、機械保全だけをするにはオーバースペックの甲種危険物取扱者資格が、マニアっぽくて評価を下げると言っています。

あなたの職務経歴を見直したとき、化学系の仕事をしていたのなら、甲種危険物取扱者資格を持っていたとしても悪い印象にはなりません。

また、消防署との調整や、現場への立ち入り対応の経験があっても悪い印象にはなりません。進んで学習・研鑽でき、実績もある人としてプラス評価になる可能性もあります。

問題なのは、その資格取得に必然性があるかです。必要もないのに資格をただ並べて志望動機で格好いいことを言っても、資格マニアと思われるだけです。

自分の経歴を見直してみて、そのような資格があるときは、履歴書に書かないでおく方が良い結果につながります。

転職サイトの求人ではどのような資格者を求めているか

サンプルが一例だけで判断するのは早計かもしれません。そこで、転職サイトにある工場の機械保全職の求人が、どのような資格者を求めているのかを確認してみます。

求人で資格を求めるレベルとしては、2段階あります。強く求める方から「資格所持必須」「資格所持歓迎」というような表記です。

「資格所持必須」というのは、資格所持者でないとできない業務をさせたいので募集している求人です。資格を持っていないと応募すらできない求人ですが、資格試験が終わった直後で自己採点では合格水準にあるというときや、免状申請がまだということなら応募できるかもしれません。

もちろん自己採点が間違っていて不合格で入社した場合は、社内できつい立場になるでしょう。そこは注意が必要です。

「資格所持歓迎」というのは、資格を持っていれば条件を多少優遇することもある求人です。優遇とはいっても、「○○資格を持っていたら○万円給料に上乗せする」というような求人は見たことがありません。

はっきり言って、何を優遇してくれるのか不明です。資格所持歓迎案件に過度の期待はすべきではありません。反対に言えば、歓迎条件に挙げられる資格は「持っていなくても問題ない資格」といえます。

では、これらの条件がどのように提示されているのでしょうか。

転職サイトにある求人500件ほどを確認すると、そのうち公害防止管理者資格者を必須としている求人が1件ありました。そのほかの資格は、すべて歓迎条件でした。

実際の求人情報を見ていきましょう。以下の図は、秋田の製造業で建機を製作している新東北メタル株式会社の求人です。設備管理部門として保全をしながら公害防止管理を行う仕事です。

この求人は、入社後すぐに公害防止管理者として働くことを期待されています。したがって、公害防止管理者資格が必須です。求人の、「対象となる方」の欄には、下図のように公害防止管理者資格必須と謳われています。

このほかには、私が調べた限りでは工場の機械保全に関して資格必須の求人案件はありませんでした。

ここからは、そのほかの資格所持者歓迎の求人がどのように記載されているかを紹介します。

次の図は、愛知県に本社を置いてある製薬会社の高山工場の求人です。

この求人は、下の図に示すように保全技能士(機械保全技能士を略している)を持っていることが歓迎条件となっています。注意したいのは、資格よりもこれまでの経験と知識が必須とされていることです。

また、下の図は東京および首都圏で工場を持っている飲料食品メーカーの、キリンビール株式会社の求人です。

これも下図のように、高圧ガス製造保安責任者資格、エネルギー管理士資格、公害防止管理者資格、危険物取扱者資格が歓迎条件となっています。

次の図は、京都にある京セラ株式会社の求人です。もとはファインセラミックスを作っていた会社ですが、今は半導体や自動車部品精密機械まで作る会社です。

これは機械設備だけを保全するのではなく、電気設備にも多少の知識を求められる求人です。機械の動力は電気であることも多く、簡単な電気配線も行うことになります。

下図は、同じ求人の「求める方」の欄です。これにはエネルギー管理士資格とともに、電気の資格も歓迎条件になっていることがわかります。

この求人では、エネルギー管理士資格が「歓迎」となっています。

もう一つ、下の図は広島の自動車メーカー、マツダ株式会社の求人です。

これは、生産ラインの設備保全ではなく、自社内の発電プラントの保全要員を求める求人です。自動車メーカーが発電所の機械エンジニアを募集するのは、想像しにくいですので例として示します。

同様の案件がほかの大手自動車メーカーであるかどうか探したところ、「トヨタ」「ホンダ」「日産」「スバル」「スズキ」は、生産ラインなどの機械設備保全の求人のみでした。

ただ、「ホンダ」「スバル」は発電事業者として登録されていますので、同様の求人が出ることもあります。発電事業者の登録は一般に電気を販売するとき必要なもので、自社内で使うだけなら登録は必要ありません。「トヨタ」などほかの会社も自家発電を持っていて、その保全要員を募集することは十分に考えられます。

発電所は名前に「電」とあるだけに、電気設備が多いのかと思いますが、実際の現場は機械設備が9割を占めます。これは私が発電プラントに勤めて、初めて気づいたことです。したがって、工場で機械保全を希望するあなたの選択肢に十分になります。

この求人では、下図のようにエネルギー管理士資格、公害防止管理者資格、ボイラー技士資格などが歓迎条件となっています。

また、この求人も機械設備だけでなく、電気設備も扱う可能性があります。歓迎条件の中に「電気工事士」があることから予想されます。しかし、後述のように「電気工事士」も入社してから取れば良い資格です。

このように、実際の求人を見たところ工場の機械保全(設備保全、工場設備管理、工場施設管理)などの仕事で、公害防止管理者資格以外の必須案件はありませんでした。

設備保全の考え方と資格の関係

この資格を必須としない傾向は、保全(保守・設備管理とも言います)の仕事の性質としてあるものです。

機械保全の主目的は、対象となる機械(工場であれば、生産ラインなど)が予定外に停止せず、人間の制御下で動作し続けることにあります

会社によっては、工事設計をして機器の設置や据付を行うこともあります。しかし、保全の技術者としての主な仕事内容は、機器の検査・点検・診断、簡易な整備・修理です。

下の図のように、保全業務は「検査」「分析・評価」「対策検討」「対策実施」のサイクルを途切れなく回し、改善を進めていくことが重要です。

その中で、「潤滑油を補給する」「重量物を動かす」「排気排水の環境基準値を維持する」という業務が出てきます。これらは保全の付随業務です。したがって、これらを行うのに必要な資格・免許の取得は優先度が下がります。

極端なことを言えば、機械保全のエンジニアが潤滑油を補給しなくても、マシンオペレーターなどで危険物取扱者の資格保持者を連れてきて作業させれば良いのです。この例でいうと、危険物取扱者資格を持っていることよりも、機械保全の経験があるということが優先されます。

また、「機器を操作するのに必要な資格」は、どれも労働安全衛生法令で資格者でないと作業に従事してはならないと定められているものです。しかし、とにかく上位の資格を取れば良いというものではなく、必要に応じて必要な資格を取得するものです。

さらに、高卒でも比較的容易に取得できるほど難易度も低く、業務で必要なら会社が講習を受けるように手配してくれる資格でもあります。さらに、管理職への出世や技師へのキャリアアップに使える資格でもありません。

このように、ものづくりと違って機械保全の仕事では先述の資格を持っていること自体が評価されたり、高収入に直接結びついたりすることは少ないです。

・女性が工場の機械保全をするときに有利な資格はあるか

参考までに、工務(機械系・電気系)として工場で働く女性は少ないです。私が以前勤めていた鉄道会社では、車両工場の作業員として何人か女性が働いていたのは見たことがあります。しかし、発電プラントに転職して、全く見なくなりました。

工場として門戸を閉ざしているわけではないものの、なぜかライン作業や品質保証・品質管理には女性がいるのに、工務にはほとんどいません。

では、男女の能力差が顕著に表れるかというと、力を使う場面があるくらいで、そのほかはありません。反対に言えば、女性だから有利になる資格もなく、男女平等といえます。

ただし、長い間女性がいなかった職場は、女性用の設備が貧弱であることが多いです。例えば、「女性用ロッカーが狭い」「女性用トイレが狭い」などです。この点は留意しておいた方が良いです。

転職活動に優先して資格取得を目指すべきではない

あなたが、今すでに資格を取得しているのなら、面接などで大いにアピールすればよいです。

しかし、今取得していない人が転職の前に資格取得を目指すのはおすすめできません。それは以下の4つの理由によります。

  1. 資格取得するまで狙った求人があるとは限らない
  2. あなたの転職を希望する会社がその資格を本当に求めているかはわからない
  3. 入社してからだと資格取得一時金があったり、受験費用を負担してくれたりすることもある
  4. あなたが取得したい資格の取得者が工場内にいて、先生になってくれる

ここからはそれぞれの詳細を説明します。

資格取得するまで求人があるとは限らない

企業が中途採用を募集するのは、すぐに人材が欲しいからです。つまり、欲しい人材を採用できれば求人をやめます。

また、転職サイトなどでは求人を出している期間が区切られていることがほとんどです。下の図は、転職サイトの求人で掲載予定期間の例です。

およそ3か月程度であることがわかります。

フォークリフトやクレーンなどの免許は、最短で数日程度で取得できます。しかし、エネルギー管理士や公害防止管理者などの資格取得にかかる期間は、申し込みから合格発表まで3か月程度かかります。

面接で会社が評価するような資格は、取得に向けて勉強しているうちに求人そのものがなくなってしまう可能性が高いです。

あなたが転職を希望する会社がその資格を本当に求めているかはわからない

また、入りたい会社があなたに求める資格は、実際のところ入社してみないとわかりません。

下の写真は、私がエネルギー管理士(電気分野)に合格したときの合格証です。

私は、エネルギー管理士試験への申し込みを、今勤める会社に採用が決まる前に行いました。そのとき、私は電気の方が得意なので、電気分野で申し込みました。このとき合格し免状を取得しました。

問題は、合格して免状を取得した後に、会社から熱分野で取得しなおしてほしいと言われたことです。これは、ボイラー・タービン主任技術者取得申請の実務経験年数を短くしたいからということでした。

ボイラー・タービン主任技術者資格は、エネルギー管理士(熱分野)を取得していると6年の実務経験で取得できます。電気分野の取得だと、申請資格になりません。

結局、熱分野で再取得を目指すことになりました。取得しても2回目の資格取得一時金は出ないので、正直意欲はわきませんでした。

このように、会社の取得してほしい資格と、自分が取得したいと思う資格はミスマッチを起こすことがあります。

入社してからだと資格取得一時金や受験費用を負担してくれることもある

次に、実際にあなたが手にするお金について説明します。

会社にとって有益な資格を社員が取得した場合には、その受験費用や交通費、さらに資格取得一時金を支給していることもあります。これは正社員にのみ支給しているところと、契約社員や派遣社員も関係なく支給しているところがあります

さらに資格手当といって、会社が指定した資格を取得したときは、手当が支払われることがあります。

下の写真は、今勤めている発電プラントの会社から資格取得一時金が支給されたときの給与明細です。

これは、エネルギー管理士試験に合格して免状を取得したことで支給されたものです。写真では、「研修費50,000円」となっています。

また、危険物取扱者資格のように受験費が数千円の安いものもありますが、フォークリフトなど講習必須の資格は総じて受験(講習)費用が高額(数万円台)です。自費ではためらう金額ではないでしょうか。会社に負担してもらえると嬉しいですよね。

注意しておきたいのは、受験料・試験のための交通費支給、資格取得一時金などは、その会社に勤めているときに資格取得しないと支給されないことです

あなたが取得したい資格の取得者が工場内にいて、先生になってくれる

仕事で実務をしていると、テキストだけで勉強するよりも容易に資格を取得できた経験はありませんか?

私は電気分野の中でも回転機(モータなど)関係が苦手でした。以前勤めていた鉄道会社では回転機を学ぶ機会がなく、放置していたためです。

しかし、転職して発電プラントに勤めてみると、回転機をメンテナンスすることもあり、回転機に詳しい人がいます。長く実物に触れてきた人は、深く理解しています。

自分で参考書を読んでもあまり理解できなかったことが、その人に聞くことで一発で理解できることが多々ありました。そのおかげでエネルギー管理士試験に合格できたともいえます。

このように、入社したあとなら資格取得に関して指導してくれる先生は社内にいるものです。資格試験を合格したいなら、断然実物を触ってからの方が楽に取得できます

以上のように、資格は転職に成功してから取得した方が良いことが多いです。したがって、まずは転職を優先することをおすすめします。

面接などで、資格に触れておきたいというのなら、「申し込みをして勉強中である」ことを伝えてみるとよいです。その心意気を評価してくれることもあります。

実際、私は今勤める会社の面接で、エネルギー管理士試験の申し込みをして勉強中だと伝えました。あとで聞いた話では、多少なりとも好印象だったということです。

このアピール方法は、エネルギー管理士に限らず、比較的難しいどの資格でも通用する手です。もちろん実際に勉強している必要はあります。

そうすることで、「資格を取ってから」と応募をしり込みしているよりも、高い確率で望む転職ができるようになります

まとめ

ここまで解説したように、工場などに転職するときに機械系で必要になる資格には、「機械を運転・操作するのに必要なもの」「知識技能を担保するもの」「法令で定められる役職に資格者を充てなければならないもの(必置資格)」の三つがあります。そのうち評価されやすいのは必置資格です。

まだ資格なしで、これから取得しようと考えている人は、「必置資格」を取得することを目指すとよいでしょう。また、女性だから有利になる資格はありません。

しかし、資格取得よりも転職活動を優先すべきです。資格取得を優先すると、せっかく気に入った求人を逃すことがあります。また、入社して工場勤務になってから取得した方が有利な点がたくさんあるからです。

このように、工場の機械保全へ転職するときは、取得を目指す資格を絞るとよいです。また、転職活動を優先することで、転職に成功しやすくなります。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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