私たちの生活を支える電力は、発電所から送電線を通って送られています。送電線は、鉄塔により支えられており、重要な電気工作物の一つです。

産業や生活が電気なしでは成り立たない状況で、電気を送る送電線路は老朽化が進んでいます。送電線路の多くが高度経済成長期に建設されており、技術者とともに技術継承の必要性が高まっているところです。

この送電線路を工事・維持・運用していく仕事は、いくつかのフェーズで分担し、それぞれの得意な会社が担っています。あなたがこれまで培ってきた技術力や経験を活かすには、適切な会社を選んで転職する必要があります。

ここでは、「送電線路に関わる企業の種類の実例と特徴」「送電線路に関わる業界の年収」について、くわしく説明します。

もくじ

送電鉄塔・送電線に関わる仕事はさまざま

送電線路に関する仕事は様々あります。机上の送電経路の選定・現地調査に始まり、設計、工事があり、敷設後は検査・保守工事が恒常的にあります。

これらの仕事は、ある特定の会社が独占的にできるものではありません。なぜなら、送電電圧や回線数によりますが建設費は鉄塔一基あたり数千万~数億円という大規模な工事になるからです。

これだけ大規模な工事だと、それぞれのフェーズで別の会社が担当するのが普通です。つまり、企画をする会社、設計をする会社、工事の施工管理をする会社、施工をする会社、保守をする会社などに分かれます。

まずは、あなたが送電線路を作りたいのか、保守をしたいのかなど、目的をはっきりさせましょう。そして、その目的にそった会社を選ぶとミスマッチを起こしにくいです

以下、それぞれのフェーズの代表的な会社を、求人例を示しつつ紹介します。

鉄塔に登って送電線を敷設・保全するラインマン

最初に紹介するのは、送電線路の敷設・取替・保全工事で実際に施工する職種を紹介します。

まず、主に送電鉄塔を建設する会社として、愛知県を中心に東海地方と長野県で事業展開している不二平(ふじたいら)建設株式会社の求人を下に示します。

不二平建設社は、送電線路のうち送電鉄塔を主に建設することを得意としています。送電鉄塔は、電気工作物として電気事業法令に基づく技術基準を満たす必要があります。単なる土木建築工事とは違い、電気特有の仕様や要件があるため、不二平建設社のような専門会社が存在します。

実は、私は不二平良建設社のように送電鉄塔を建設する会社の採用試験を受けたことがあります。そのとき先方の社長と話すことがあり、以下のようなことを教えてくれました。

送電鉄塔は、昭和20年代以前に建設されたものがまだ残っている。老朽化も進んでおり、放置すれば倒壊し大規模停電を引き起こす可能性がある。

ただ、一度にすべての鉄塔を建て替えるには、人の手も資金も足りない。電力会社も危機感を持っている。

また、AIやロボットへ簡単に置き換えができる職業でもない。反対に言えば、絶対になくならない職業だと考えている。

この話を聞いたあと、2019年台風15号による千葉県房総半島の送電鉄塔倒壊で大停電が発生しました。このとき倒壊した送電鉄塔は高度経済成長期に建設されたものです。そのため、社会全体で古い送電鉄塔が倒壊するリスクについて認識が高まっているところです。

下のグラフは、年ごとの送電鉄塔の建設数を表しています。高度経済成長期に建設された鉄塔が多いことがわかります。また、それ以前に建設された鉄塔も相当数あることもわかります。

引用 : 令和元年台風15号における鉄塔及び電柱の損壊事故調査検討ワーキンググループ中間整理(案)資料(経済産業省)より

そして、送電鉄塔への設備投資金額は高度経済成長期から平成期にかけて半減しており、今後老朽取替に伴う設備投資金額の増加が見込まれます。つまり、技術力を磨き高めるには腰を据えて取り掛れる職種と言えます。

送電鉄塔を建設したら、送電線も張る必要があります。送電線工事の求人は、下図のような求人が出ていることがあります。この募集要項は、送電鉄塔の工事だけでなく送電線の架設も施工することが謳われています。

この求人票は、福岡県に本社を置き九州一円の工事を担う西嶋電設株式会社の求人票を示しています。

この求人は、いわゆる送電鳶(そうでんとび)・送電線職人の求人です。送電鉄塔を登り、高所で自在に仕事をする姿は「現場の花形」です。しかし、生半可な気持ちで送電鳶を目指したのでは勤まりません。電気の仕事と言いつつも、肉体的にかなりきつい仕事だからです。

・送電線電気工の特徴

下に220kV送電線の工事をしているところの写真を示します。2回線のうち片側1回線を停電して縁回しの金具取替をしているところです。

上の写真で工事部分を拡大したのが、下の写真です。はしご・金車・バッカンなどが仮止めしてあり、安全のための接地線がわかります。

見てわかる通り鉄塔にエレベーターや動力はなく、これらの作業用資材や部材は人力で鉄塔上に持って上がります。送電鉄塔の高さに届く高所作業車はありませんので、基本的には送電鉄塔をよじ登り安全帯・命綱に身を預けた上での作業です。

私は鉄道会社勤務時代に、送電鉄塔ほどの高さではないものの、電車線路の保全で高所作業を担当していたことがあります。せいぜい5~10m程度の高さですが、高所作業車を使えないとはしごの上や、棒足場での作業で、思うように身体が動かせません。

また、電線や支持物は金属や磁器で作られており、大変重いです。ちなみに送電線によく使われるACSR(鋼心アルミより線)410mm2は1kmで1.7tの重量があります。

送電線路の建設にかかる仕事は、このように肉体的にきつい仕事であることを承知しておく必要があります。

なお、送電線路は「電気事業の用に供する電気工作物」であるため、工事をするのに必要な資格は法令で定められていません。基本的には、電気事業者が選任している電気主任技術者の指示や規程に従うことになります。

その中で、「第1種電気工事士資格を取得していること」「電気事業者が実施する教育を修了していること」などが条件とされていることが多いです。これは、会社によってそれぞれなので、採用試験を受ける前に確認すると良いです。

そして、もし企業が必要としている資格をあなたがすでに取得しているなら、大いにアピールすると良い結果に繋がりやすいです。

送電線路工事の施工管理をする会社

次に紹介するのは、送電線路の施工管理をする会社です。前項で説明した送電線路の工事は、1つの会社だけで施工することばかりではありません。大人数で施工することになると、複数の会社や一人親方の職人を使うこともあります。

そうなると重要性を増すのは施工管理です。工事を安全に、高品質で、適正価格で施工するには施工管理の仕事が重要です

下図に示すのは、送電線路工事の施工管理を主な業務としている中部電気工業株式会社の求人です。中部電気工業社は、中部電力株式会社の登録指定業者として岐阜県で事業を展開している会社です。

中部電気工業のホームページから主要取引先を確認すると、中部電力のほか、住友電設株式会社・株式会社かんでんエンジニアリングなどが記載されています。中部電力からの元請け以外にも二次請けなどで施工することもあると考えられます。

類似の求人をもう一件紹介します。下図は、愛知県に本社を置いている株式会社ヒメノの求人です。ヒメノ社は、中部電力だけでなく、東北電力・東京電力・関西電力・中国電力などの広い範囲で送電線工事を請け負っています。

施工管理の職種は、電気工事の腕が良いことは必ずしも求められません。的確に作業指示が出せることが最も重要です。

・施工管理職の特徴

あなたは、複数人のチームで電気工事の作業をしたことがあるでしょうか。そのとき、作業指示を出すリーダーによって仕事の進めやすさが全く違うことを感じたことがあるかもしれません。

私も経験があって、良いリーダーに当たると作業の進捗に合わせて適切な指示が飛んできます。反対に私がリーダーをしたときには、複数の作業員に目を配らないといけないので、大変苦労したのを覚えています。

あなたに施工管理の経験がなくても、このような作業リーダーの経験があると歓迎されます。

施工管理職に必要な資格は、電気工事施工管理技士資格があります。この資格は、施工管理に携わる全員が持つことは求められていませんが、会社は事業の継続性の観点から多くの社員に取らせたい資格です。

例えば、中部電気工業社は1級電気工事施工管理技士などを歓迎条件としており、ヒメノ社では資格手当を支給することを求人票に謳っています。

このように、施工管理をする会社では施工管理技士資格が転職するときの強みになります。また、施工管理技士資格を持っていなくても転職は可能ですが、入社してから取得を促されることは覚悟しておきましょう。

電気事業者は基本的には検査・点検と工事発注業務

最後に紹介するのは、電気事業者として送電線路を持っている会社です。イメージしやすのは電力会社で、全国に地域を分割して10社あります。

ただし、発送電分離政策により、従来の電力会社の送配電部門だけが1つの会社になりました。下に示すのは、北海道電力ネットワーク株式会社の求人です。発電・小売部門の北海道電力株式会社との合同募集になっています。

送電線路に関わる仕事は、求人票から読み取らなければなりません。この求人票だと、橙色下線部が送電部門の業務になります。

いわゆる電力会社でなくても、電気事業者として自社の送電線路を持つ会社はいくつかあります。例えば、下に示す旭化成株式会社が該当します。この求人では、自社発電所更新プロジェクトに伴う自社送電線路の改修を行うための人材を求めています。

この求人はプロジェクトに伴う人材募集なので、送電線工事の仕事はプロジェクトが終わったらなくなります。プロジェクト終了後は、保全部門に異動したり、送電線以外の工事部門に異動したりします。

これは会社により考え方が様々なので、事前に問い合わせるか、採用面接などを利用して直接問い合わせると間違いがありません。

また、自社向けの発電所を持つ会社の中には、旭化成社のように送電線を持つ会社があります。例えば、下記のようにJR東日本やJR東海が自社送電線を持っています。

  • JR東日本 : 首都圏の鉄道輸送電力需要をまかなうために、自社発電所(神奈川・長野)から首都圏への送電線路
  • JR東海 : 東海道新幹線(東京~静岡)を60Hz電力でき電(電鉄用変電所から列車を動かすための電力供給は、「送電」ではなく「き電(饋電)」と言う)するための周波数変換所から電鉄用変電所までの電力用送電線路

ただし、これらの会社の送電線路は、電力会社の発送電会社と比べると設備規模が圧倒的に小さく、人材を充てる人数も少ないです。求人を見かけたら、まずは申し込んでチャンスを逃さないようにすると転職成功しやすくなります。

・電気事業者の特徴

これらのユーザー側企業で行う仕事は、新設・改修のための調査・設計・発注業務と保全です。実際に手を動かして建設・改修することはまずありません。

とはいっても、机上の仕事ばかりではなく、送電鉄塔が建設してある現地に赴いて検査・調査・点検することがしばしばあります。送電鉄塔は、下の写真のように山間部に建設され、自動車で容易に近づけないこともあります。

また、電力というインフラ設備なので、災害時や故障事故が発生したときは一番に対応しなければなりません。大きな台風が来たから自宅待機ということはなく、むしろ台風が来るから準備を整えて出社する心構えが必要です。

さらに、故障や災害が発生した場合には休日を返上して復旧対応することもあります。特にユーザー企業の場合は、真っ先に駆けつけて工事業者を采配しなければなりません。電力インフラを維持するということは、そのような苦労があることを覚悟しておいてください。

なお、送電線路に関わる仕事は、多くが電気的なものではありません。設計段階で、電流容量や系統のインピーダンスを求めたあとは、あまり電気理論に触れることがありません。もちろん電気の技術力があるのに越したことはありませんが、使える場面はわずかです。

どちらかというと支持物の構造計算や張力・強度計算など土木や構造力学の知識を活かすことが多いです。したがって、電気的な知識を活かした仕事を中心にしたい人にはミスマッチになる可能性が高いです。送電線路関係への転職を考えるときは、このことを十分に承知しておきましょう。

電設会社・電気事業者の給料・年収

ここまで紹介した電設会社・電気事業者に転職した場合、どれくらいの給料・年収が見込めるのでしょうか。まず、冒頭で紹介した不二平建設社は、下図のように求人票に初年度の年収として400~600万円を提示しています。

同様に、ここで紹介した求人について提示年収をまとめたものが下表です。

会社名 提示年収 業種 職種
不二平建設(株) 400~600 建設業 電工
西嶋電設(株) 264~427
(提示月給×15月 手当含めず計算)
建設業 電工
中部電気工業(株) 297~430 建設業 施工管理
(株)ヒメノ 400~600 建設業 施工管理
北海道電力ネットワーク(株) 300~700 電気業 技術職
旭化成(株) 453~960 製造業(化学) 技術職

この表から、提示年収はさまざまであることがわかります。つまり、求人票の提示年収からでは、その年収が適正かどうか判断できません。そこで、厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査を参考にすると良いです。

下図は、ここで紹介した企業の属する建設業・電気業・製造業(化学)の年齢別平均年収をグラフ化したものです。

引用 : 平成30年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)をグラフ化

あなたの年齢と試験を受ける会社の業種を勘案した上でこのグラフと比較すると、提示年収が妥当かどうかを判断しやすくなります。そもそも平均年収が低い業種の求人で、高い年収を望んでも叶う可能性は低いです。

反対に、上のグラフよりあまりに低い提示年収で到底満足できる金額でない場合は、提示の根拠などを訊いて見ると良いです。入社初年度は低くて、長く勤めると上がりやすい場合があります。直接聞きにくい場合は、転職エージェントなど他者の力を借りることも有効です。

このような手続きを踏むことで、年収面での転職失敗を防ぐことができます。

まとめ

送電鉄塔や送電線などの建設・保全に関わる仕事に転職するには、大きく3つの職種があります。それは、「電工として工事施工をする」「工事の施工管理をする」「調査・保全をする」職種です。

どの職種に就くかは、どのような会社に転職するかによって決まります。あなたの強みを活かした上で、どのような働き方をしたいかを整理して会社を選ぶ必要があります。

なお、どのような会社を選んでも、電力という社会インフラを支える仕事だということを忘れてはいけません。一般工事・一般企業と同様に考えていると、特に災害や事故などの有事に大変な思いをすることになります。

また、送電線路は電気工作物といっても、電気の技術力を発揮する場面が少ないです。よく使われるのは、土木や構造力学などの知識です。電気的な仕事をしたいと考えていると、ミスマッチに繋がりやすいです。

送電線路に関わる企業の年収は、企業により様々な金額が提示されています。金額が妥当かどうかは、あなたの年齢と政府統計などを比較して判断すると良いです。これにより、年収面での転職失敗を防ぐことができます。


技術者が転職するとき、多くの人が転職サイトを利用します。これは、それだけ良い条件で転職できるからです。

企業への履歴書・職務経歴書の送付やアポ取り、年収交渉など、面倒な仕事は全て転職エージェントが代行してくれます。これらを自分だけで行うのは現実的ではないですが、転職エージェントであればプロがしてくれます。

しかし、転職サイトは「対象地域」「対象年齢」「得意な分野(技術全般、製造業の技術・工場など)」で違いがあります。転職を成功させるには、これらの特徴を理解した上で進めなければいけません。

以下では、それぞれの転職サイトについて詳述しています。これらを理解することで、転職での失敗を防ぐことができます。

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